配信日時 2020/12/11 08:00

【自衛隊・熱砂のイラク派遣90日(20)】「深夜のロケット弾攻撃」 藤井岳

こんにちは、エンリケです。

藤井岳さんの、
「自衛隊・熱砂のイラク派遣90日」
の二十回目です。

訓練通りに実戦でも対応できたことは、
大きな自信につながりますね。

さっそくどうぞ


ご意見・ご感想お待ちしてます。
コチラからどうぞ
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エンリケ


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自衛隊・熱砂のイラク派遣90日(20)

深夜のロケット弾攻撃

藤井岳(ふじい・がく)(元陸自2曹)

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□はじめに

 以前この場をお借りして宣伝させていただいた英
和出版社の『ブルーインパルス60年の軌跡』ですが、
相変わらず反響に驚いております。ご興味のある方
は同社のホームページで紹介されていますので、
ご覧いただき、購入していただければ幸いです。

『ブルーインパルス60年の軌跡』
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 そんな私ですが、もともと航空機の撮影のために
航空自衛隊松島基地や三沢基地を訪れていましたが、
最近はまた通う機会が多くなり、週に1度は松島基
地に撮影に出かけています。私にとって大好きな戦
闘機やブルーインパルスの機体が空を舞う姿をカメ
ラで追い、空を見上げるのはセラピーのようなもの
で、おかげで最近は精神的にも穏やかな日々を送れ
ております。


▼「2303、弾着」

 私の手元にある日記。表紙には「2004」と表記さ
れている。イラクへ持って行き、書きつけた日記だ。
10月22日のページを開くと、ただ「2303、弾着」と
だけ書かれている。23時3分に着弾したということ
だろう。

 2004年10月22日。この日は夜間早めの時間に望楼
勤務に上番し、警戒任務に就いた。早めの時間に上
番すれば、下番後は起床時間までゆっくり就寝でき
る。この日は異常なく下番し、コンテナハウスに戻
って装備を外すと、Tシャツとハーフパンツに着替
え、早々にベッドに横になった。

 ジェットエンジンを吹かす際に響く轟音、あの音
に似た音が突然耳をつんざき、目を開く。轟音が聞
こえた直後、鈍い音とともに急に音が止んだ。

(攻撃だ! 近いぞ)

 コンテナハウス内の最上級者であるT1曹が全員
に鉄帽と防弾チョッキの着用を指示した。無灯火の
闇の中、ベッドの下に置いてある鉄帽と防弾チョッ
キを取り出し、装着する。Tシャツとハーフパンツ
の上にこの装備は何とも間抜けな格好だが、そんな
ことも言っていられない。次弾、2発目の着弾の可
能性があるため、即座に身を守る体勢に入らなけれ
ばならない。そして、この姿で当分待機する。耐弾
化されたコンテナハウスが最も安全な場所なのだ。

 暗闇の中で着弾の様子を反芻する。轟音がしたと
いうことはロケット弾か。そして、おそらく轟音の
後の鈍い音は地面に当たった音だろう。いずれにせ
よ、このコンテナハウスから相当近い場所に着弾し
たようだ。

「すごい音だったな」。誰かが口を開いた。

「かなり近い所に落ちたと思いますよ。地面に当た
る音まで聞こえました」

 20分も待機しただろうか。次第に隊員の走る靴音
や車両の走行音が聞こえ始めた。扉を少し開いて外
の様子をうかがい、すぐに閉じる。宿営地内の照明
などは全て消され、真っ暗だった。

 もっとも普段から夜間は許可された天幕やプレハ
ブ以外は全て照明を消し、宿営地から可能な限り光
を出さないようにしている。明るくすれば各種攻撃
の照準や位置の特定が容易になるためだ。天幕の入
口も二重の幕で光が漏れない仕組みになっている。

 着弾は午後11時を過ぎており、宿営地内でも警衛
所や支援群本部などしか明かりはつけていなかった
だろう(遮光はしていただろうが)。それらの施設
も着弾後は即消灯し、宿営地内は完全な闇になって
いるはずだ。

 急に扉が開き、懐中電灯で照らされた。

「デルタチーム、異状ないか?」。整備小隊長だっ
た。

「異状なし」。皆が答える。

「了解。まだしばらくはこの体勢で待機してくれ」

 そう言い残すと、小隊長は足早に去って行った。

 さらに数十分待機し、ようやく警戒態勢解除の指
示が出た。やれやれ、と装備を外し、またベッドに
横になった。望楼勤務もあって疲れていたのか、す
ぐに眠りにつくことができた。少なくともこの日は
……。

▼訓練通りに行動できた

 翌日、10月23日は朝から捜索が行なわれた。

「はっけーん(発見)!」

 声が聞こえた方に目を向けると、弾着位置と思わ
れる場所を囲むように数人の隊員が距離をとって地
面を見ていた。地面には金属製の円筒形をした物が
転がっていた。形状も色も戦車砲弾の薬莢に似てい
た。

「あれか……俺たち、危なかったな」

 同じチームの先輩陸曹が呟く。

 弾着位置の向こうには私が寝泊まりしているコン
テナハウスが見える。ロケット弾が落ちた場所に最
も近い位置にいたのは、自分たちだった。

 もしロケット弾が爆発していたら。

 飛翔方向が少しでもずれて、コンテナハウスに向
かって飛んで来ていたら。
 
 運が良かったってことか。
 
 地面に転がるロケット弾を見つめる。

 発砲事案の時も、昨夜も、俺たちは訓練通りに行
動できた。

 ここが安全地域じゃないのは前からわかっていた
ことだ。

 ロケット弾攻撃も想定されていた。

 今さら騒ぐことじゃない。
 
 また攻撃されたら? 昨夜と同じように対処する
だけだ。



(つづく)




(ふじい・がく)


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【著者紹介】

藤井岳(ふじい・がく)ペンネーム
1979年岩手県一関市生まれ。1996年自衛隊生徒とし
て陸上自衛隊入隊。少年工科学校へ入校。卒業後機
甲生徒課程を経て第9戦車大隊(岩手)で戦車乗員
として勤務。2004年第3次イラク復興支援群に参加、
イラク・サマワにて任務に就く。2005年富士学校
(富士)に転属。機甲科部で助教として戦車教育に
従事。2008年退職。フリーランスフォトグラファー
として活動を開始。自衛隊航空部隊の撮影、取材に
取り組む。2015年から「PANZER」誌で執筆開始。そ
の後「丸」「JGROUNDEX」「JWings」などで写真
や戦車に関する記事を発表。現在に至る。



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