こんにちは、エンリケです。
藤井岳さんの、
「自衛隊・熱砂のイラク派遣90日」
の十五回目です。
まさに実戦そのものです、、、
さっそくどうぞ
ご意見・ご感想お待ちしてます。
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エンリケ
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自衛隊・熱砂のイラク派遣90日(15)
警戒勤務の長い夜
藤井岳(ふじい・がく)(元陸自2曹)
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□はじめに
文筆業の方々が執筆する場所はさまざまだと思い
ますが、自宅や自室で執筆するという方がほとんど
ではないかと思います。そういう私はどうなのかと
いいますと、図書館・文化施設のフリースペースや
喫茶店で執筆をすることがほとんどです。
自宅で執筆するのが一番良いとは思うのですが、
どうも私の場合、自宅での執筆は思うように進まな
いのです。頭も回らないし、集中できない。そのた
め、執筆は自ずと自宅以外の場所で行います。しか
もこちらの方が執筆に集中でき、断然こちらの方が
早いのです。「逆じゃないのか」とも言われますが、
やはり外の方がいいですね。そんな私は今日も喫
茶店の隅で執筆しております。
▼昼夜を問わず警戒
監視塔のことを支援群では「望楼(ぼうろう)」
と呼んでいた。
宿営地内の要所にあり、常時、完全武装の隊員が
望楼上で警戒にあたっていた。地上から階段を昇り、
警戒用のスペースに上がる。隊員数名が椅子に座
っても余裕があるくらいの広さだった。また、各種
の視察用装備や無線機が設置され、これらの装備を
用いて昼夜を問わず警戒と警衛所との連絡を行なっ
た。
わが整備小隊は望楼勤務の時間帯が基本的に夜間
に割り当てられていた。小隊ではシフトが組まれ、
上番(じょうばん)の頻度はだいたい2週間に1度
くらいであったと記憶している。また、上番の時間
帯もまちまちで、早めの時間帯に上番すれば、下番
(かばん)後は起床までゆっくり就寝でき、最後の
時間帯に上番すると、地平線から太陽が昇る荘厳な
景色を楽しむことができた。
私が毎回警戒につく望楼からはサマーワ市街も一
望できた。日本の市街地とは違い、ネオンや照明の
類はなく、街灯や民家の照明と思われる明かりがポ
ツポツとあるだけで、市街地にしては非常に殺風景
であった。
時には銃弾(曳光弾か)と思われるものが街の中
から空に打ち上げられることもあった。これは「セ
レブレーション・ファイア(祝砲)」と呼ばれるも
ので、祝い事や何か良い出来事があった時などに銃
を空に向けて発射する、いわば景気づけの儀式のよ
うな行為である。イラクでは護身用のためか、小銃
等を所持している民家が結構あり、こういった発砲
は夜間にも時折やるようだった。
勤務時間はそう長くはなかったが、常時警戒の態
勢でいると、時間は長く感じられた。少しでも緊張
をほぐし、時間を気にしないために最も効果的だっ
たのは共に勤務するバディとの雑談だった。もちろ
ん周囲の警戒をしながらボソボソと小声で会話する
。
「あー、腹減ったなぁ……藤井3曹、日本に帰った
らまず何を食べます?」
「そうだなぁ……やっぱり寿司とラーメンかな」
「ですよね! 俺も寿司とラーメン食いたいって思
ってました!」
このように、たいていは帰国後に何をしたい、何
を食べたいといった話やたわいもない話ばかりして
いた。むしろこの方が緊張もほぐれるというものだ
ろう。
▼何か動くものが宿営地に接近している
サマーワ宿営地の西には幹線道路が南北に走って
おり、この道路を走行する車両は重要な監視対象だ
った。また、宿営地の周囲も常時監視した。サマー
ワ宿営地は荒野の中に設営された宿営地だったので、
周囲に民家や建物はほとんどなく、相当な距離で
も宿営地に接近するものがあれば、容易に発見し、
警戒態勢に入ることができた。
ある日の勤務。夜間、闇の中で警戒中、暗視双眼
鏡の視界に動くものを見つけた。
心臓が音を立てるようだった。
「何かいるぞ」
「えっ?」相方も同様に監視を始めた。
「こっちに来る……」
「何ですか?」
遠くてよくわからないが、何か動くもの……暗視
双眼鏡では発見当初、何か動く塊のようにしか見え
なかった。その物体が宿営地に接近している。何度
も目を凝らす。
物体が近づくにつれ、どうやら犬が群れをなして
宿営地に向かって走ってくるのだと判った。
「……犬だ」
「いぬ?」
「野良犬の群れだ。7、8匹はいるな」
サマーワ宿営地の周囲は何重も防護対策がとられ
ており、1番外側は蛇腹鉄条網と高い鉄柵が囲んで
いた。徒歩で接近する人間や動物などはまず1番外
で足止めされ、侵入はできない。
案の定、野良犬の群れは鉄柵の付近で止まり、周
囲をうろついていた。
イラクでは犬はあまり大事にされていないようで、
日本のようにペットとして飼うこともあまりない
と聞いた。
一応、警衛所には無線で報告したが、無線に出た
隊員は(犬くらいでいちいち無線報告するな)とい
った態度がありありと声に出ていた。その後、とり
あえず野良犬は脅威ではないと判断し、周囲の警戒
を再開した。
また、真夜中に道路の端を1人で歩く人の姿を見
つけたこともあり(街灯もない道路をこんな時間に
1人で歩くなんて……一体どこへいくのだろう?)
と思いながら、その姿が見えなくなるまで監視した
こともあった。
(つづく)
(ふじい・がく)
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【著者紹介】
藤井岳(ふじい・がく)ペンネーム
1979年岩手県一関市生まれ。1996年自衛隊生徒とし
て陸上自衛隊入隊。少年工科学校へ入校。卒業後機
甲生徒課程を経て第9戦車大隊(岩手)で戦車乗員
として勤務。2004年第3次イラク復興支援群に参加、
イラク・サマワにて任務に就く。2005年富士学校
(富士)に転属。機甲科部で助教として戦車教育に
従事。2008年退職。フリーランスフォトグラファー
として活動を開始。自衛隊航空部隊の撮影、取材に
取り組む。2015年から「PANZER」誌で執筆開始。そ
の後「丸」「JGROUNDEX」「JWings」などで写真
や戦車に関する記事を発表。現在に至る。
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