配信日時 2021/02/05 08:00

【自衛隊・熱砂のイラク派遣90日(27)】「帰国準備」 藤井岳

こんにちは、エンリケです。

藤井岳さんの、
「自衛隊・熱砂のイラク派遣90日」
の二十七回目です。

エスニシズムの主役となる軍は、
グローバリズムの発露でもあることを
改めて感じました。

幼稚な単細胞感覚で
軍事や政治、世界は把握できない。
改めてそう思っています。

さっそくどうぞ


ご意見・ご感想お待ちしてます。
コチラからどうぞ
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エンリケ


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自衛隊・熱砂のイラク派遣90日(27)
 
帰国準備

藤井岳(ふじい・がく)(元陸自2曹)

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□はじめに

 最近、車を運転していてふと気付いたのですが、
スキーキャリアを載せた車が少ないですね。今年は
コロナ禍の影響もあると思いますが、スキーやスノ
ーボードを楽しむ人は年々少なくなっているのでは
ないでしょうか。

 私もスキーは中学から始め、スノーボードは20
代の時に始めました。地元から比較的近い所に大き
なスキー場があったので、冬期はよく通っていまし
た。現在は全く滑りに行かなくなりましたが、また
行きたいと思っています。

 自衛隊にいた頃は、所属部隊が北国の部隊でした
ので、冬期のスキー訓練は必須でした。自衛隊のス
キーは板と防寒靴を「バッケン」という金具で結合
し、ストックを使って滑走します。滑走面にはうろ
こ状のくぼみがあり、坂を登ることもできます。

 滑走は楽に見えるかもしれませんが、かなりキツ
いです。気温の低い日でも、すぐに汗だくになるほ
どです。むしろ駆け足の方が楽かもしれません。

 今日も全国の各駐屯地で、多くの隊員がスキー訓
練に汗を流していることでしょう。


▼クールダウン

 アリ・アルサレム空軍基地から陸路でキャンプ・
バージニアへ移動。天幕に入り、荷を下ろす。その
後、帰国準備に入った。

 戦闘装備をすべて集積し、返納前に89式小銃を
念入りに整備する。3か月の間、部隊行動時に常時
携行した、私の唯一の装備火器。弾倉もすべて弾の
うから取り出し、中の5.56mm弾をすべて取り
出す。弾の数は3か月前の展開準備の際、弾倉に詰
めた数と同数だ。サマーワ展開中、1発も発射する
ことなく銃弾を返納できた。

 同時に、全員が医官によるカウンセリングを受け
た。心身ともにとくに異状はない。私のカウンセリ
ングは短時間で済んだ。

 後片付けとカウンセリングが終われば、もうキャ
ンプ・バージニアでやることはなく、数日後のクウ
ェート移動までは基本的に休養だった。やることと
いえば、天幕内で読書や音楽を聴いてリラックスす
るか、たまに売店地区に行って買い物をしたり、広
場のベンチで飲み物や菓子を片手に仲間と話をして
過ごすくらいだった。

 端から見れば仕事もせずにだらだら過ごしている
ように見えるかもしれないが、もうこの時点からク
ールダウンの時期としてスケジュール的に位置づけ
られていたのだと思う。

 クールダウンとは、帰国前に作業や任務から完全
に離れ、溜まった緊張やストレスを抜き、心身を良
好な状態に整える期間である。身体、とくに精神的
な部分で重度の緊張やストレスを抱えたまま帰国す
れば、日本での生活や原隊に復帰して再び任務に就
くうえで支障が出てくる可能性があるということな
のだろう。正規のスケジュールでは、数日後にクウ
ェート市内へ移動し、ホテルでの滞在がクールダウ
ンとされていた。
 
▼アメリカ軍天幕を訪問

 キャンプ・バージニア売店地区の広場は3か月前
と変わらない盛況ぶりだった。夕方になればキャン
プ中から各国の兵士たちが集まり、売店で購入した
ノンアルコールビールを片手に会話や食事を楽しむ
のである。

 同僚と2人で広場のベンチに座って話していると
、3人の大柄なアメリカ兵がやってきた。

「ここ、空いてるかい?」
「ああ、空いてるよ」

 そう答えると、3人は私たちとテーブルを挟んだ
反対側に座り、大声で話し始めた。訓練や上官の愚
痴を言っては声を上げて笑っている。

 ふと、その中の1人が私を見た。

「日本兵だよな、調子はどうだい?」
「サマーワから戻ってきたところさ」
「そうか」

 それから世間話を少しすると、立ち上がって「俺
たちはもう戻るんだが、よかったら遊びにこないか
?」と言う。

 同僚も行きたいと言うので、厚意に甘えて彼らに
ついていった。

 アメリカ軍の天幕は売店地区からかなり離れてお
り、しばらく話をしながら歩いた。

「着いたぜ。ここが俺たちのテントだ。入って」

 中に入ると、意外に閑散としていた。私たちの天
幕では数多くの簡易ベッドが整然と並び、隊員もそ
こかしこにいるが、入った米軍天幕は簡易ベッドが
隅に広い間隔で並べられており、兵士も数人がベッ
ドで横になったり、天幕内でウロウロしていた。彼
らも休養の最中だろうか。

「おい、日本の友人を連れてきたぜ!」

 私に最初に声をかけてくれた兵士が声を上げると
、物珍しげに数人の兵士が寄ってきた。お互いに挨
拶と握手をしながら、雑談や物の交換、写真撮影を
して過ごした。

 ある兵士は「俺、交換できるような物を持ってな
いな……そうだ!」とバッグをごそごそと探り、制
服を取り出すと、上衣からき章を外し、私に手渡し
た。「シャープシューター」と呼ばれる射撃技能優
秀者が着用するき章だった。

「これは……こんな大事なもの、受け取れないよ」
と返そうとしたが、「いいんだ、問題ない。受け取
ってくれ」と言う。重ねて礼を言い、受け取った。

 天幕を出る頃には日も落ちて外は薄暗くなってお
り、出入口まで出て来て見送ってくれた彼らと握手
をして天幕を離れた。

「気持ちのいい連中でしたね」

 同僚と話しながら自衛隊の天幕に向かって歩く。

 交換した物の中には空挺のワッペンもあった。彼
らの詳しい所属は分からなかったが、精強な部隊の
兵士だったのだろう。

▼バスケットの「国際試合」に興奮

 キャンプの中には娯楽施設がいたる所に設けられ
ていたが、アメリカらしくスリー・オン・スリー(
3人制バスケットボール。現在はスリー・バイ・ス
リーと呼ばれる)のバスケットコートもよく見かけ
た。

 同僚と連れだって食堂へ行く途中、コートに人だ
かりができていた。誰かがバスケットをやっている
のはよく見るが、今日ほどギャラリーが多いのは珍
しいな、とコートの方を見る。「おい、自衛隊だぜ


 同僚の声でコートを凝視する。下半身は戦闘服の
下衣、上半身はTシャツの格好でプレーしている兵
士たち。砂漠迷彩の戦闘服姿の兵士の中で、1人、
緑色の迷彩服を着た隊員がひときわ目立っていた。

「ちょっと見ていこう」

 皆でコートに近寄ると、同じ支援群の自衛隊員が
2人の韓国兵とチームを組み、アメリカ兵のチーム
と試合をしていた。ギャラリーはさらに増え、日本
、韓国、アメリカの兵士がコートを囲み、声を上げ
て応援する。

 日韓連合のシュートが入れば、ギャラリーの自衛
隊員と韓国兵がともに大歓声を上げた。コートの中
でチームメイトとしてともに力を合わせ、プレーし
ている自衛隊員と韓国兵。

 彼ら3人が得点するたびに手を挙げ、互いにハイ
タッチするのを見て、時に国同士のいざこざはあっ
ても、ここでは同じ辛酸を嘗めた多国籍軍の仲間だ
よなと、見ていて嬉しく思った。



(つづく)




(ふじい・がく)


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【著者紹介】

藤井岳(ふじい・がく)ペンネーム
1979年岩手県一関市生まれ。1996年自衛隊生徒とし
て陸上自衛隊入隊。少年工科学校へ入校。卒業後機
甲生徒課程を経て第9戦車大隊(岩手)で戦車乗員
として勤務。2004年第3次イラク復興支援群に参加、
イラク・サマワにて任務に就く。2005年富士学校
(富士)に転属。機甲科部で助教として戦車教育に
従事。2008年退職。フリーランスフォトグラファー
として活動を開始。自衛隊航空部隊の撮影、取材に
取り組む。2015年から「PANZER」誌で執筆開始。そ
の後「丸」「JGROUNDEX」「JWings」などで写真
や戦車に関する記事を発表。現在に至る。



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