こんにちは、エンリケです。
「ハイブリッド戦争の時代」の第19回です。
ことし最初の配信は、
「ハイブリッド戦争の総復習」です。
今年、何らかの目に見えない大きな動きが起こるは
ずです。これを見逃さず、必要な時に必要な手を打
てる俊敏な日本人でありたいものです。
そのためにも、
「ハイブリッド戦争」の正確な理解と把握
は不可欠です。
とくに、
・ハイブリッド戦争とマルチドメインオペレーション
の違いを正確に把握しておくこと、
そして
・アメリカが、今回の選挙騒動を通じ「弱い国」に
なったことへの認識を持つこと
は非常に大切です。
さっそくどうぞ。
エンリケ
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ハイブリッド戦争の時代(19)
2021年ハイブリッド戦争時代の幕開けか?!
志田淳二郎(国際政治学者)
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□はじめに
皆さん、あけましておめでとうございます。
去年は新型コロナウイルスで大変な1年となりま
した。今年は、皆さんにとって、より素晴らしい1
年となりますことを、祈念しています。
2021年がスタートしましたが、2021年は、国際政
治を大きく動かす「歴史が復活する年」である一年
になることが容易に想定されます。
なんといっても、2021年は、中国共産党が結党し
て100周年です。記念すべき2021年に、中国はなに
をしかけてくるか? 「毛沢東を超えよう」とする
習近平国家主席が、毛沢東が達成できなかった一大
事業、つまりは、台湾奪取をしかけてくるのではな
いか?
すでにアメリカの安全保障専門家の間では、こう
した予想が数年前から議論されてきました。
いよいよその2021年を迎えました。
以前のメルマガでも予告しましたが、かりに中国
が台湾奪取をするとすれば、直接的な武力行使や、
台湾の大陸派の政治家を民主的に選出させ、平和裏
に統一するというソフトなシナリオのいずれも現実
的ではなく、クリミア併合スタイルの「ハイブリッ
ド戦争」が、もっとも考えられるシナリオであるこ
とをお話ししました。
本メルマガでは、ハイブリッド戦争の理論から、
中東欧を中心に、数々の事例を紹介してきました。
「で、結局、ハイブリッド戦争ってなんだったっけ
?」と思っている皆さんのために、今回のメルマガ
では、ハイブリッド戦争の総復習をしておきたいと
思います。
▼ハイブリッド戦争の定義を、日本の事態推移と一
緒に考える
2014年のクリミア併合以降、急速に進展した
ハイブリッド戦争研究で使用された言葉の使われ方
から、振り返りましょう。まず、クリミア併合型の
オペレーションとしてのハイブリッド戦争は、次の
ように定義できます。
「宣戦布告がなされる戦争の敷居よりも低い状態で、
特定の目標を達成するために、国家または非国家
主体が調整のとれた状態で、通常戦力あるいは核戦
力に支援されたうえで行なう強制・破壊・秘密・拒
絶活動」です。
ずっと前のメルマガでは、これを「狭義の定義」
と紹介しました。
ところが、クリミア併合以降、謎の武装集団や軍
隊すら登場しないパターンのハイブリッド戦争が中
東欧各地で発生するようになりました。
そこで、より多くの事例を説明できる「広義の定
義」が必要となります。ハイブリッド戦争の「広義
の定義」は、「平時から『ハイブリッド脅威』が及
んでいる事態」です。
「ハイブリッド脅威」とは、NATO・EUが共同設立し
た研究所Hybrid CoEの、以下の定義が参考になりま
す。「ハイブリッド脅威」とは、国家と非国家主体
が協働で次のような行動をとることで発生します。
(1)広範な手段を通じて民主主義国家の脆弱性を意図
的に狙った調整のとれた同時多発的行動。
(2)有事/平時、対内/対外、地域/国家、国内/国
際、友/敵といった境界や属性の敷居をなくすよう
な行動。
(3)こうした行動の目的は、相手に害を加えながら、
地域、国家、制度レベルで自らの戦略的目標を達成
することである。
ここで挙げた「広義の定義」では、日本の事態推
移(平時~グレーゾーン~有事)でいえば、「平時」
「狭義の定義」は、「グレーゾーン」にあたります。
日本では、陸・海・空・サイバー・宇宙の領域に
またがる作戦を「ハイブリッド戦争」と理解する向
きもありますが、ハイブリッド戦争のポイントの1
つは、有事と平時の境界があいまいなままで発生す
る点です。
ですので、正規軍と正規軍があらゆる領域にまた
がる作戦を展開している時点で、すでに「有事」な
ので、こうした事態を説明する際には、「ハイブリ
ッド戦争」ではなく、「マルチドメインオペレーシ
ョン」という概念を使った方が、適切でしょう。
▼台湾は、すでに「ハイブリッド戦争」の渦中にあ
る!
詳細は、今後、報告しますが、すでに台湾は、「
広義の定義」が意味するところの中国発のハイブリ
ッド戦争の渦中にあります。かりに併合に乗り出す
際は、事態推移は、「平時」から「グレーゾーン」
に、つまり、「広義の定義」から「狭義の定義」へ
と移るでしょう。
そして、中国軍が軍事作戦を展開する場合は、短
期間で政治・経済・軍事の中枢を陥落させる「ショ
ート・シャープ・ウォー」をしかけてくることが想
定されるため、台湾をめぐって、サイバーや宇宙領
域での作戦を展開する「マルチドメインオペレーシ
ョン」を遂行することも予想されます。
▼大国間のグランド・バーゲンを回避せよ!
ハイブリッド戦争に対抗するためには、強力な軍
事力を維持することはもちろんのこと、国民一人一
人が情報戦や世論戦、心理戦におどらされないとい
う意味でのレジリエンスを向上させていくことが必
要です。
そして、同じ価値観を共有する大国を、自分たち
の安全保障にコミットさせることも重要です。
最悪のシナリオは、自分たちの頭越しで対立する
はずの大国同士が手をとり、現地の兵士や国民だけ
が血を流すグランド・バーゲンです。たとえば、米
中間でグランド・バーゲンが結ばれると、ハイブリ
ッド戦争のような低烈度の紛争に、アメリカがコミ
ットする可能性が著しく低くなります。
2020年米大統領選挙後の混乱により、「弱いアメ
リカ」が誕生したいま、米中間のグランド・バーゲ
ンが結ばれるシナリオは、決して低くありません。
大国間のグランド・バーゲンは、ハイブリッド戦
争に対抗するうえで、負の要因となることを、ぜひ
覚えておいてください。
▼次回予告
次回のメルマガでは、中国はどのようにハイブリ
ッド戦争を理解しているのかについて、中国におけ
る研究動向を紹介しながら、考えていきたいと思い
ます。
結論を先取りすれば、私たちとはかなり異なる形
で、中国はハイブリッド戦争を理解しています。
次回のメルマガも、ご贔屓のほどよろしくお願い
します
(つづく)
(しだ・じゅんじろう)
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【著者紹介】
志田淳二郎(しだ・じゅんじろう)
国際政治学者。中央ヨーロッパ大学(ハンガリー・
ブダペスト)政治学部修士課程修了、M.A. in Political
Science with Merit、中央大学大学院法学研究科博
士後期課程修了、博士(政治学)。中央大学法学部
助教、笹川平和財団米国(ワシントンD.C.)客員準
研究員等を経て、現在、東京福祉大学留学生教育セ
ンター特任講師、拓殖大学大学院国際協力学研究科
非常勤講師。主著に『米国の冷戦終結外交―ジョー
ジ・H・W・ブッシュ政権とドイツ統一』(有信堂、
2020年)。研究論文に「クリミア併合後の『ハイブ
リッド戦争』の展開―モンテネグロ、マケドニア、
ハンガリーの諸事例を手がかりに」『国際安全保障』
第47巻、第4号(2020年3月)21-35頁。「アメリカの
ウクライナ政策史―底流する『ロシア要因』」『海
外事情』第67巻、第1号(2019年1月)144-158頁ほか
多数。
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