こんにちは。エンリケです。
「すぐそこにある国際情勢」を
味わえるドラマになりそうなものがたり。
「サムライ先生、日本語を教える」
きょうは2回目です。
いきなりとんでもない出来事が、、、
さっそくどうぞ。
エンリケ
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新シリーズ!
サムライ先生、日本語を教える(2)
赴任──そして誰もいなくなった
山下知緒(やました・ともお)(研武塾代表)
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□ごあいさつ
コロナ禍で足止めをくっていた留学生たちが、今月
からボチボチ入国し始めています。
4月新入生は、すでに半年以上もウェブで授業を受
けているのですが、その途中で来日を断念した学生
も少なくありません。
生徒数の激減で、運営サイドは頭を抱えているよう
です。
~というワケで、今年のボーナスは支給なし。来年
は、どうなることやら。
今年も残すところ、わずか1か月となりました。
▼熱意ある方は大歓迎
私の採用を即決したのは、浅草橋駅近くにある日
本語学校だった。
隅田川沿いに建つ大きなビルの2階にあり、建物
のほとんどは建設会社のオフィスで、2階の一角だ
けが日本語学校として使われていた。何というか、
人目を忍ぶヤクザの事務所みたいな感じだった。外
に看板も出てなかったため、何度も前を通り過ぎて
しまい、見つけ出すのに苦労した。
これは後々知ったことだが、この学校の経営者は
不動産業を営む中国人で、彼は自らが管理する賃貸
オフィスやホテルの一角に日本語学校を開校すると
いう手法を得意にしていた。ここも、そうやって設
置したグループ校の1つだった。
さて、面談に応じたのは、行政書士の資格を持つ
本部の人事担当者と、胸の谷間が半分くらい見えた
セクシーなブラウスをまとった女性事務員だった。
対応はとても丁寧で好意的だったが、本当におざな
りな質問だけで模擬授業もおこなわれず、面接はあ
っという間に終了してしまった。
気抜けしていると、「ご自宅はここよりも埼玉の
ほうが近いんですよね?」と、人事担当者がたずね
てきた。
「はい、住まいは東京のはずれで、埼玉寄りにあり
ます。JR線を使えば川口はもちろん、大宮だって
すぐですよ」
「そうみたいですね。実は、戸田市にあるグループ
校でも教員を募集しているんです。そちらでの勤務
は可能ですか?」
「はぁ。問題ないと思います」この瞬間、私の採用
は決定した。
というのは、彼らが求めていたのは、はなから埼玉
県戸田市にあるグループ校の教員だったからだ。そ
れも、待ったなしの緊急募集だった。が、この時の
私は、そんな事情をまったく知らなかった。
「山下先生のような熱意ある方は大歓迎です。経歴
もユニークで素晴らしいと思います。前向きに検討
させてもらいます」
そしてその夕方、埼玉県戸田市にある西丘日本語
学園での採用が電話で伝えられたのだった。
▼「今後は好きにやってください」
3月下旬におもむいた西丘日本語学園の校舎は、
以前あった学習塾の看板が残ったままの古ぼけた4
階建てビルだった。1階は運送会社の作業所、2階
は日本語学校で、3階と4階は学生寮にあてられて
いた。
春休み期間中だったため、留学生たちは3階から
上の学生寮から降りてこず、教室や職員ブースのあ
る2階は学校と思えぬ静けさだった。
専任教員たちは長期休暇中も出勤し、カリキュラ
ム作成やテスト準備などをこなしているものだが、
この時の職員らは、どうも様子がおかしかった。妙
に慌ただしく、また一様に態度がトゲトゲしかった
のだ。新任のあいさつをしても失礼なくらい無愛想
で、各人が自分の机にある書籍や筆記用具を次から
次へと箱詰めしている。
「もう少ししたらひと段落つくんで、こちらでお待
ちください」。不健康そうにやせた女性職員が、迷
惑そうな顔をして「保健室」と書かれた小部屋に私
を通した。
30分以上も待たされて、ようやく教務主任だとい
う金縁メガネの男がシブシブといった表情を浮かべ
てやってきた。そしてその教務主任は、彼自身もふ
くめた教員が総辞職すると、開口一番に告げたのだ
った。
「えっ……えっ? どういうことですか? 私は何
も聞いていませんよ!」
「さぁ。私に聞かれても困ります」
「はっ? だって、私は教員未経験者なんです。誰
もいなくなったら、どなたの指示に従えばいいんで
すか?」
「存じません。あなたがいらっしゃるという話を聞
いたのも、昨日なんです。本当にいい加減な会社な
んですよ……ここはね。とにかく、私らの退職日は
明日ですから、業務の引き継ぎはこの2日間にでき
る範囲となります。文句なら、本部に言ってくださ
い」
私より一回りほど若い教務主任は、会社への憎悪
をむき出しにして、イライラとした口調でしゃべっ
た。
ところで、日本語学校の教務には、フルタイムで
勤務する専任教員と、パートタイムで働く非常勤講
師がおり、専任は正社員、非常勤はアルバイトとい
ったポジションで仕事をしている。
この専任教員たちが、私の着任と同時に一斉退職
するというのは、完全な組織崩壊である。一部の非
常勤講師は残るらしいが、まったくの寝耳に水だっ
た。もっと詳しい事情を話すようにくり返したずね
たが、彼はやたらと結婚指輪をいじり回すばかりで
「私らからはお話したくありませんね」の一点張り
だった。
業務の引き継ぎも、授業記録簿や成績管理データ
の概要を聞かされたのみで、こちらの目が点になる
ほど不親切だった。私が理解し切れずに四苦八苦し
ていても、教務主任は昼の12時になると、キッチ
リ1時間の休憩に出かけてしまった。
使用している教科書の説明ですら、「まっ、今後
は好きにやってください」とけんもほろろだった。
「好きにやってくださいっていわれても、こっちは
何が好きかもわからないんです。学生たちだって困
るでしょう?」
「お気持ちは察しますが、私らも時間がないんです。
苦情は本部に言ってください」
教務主任はメガネを外し、そのレンズをハンカチ
でキュッキュッと拭った。素顔はムーミンのように
ムクんでおり、目の下には深いクマができていた。
「こいつはダメだ」と、私は質問をあきらめた。
そんなこんなで、若い女性事務員1人だけを残し、
彼らは本当に2日間でキレイに姿を消してしまった。
(つづく)
(やました・ともお)
【筆者紹介】
山下知緒(やましたともお)
1971年9月9日生まれ。2018年4月以降、
日本語学校教師を務める。民弥流居合術、駒川改心
流剣術をはじめ、小太刀、十手、棒、柔術などを学
ぶ。現在は手裏剣術を表芸とする武術道場「研武塾
」を主宰。手裏剣製作の勉強会「武具学会」を併設
して、多面的な武術研究に取り組んでいる。妻のコ
ミックエッセイ『ある日突然ダンナが手裏剣マニア
になった。』<リーダーズノート>に描かれた私生
活をNHKドキュメント番組「熱中人」が密着取材
して2012年1月に放映。2012年11月、D
VD「山下知緒 手裏剣道 験流手裏剣術入門」<
クエスト>を刊行。2014年4月、『古式伝験流
手裏剣術』<並木書房>を上梓。
≪研武塾道場≫手裏剣術をはじめ、居合術や古流剣
術等を稽古する武術道場。稽古日は毎週土曜日の午
後4時から午後6時。月謝6千円。道場所在地は西
武池袋線「東久留米駅」から徒歩2分。道場の詳細
や問い合わせは、
古式伝験流手裏剣術
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