こんにちは、エンリケです。
米大統領選をめぐる緊急レポート2回目です。
具体的な指摘が実にうれしくありがたいですね。
「リムランド連合」
「NATOとの連携強化」
「中東欧諸国との連携強化」
というキーワードが新鮮です。
あなたもさっそくどうぞ
エンリケ
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緊急報告!
2020年アメリカ大統領選挙のインパクト(後編)
志田淳二郎(国際政治学者)
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□はじめに
皆さん、こんばんは。前回に引き続き、2020年ア
メリカ大統領選挙のインパクトの緊急報告の後編で
す。前回のメルマガでは、2020年アメリカ大統領選
挙によって、浮き彫りになった、さまざまなレベル
でのアメリカの分断線を紹介しました。こうした分
断線を、外国勢力が、外部から刺激することで、ゲ
ラシモフ参謀総長がいうところの「継続的に機能す
る前線」が誕生し、アメリカは「弱く」なり、同盟
国にとって、死活問題であることを指摘しました。
また、バイデンは、米露「リセット」外交を発案
し、推進した張本人であり、トランプ政権期に、NA
TOの枠組みで、アメリカとの防衛協力を深めてきた
中東欧諸国は、バイデン新政権を「オバマ政権三期
目」と捉え、「見捨てられの恐怖」を抱いているこ
とも紹介しました。
これらのことは、日本にも、直接関係しますね。
ですので、皆さんは、決して「ヨーロッパ」と
「専門家」が言った場合、「それって、イギリス、ド
イツ、フランスのことでしょ」「ヨーロッパは、そ
れだけじゃないよ」とクールな頭を持って、ぜひ、
突っ込みを心の中で入れてください。
エンリケさんも言っていましたが、結局のところ、
「自分の頭でしっかり考えること」こそが、インテ
リジェンスの本質だと私も強く感じるところです。
今日のメルマガも、そうした力を身に付けるための
お役に立てれば良いなと思っています。
さあ、今日のメルマガでは、前回のテーマと深く
関係する大国政治の弊害の切り口から、2020年アメ
リカ大統領選挙のインパクトについて考えていきた
いと思います。
▼過去から学ぶ
同盟国の頭越しで大国が結託することを国際関係
理論では「大取引」(グランド・バーゲン)理論と
いうことは、前回のメルマガで紹介しました。古典
的な例は、ヘンリー・キッシンジャーによる米中接
近ですね。ソ連と対抗するために、アメリカは中国
と手を結んだのです。日本の頭越しに行なわれた米
中接近は、「ニクソン・ショック」として、現代日
本外交史のなかでも記憶されています。
近年においては、米中関係でいえば、オバマ政権
がたびたび中国のことを「責任ある利害関係者」と
呼び、「戦略的再保証」を追求した例があります。
「戦略的再保証」という用語は、中国との対立を回
避し、中国の域内での台頭を許容するというオバマ
政権の中国政策を説明するものでした。
米露関係でいえば、バイデンが発案し、ヒラリー・
クリントン国務長官が、ジュネーブのインターコン
チネンタルホテルのジャグジーの赤いボタンを勝手
に引き抜いて、2009年3月のラブロフ外相とのジュネ
ーブ会談のときに、ヒラリーとラブロフが笑顔で一
緒に押した「リセット・ボタン」に象徴される、米
露「リセット」外交があげられます。その一環とし
て、2009年9月17日に、東欧ミサイル防衛構想をオ
バマ政権は中止します。70年前のその日は、ソ連が
ポーランドに侵攻した日でもあり、中東欧諸国は、
「見捨てられ懸念」を抱いたのです。
まだまだ例はあります。中東では、シリア情勢を
めぐり、ロシア、トルコ、イランがグランド・バー
ゲンを結び、シリア内戦後のシリアの統治権をめぐ
り、暗黙の了解で、シリアの「領土分割」案がある
といわれています。シリア領内に、ロシア、トルコ、
イランが実質的に支配する「回廊」を設ける案が
あるのです。これを犯さない限り、大国同士の武力
衝突は回避するという暗黙の了解がシリアでありま
す。
コーカサスでも似たようなことがありましたね。
アゼルバイジャン・アルメニア戦争は、それぞれの
国の背後には、トルコとロシアが控えています。リ
ビアやシリア情勢で手打ち済みのトルコとロシアは、
2020年ナゴルノ・カラバフ戦争では、軍事衝突を回
避しつつ、それぞれの勢力を背後から支援し、結果
的に、現地勢力のみが、血を流す事態となってしま
いました。
▼グランド・バーゲン理論のポイント
ヤクブ・グリギエルとA・ウェス・ミッチェルは、
著書『不穏なフロンティアの大戦略』のなかで、次
の2つの利益があるため、アメリカは、過去にグラン
ド・バーゲンを追求したと説明しています。1つは、
「もしアメリカが、ライバル国の認識している利益
を事実上、受け入れることができれば、アメリカに
対する敵意を弱め、国際的な課題に一緒に取り組め
る」という淡い期待です。
こうした認識は、ヒラリー・クリントンの外交評
議会での演説(2009年7月15日)に表れています。
彼女は、こう言いました。「アメリカは数多くのア
クターにさらなる協調を促し、競争を減らし、パワ
ーバランスを多極世界からマルチなパートナーによ
る世界にむけて動かすことによって、世界をリード
していく」。これって、バイデン新政権の外交政策
を「解説」なさる「専門家」が言っている、バイデ
ン新政権の「国際協調」路線ではないですか! 理
論的には、バイデン新政権は、同盟国軽視のグラン
ド・バーゲンを追求することが、予想されます。
もう1つの利益は、国際的課題を緩和することで、
アメリカ国内に、リソースを振り向けるというもの
です。これも、バイデン新政権が福祉予算を増額し、
アメリカ国内の「ネイション・ビルディング」を行
なうという路線と一致しますね。
グランド・バーゲン理論の前提は、アメリカのラ
イバル国、つまりは、中国、ロシア、イランなどは、
基本的に防衛志向であり、彼らとの利害対立は交渉
によって解決可能である、という前提ですが、グ
リギエルやミッチェルも指摘しているように、アメ
リカとライバル国の利害の対立は現実に存在してい
ますし、そもそも、彼らが、「防衛志向」とは言え
ないことは、近年の国際情勢をみれば明らかです。
となれば、日本としては、バイデン新政権で国際
協調が進展し、ハッピーな世界になる、と期待に胸
を膨らませるのではなく、同盟国軽視のグランド・
バーゲン理論がとられた場合に、どう、自国の平和
と繁栄を守っていくかを、考えていくべきでしょう。
なぜなら、「ハイブリッド戦争」のような、低烈
度の紛争が起こった場合、大国間の大取引によって、
「見捨てられる」可能性があるのは、ほかならぬ、
大国のはざまに置かれた同盟国そのものなのですか
ら。
▼では、どうすればよいか?
第一に、アメリカとの同盟関係をうまくマネージ
し、地域へのコミットメントを確保することです。
日本は「言論の自由」がある国ですから、異なる意
見を持つ方も、私は尊重しますが、バイデン新政権
発足をきっかけに、「対米自立を!」と主張する方
もいらっしゃいますが、日米同盟なき日本の防衛力
を整備するための巨額のコストは、超高齢社会に突
入した日本の予算規模を考えれば現実的ではないと
指摘せざるを得ません。なによりも、アメリカとの
同盟関係を解消してしまえば、日本は、大陸正面だ
けでなく、太平洋正面の防衛も考えなくてはならな
くなり、これも現実的にむずかしいでしょう。
ですので、まずは、アメリカの戦略を適切に理解
し、同盟関係をマネージすることに、知恵を振りし
ぼるべきです。
第二に、同じような悩みを持ち、自由、民主主義
という共通の価値を信じる国々との間で、「リムラ
ンド連合」を結成していく方向です。リムランドと
は、ユーラシア大陸の外延部に位置し、大陸国家(
中国・ロシア)と海洋国家(イギリスやアメリカ)
の勢力圏争いの舞台になるエリアを意味します。
日本や中東欧は、アメリカの同盟国でありながら
も、たびたび、グランド・バーゲンの被害を被って
きた経験もあり、かつ、地域大国であるロシアや中
国と地理的に近接しています。同じ悩みを持つ者同
士であるからこそ、日本は、中東欧諸国に関するイ
ンテリジェンス能力を高め、「リムランド連合」を
結成するために、努力すべきでしょう。
すでに、安倍前首相が推進した自由で開かれたイ
ンド太平洋構想(FOIP)によって、インド、オース
トラリアなどを中心とした「リムランド連合」は、
かなり深化しています。これを機に、今度は、中東
欧諸国との連携を強化し、さらには、NATOとの連携
強化をしていくことが、良い外交オプションだと私
は考えています。
▼次回の予告
ということで、本メルマガは、「ハイブリッド戦
争」の脅威によれる中東欧情勢をレポートするもの
ですが、本メルマガにより、皆様の中東欧に関する
情勢を、日本との比較を念頭に置きながら、考えて
いただければ、これに勝る喜びはありません。
ということで、次回は、トランプ大統領とキャラ
クターが似ているオルバーン首相が政権につき、ア
メリカの同盟国でありながらも、ロシアや中国との
関係を強化しているハンガリー情勢について、学ん
でいきたいと思います。
国際情勢が大きく変動するニュースがありました
ら、また、緊急報告という形で、予定を変更するこ
ともあるかと思いますが、皆さん、引き続き、メル
マガをご愛顧ください!
(つづく)
(しだ・じゅんじろう)
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【著者紹介】
志田淳二郎(しだ・じゅんじろう)
国際政治学者。中央ヨーロッパ大学(ハンガリー・
ブダペスト)政治学部修士課程修了、M.A. in
Political Science with Merit、中央大学大学院法
学研究科博士後期課程修了、博士(政治学)。中央
大学法学部助教、笹川平和財団米国(ワシントンD.C.)
客員準研究員等を経て、現在、東京福祉大学留学生
教育センター特任講師、拓殖大学大学院国際協力学
研究科非常勤講師。主著に『米国の冷戦終結外交―
ジョージ・H・W・ブッシュ政権とドイツ統一』(有
信堂、2020年)。研究論文に「クリミア併合後の
『ハイブリッド戦争』の展開―モンテネグロ、マケ
ドニア、ハンガリーの諸事例を手がかりに」『国際
安全保障』第47巻、第4号(2020年3月)21-35頁。
「アメリカのウクライナ政策史―底流する『ロシア
要因』」『海外事情』第67巻、第1号(2019年1月)
144-158頁ほか多数。
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