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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。お仕事の依頼など、問い
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こんにちは、エンリケです。
「我が国の歴史を振り返る
―日本史と世界史に“横串”を入れる―」
はきょうで108回目です。
いよいよ本連載も、残すところあと2回です。
きょうは「あとがき」(2)です。
いまのシビリアンコントロール最大の問題は、
軍ではなくシビリアンの側の「無知」にある。
とのご指摘に、心から深く同意共感します。
さっそくどうぞ
エンリケ
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我が国の歴史を振り返る
─日本史と世界史に“横串”を入れる─(108)
あとがき(その2)
宗像久男(元陸将)
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□はじめに
本メルマガが終了間近になったせいもあると考え
ますが、最近、しばしば読者反響をいただくととも
に、知人友人からもメールなどが届くようになりま
した。本当にありがたい限りです。
つい先日も「本メルマガを毎回読んでいる。メルマ
ガの内容は我が意を得たりである」と、本メルマガ
同様の歴史の見方に立つN様から嬉しいメールが頂
き、とても勇気づけられました。
私自身は、長い間、「歴史」を学んで理解したこ
と、感じたことなどを字数に制限ないメルマガを最
大限に活用し、“だらだら”と思いつくまま(言葉
を代えれば“降りてくる”まま)に書かせていただ
いているだけなのですが、毎回、読者の皆様にお付
き合いいただき、感謝の気持ちしかありません。
そのメルマガもいよいよ今回が“ラス前”になりま
す。前回から「あとがき」として「歴史に学ぶ4つ
の知恵」をまとめさせて頂いておりますが、今回は、
自らの経験を踏まえ、国防の中核たる「軍事力」、
および「国の制度」などを取り上げようと思います。
今回も一部書き切れませんが、最後の“だらだら”
にどうぞお付き合い下さい。
▼「相応の力をもつこと」
前回に続き、「歴史に学ぶ4つの知恵」の第2は、
「相応の力をもつこと」です。そのためには、日本
人の多くがマイナスのイメージを持つ「軍事力」と
か「軍隊」に対するイメージを払しょくする必要が
あります。
つい最近まで国家安全保障局次長を務められた兼原
信克氏は、近著『歴史の教訓』の「まえがき」に、
(戦前の我が国の戦いを軍の暴走を決めつけつつ)、
なぜ日本が「人類社会の倫理的成熟を待てなかった
のか」と外務官僚的な視点で問題提起しています。
異論を唱える気はありませんが、兼原氏が“合意に
基づく自由主義的な国際秩序”と定義する「人類社
会の倫理的成熟」に現在、到来したかと問えば、私
は依然として「No」と考えますし、仮に「成熟」
したとしても、その「成熟」が未来永劫に維持され
るのかと問えば、それも「No」と考えるべきと思
います。
国際秩序の合意には、独立国たる各国の利害が必ず
ぶつかりますし、合意の決め手は、人口とか経済力
とか環境のような場合もありますが、国と国のバイ
タルな問題の場合、実際の戦争が生起するか否かは
別にして、その合意に軍事力(特に核戦力)が“モ
ノを言う”のが現実で、将来、この現実が変わると
はとても思えません。
軍事力の撤廃(さすがに最近は、“非武装中立”を
唱える人を見かけなくなりました)、その延長で、
“核兵器の廃棄”なども理想としては正しく、それ
を唱えることに価値を見出す人々の主張を否定する
ものではありません。最近も、2017年7月に国
連総会で採択された「核兵器禁止条約」が発効に必
要な50ヵ国の批准に達したため、来年1月に発効
する運びとなったことが話題になりました。
当然、我が国政府は批准しません。広島や長崎の悲
惨な体験を2度と繰り返さないためにこそ、感情論
に左右されず、「抑止力」としての核兵器の存在を
肯定する政治判断がゆらぐことはないでしょう。
残念ながら、「核兵器禁止条約」が非保有国などの
間で発効されても、現実の問題としてこの世から核
兵器がなくなることはないでしょう。通常兵器も同
じです。
そのような前提において、私たちは、「軍事力」あ
るいは「軍隊」を「戦争の道具」あるいは「殺人集
団」として“刷り込まれた誤解”を払しょくし、再
定義するする必要があると考えます。
元陸上幕僚長の冨沢暉氏は、自書『逆説の軍事論』
の中で、「軍隊」を「武力の行使と準備により、任
務を達成する国家の組織である」と再定義すること
を提唱しています。
氏は、「軍隊」というと、戦闘機、軍艦、戦車など
を使用して敵を攻撃する「武力行使」の手段のイメ
ージが強いが、「準備」の方が大切な意味を持って
いると解説します。
そして、戦場で実際に武力を行使するのではなく、
ある地域に武力を持った部隊が存在することが戦争
を抑止し、平和にとって重要な役割を果たすことが
多々あるとし、我を攻撃すれば、相手がそれ以上の
損害を受けるリスクがあると考えて動けない。つま
り、軍隊の存在は、こうした「抑止力」としての意
味が大きいと結論づけます。
このように、私たちは、人類社会の現実として「軍
事力が不要な世界にはなっていない」と認識のもと、
現下の情勢下にあっては、“軍事力は「抑止力」
こそが最大の使命”と位置づけ、まさに我が国よう
に「防衛力」として必要最小限な機能と量、つまり
「抑止力」として有効なレベルを維持する必要があ
るのです。
「防衛力の強化は軍拡競争になる」と反対する人た
ちがおります。軍事を知らない人たちの理論と考え
ますが、「軍拡競争」とはおおむね対象国と量質と
もにパリテイ、つまり同等の力を持つ国同士の競争
を言います。
周辺国、特に共産党率いる中国にあっては、「軍拡
競争」などと国内からブレーキがかかる心配も批判
もありません。その結果、長い間、共産党政権の思
うままに、質量ともに軍事力を拡張し続けているこ
とは『防衛白書』などで指摘のとおりです。
一部、質的優位にある機能もないことはないですが、
全般的にはすでに大きく水をあけられました。特
に核兵器の有無は決定的です。つまり、ちょっとや
そっと我が国が通常兵器の防衛力を増強したからと
しても、追いつけるようなレベルではないのです。
中国の場合、注目すべきはその「能力」だけであり
ません。10月14日、広東州の海軍陸戦隊(中国
版の海兵隊)を視察した習近平は「全身全霊で戦争
に備えよ」と訓示したことが話題になりました。
また、朝鮮戦争参戦70周年となる10月25日に
向かって、当局は、当時のスローガン「抗米援朝」
を使って政治宣伝を展開し、当日、習近平は、「脅
かしや封鎖、極端な圧力は行き詰まりに陥るだけだ」
などと述べ、米国を強く牽制しました。
米中対立が懸念されるなかにあって、軍事的な意味
で米国に対する“敵意むき出し”のスローガンを使
い始めたことで、両国の対立はワンステージ上がっ
たと判断すべきでしょう。
共産党政権の常套手段である“国民への鼓舞”が主
目的とはいえ、「能力」のみならず「意図」もヒー
トアップしてきたのは要注意です。
米中対立の“戦場”が、南シナ海や台湾の解放を含
む東シナ海にあることも明らかです。我が国にとっ
て、決して“対岸の火事”では済まされないのです。
本来、このような中国など周辺国に向かって「核兵
器撤廃!」とか「軍事力削減!」を声高に叫ぶべき
なのですが、その“そぶり”さえ見せない国内の活
動家たちやそれに同調する人たちには、“別な意図”
があると考えるべきなのでしょう。
いずれにしても、放置すれば、ますます格差が開き、
「軍事的空白」になる可能性さえありますので、節
度ある防衛力の整備は、国家防衛のみならず、「日
米同盟」の強化、その延長で「自由で開かれたイン
ド太平洋」構想実現のために必要不可欠と考えます。
併せて、歴史の中の「統帥権の独立」、つまり「軍
隊」の暴走の歯止めとしての「シビリアンコントロ
ール」の強化が重要なのは言うまでもありません。
それについても少し触れておきましょう。
現状のシビリアンコントロールの最大の問題は、コ
ントロールする側の為政者、政治家、それを選ぶ国
民、そして官僚に軍事的知識が乏しいことにあると
考えます。
将来、自衛隊が昭和初期のように暴走する可能性は
万が一にもないと断言できます。逆に、実際に起こ
る可能性が高いのは、軍事的知識の乏しい為政者が、
感情のなすがままのポピュリズムに煽られて誤った
命令・指示を出すことだろうと考えます。
最近、産経新聞で報道されました(10月14日朝
刊1面)ので、話題にしてもいいと思いますが、民
主党政権の時、尖閣諸島の国営化に抗議する反日デ
モの嵐が中国で吹き荒れていました。そして抗議の
意思を持つ中国の艦艇が尖閣諸島までどんどん接近
してきて、記事によると約30キロまで近づいてき
たようです。
ちなみに、主権が及ぶ範囲である「領海」は基線か
ら最大12海里(約22.2km)、「排他的経済水
域」は基線から200海里(約370.4km)です
。当時、異常な事態を目の当たりにした関係者は「
戦争が起きるかもしれないと覚悟した」と告白して
います。
その時、政府は、防衛省に対して、こともあろうか
「中国軍艦艇が目視できるであろう海域に自衛隊艦
艇を展開させるな」との指示を出しました。指示を
受けた自衛隊幹部は「開いた口が塞がらず、そのま
ま顎が外れそうになった」ことを告白しています。
(詳しくは産経新聞の記事をご参照ください)
まさに「寸土を失うものは全土を失う」の格言のと
おり、この“防衛放棄”ともとれる指示が、昨今、
中国艦艇の領海侵犯がほぼ日常化している原因を作
ったのです。このまま放置すれば、事態はますます
深刻化することでしょう。
確かに当時の指示も一つの政治判断かも知れません
が、このような場合、政府(の誰か)が独断で判断
するのではなく、外務、防衛省など関係省庁とよく
議論し、国家戦略と言わないまでも対処戦略を確立
した上で、必要な命令指示を出すべきなのです。そ
の意味では、安倍内閣の時代に「国家安全保障局」
を整備したのは慧眼だったと考えます。
第2次世界大戦中、英国陸軍参謀総長のアラン・ブ
ルックは、いつもチャーチルに臆することなく直言
したことで有名ですが、「チャーチルの考えを忖度
して、迎合するなら私の価値はない」旨の言葉を残
し、かつそのようなアラン・ブルックを重宝したチ
ャーチルの懐の深さを知るエピソードが残っていま
す。
このように、コントロールする側とされる側が癒着
するのではなく、緊張感を保持しつつも深い信頼関
係を構築するのが理想です。そして、コントロール
側の誤った命令・指示に対して、“軍事のプロ”と
して軍人的合理性に基づく判断を実施し、「No」
あるいは「Yes」と言える自衛隊(官)でなけれ
ばならないのです。当然、その上で、コントロール
する側の「決心」に従うのはコントロールされる側
の道理です。
また、いかなる任務遂行(戦い)においても、現場
(戦場)での判断は自衛官たちに託されます。「適
切なシビリアンコントロール」のもとで、自衛官た
ちが的確な状況判断をし、必要な行動ができるよう
な「枠組み」をしっかり確立してほしいと願ってい
ます。
▼「時代の変化に応じ、国の諸制度を変えること」
さて、歴史に学ぶ知恵の第3番目は、「時代の変化
に応じ、国の諸制度を変えること」です。これにつ
いては、何度も繰り返し述べてきました。
「国の制度」を変えることは膨大なエネルギーを要
します。よって、戦争や天変地異などを経験し、そ
れまでの体制の欠陥が露呈した時にはじめて、エネ
ルギーが集約され、制度の改革に踏み出すことがで
きたことを歴史は教えてくれます。
我が国の場合は、一度創り上げた制度をなかなか変
えないという“国柄”があることも紹介しましたが
、その結果がいかなる事態を招いたかについても、
より一層、歴史に学ぶ必要があると考えます。
「治に居て乱を忘れず」「とか「備えあれば憂いな
し」など先人たちは様々な故事を残していますが、
逆を言えば、ルトワックの分析のように、多くの場
合、“治にあって乱を忘れ”、その結果、事前の予
想以上の「乱」を繰り返し体験してきたのが人類の
歴史なのです。
我が国の場合、どうしても国の制度の骨幹である“
「日本国憲法」がこのままでいいのか”を議論する
ことが最大の課題と考えます。
私個人も元自衛官の立場から「憲法はこうあってほ
しい」との考えを持たないわけではないですが、少
なくとも「憲法に自衛隊を明記する」とか「憲法第
9条第2項の取り扱いをどうするか」などの議論に
とどまらず、我が国の国柄(国体というべきでしょ
うが)や歴史や国民性などを考察し、「そもそも憲
法をいかに制定すればいいのか」について、時間を
かけて根本から議論していただきたいと願っていま
す。
その際に、議論を牽引していただきたい憲法学者と
言われる人たちの多くが「護憲」の立場を保持して
いるのが最大のネックと考えます。
そもそも、憲法などの法理論をツユほども知らない
若き米軍人たちが1週間あまりで創り上げた現憲法
のどこに法理論上の適合性があるのか、素人の私に
はどうしても理解できないのですが、秀才ぞろいの
憲法学者がなぜ「護憲」の立場に留まるのか、その
真の理由をぜひ聞いてみたいものです。
そのような中で、心ある「憲法学」の先生方には、
我が国の行く末を真剣に考え、学者としての良心に
基づき、“蛮勇”をふるっていただきたいと切に願
っております。
最近、外国資本による安全保障上重要な土地の買収
に関し、土地購入者に国籍などの事前届けを義務付
ける法整備がようやく取り沙汰されるようになりま
した。
憲法を中心に、“周辺国に隙を見せない”国家の諸
制度を構築することによってはじめて、米国など同
盟国と相互の信頼関係を構築し、将来の安寧や平和
を担保する、すなわち現在の「静」を一日でも長く
持続させることが可能になると私は断言します。
安倍前総理は、戦後にあっては初めて憲法問題に真
正面から取り組みましたが、その目標を果たすこと
はできませんでした。しかし、政治マターに憲法が
組み込まれたことはその第一歩を歩み出したものと
考えます。ぜひ、後に続く政権もこの成果を拡張し
ていただきたいと願っています。
(以下次号)
(むなかた・ひさお)
宗像さんへのメッセージ、ご意見・ご感想は、
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【著者紹介】
宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学
校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロ
ラド大学航空宇宙工学修士課程卒。
陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕
僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、
第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て
2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。
2018年4月より至誠館大学非常勤講師。『正論』
などに投稿多数。
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そして、メルマガを作る機会を与えてくれた祖国に、
心から感謝しています。ありがとうございました。
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(代表・エンリケ航海王子)
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