配信日時 2020/11/17 20:00

【緊急報告!】 2020年アメリカ大統領選挙のインパクト(前編)  志田淳二郎(国際政治学者)

こんにちは、エンリケです。

「ハイブリッド戦争の時代」は少しお休みして、
きょうから、いま話題の米大統領選をめぐる
緊急レポートをお届けします。


正直、ここまで優れた分析をみたことありません。

このレポートには

こんかいの米大統領選の本当の意義
米国内の「分断」をめぐる的確な指摘
ハイブリッド戦争の観点
「オバマ政権三期」という背筋が寒くなることば
中東欧を無視した欧州ということば・概念に騙され
るな

などなど、

我が国にいる限り、けっして気づかされない
「米大統領選をめぐる戦略レベルで重要なポイント、
問題意識、知識」が詰まっています。

ああ、本記事は必読です

あなたもさっそくどうぞ


エンリケ


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緊急報告!

2020年アメリカ大統領選挙のインパクト(前編)

志田淳二郎(国際政治学者)

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□はじめに

 皆さん、こんばんは。2020年アメリカ大統領選挙
は、トランプ現職大統領とバイデン前副大統領が、
接戦を繰り広げ、「バイデン勝利」でいまのところ
結果が出たことは、皆さんも大きな関心があったニ
ュースだと思います。バイデン勝利にカッコをつけ
ているのは、トランプ大統領側が、民主党側の組織
的な「不正投票」疑惑を指摘し、法廷闘争にまで持
ち込む構えを見せているからです。

 外国首脳は、菅総理をはじめ、「バイデン勝利」
に祝意を評していますが、2021年1月の新政権発足
まで、アメリカ社会が大きく混乱することが予想さ
れます。

 今回のアメリカ大統領選挙の最中や結果に際して、
専門家たちが、いろいろな「解説」をしていますが、
わたしとしては、専門家たちが指摘していない、大
きく抜け落ちている視点が、いくつかあるのではな
いか、と、報道に触れるたびに思っています。

 そこで、今日のレポートでは、予定していたハン
ガリー政治情勢ではなく、2020年アメリカ大統領選
挙のインパクトについて、(1)アメリカ国内の「継続
的に機能する前線」の誕生、(2)バイデン外交の行
方、(3)大国間政治の弊害、について、レポートし
ていきたいと思います。今回は前編で、(1)と(2)を
カバーしたいと思います。次回の後編で、(3)を解説
します。

 ちなみに、今日のレポートでは、今後配信予定の
ハンガリー政治情勢も、実は深く関係していますの
で、いろいろな政治現象をつなげて考えてみたいと
思います。


▼アメリカ国内の「継続的に機能する前線」の誕生

 2017年にトランプ政権が発足して以降、「分断さ
れるアメリカ」が多く語られるようになっていまし
たが、アメリカの分断状況は、2009年に発足したオ
バマ政権以降、生み出されたと考えるのが、適切で
す。オバマ政権のリベラルな政策によって、アメリ
カ国内社会は「アイデンティティ政治」の方向へ、
大きく変化していきました。その影響は、セキュシ
ュアリティ(LGBTQ)、人種、宗教、環境など多方
面に及んだことは、皆さんもご存じだと思います。

 これを行き過ぎたリベラリズムだと感じ、古き良
きアメリカを取り戻そうとしたのが、トランプ政権
でした。実は、これは今後、紹介するハンガリーの
オルバーン政権と非常に似ています。オルバーンも
行き過ぎたリベラリズムやグローバリズムに対抗し
て「非リベラル民主主義」を打ち出しています。ト
ランプは、オルバーンのことを「双子の兄弟」と言
って絶賛しています。

 トランプ政権期のアメリカに、「アイデンティテ
ィ政治」を持ち出して挑んだのが、バイデン副大統
領でした。バイデン新政権が発足すれば、たとえば、
メキシコ国境の壁は撤去され、警察・国防予算は削
減され、内政に重点が置かれ、「オバマ政権三期」
のようなリベラルな政策がなされることは、想像に
難くありません。

 これにトランプ大統領をはじめ、トランプ支持者
たちは、古き良きアメリカを守るため、徹底抗戦す
るでしょう。キリスト教とイスラム教、伝統的な共
同体主義と個人主義、合法的な移民と不法移民、白
人と有色人種(つまりは黒人)など、アメリカ社会
の分断の対立軸が、今回の大統領選挙で、はっきり
と浮かび上がったと思います。

 これは、「ハイブリッド戦争」の観点からいえば、
アメリカ国内にゲラシモフ参謀総長のいう「継続的
に機能する前線」が誕生したことを意味します。外
部からのフェイクニュースなどで、この対立軸を刺
激すれば、アメリカ国内は、勝手にケンカをはじめ
ます。そうなれば、アメリカ国家の一体感がどんど
んとなくなっていき、超大国アメリカは過去の栄光
になり、「弱いアメリカ」が誕生するのです。
 
 すでに「バイデン勝利」の「不正投票」に関する
ネット情報が出回っていますが、中露発の情報戦の
一環であるとも考えられます。

 「弱いアメリカ」の誕生は、日本にとっても死活
的問題ですので、今回の大統領選挙によって、アメ
リカ国内の「継続的に機能する前線」が完成したと
いう意味を、しっかりと理解しておきたいところで
す。

▼バイデン外交の行方

 多くの専門家は、「バイデン新政権の外交」につ
いて、たくさんのコメントをしています。代表的な
ものは、「国際協調」ですが、正直に申し上げて、
大切な視点が抜け落ちていると思います。

 というのは、「ヨーロッパとの協調」といったと
きの「ヨーロッパ」は、多くの専門家が、せいぜい、
イギリス、フランス、ドイツしか想定していないこ
とです。本メルマガでも紹介しているように、「ヨ
ーロッパ」には「中東欧」もあり、むしろ「中東欧」
の動向が、国際秩序の行方を左右する地域であるこ
とは、皆さんもご理解いただけていると思います。

「バイデン新政権」は「中東欧」と「協調」するの
でしょうか? はっきり言って、「ノー」です。中
東欧は、表では、「バイデン新政権の祝意」を表明
していますが、「オバマ政権の悪夢の再来」を心配
しています。

 なぜなら、オバマ政権は、中東欧の頭越しで、
「ロシア第一主義」の外交を8年間展開しました。

 一つ例を紹介しましょう。

 2009年9月17日、ジョージア戦争(200
8年)で悪化していた米露関係を「リセット」する
一環で、オバマ政権は、ジョージ・W・ブッシュ政
権が推進していたポーランドとチェコへのミサイル
防衛システム配備計画(東欧MD構想)の中止を発
表しました。

 オバマ政権の「ロシア第一主義」ともいうべき外
交に、中東欧の同盟国は不安を覚えました。当時の
中東欧諸国は、イラク戦争(2003年)にも参加
し、アメリカの世界戦略に貢献していることをアピ
ールしながら、冷戦後の中東欧の地政学的変化のな
かで生き残るため、NATO加盟を達成してきた経
緯があります。

 中東欧にとって最大の脅威はロシアでした。20
08年にはロシア軍はジョージアに侵攻しました。
オバマ政権が発足して、アメリカの「ロシア第一主
義」が浮き彫りになっていた2009年7月16日
、中東欧22か国の元政治家や研究者たちは、オバ
マ新政権に向けて公開書簡を発出しました。同書簡
には、東欧革命の英雄であるヴァツラフ・ハヴェル
やレフ・ワレサも署名していました。同書簡には、
ロシアは19世紀的な行動をとる修正主義国家であ
り、米露間の「リセット」ではなく、米欧間の同盟
関係を強化していきたい旨が書かれていました。

 しかし、オバマ政権は、この要請を無視しました
。その象徴が、東欧MD構想の中止でした。オバマ
政権は、関与し続けることで、ロシアを国際協調に
引き寄せることができると期待していたのです。ま
るで中国問題とそっくりですね。

 中東欧諸国にしてみれば、東欧MD構想が発表さ
れた時期が最悪でした。1939年の9月17日と
いえば、その日は、ソ連軍がポーランドに侵攻した
日でした。2014年のウクライナ危機を経てみて
も、オバマ政権の「ロシア第一主義」はついに変わ
ることはありませんでした。

 この「リセット」のアイデアを最初に披露された
のが、2009年2月のミュンヘン安全保障会議で
あり、発表したのは、バイデン副大統領でした。中
東欧諸国には、「バイデン新政権」が、「オバマ政
権第三期」と映り、現在、非常に大きな不安を覚え
ているのです。形の上では、「バイデン新政権への
祝意」を発表しましたが、ハンガリーや、メラニア
夫人の故郷、スロベニアは、当初は、「選挙はまだ
終わっていない」と公の場で発表していました。

 トランプ大統領は、「アメリカだけが頑張ってい
るのはおかしい。防衛費をあげろ!」と言っていた
だけで、結果的に、オバマ政権のときに「パッシン
グ」されていた中東欧に対し、軍事的なコミットメ
ントを強めていたこともあり、中東欧諸国は、トラ
ンプ大統領を好意的にみていました。もちろん、ト
ランプ政権としては、中国の進出が著しい中東欧に
コミットしていくという対中戦略上の計算もありま
した。

 こうした状況は、「ヨーロッパ」を、イギリス、
ドイツ、フランスと重ねて論じていた「国際政治学
者」の方々の口から、解説されたことはまったくあ
りませんでした。はっきり申し上げて、この3か国
は、自分の力で安全保障を担保できるのです。イギ
リスとフランスは独自核を持っていますし、ドイツ
はNATOの核シェアリングの枠組みで、自国に核
があります。さらに、独仏間のアーヘン条約(20
19年)で、ドイツがフランスの「核の傘」に入っ
たとも言われています。

 さらに冷徹なリアリズムの視点に立てば、ロシア
がヨーロッパへ侵攻した際の「主戦場」は、中東欧
なのであり、英・仏・独には「戦略的縦深」がある
のです。

 まとめると、「バイデン新政権」になれば、オバ
マ政権と同様に、国際協調、同盟国重視になり、良
い、という解説は、「歴史の裏側」を見落とし、「
事実の半分」しか説明できていません。オバマ政権
のときの中東欧の状況を見落とし、「西」ヨーロッ
パの大国しか見ていない、バランスを欠いた解説で
あると、強く主張したいと思います。

 読者の皆さんには、ぜひ、中東欧にも思いをはせ
ていただきたいと思います。

 ▼次回予告

 今回のメルマガの後半で紹介したオバマ政権の「
ロシア第一主義」は、国際関係理論では、「大取引
」(グランド・バーゲン)と呼ばれます。「大取引
」は、同盟国の頭越しに、アメリカが中国やロシア
と結託するという発想が前提ですので、同盟国軽視
の戦略です。米中露が結託すれば、「ハイブリッド
戦争」のような低劣度な紛争が起きたときに、同盟
国が「見捨てられる」可能性があり、日本としても
、無視できません。

 地域は異なりますが、アルメニア・アゼルバイジ
ャン戦争でも、結局、トルコとロシアの「大取引」
によって、現地の勢力だけが血を流す事態になった
意味も、しっかりと考えたいところです。

 ということで、次回は、アメリカ大統領選挙のイ
ンパクト(後編)ということで、「大取引」理論を
振り返り、中露発の「ハイブリッド戦争」の脅威に
、常にさらされている国々についてのインパクトに
ついて、考えていきたいと思います。



(つづく)



(しだ・じゅんじろう)


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【著者紹介】

志田淳二郎(しだ・じゅんじろう)

国際政治学者。中央ヨーロッパ大学(ハンガリー・
ブダペスト)政治学部修士課程修了、M.A. in
Political Science with Merit、中央大学大学院法
学研究科博士後期課程修了、博士(政治学)。中央
大学法学部助教、笹川平和財団米国(ワシントンD.C.)
客員準研究員等を経て、現在、東京福祉大学留学生
教育センター特任講師、拓殖大学大学院国際協力学
研究科非常勤講師。主著に『米国の冷戦終結外交―
ジョージ・H・W・ブッシュ政権とドイツ統一』(有
信堂、2020年)。研究論文に「クリミア併合後の
『ハイブリッド戦争』の展開―モンテネグロ、マケ
ドニア、ハンガリーの諸事例を手がかりに」『国際
安全保障』第47巻、第4号(2020年3月)21-35頁。
「アメリカのウクライナ政策史―底流する『ロシア
要因』」『海外事情』第67巻、第1号(2019年1月)
144-158頁ほか多数。




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