配信日時 2020/11/13 08:00

【自衛隊・熱砂のイラク派遣90日(16)】闇夜に響いた銃声 藤井岳

こんにちは、エンリケです。

藤井岳さんの、
「自衛隊・熱砂のイラク派遣90日」
の十六回目です。

・現実と虚構の区別がつかない。
・現実から目を背け、自分の空想の世界に逃げ込む

こんな、知的じゃない人がやたら目立つ昨今の日本
です。

本連載を読むと、登場人物が、
これとは真逆の「ホンモノの知的な人間」というこ
とに思いが至ります。


さっそくどうぞ


ご意見・ご感想お待ちしてます。
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エンリケ


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自衛隊・熱砂のイラク派遣90日(16)

闇夜に響いた銃声

藤井岳(ふじい・がく)(元陸自2曹)

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□はじめに

 突然ですが、私、アパートが好きなんです。少し
古めの公営アパートが一番好きですね。子供の頃か
ら団地や集合住宅ばかり転々としていたので、こう
なったのだと思います。

 団地には友達がたくさんいたので、週末や休暇の
際に会いやすいというのもよかったです。誰かの家
でテレビゲームをしたり、商店で駄菓子を買ったり、
公園で遊んだり。

 先日、小学生の頃に住んでいた団地を訪ねたので
すが、子供の姿も少なく、活気がないような気がし
て寂しかったですね。やはり子供は地域にとっても
雰囲気を明るくする宝なのだと思います。


▼やっぱりここは戦場だった

 望楼勤務にも「慣れ」が見え始めていた。上番
(じょうばん)して、異常なく下番(かばん)する
のが当然のような雰囲気になり、いわばルーチンワ
ークになりつつあった。いま思えば非常に危険な兆
候であった。そして「慣れ」が一気に消し飛び、正
気に戻った夜。

「パンッ」いつもと変わらない静かな夜、私を含め
た全上番者の耳をつんざく銃声。

 やっぱりここは戦場だった。

「非戦闘地域」のはずなのに、夜間に軍事施設の門
前で銃をぶっ放す奴がいるのだから。
 
 ここでの重大事案はいつも突然で、しかも予期し
ない時に起きる。もっとも、それが戦場なのかもし
れない。

「発砲だ!」

 体勢を低くしながら暗視双眼鏡をすぐ手にし、覗
き込んだ。銃声が聞こえた西の道路方向へ向け、目
を凝らす。続けて道路を流れるように見る。1台の
ピックアップトラックがサマーワ市街方向へ走り去
るのが視界の隅に入った。

「1台だけ……あの車か?」

 道路上にほかの車の姿はなかった。

 さらに監視範囲を広める。人の姿もない。

「今のは銃声だよな? 撃ったよな?」

「はい。銃声でした」共に勤務している相方の隊員
も西の道路の方向を監視している。
 
 警衛所では状況を確認しているのか、無線は沈黙
したままだ。もう一度暗視双眼鏡で周囲を見渡す。
相変わらず人や車の姿はない。

 一体誰が撃ったんだ?

 やはり最初に見たピックアップトラックだろうか?

 ようやく無線から異常の有無を報告せよとの声が
聞こえてきた。望楼や装備、そして警戒員に異常が
ないことを確認して、無線に「異常なし」と答えた。

 その後も監視を続けたが、銃声が聞こえてから宿
営地周辺に変化はない。

「何者かが宿営地付近で発砲した」

▼ショックは後からやってくる

 数分前にあった重大事案。それがなかったかのよ
うに、宿営地の周囲は静まりかえっていた。だが警
衛所や各ゲートではあらゆる手段で、誰がどこから
どこへ向けて発砲したのか確かめようとしているだ
ろう。銃声は間違いなく道路の方向から聞こえた。
もしかしたら、ゲートの警戒員は、発砲した者の姿
や車両を確認しているかもしれない。

 私がいた望楼からは発砲した者の姿は確認できな
かった。確認できたのは不審なピックアップトラッ
ク1台だけだ。

 再度無線が鳴り、耳を傾ける。宿営地内でも隊員
や施設に異常はないということだった。しばらくは
只ならぬ雰囲気だったが、しばらくすると通常の警
戒態勢に復帰し、監視を続けた。

「藤井3曹、びっくりしましたね」

「うん。しかし……どこに向けて撃ったのかな。異
常がなくてよかったけど。やっぱりここではこうい
うことが起きるんだな。油断できないよ、今さらだ
けど」

 敵対勢力やその類の人間が撃ったのか?

 民間人がセレブレーション・ファイアで撃ったの
か、もしくは自衛隊への挨拶や応援のつもりで撃っ
たのか?

 そもそもこちらを意識しないで適当に発砲しただ
けなのか……?

 発砲直後は訓練通りに動くことができた。頭も体
も状況に合わせて自動的に動いたような感覚だった。
しかし、ショックは騒ぎが収まった後からじわじ
わとやってくる。

 これが現実であり、そしてサマーワの日常なのだ


 サマーワが「非戦闘地域」だって?

 私は暗視双眼鏡を覗きながら鼻を鳴らした。

 そしてこの夜の出来事は、この後に起きることに
比べれば、まだ序章のようなものだった。



(つづく)




(ふじい・がく)


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【著者紹介】

藤井岳(ふじい・がく)ペンネーム
1979年岩手県一関市生まれ。1996年自衛隊生徒とし
て陸上自衛隊入隊。少年工科学校へ入校。卒業後機
甲生徒課程を経て第9戦車大隊(岩手)で戦車乗員
として勤務。2004年第3次イラク復興支援群に参加、
イラク・サマワにて任務に就く。2005年富士学校
(富士)に転属。機甲科部で助教として戦車教育に
従事。2008年退職。フリーランスフォトグラファー
として活動を開始。自衛隊航空部隊の撮影、取材に
取り組む。2015年から「PANZER」誌で執筆開始。そ
の後「丸」「JGROUNDEX」「JWings」などで写真
や戦車に関する記事を発表。現在に至る。



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