こんにちは、エンリケです。
藤井岳さんの、
「自衛隊・熱砂のイラク派遣90日」
の二十九回目です。
冒頭文にある
地に足のついた危機管理感覚。
さすがですね。
また、派遣先で現地の人と気さくに触れ
合う藤井さんの姿に、なんとも言えない
頼もしさを覚えました。
さっそくどうぞ
ご意見・ご感想お待ちしてます。
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エンリケ
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自衛隊・熱砂のイラク派遣90日(29)
ホテルに缶詰め
藤井岳(ふじい・がく)(元陸自2曹)
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□はじめに
2月13日に発生した福島県沖を震源とする地震
は、東日本大震災から10年の節目を目前にして、
「未だにこんな強い余震が起きるのか」と多くの人
達に思わせる地震でした。
私の住む街では震度5弱を観測し、30分ほどの
停電。スマートフォンで状況を確認した後、真っ暗
闇の中、起きていてもしょうがないと思い、布団に
もぐり込みました。
翌朝のテレビ番組では非常持ち出し袋等の中身を
再度点検するよう呼びかけていましたが、地震発生
直後に必要なのは、夜間の場合まず明かりと情報収
集手段、具体的には懐中電灯などとラジオ、ネット
にアクセス可能だったらスマートフォンだと思いま
した。
住んでいる地域の特性、地形、家屋や家族の状況
はそれぞれ違います。一般的な地震発生時の避難要
領などは広く伝えられていますが、「わが家の場合
はどうするべきか」を考えるのも重要なのではない
でしょうか。
▼これは休養? それとも収監?
「暇ですね」
「早く帰りたいな」
クールダウン期間中はこんな言葉がホテル内での
同僚との挨拶になった。日中は何もすることがなく、
統制して集まる機会は1日3回の食事だけ。
外出させて欲しいとの声も多く出たが、地理もよ
くわからないクウェート市内に散策に出るのは危険
もともなう。市内には治安の悪い地区もあるという
のだから。
そもそも、こうしてホテル内に缶詰めにすること
自体がクールダウンなのだから、外出などすればク
ールダウンの意味がなくなるのだろう。まるで牢獄
にでも入れられた気分だが、自由に過ごし、またホ
テル内を自由に動けるだけまだマシだ。これも仕事
と割り切らなければならない。
隊員たちの時間の過ごし方はそれぞれだった。は
じめは部屋で寝ている隊員が多いようだったが、そ
のうちプールサイドやトレーニングルームでも隊員
の姿を目にするようになった。
私は午前中、トレーニングルームで汗を流し、午
後は部屋で読書をしたり睡眠をとった。また、ホテ
ルの売店で買い物をよくするうちに、売店の店員と
も仲良くなり、世間話をするようになった。口ひげ
を生やした小柄な男性である。日本のさまざまな事
象に興味があるようだった。
「なあ、日本は雪が降るんだろう?」
「ああ、特に俺の住んでいる所は寒い地域でね。冬
は雪がたくさん降るんだ」
「へえ……。どんな感じなんだろう。見てみたいな」
また、客が私だけの時は「ちょっと出てくるよ。
店番頼む」と言い出すことも。
「待て、俺は販売なんてやったことがないし、言葉
もよくわからないぞ」
「あんたなら大丈夫だ。すぐ戻るよ」と売店を出て
いった。
幸い、この時は彼がすぐ戻ってきたので、レジに
立つことはなかったが……。
▼「金を盗られました」
また、部屋ではちょっとした事件もあった。
トレーニングルームから戻った時、テーブルの上
に財布を置きっ放しなのを見てハッとした。すぐに
財布の中身をチェックする。札入れの部分のジッパ
ーが私がやらない閉じ方になっていた。ますます疑
念が湧く。札入れの中を確かめる。
案の定、1万円札が1枚足りない。
「自分が出ている間、誰か来ました?」ベッドに寝
転んでいる先輩陸曹に訊ねる。
「ああ、掃除のおばちゃんが来たな」
それだ。
「どうした?」
「金を盗られました」
「俺じゃないぞ」
「いやいや、疑ってませんよ。間違いなく掃除のお
ばちゃんでしょう」
それに、元はといえば財布を目立つ所に置きっ放
しにした自分が悪い。同室に同僚がいて、かつグレ
ードの高いホテルとはいっても、気を抜いてはいけ
なかったのだ。ここは外国、日本じゃない。
「どうする?」
「いや、もうどうしようもないでしょう。清掃員は
たくさんいるし、一人一人つかまえて問いただすわ
けにもいかないし」
この後、クウェートで我々に合流、同行している
日本人添乗員にこの話をすると「このホテルの清掃
員がそんなことをするとは思えませんが、一応フロ
ントには報告しておきます。ただ、お金が戻ってく
ることはないと思いますよ」との返答だった。どう
やら泣き寝入りするしかないようである。高い勉強
代であった。
▼クウェート人は忘れない
1階フロア、フロントの近くに、ちょっとした展
示コーナーがあった。
何だろうと近づいてみて、息を飲んだ。ガラスケ
ースの中に置かれていたのは真っ黒焦げのレジスタ
ーや電話機、戦車砲弾のケース、ほかにも同様のも
のが陳列されている。視線を上げると、窓ガラスが
割られ、荒らされた客室の写真などが貼られている。
説明文によると、1991年の湾岸戦争のきっかけとな
った1990年のイラクによるクウェート侵攻の際、被
害を受けたホテルの備品やホテル内の様子を写した
写真、イラク軍が放棄していった物品と書いてあっ
た。幸いにも、ホテルの従業員は皆無事だったよう
である。
このようなホテルでも、こうして特別にコーナー
を作り、後世までイラクが起こした蛮行を伝えてい
くのだ。クウェート人だけではない。侵略を受けた
民族は母国を侵され、荒らされた事実を決して忘れ
ないのだろう。
(つづく)
(ふじい・がく)
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【著者紹介】
藤井岳(ふじい・がく)ペンネーム
1979年岩手県一関市生まれ。1996年自衛隊生徒とし
て陸上自衛隊入隊。少年工科学校へ入校。卒業後機
甲生徒課程を経て第9戦車大隊(岩手)で戦車乗員
として勤務。2004年第3次イラク復興支援群に参加、
イラク・サマワにて任務に就く。2005年富士学校
(富士)に転属。機甲科部で助教として戦車教育に
従事。2008年退職。フリーランスフォトグラファー
として活動を開始。自衛隊航空部隊の撮影、取材に
取り組む。2015年から「PANZER」誌で執筆開始。そ
の後「丸」「JGROUNDEX」「JWings」などで写真
や戦車に関する記事を発表。現在に至る。
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