こんにちは、エンリケです。
きょうから本編再開です。
実に面白く興味深い
ハンガリーの最新政治情勢を
伝えてくれます。
単純な構図・図式で国際状況を
「わかったつもりになること」
がいかに愚かで危険なことか、
がよくわかります。
あなたもさっそくどうぞ
エンリケ
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ハイブリッド戦争の時代(14)
ウクライナ西部における「ハイブリッド戦争」とハ
ンガリー(前編)
志田淳二郎(国際政治学者)
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□はじめに
皆さん、こんばんは。前回2回にわたって、20
20年アメリカ大統領選挙のインパクトについて、
考えてみました。バイデン新政権が誕生すれば、中
東欧諸国が懸念しているように、「第三次オバマ政
権」として同盟国の頭越しで、地域大国と「大取引」
(グランド・バーゲン)を結ぶ可能性があること
を指摘しました。
地政学的にも、アメリカの同盟国という観点から
も、中東欧諸国と日本は、同じ悩みを抱えている者
同士であり、今後、日本が、中東欧諸国をはじめと
したNATOと接近する必要性についても紹介しま
した。
中東欧、といえば、有名な国にハンガリーがあり
ます。1989年11月のベルリンの壁崩壊のきっ
かけを作ったのが、東欧革命を進めていたハンガリ
ーでした。冷戦後も、ハンガリーは「中東欧の優等
生」として、NATOとEUに加盟を果たします。
もともと社会主義政権だったハンガリーは、晴れて、
民主主義の国へとスムーズに移行していきました
。
ところが、メルマガでも、3回にわたって紹介し
たように、ウクライナ西部のザカルパッチャ州をめ
ぐって、ハンガリーはウクライナとの関係を急速に
悪化させます。2014年、ロシアの「ハイブリッド戦
争」の被害を受けたウクライナは、2017年、自国の
教育現場で、ウクライナ語のみを使用するよう法律
を改正しました。これにかみついてきたのが、ザカ
ルパッチャ州に多くのハンガリー系住民を擁するハ
ンガリー政府でした。
さらに、ザカルパッチャ州にあるハンガリー文化
協会(KMKS)が二度、襲撃される事件が発生し
ます。犯人は、ポーランドの親露派の過激民族主義
団体「ファランガ」の構成員で、彼らは、ドイツ人
ジャーナリストにやとわれて、あたかも、ウクライ
ナの過激民族主義者が仕かけたような工作をほどこ
しながら、KMKS襲撃を行なったことも、すでに
学びました。
これにハンガリーが猛反発。NATOに加盟しようと
していたウクライナの肩を持つことなく、「ウクラ
イナにおけるハンガリー系住民の地位が保障されな
い限り、ハンガリー政府はウクライナのNATO加盟を
支持しない」の一点張り。
実は、この事件の裏には、ロシアの情報機関が暗
躍していた可能性については、前の3回にわたるメ
ルマガで学習してきました。
ここまでは、復習です。
さて、ここで皆さん疑問に思われませんか。「ハ
ンガリーは民主主義にスムーズに移行した優等生の
国だったはず。かつて自分たちがたどった道をウク
ライナが歩もうとしているのに、なんで、こんなに
強硬に反対しているのか」と。
そうです、ここにパズルがあります。
実は、2014年以降、ハンガリーは自らを「非リベラ
ル(イ・リベラル)民主主義」の国になると表明し、
特徴のある外交政策を展開しているのです。この
「非リベラル民主主義」とは何なのか。今回のメル
マガから、3回(予定)にわたって、「非リベラル
民主主義」を力強く実践しているオルバーン政権の
ハンガリーについて学習していこうと思います。
ハンガリーは、東と西の間に位置する地政学的にも
重要な国です。プーチンのロシアとも仲がよく、近
年では、中国とも密接な関係を構築しています。そ
して、トランプをして、オルバーンを「双子の兄弟」
と言わしめたほど、トランプとオルバーンは似た
者同士でした。そして、仮にバイデン新政権が発足
したら、バイデン新政権が外交の前面に押し出すと
予想される「人権」に、嫌気を感じ、NATO同盟国で
ありながらも、ロシアや中国サイドに思いっきり振
り切れてしまう可能性もある国が、オルバーンのハ
ンガリーです。
ということで、今回のメルマガから3回(予定)
にわたって、ハンガリーの最新政治情勢をお伝えし
ていきます。
▼オルバーンとは何者か? 新憲法(基本法)の制
定者
現在のハンガリー首相のビクトール・オルバーン
はユニークな人物です。1989年東欧革命時には、ハ
ンガリーに展開していたソ連全軍の撤退を要求する
若き「反共主義者」でした。(反露ではないことが
ポイントです)。そんなオルバーンは、1990年代後
半から一時政権に就くものの、いったん下野し、20
10年に再び政権に返り咲くと、オルバーンは次々と
国内改革を行なっていきます。
有名なことの一つに、2011年までに憲法改正
を12回(!)行ない、その年の4月に新憲法とし
ての基本法(2011年憲法)を制定しました。基
本法には、ハンガリーがキリスト教の国であること、
家族などの共同体を重視することなどが盛り込ま
れていました。基本法によって、行政府による司法
府やメディアへの統制も強化されました。
EUは、基本法が「国家主義的」だとハンガリー
を非難しましたが、これをオルバーンは跳ね返しま
す。
ハンガリーにも言い分はあるのです。1989年
東欧革命で制定した1989年憲法で、本当は、ソ
連の支配下に置かれて制定されたハンガリー人民共
和国憲法(1949年憲法)を、全面的に変えたか
ったのですが、これができなかった。1949年憲
法は、スターリン憲法をモデルにしたものですから、
「反共主義者」オルバーンは嫌だったんです。
もう一度、ハンガリー人の手で、一から、憲法を作
り直したかった。こうしてできたのが、基本法(2
011年憲法)でした。ハンガリーというのは、こ
ういう国である、ということを、しっかりとハンガ
リー国民に分かってもらいたいという政権の狙いが
ありました。
▼「非リベラル民主主義」でいく!by オルバー
ン
では、なぜ、オルバーンは、基本法に、しっかり
とハンガリーとはこういう国である、と明記したか
ったのでしょう。その理由は、行き過ぎたグローバ
リズム、リベラリズムへの反発がありました。
グローバリズムの流れで、ヨーロッパには、宗教
を異にする移民・難民が流入するようになりました。
キリスト教世界のヨーロッパに、イスラム教徒が
押し寄せ、母国に帰ることなく、自分たちのコミュ
ニティーをヨーロッパ各地で作るようになっていき
ます。
これだけではありません。リベラリズムの流れの
なかで、性的マイノリティ(LGBTQ)の権利擁護が
叫ばれ、男女間の伝統的な家族観が、次第に崩れて
いきます。また、伝統的な共同体や国家に尽くして
いくという観念が、どんどんと消えていくようにな
りました。
これって、トランプ大統領を支持したアメリカ国
民が取り戻そうとしている「古き良きアメリカ」と
似ていますし、日本の状況にも似ていると感じませ
んか。
オルバーンは、リベラリズムを、「愛国的」では
なく、個人の自己利益を追求するだけの論理だと、
敵視します。そして、それを否定する「非リベラリ
ズム」こそが、全国民の利益に資するものだという
答えにいたったのです。
2014年7月、ついに、オルバーンは宣言します。
ハンガリーは「非リベラル民主主義」でいく!と。
そして、リベラリズムを放棄している中国やロシア、
トルコを称賛しました。かくして、ロシアや中国と
蜜月の関係をオルバーンは築くようになり、ハンガ
リー愛国者であるオルバーンは、ウクライナ西部の
ザカルパッチャ州のハンガリー系住民の地位をめぐ
る一連の事件で、ハンガリーの国益を守るために、
ウクライナ政府を強く非難したのです。
こうしたハンガリー情勢を理解しないと、前回お
伝えしたウクライナ西部における「ハイブリッド戦
争」を、より深く理解することはできませんね。
▼次回予告
次回(中編)では、「非リベラル民主主義」を掲
げるオルバーン政権が、どのように中国と蜜月関係
を築いているかを紹介します。ハンガリーが中国と
の関係を深めれば深めるほど、中国は、ハンガリー
を経由して、ヨーロッパに浸透することになります。
実際に、ヨーロッパの安全保障専門家は、中国を
「ハイブリッド脅威」として次第に、認識しはじめ
ています。
その次(後編)では、「ロシア第一主義」のオバ
マ政権が、ハンガリーにあまり関心を示さなかった
こと、オルバーンとトランプが、不法移民・難民対
策をめぐって、似たような問題を抱え、この問題に
対する似たような認識を持っていて仲が良かったこ
と、そして、バイデン新政権が誕生したら、ハンガ
リーはどう行動するか、について分析レポートを書
いていきたいと思います。
(つづく)
(しだ・じゅんじろう)
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【著者紹介】
志田淳二郎(しだ・じゅんじろう)
国際政治学者。中央ヨーロッパ大学(ハンガリー・
ブダペスト)政治学部修士課程修了、M.A. in
Political Science with Merit、中央大学大学院法
学研究科博士後期課程修了、博士(政治学)。中央
大学法学部助教、笹川平和財団米国(ワシントンD.C.)
客員準研究員等を経て、現在、東京福祉大学留学生
教育センター特任講師、拓殖大学大学院国際協力学
研究科非常勤講師。主著に『米国の冷戦終結外交―
ジョージ・H・W・ブッシュ政権とドイツ統一』(有
信堂、2020年)。研究論文に「クリミア併合後の
『ハイブリッド戦争』の展開―モンテネグロ、マケ
ドニア、ハンガリーの諸事例を手がかりに」『国際
安全保障』第47巻、第4号(2020年3月)21-35頁。
「アメリカのウクライナ政策史―底流する『ロシア
要因』」『海外事情』第67巻、第1号(2019年1月)
144-158頁ほか多数。
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