配信日時 2020/12/07 08:00

【桜林美佐の「美佐日記」(104)】苦境に立たされる外国人労働者──親日家を増やす仕組み作りを

こんにちは、エンリケです。

104回目の美佐日記。

<日本は今なお「親日家育成」という概念が薄い>

<「親日家」を増やすことは外交であり、安全保障
です。>

<少なくとも、日本に失望する外国人が大量に母国
に帰っていく状況だけでも、なんとか避けたいもの
です。>

とのご指摘に、うなずきっぱなしでした。


さっそくどうぞ。


エンリケ



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今年4月に刊行された『自衛官が語る災害派遣の記
録』に続く、第2弾『自衛官が語る海外活動の記録』
(桜林美佐監修・自衛隊家族会編)が発売されてい
ます。中東シーレーンの安全確保をめぐって新たな
自衛隊派遣が行われているこの時期にタイミングを
合わせたような出版です。現地で自衛官たちが何を
思い、どのような苦労をして、任務をこなしてきた
か、25人の自衛官のリアルな体験記です。

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桜林美佐の「美佐日記」(104)

苦境に立たされる外国人労働者──親日家を増やす
仕組み作りを

桜林美佐(防衛問題研究家)

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おはようございます。桜林です。「男もすなる日記
といふものを、女もしてみむとてするなり」の『土
佐日記』ならぬ『美佐日記』は令和2年12月の今
回で104回目です。

最近、連載の始まった『サムライ先生、日本語を教
える』に爆笑する日々です。また緊急事態宣言が出
されるのかなどと言われる中で、このような楽しい
読み物を提供してもらい実にありがたいです。面白
ろすぎ!

福岡にいた時は近くに日本語学校があり、ネパール
やベトナムの人たちがたくさんいました。すれ違い
に「こんにちは」と声をかければ、みんながちゃん
と「コンニチハ」と言ってくれて、スーパーのレジ
打ちをしている子もいたので、すごいなあと尊敬す
るばかりでした。

お友達になった(と、私は勝手に思っている)女の
子は、私のことをなぜか「先生」と呼ぶので、せん
せいはやめて下さい!と言いたかったのですが、き
っと年上らしき人は「先生」だとインプットされて
いるのだなあと思い、ほぼ2年間それで通してしま
いました・・。

日本に40万人以上いるというベトナムからの技能
実習生や留学生たちが、コロナの影響で職や住まい
を失ったり、とてつもない苦境に立たされているこ
とは想像に難くありません。

そんな中、最近はベトナム人による家畜の窃盗など
犯罪の摘発が相次いでいて、これは帰国が困難にな
っていたり、解雇されて生活に困窮するなどコロナ
禍の影響も大きいといわれます。

それであれば、日本としても早急に対策をしなけれ
ばならないのですが、一方で、ベトナムの人たちが
日本に来るための仕組みそのものにも大きな問題が
あることも指摘されています。

それは多額の渡航費用を借金で賄うというシステム
があることです。ベトナムには300~400の斡
旋業者があるといい、その半数近くが悪質な業者だ
ともいわれます。

多くの人は日本で稼いだお金をそうした業者への返
済に追われ、なおかつ故郷の家族への仕送りもしな
ければならず、手元にはほとんど残らない苦しい状
況下で日本で暮らしているのです。

つまり、コロナ以前から日本への渡航のプロセスそ
のものに問題があったのです。そして、ビザ申請も
チェックが甘く、虚偽の経歴などいいかげんな書類
での入国も多いようなのです。

日本の受け入れ企業側もそうしたゆるい制度に乗っ
かって、低賃金の労働力を得ていたわけで、根本的
にこうした仕組み自体を改めないと、日本での生活
に絶望的になったベトナム人たちによる犯罪を増や
すばかりなのです。

借金と低待遇で八方塞がりになっているベトナム人
のリストは、日本の犯罪グループに渡っていて、入
国した時から相談に乗るなどで接近しているのだそ
うです。

もちろん、このようなことを乗り越えて借金を返済
し、無事に故郷に帰国後は習得した日本語を活かし
てキャリアアップする人もいるのですが、現在のコ
ロナの状況など鑑みれば、今後は難しく、これから
先は、彼らを犯罪者にさせないための努力が日本側
に強く求められます。

こうした状況を受け、在ベトナム日本大使館はベト
ナム労働者を受け入れる日本企業に対し、今年の夏、
技能実習生を受け入れる前に、適切な送り出し機関
を見極めて欲しいとする異例の呼びかけをしていま
す。

多くのベトナム人は「より良い暮らしをするため」
に日本に来るのであり、犯罪をしたくて来る人など
いないはずです。彼らにとって夢を叶える国である
日本が、行ってみれば低賃金だけを求める冷酷な国
であり、犯罪への誘いが横行し、声掛け寄り添う隣
人もいない国であったなら、どれほど失望するでし
ょうか。

よく「外国人犯罪」と私たちは簡単に表現しますが、
日本人の犯罪グループが関わっているとすれば、
雇用主の甘さも含め「外国人犯罪」とは日本人が作
り出している要素もあると言えます。

このことは、国内治安の安定はもちろん、テロ防止
など多様な問題に関わっていることは言うまでもあ
りません。

加えて言えば、日本は今なお「親日家育成」という
概念が薄いように見えます。

いつ頃からか「インバウンド」とかいう言葉が急に
市民権を得て?中央省庁などでも言われるようにな
り、戸惑った方も多いのではないかと(私も含め)
思いますが、外国人観光客にたくさん来てもらおう
という試みが、四方八方に中国語とハングルの表示
を増やすことだったり、なんだかズレてる・・・と
思ったのは私だけではないでしょう。

インバウンドもコロナでどこへやらの今、大事なの
は、日本を心から好きになってくれる外国人を増や
すことだと再認識する時期かもしれません。「親日
家」を増やすことは外交であり、安全保障です。

中国の「孔子学院」を、わが国ではまだ傍観してい
ると言わざるを得ず、相変らずの無策は残念ですが、
愛国教育のしたたかさは学ぶべきものがあるのかも
しれません。

外国人への戦略的教育など日本人にはとても真似で
きないかもしれませんが、少なくとも、日本に失望
する外国人が大量に母国に帰っていく状況だけでも、
なんとか避けたいものです。

ところで、日本ではあまり報じられませんでしたが、
実は今年の10月と11月にベトナムに相次いで台風が
上陸し、被害が出ました。

ちょっと驚かされたのは、その時に近くの日本語学
校で学ぶベトナムの女の子が水害被害のための寄付
を募っていたのでした。

些少ながら差し出しましたが、あなたたちは大丈夫
なの?困ってないの?という気持ちになりました。
むしろ我々に欠如している何かを教えてもらったよ
うな心境でした。

彼ら彼女たちが善意の日本人と出会い、日本の輝く
思い出を持ち帰ってくれるよう願うばかりです。



<おしらせ>

YouTubeチャンネルくららで毎週土曜にアッ
プしている「国防ニュース最前線」、今週も伊藤俊
幸・元海将に解説をして頂きます。
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(さくらばやし・みさ)



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【著者紹介】
桜林美佐(さくらばやし・みさ)
昭和45年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒。フ
リーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を
制作。その後、国防問題などを中心に取材・執筆。
著書に『奇跡の船「宗谷」─昭和を走り続けた海の
守り神』『海をひらく─知られざる掃海部隊』『誰
も語らなかった防衛産業[改訂版]』『武器輸出だ
けでは防衛産業は守れない』『防衛産業と自衛隊』
(いずれも並木書房)、『終わらないラブレター─
祖父母たちが語る「もうひとつの戦争体験」』(P
HP研究所)、『日本に自衛隊がいてよかった』(産
経新聞出版)、『ありがとう、金剛丸─星になった
小さな自衛隊員』(ワニブックス)。月刊「テーミ
ス」に『自衛隊密着ルポ』を連載中。


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