配信日時 2021/01/18 08:00

【桜林美佐の「美佐日記」(109)】自衛隊の撤収が早すぎ?──世間は非常識や無知で 溢れてる

こんにちは、エンリケです。

109回目の美佐日記。

桜林さんの怒り(?)に、こころから共感します。

さっそくご覧ください。

エンリケ



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今年4月に刊行された『自衛官が語る災害派遣の記
録』に続く、第2弾『自衛官が語る海外活動の記録』
(桜林美佐監修・自衛隊家族会編)が発売されてい
ます。中東シーレーンの安全確保をめぐって新たな
自衛隊派遣が行われているこの時期にタイミングを
合わせたような出版です。現地で自衛官たちが何を
思い、どのような苦労をして、任務をこなしてきた
か、25人の自衛官のリアルな体験記です。

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桜林美佐の「美佐日記」(109)

自衛隊の撤収が早すぎ?──世間は非常識や無知で
溢れてる

桜林美佐(防衛問題研究家)

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おはようございます。桜林です。「男もすなる日記
といふものを、女もしてみむとてするなり」の『土
佐日記』ならぬ『美佐日記』、令和3年1月の今回
は109回目となります。

世の中には色々な驚くことがあります。緊急事態宣
言で、飲食店の営業を制限している一方で、ビジネ
ス目的の外国人はずっと何ら規制なく入国していた
り(14日から停止されましたが)、全国に160
万も病床があるのにコロナ患者を受け入れられるの
は3万床しかなく「医療崩壊」だとか・・・。

こうしたウラが段々、分かってくると人々の国への
信頼は落ちるばかりでしょう。そうなると緊急事態
宣言の重みもなくなり、ますます感染拡大を防げな
くなる・・・という負のスパイラルになることが懸
念されます。

そしてもっと驚かされたことがありました。

新潟県内で、除雪作業にあたっていた自衛隊につい
て「自衛隊撤収早すぎる」といった報道が出ていた
のです。

ええっ!ちょっと待ってくださいよ!

そもそも雪かきをしたり、ニワトリや豚の殺処分を
したり、およそ自衛隊がすべきこととは思えない災
害派遣が増えイラつく今日この頃、それでも現場で
頑張っている隊員さんのことを思えば、その様子を
伝える必要も感じるし、政治・行政を批判するばか
りじゃいけないな、などとあれこれ思案していたと
ころに飛び込んできたこの見出し。

「撤収が早い」??

「はあ???」

だいたい、自治体の能力が追いつかないから、仕方
がなく支援しているのであり、いつも書いているよ
うに速やかに訓練等の本来の仕事に戻るべきである
ことは言うまでもありません。

そのために、おそらく自治体と役割分担を決めて進
められている活動が多いのでしょう。そして、分担
分が終了したら首長から撤収要請が出されるという
プロセスを踏んでいることが分かります。

しかし、ここで問題なのは「自衛隊は仕事が早い!」
ということです。

いえ、これが問題であるはずはなく、一刻も早く通
常任務に戻るため、文字通り本当の「不眠不休」体
制で行なう能力は「さすが自衛隊!」と称賛されて
然るべきものです。しかし、なんとその努力が「撤
収が早い」という心ない言葉になって返ってきてし
まっているのです。

「今日は結婚記念日だから、出張を早く切り上げて
帰ったよ~」「え?それでお土産はないの?」と妻
に誹(そし)られる夫。

「あ!今日はバレンタインデーだった。ちょっと遠
回りだけどチョコを買わなくちゃ」と買い物の重い
荷物を下げてわざわざ面倒な回り道をしてあげたの
に「なんやこれ、コンビニの安いやつか」と夫にが
っかりされる妻。

そういう、無理な状況にもかかわらず最大限の努力
をして、ものすごく感謝されると思いきや期待値は
全く違うところにあったという、そんなギャップっ
て世の中にたくさんありますよね(事例をあげなく
ても分かるって!?)。


お互いの認識が違っていると、こういうことになる
わけで、一般社会での些細な出来事ならいざ知らず、
自衛隊の災害派遣については頑張った自衛官が気
の毒すぎます。あってはならないことです。

一方で、住民にとっては、救世主のように来てくれ
た自衛隊に心から感謝したいと思いますし、これで
助かった!という気持ちになっていたでしょう。し
かし、まだまだ雪が残っているのに帰ってしまった。
なぜ見捨てたの?そういうふうに見えているわけ
です。

今回の件は「自衛隊から完了報告を受け、市にも確
認した上で撤収要請した」と県側は言っているのに
対し、市長は撤収すると思っていなかったなどと言
っています。意思の疎通が全くできていません。
 
いずれにせよ、市民から批判と疑問の声が殺到した
ことは明らかです。

全てがお粗末ですが、ありがちなこととも言えるで
しょう。自衛隊関係者も地方自治体の能力に期待な
どせず、自らの状況判断やコミュニケーション力を
発揮する必要があるかもしれません。

そうしないと、自衛官の頑張りが感謝されるどころ
か「自衛隊は助けてくれなかった」という全く思い
もよらぬ評価に転換してしまうからです。これは何
としても避けなくてはなりません。

また、余談ですが、毎年のように大雪で立ち往生し
た車両を自衛隊が救助しています。天気予報でずい
ぶん前から降雪予想されているのに、あの災害派遣
は何とかならないのでしょうか。

それから、鳥インフルエンザ。昨年末に千葉県いす
み市で発生し、年始にかけて114万羽もの殺処分
を自治体と第一空挺団を中心とする自衛隊で行なっ
たことは前回書きましたが、そのすぐ近くの養鶏場
でまた発生しました。さらに110万羽以上もの処
分をすることになったようです。

この作業も「自治体と自衛隊」とは言われますが、
実際には大半が自衛官であり、しかも、自治体職員
と分担を最初に取り決めるものの自衛隊の作業速度
が早いため「作業が残っているのに撤収する」よう
に見えてしまうと仄聞(そくぶん)しています。

自衛隊の処理能力が裏目に出て、せっかくの苦労が
適切に評価されない。そんなことでは、現場の隊員
さんが本当に可哀想です。

我々は「自衛隊が本来すべきじゃないことをしてい
る」と認識しているのが当たり前だとつい思ってし
まいがちですが、世間は非常識や無知で溢れている
という前提で生きていく必要もありそうです。


<おしらせ>
月刊誌『丸』2月号から連載が始まりました。「誰
も知らないニッポンの防衛産業」です。コツコツ書
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アップしている「国防ニュース最前線」、今週も伊
藤俊幸・元海将に解説をして頂きます。
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(さくらばやし・みさ)



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【著者紹介】
桜林美佐(さくらばやし・みさ)
昭和45年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒。フ
リーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を
制作。その後、国防問題などを中心に取材・執筆。
著書に『奇跡の船「宗谷」─昭和を走り続けた海の
守り神』『海をひらく─知られざる掃海部隊』『誰
も語らなかった防衛産業[改訂版]』『武器輸出だ
けでは防衛産業は守れない』『防衛産業と自衛隊』
(いずれも並木書房)、『終わらないラブレター─
祖父母たちが語る「もうひとつの戦争体験」』(P
HP研究所)、『日本に自衛隊がいてよかった』(産
経新聞出版)、『ありがとう、金剛丸─星になった
小さな自衛隊員』(ワニブックス)。月刊「テーミ
ス」に『自衛隊密着ルポ』を連載中。


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