こんにちは、エンリケです。
「ハイブリッド戦争の時代」の第22回です。
あなたが今一番知りたい、
あの国
のハイブリッド戦争研究です。
「欧州は周回遅れ」との指摘に、
なんともいえないしっくり感を覚えました。
それにしても、
今の世界の動きのキモがよく見える記事です。
さっそくどうぞ。
エンリケ
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ハイブリッド戦争の時代(22)
ハイブリッド脅威としての中国―NATOの動向(1)
志田淳二郎(国際政治学者)
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□はじめに
皆さん、こんばんは。バイデン新政権の外交・安
全保障政策の姿は、依然として、本格的に輪郭が見
えてきませんが、先日、興味深いニュースがありま
した。1月25日、ホワイトハウスのサキ報道官は
、バイデン新政権が中国との問題に、「戦略的な忍
耐をもって取り組む」と語ったのです。
サキ報道官は、オバマ政権時代には、ホワイトハ
ウスおよび国務省の報道官を歴任した人物です。皆
さん、「戦略的忍耐」という言葉、なにか引っかか
りませんか。
そうです。かつてオバマ前政権が北朝鮮に対して
とった姿勢が「戦略的忍耐」でした。経済制裁など
で圧力をかけ、アメリカの目標(北朝鮮の場合は、
北朝鮮の核・ミサイル開発・保有禁止)の達成を目
指す。対象国がこれを達成しようとしない限り、直
接交渉は行なわない、というものでした。
「戦略的忍耐」の結果は、皆さんもご存知の通りで
す。北朝鮮は、日本を射程におさめる中距離弾道ミ
サイル開発を完了したほか、アメリカにまで届くI
CBM(大陸間弾道ミサイル)も保有することにな
りました。
もちろん、バイデン新政権内部では、外交・安全
保障政策に関する政権としての方向性が定まってい
ないことは、理解できます。しかし、つい10年前
の「戦略的忍耐」を標榜した前政権の失敗を「教訓」
としていないのは、国際秩序を維持するアメリカ
のリーダーシップを懸念する国が出てきても不思議
ではありません。
バイデン新政権の中国に対する「戦略的忍耐」と
いうフレーズによって、「アメリカ側はアジア情勢
に干渉してこない」と中国側が誤って解釈し、台湾
や尖閣諸島に対して挑発行動や軍事行動を起こす可
能性も否定できません。
台湾や尖閣諸島に対する中国の挑発行動について
は、ハイブリッド戦争の形態がとられる可能性がも
っとも高いです。中国側のハイブリッド戦争遂行能
力については、今後のメルマガで紹介したいと思い
ます。
今回のメルマガでは、NATO(北大西洋条約機構)
がどのように中国をハイブリッド脅威と認識するよ
うに至ったかについて、2回に分けて、紹介したい
と思います。今日のメルマガでは、ヨーロッパ周辺
の地政学的変化について紹介します。次回のメルマ
ガでは、NATO内で「5G安全保障」がハイブリッド
脅威の観点から議論されてきた背景を紹介したいと
思います。
本当は、これらのテーマを1回にまとめたかったの
ですが、解説を書くうちに、字数がどんどんと増え
てしまったので、2回に分けて、連載することにし
ました。ご理解ください。
▼ヨーロッパにおける中国認識―地政学的変化
ヨーロッパでは、中国は軍事的脅威ではなく経済
的パートナーという見方が強い状況が続きました。
ところが、2019年12月、NATO首脳会議で採択された
ロンドン宣言では、冷戦期から続くNATOの歴史上は
じめて、中国という言葉が挿入されるにいたりまし
た。
ヨーロッパでも、中国がハイブリッド脅威、と認
識されはじめたことを意味します。
そもそもヨーロッパは、中国と「地理的」に離れ
ていることから、そんなに関心を持つ人が多くはあ
りませんでした。ところが、ここ数年で、「地政学
的変化」が起こっています。気がついてみると、ヨ
ーロッパの周囲で、中国の存在感、とりわけ、軍事
的プレゼンスが高まっていたのです。
ヨーロッパの「北」の「北極海」に中国は進出し
ています。2017年、中国は北極海を、一帯一路構想
に組み込み、翌年発表した『北極政策白書』では、
北極海に面していないにもかかわらず、自らを「北
極海の主要な利害関係国」と規定しました。中国は
北極海周辺で、宇宙衛星システム基地などを整備し
ています。こうした拠点の構築は、宇宙システムに
依存する現代の軍事力を考えるうえで、周辺諸国に
とって無視できないものです。デンマーク、フィン
ランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン
は、北欧防衛協力(NORDEFCO)という枠組みを持っ
ていますが、去年7月のNORDEFCO報告書には、北極
海に進出する中国を「ハイブリッド脅威」と規定し
ました。
ヨーロッパの「南」の「アフリカ」にも中国は進
出しています。それ自体が批判されるべきではあり
ませんが、中国人民解放軍は、国連のPKO(平和維
持活動)に積極的に人員を派遣しており、国連ミッ
ションの名のもとに、中国人民解放軍は、アフリカ
(特に東部)に展開しています。また、NATO域外の、
たとえばセルビアと中国は経済交流のみならず、文
化、さらには防衛交流も着々と進めています。去年
7月、ヨーロッパではじめて、中国は攻撃・偵察用
無人機(彩虹CH92A)9機をセルビアに売却してい
ます。
ヨーロッパの「東」では、メルマガで何回か紹介
した「17+1」の枠組みで、中国は中東欧諸国を取
り込んでいます。「17+1」は、一帯一路構想の一
部であり、これに積極的に参加するハンガリー、セ
ルビア、ギリシアなどで、中国資本によって、港湾
や鉄道などの重要インフラが整備されています。
「17+1」は、アメリカの同盟システムであるNATO
のメンバーと、セルビアのようにそうではないメン
バーから構成されているので、ヨーロッパ方面のア
メリカの同盟システムを内部から分断するものと安
全保障専門家の間では警戒されはじめています。
▼周回遅れのヨーロッパ?
NATOとEU(欧州連合)が共同設立したハイブリッ
ド脅威についての研究所Hybrid CoEは、米欧の中国
専門家による研究チームを組織し、ハーバード(20
19年4月)とパリ(2020年2月)で国際会議を開催し
ました。2度にわたる国際会議では、中国の世界大
での活動が議論され、2020年7月、Hybrid CoEの中
国専門家チームは、ハイブリッド脅威という概念で
中国の行動を分析した報告書『中国のパワーポリテ
ィクスのトレンド』を公表しました。
同報告書は、一帯一路や「17+1」が、中国の経
済的恫喝の場として活用され、中国の利益に資する
よう、外交や政治、規範の領域にまで、波及効果を
有していると指摘しており、ヨーロッパの民主主義
にとって脅威であることが述べられています。
「それが中国の本質でしょ!」というのが、多くの
日本人の感覚ですので、ヨーロッパにおける中国認
識の変化は、やや周回遅れの感が否めません。次回
のメルマガで紹介するように、NATOが中国問題に本
格的に取り組もうとする流れは、同じ価値観を共有
する日本としても歓迎すべきことでしょう。
とはいえ、最近出た訳書『見えない手』(飛鳥新
社、2020年)が明らかにしているように、ヨーロッ
パの政治、経済、社会、文化、学術のさまざまなレ
ベルで、オーストラリアと同じように、中国は浸透
工作を着実に進めています。ヨーロッパ各地で「中
国のお友達」が爆発的に増えていることもあり、安
全保障専門家による警鐘が、実際の政策にインプッ
トされるかどうかは疑問です。虚しいことに、私は、
中国脅威認識が、ヨーロッパ諸国の実際の政策にイ
ンプットされる可能性は低いとみています。まあ、
「中国のお友達」の存在については、日本も他人を
批判できる立場にはありませんが……。
前回のメルマガとつなげて考えると、中国も西側
からのハイブリッド戦争(混合戦争)に備える必要
があることから、中国共産党の統一戦線工作部によ
る浸透工作を「積極的防御(攻撃は最大の防御)」
の発想から、西側各地で行ない、中国の体制批判を
封じるための「お友達工作」をしているわけです。
▼次回予告
ということは、台湾や尖閣諸島で平時とも有事と
も判別つけがたいハイブリット戦争が発生した場合
、ヨーロッパ諸国が「こちら側」の主張に立ち、的
確に中国に対峙してくれるかという問題が生まれま
す。
ハイブリッド戦争の時代にあっては、こうしたマク
ロ的な地政学的変化もしっかりと理解しなければな
らないということです。
興味深いことに、ヨーロッパでは中東欧諸国、そ
してインド太平洋では、なんと台湾に対し、中国発
のハイブリッド脅威の象徴の一つであるファーウェ
イに対抗するため、トランプ前政権が「5G安全保
障の同盟ネットワーク」を構築していました。ハイ
ブリッド戦争のような低烈度の紛争は、ランドパワ
ー(中露)とアメリカの同盟システムの「はざま」
に立たされている国家で起こる、という発想のもと
、アメリカは、こうした政策を進めていました。こ
れに呼応する形で、NATOも中国問題に本格的に取り
込むことになったのです。
次回のメルマガでは、これらの点を紹介していき
たいと思います。そのあとは、中国がすでに有して
いるハイブリッド戦争遂行能力について、順を追っ
て、レポートしていきます。今後ともよろしくお願
いします!
(つづく)
(しだ・じゅんじろう)
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【著者紹介】
志田淳二郎(しだ・じゅんじろう)
国際政治学者。中央ヨーロッパ大学(ハンガリー・
ブダペスト)政治学部修士課程修了、M.A. in Political
Science with Merit、中央大学大学院法学研究科博
士後期課程修了、博士(政治学)。中央大学法学部
助教、笹川平和財団米国(ワシントンD.C.)客員準
研究員等を経て、現在、東京福祉大学留学生教育セ
ンター特任講師、拓殖大学大学院国際協力学研究科
非常勤講師。主著に『米国の冷戦終結外交―ジョー
ジ・H・W・ブッシュ政権とドイツ統一』(有信堂、
2020年)。研究論文に「クリミア併合後の『ハイブ
リッド戦争』の展開―モンテネグロ、マケドニア、
ハンガリーの諸事例を手がかりに」『国際安全保障』
第47巻、第4号(2020年3月)21-35頁。「アメリカの
ウクライナ政策史―底流する『ロシア要因』」『海
外事情』第67巻、第1号(2019年1月)144-158頁ほか
多数。
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