配信日時 2020/12/28 08:00

【桜林美佐の「美佐日記」(107)】「歓喜の歌」に隠された物語

こんにちは、エンリケです。

107回目の美佐日記。

ことしは,これが最後の配信です。
来年の配信は11日からの予定です。

さっそくご覧ください。

エンリケ



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今年4月に刊行された『自衛官が語る災害派遣の記
録』に続く、第2弾『自衛官が語る海外活動の記録』
(桜林美佐監修・自衛隊家族会編)が発売されてい
ます。中東シーレーンの安全確保をめぐって新たな
自衛隊派遣が行われているこの時期にタイミングを
合わせたような出版です。現地で自衛官たちが何を
思い、どのような苦労をして、任務をこなしてきた
か、25人の自衛官のリアルな体験記です。

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桜林美佐の「美佐日記」(107)

「歓喜の歌」に隠された物語

桜林美佐(防衛問題研究家)

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おはようございます。桜林です。「男もすなる日記
といふものを、女もしてみむとてするなり」の『土
佐日記』ならぬ『美佐日記』は107回目で令和2
年の締めくくりとなります。

 今年も1年お付き合い頂き、まことにありがとう
ございました。自衛隊においても年間を通してコロ
ナの影響を受けた年でした。

また、看護支援など災害派遣に赴いた方や海外の任
務に就くなどで、正月休みも2週間の隔離期間にな
ってしまっていることがあるかもしれません。本当
に、心より感謝申し上げます。

 さて、今年は「ベートーベン生誕250年」でし
た。クラシックファンの間ではメモリアルイヤーと
して盛り上がっていたようです。本来であればもっ
と多くの演奏会などが実施されていたことと思いま
す。特に年末の風物詩「第九」の合唱は、オンライ
ンなどで行われるのでしょうか。

「第九」と言えば、以前も書きましたが、福岡県の
久留米市と深い関係があります。久留米には第一次
大戦の頃「ドイツ兵俘虜収容所」があり、1919
年の12月にそこで初めての「交響曲第9番」=「第九」
の演奏会が行われたのでした。

 そのことをこの日記で書いたところ、読者の方か
ら「第九」の初演奏は1918年に徳島県鳴門市の
坂東俘虜収容所で行われたのではないかと質問を頂
きましたが、これはあくまでも収容所内での演奏だ
ったということで、一般の日本人聴衆に向けての演
奏会は久留米でのものが初めてだったようです。

 陸上自衛隊の幹部候補生が学ぶかつての軍都・久
留米、そしてベートーベンという数奇な巡り合わせ
を知ってから、ベートーベンがより身近に感じるよ
うになっていました。

最近は、その過酷な生涯がコロナ時代の私たちに語
りかけるものを考えさせられています。

 ベートーベンは音楽家だった父親のスパルタ教育
を受け育ち、かなりの暴力も受けていたといいます。
16歳で母を肺結核で亡くし、父はアルコール依存症
で失業。以降、家族を支えるために必死に働くこと
になります。家計を支えながら幼い弟たちの世話を
していたのです。

その後、ウイーンに移ったベートーベンはそこで作
曲活動を始め、才能を認められるようになるのです
が、好事魔多し、なんと、少しずつ聴力が失われて
しまったのです。

音楽家にとって耳が聞こえないことは致命的である
ことは言うまでもありませんし、人と話すことが好
きだったベートーベンにとって、会話をしても相手
の言葉が聞こえなくなることは、生きる望みを失う
ことでもありました。

 彼は遺書を書き、自らの運命を嘆きます。しかし、
ベートーベンのすごさはここからなのです。

苦悩の末、彼はついに全てを「諦める」境地に到達
するのです。聴力を失った自身を受け入れていきま
す。

「遺書」を書くことは、苦しみにくじけそうになる
もう一人の自分と会話となりました。そして、書く
ほどに「音楽を作りたい」という気持ちが強くなっ
ていくのです。

そして、ベートーベンが全く聴力を失ってから作っ
た作品が、合唱付きの「第九」すなわち「歓喜の歌」
でした。

この演奏をした時、会場いっぱいに溢れんばかりの
拍手は、彼の耳には届いていなかったのです。目の
前にあったのは、満場の沈黙だけでした。その瞬間、
ベートーベンは何も聞こえない恐怖の中に置かれて
いたのです。

今、感染予防から合唱はご法度となり「歓喜の歌」
もこれまでにない苦難の時代を迎えていると言えま
す。しかし、考えてみれば、百年以上も世界中で歌
い続けられているこの曲は、様々な戦争、紛争、対
立も乗り越えてきたものであり、何よりその誕生の
背景には想像を絶する苦しみがありました。

その生命力を物語るように「歓喜の歌」を歌うため、
色々なアイディアが生まれています。オンライン、
無観客、そしてイタリアやドイツでは家のベランダ
からの大合唱・・・。もしかしたら、今はこれまで
以上に熱い合唱が生まれる時なのかもしれません。

ベートーベンは、私たちに降りかかる不幸や苦しみ
について「何かしらの良いものを伴う」という言葉
を遺しています。運命を受け入れ、その中で全力を
尽くすという物語が、実はこの有名な「歓喜の歌」
には隠されていたことを、私はこのコロナを機に知
ることができました。

 新しく迎える年、皆さまに歓喜の歌が届きますよ
うにお祈りしています!どうぞ良いお年をお迎え下
さい!!

<おしらせ>
YouTubeチャンネルくららで毎週土曜にアッ
プしている「国防ニュース最前線」、今週も伊藤俊
幸・元海将に解説をして頂きます。
http://okigunnji.com/url/42/



(さくらばやし・みさ)



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【著者紹介】
桜林美佐(さくらばやし・みさ)
昭和45年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒。フ
リーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を
制作。その後、国防問題などを中心に取材・執筆。
著書に『奇跡の船「宗谷」─昭和を走り続けた海の
守り神』『海をひらく─知られざる掃海部隊』『誰
も語らなかった防衛産業[改訂版]』『武器輸出だ
けでは防衛産業は守れない』『防衛産業と自衛隊』
(いずれも並木書房)、『終わらないラブレター─
祖父母たちが語る「もうひとつの戦争体験」』(P
HP研究所)、『日本に自衛隊がいてよかった』(産
経新聞出版)、『ありがとう、金剛丸─星になった
小さな自衛隊員』(ワニブックス)。月刊「テーミ
ス」に『自衛隊密着ルポ』を連載中。


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(代表・エンリケ航海王子)
 
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