配信日時 2021/02/23 20:00

【ハイブリッド戦争の時代(25)】「ハイブリッド戦争の時代の日本の針路(1)」  志田淳二郎(国際政治学者)

こんにちは、エンリケです。

「ハイブリッド戦争の時代」の第25回です。

この連載も次号で終わりです。

志田さんに聞いておきたいことあれば、
チャンスは今のうちです。

さっそくどうぞ。

エンリケ


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ハイブリッド戦争の時代(25)

ハイブリッド戦争の時代の日本の針路(1)

志田淳二郎(国際政治学者)

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□はじめに

 皆さん、こんばんは。2020年の夏に始めさせてい
ただいたメルマガ「ハイブリッド戦争の時代」も、
今回のメルマガも入れて、残すところ2回となりま
した。

 メルマガを通して、安全保障の最新理論である
「ハイブリッド戦争」について、定義の問題に始ま
り、クリミア併合以外のさまざまな事例を紹介しな
がら、ハイブリッド戦争という難題について、皆さ
んと一緒に考えてきました。

 今回のメルマガと次回のメルマガでは、それでは、
ハイブリッド戦争の時代に、日本は、どのように対
応していけばよいのか、について考えていきたいと
思います。

▼中露の「探り」に警戒せよ!

 ヤクブ・グリギエルとA・ウェス・ミッチェルは、
『不穏なフロンティアの大戦略』という本のなかで、
「探り」(プロービング)という概念を紹介してい
ます。「探り」とは、「敵対国のパワーと、当該地
域における安全と影響力を維持する意志を測定する
ことを狙いとした、低強度かつ低リスクの試験的な
行動」を意味します。

グリギエルとミッチェルの議論を参考にすれば、米
国主導の同盟システムの信頼性の強度を測定するた
め、中国やロシアが「探り」を入れるため、ハイブ
リッド戦争を米国主導の同盟システムにしかけてく
ることは、あながち、非現実的なシナリオとはいえ
ません。

どういうことでしょうか?

日米同盟でそうした動きは、まだ見られませんが、
すでに、NATO(北大西洋条約機構)は、ハイブリッ
ド戦争に対しても、集団的自衛権が発動できると
「宣言」しています。2018年のNATOブリュッセル首
脳会議で採択された「ブリュッセル宣言」では、
「ハイブリッド戦争に際しては、武力攻撃事態と同
様に、理事会はワシントン条約第5条を発動する場
合がある」と規定しました。

 理事会とは、北大西洋理事会(NATOの最高意思決
定機関)を指し、ワシントン条約とは、北大西洋条
約を指します。同条約の第5条には、集団防衛原則
が書かれています。

日米安全保障条約も、第5条が、集団防衛原則が規
定されているので、同じ5条というのは興味深いで
すね。

このように、NATOはハイブリッド戦争に集団的自衛
権が発動されると「宣言」しているのですが、では、
「リトル・グリーン・メン」が登場するクリミア型
あるいは怪しい武装集団すら登場しない、メルマガ
で紹介したような「クリミア以降型」のハイブリッ
ド戦争が、NATO加盟国域内で発生した場合、状況が
すぐさま把握しづらい事態に対して、同盟が集団的
自衛権の発動をためらってしまう可能性があります。

それはすぐさま、「同盟の信頼性の死」を意味しま
す。

ロシアが、これを試すために、ハイブリッド戦争を
NATOにしかけ、同盟の信頼性を「探り」に出ること
は、否定できないシナリオなのです。

同様のことは、中国にも言えます。

前回紹介した「リトル・ブルー・フィッシャーメン」
(武装した漁民、実際は人民解放軍の軍人)が、た
とえば、尖閣に上陸し、現状を変更した場合、サイ
バー攻撃などで事態の把握が困難になり、日米安全
保障条約第5条の発動、すなわち、集団的自衛権が
発動されなければ、「アメリカは日本を守ってくれ
なかった」と、日米同盟の信頼性を一気に地に落ち
させることができます。

それこそが、中国の狙いなのです。

▼では、どうすればよいのか?

 第一に、日米同盟の重要性を再認識することが重
要でしょう。ウクライナ危機以降、NATOに加盟する
バルト三国は、米国と同盟関係になかったウクライ
ナが、ロシアのハイブリッド戦争の戦場になったと
いう教訓から、NATOの集団防衛態勢に貢献していま
す。

 冷徹な物の見方ですが、日本はウクライナとは異
なり、米国と同盟関係にあることから、ハイブリッ
ド戦争への対抗という点でいえば、日米同盟をアド
バンテージとして活用すべきです。この意味で、2
020年7月、米国のシンクタンクNBR(全米アジア研
究所)が発表した報告書で書かれた提言にある「日
米統合機動展開部隊」の尖閣周辺への常設案は、ロ
シア発のハイブリッド戦争に備えるため、バルト三
国とポーランドに展開しているNATO多国籍大隊と同
様の抑止効果を持つことが期待されます。

 第二に、日本単独でも防衛力を整備することが重
要です。すでに、陸上自衛隊が、日本の南西防衛の
ための「水陸機動団」を新設(2018年)しています
が、このことも、ハイブリッド戦争への対抗上、即
応態勢強化に乗り出しているNATOの動向と照らせば、
理にかなった動きと評価できます。

私は自衛隊の方と定期的に意見交換をする機会があ
りますが、現在、自衛隊は、ハイブリッド戦争を、
今後の紛争形態の一種ととらえたうえで教育・訓練
を行なっています。本当に、頼もしい限りです。

 今後は、自衛隊に限らず、日本の防衛当局者も、
ハイブリッド戦争という用語を用いるに際しては、
何度もメルマガでお伝えしたように、用語の定義に
慎重になりながら、防衛力整備や将来戦構想に取り
組む必要があると思います。

▼次回予告

 次回のメルマガは最終回です。今回のメルマガの
延長で、日本として、ハイブリッド戦争の時代に何
をすべきか、について提言をまとめたいと思います。


(つづく)



(しだ・じゅんじろう)


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【著者紹介】

志田淳二郎(しだ・じゅんじろう)

国際政治学者。中央ヨーロッパ大学(ハンガリー・
ブダペスト)政治学部修士課程修了、M.A. in Political
Science with Merit、中央大学大学院法学研究科博
士後期課程修了、博士(政治学)。中央大学法学部
助教、笹川平和財団米国(ワシントンD.C.)客員準
研究員等を経て、現在、東京福祉大学留学生教育セ
ンター特任講師、拓殖大学大学院国際協力学研究科
非常勤講師。主著に『米国の冷戦終結外交―ジョー
ジ・H・W・ブッシュ政権とドイツ統一』(有信堂、
2020年)。研究論文に「クリミア併合後の『ハイブ
リッド戦争』の展開―モンテネグロ、マケドニア、
ハンガリーの諸事例を手がかりに」『国際安全保障』
第47巻、第4号(2020年3月)21-35頁。「アメリカの
ウクライナ政策史―底流する『ロシア要因』」『海
外事情』第67巻、第1号(2019年1月)144-158頁ほか
多数。



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