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荒木さんの最新刊
知られざる重要組織「自衛隊警務隊」にスポットを
当て、警務隊とは何か?の問いに応えるとともに、
警務隊で修練されている「逮捕術」を初めて明らか
にしたこの本は、小平学校の全面協力を受けて作ら
れました。
そのため、最高水準の逮捕術の技の連続写真が実に
多く載っています。それだけでなく、技のすべてを
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『自衛隊警務隊逮捕術』
荒木肇(著)
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こんにちは。エンリケです。
「陸軍工兵から施設科へ」の十回目です。
「兵役の起算日」
「ゴキン」
「補充兵役」
・・・
個人的に興味津々の、
帝国陸軍軍制のおはなしがつづきます。
当時を生きた先人たちと
時空を共有できるようで、
じつに至福の時です!
さっそくどうぞ。
エンリケ
メルマガバックナンバー
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陸軍工兵から施設科へ(10)
徴兵制度(3)徴兵年限
荒木 肇
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□ご挨拶
いよいよコロナ第3波の襲来という報道です。連
日、多くの新しく感染された方々の数が増えていま
す。たいへんお気の毒ですが、心配なのは続く医療
崩壊です。医療現場の最前線におられる方々に感謝
しています。
▼兵役期間の起算日は12月1日から
兵役の起算日は12月1日である。したがって、
現役の終わり、すなわち除隊=予備役編入の日付は
11月の末になる。ところが、昔の人の思い出話や
日記を見ると、入営の日付が1月10日ということ
だ。それでは、12月いっぱいと1月9日までは、
未入営ということになる。
どこかに規定があるのかと探してみると、兵役法
の中にあった。第12条に「現役兵の在営期間は軍
事上妨げなきときに限り、勅令の定むる所に依り6
0日(中略)以内之を短縮することを得(う)」と
ある(原文はカタカナ読点なし)。そして「兵役法
施行令」の第32条には「おおむね40日」と厳し
くなっている。
つまり、この40日とは、12月の31日と1月
の9日の合計のことになる。だから、兵役の現役期
間の計算は12月1日から始まるが、40日間の短
縮期間がある。実際の入営はお正月の楽しみが済ん
でからの1月10日になるのだ。ただし、身分は未
入営の現役兵である。事故などを起こすと、警察で
はなく憲兵のお世話になることになった。
この期間は楽しかったという人が多い。鬼の2年
兵は除隊した、兵営内はみな同年兵ばかりである。
仕事といえば初年兵の入営準備が多かったそうだ。
名札書きなども事務室勤務兵だけでは足りなくて、
字の上手な者などに声がかかったという。上等兵の
発令もされて、翌年入る初年兵の世話をする初年兵
掛(かかり)になる者は序列の高い優秀な人だった。
翌年に除隊するときには伍長勤務上等兵にもなって
いれば「下士官適任證書(しょうしょ)」を受ける
人もいただろう。
ところで、伍長勤務上等兵とは何か。陸軍は慢性
的に下士官不足だった。現役の下士官は中隊で内務
班長を務め、初年兵・2年兵の教育の助教になり、
被服掛、陣営具掛、兵器掛などの運営業務に就いて
いる。また、大隊本部、聯隊本部などで勤務する下
士官もいた。厳しい財政状況の中では定員も増やせ
ない。そこで優秀な上等兵を選んで下士官の勤務を
とらせるのが普通だった。それが伍長勤務上等兵、
略して「ゴキン」といった。
▼補充兵役とは
兵役法で出来た制度で注目すべきは「補充兵役」
だろう。これは戦時の損耗に備えての要員である。
とりあえずは現役兵のように翌年1月に入営する必
要はない。だが、いつ「教育召集令状」がくるか分
からない。いったん来れば3カ月の教育がある。現
役初年兵も、各個教練から始まって執銃訓練、中隊
戦闘訓練、陣中勤務、学科などを受けて、およそ3
カ月でほぼ一人前の兵士になった。そうして「既教
育補充兵」といわれる立場になる。
この制度は、動員倍率が高くになるにつれて、予
備役、後備兵役の人員だけでは必要な人員が確保で
きないということから案出された。動員倍率とは、
平時の部隊が戦時定員になることを動員といい、そ
の平時と戦時の人員比率のことをいう。
つまり、平時の歩兵中隊の定員が100名とすれ
ば、2年現役では各年度50名ずつがいる。それが
動員下令で200名になれば2年度分を召集すれば
いい。ところが、現実の世間では、病気、仕事上の
問題、家族の状況などへの配慮があった。
「得員率(とくいんりつ)」という言葉もあり、1
00通の召集令状を出しても、実際に入営するのは
70%余りだったらしい。そうであると、予備・後
備ばかりでは不足する。それが補充兵の始まりだっ
ただろう。
平時の、つまり支那事変(1937年)が長期化す
るまでの陸軍では、補充兵が兵営に入ってくること
はまずなかった。だから、当時は現役兵に比べて「
格落ち」と思われていたらしい。後に戦争が長期化
すると補充兵に召集がかかり、後方の教育隊で3カ
月の訓練の後、部隊に配属されることになった。そ
こでは上等兵には、なりにくくなっていたようだ。
▼兵役期間につく4カ月
兵役法によれば、各役の年限は次の通りである。
現役2年、予備役5年4カ月、後備役10年、その
後40歳までは第1国民兵役に服した。補充兵役は
第一と第二に分かれた。第一補充兵役は12年4カ
月、その後は既教育の者は第1国民兵役に、未教育
は第2国民兵役に編入された。第2補充兵役は同じ
く12年4カ月で、その後は全員が第2国民兵役に
なった。
この端数の4カ月は何か。動員計画との関係であ
る。
兵役期間の起算日は12月1日であり、4カ月の
端数を加えると翌年の3月31日になる。この3月
31日という日はどんな日だろうか。いまも昔も、
会計年度の日というのは完全な正解ではない。これ
は参謀本部が作成した「年度作戦計画」の最終日に
なる日だ。
「年度動員計画」は4月1日から発効し、翌年の3
月31日まで有効である。
4月1日から始まる年度動員計画で「赤紙=充員
召集令状」をもらって部隊の要員になった人は翌年
3月31日まで服役してもらわなければならない。
この端数の4カ月がなくては後備役にある兵役開始
15年目の人は、年度動員計画の中途の11月30
日で、兵役を終わってしまうことになる。
この端数の4カ月がつくことで、兵役は2年の現
役と15年4か月の予・後備役合計17年と4カ月
を務めることをいう。もちろん、第一・第二両国民
兵役も満40歳まで続くのだが。ただし、国民兵は
国民軍が編成されなくては召集が来ることはなかっ
た。そうして、わが国は敗戦まで国民軍を編成する
ことはなかった。
▼端数の効用
端数の4か月を予備役第1年次の前についたとす
る。除隊が11月末日なら、その翌日の12月1日
から翌年の3月31日まで予備役の第1年次である
。その1年次の12月1日には、新しい初年兵が加
わる(入営しなくても帳簿上存在する)と、それか
ら3月31日までは2年次分の兵員が存在すること
になる。合計で18年次分が存在する。
しかし、この全部を動員部隊の要員にあてられる
か。答えは否である。年度動員計画は4月1日に適
用されるから、この時点では部隊には、一期の教育
がすんだばかりの初年兵と2年次兵が在営している
。
11月末に除隊したばかりの兵員は、予備役に入っ
ても直ちに召集が来るかも知れない。なぜなら、す
ぐに「充員召集令状」が聯隊区司令部には用意され
るからだ。翌年3月末まで動員部隊の基幹要員であ
ることは変わりないからだ。端数があるからこそ、
動員のつなぎ目も安心というわけだ。
▼一期の教育中の初年兵は留守部隊では定員外
12月になると、先月末に2年兵が満期除隊した
おかげで、兵営はがらがらである。そこに動員が必
要な事態が起きたらどうなるか。心配はない。ほぼ
2年ぶりに実家で新年を祝おうとしていた除隊兵に
すぐ充員召集がかかるからだ。なお、「充員」つま
り「充(み)たす」というのは、正規の動員計画の
部隊の編制表の人員を充たすからである。ちなみに
動員計画になかった部隊が臨時に編成されることも
あった。その要員を集める時に出す令状は「臨時召
集令状」である。
「新しい初年兵?頭数(あたまかず)がそろって
いるだけで、動員業務の支障にこそなれモノの役に
も立たないんだよ」と聞き取りで答えてくれた人が
いた。この「物の役にも立たない」というのは軍人
勅諭の中にある言葉だった。
初年兵の教育計画は年間を4つに分けて行われた
(時期によって3つのときもあった)。これを第1
期から第4期というようにまとめるが、「1期の初
年兵」は戦力にはならなかった。現在の陸上自衛隊
も、教育団の教育大隊や教育連隊の新隊員教育隊、
あるいは部隊の中の新隊員教育隊で前期課程の教育
を受ける。3か月のその基礎課程は、とにかく隊員
としての素養をつけることで使われる。現場の部隊
に配属されるのはそれからである。
1期教育期間中の初年兵は動員下令があっても、
動員部隊に入ることはない。現役の将校や下士官は
それぞれの戦時補職に異動しても、留守を預かる補
充隊に勤務する将校・下士官はいて課程終了まで教
育を受ける。だから留守部隊の定員には入らないの
だ。
興味深いのは「俸給(ほうきゅう)」に関する規
定である。2等兵の俸給には甲と乙があった。甲は
月額9円で乙は6円である。この乙の支給対象者は
現役兵、未教育補充兵、未教育国民兵で入営した日
から起算して3月までの間に支給するとあった。つ
まり1期の教育期間中は動員部隊に行けないから半
人前であることが分かる。4カ月目からは甲が支給
された。
(つづく)
(あらき・はじめ)
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●著者略歴
荒木 肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
https://amzn.to/31jKcxe
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心から感謝しています。ありがとうございました。
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(代表・エンリケ航海王子)
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