こんにちは、エンリケです。
藤井岳さんの、
「自衛隊・熱砂のイラク派遣90日」
の十四回目です。
先週以上に、
現地サマーワにいました。
さっそくどうぞ
ご意見・ご感想お待ちしてます。
コチラからどうぞ
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エンリケ
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新シリーズ!
自衛隊・熱砂のイラク派遣90日(14)
これは訓練ではない
藤井岳(ふじい・がく)(元陸自2曹)
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□はじめに
自衛隊を辞して迎えた最初の冬、スキー場のゲレ
ンデ整備のアルバイトをしました。
具体的には圧雪車(雪上車にゲレンデ整備用の各
種器具を装備した車両)を操縦してゲレンデを整備
する仕事です。仕事の内容が高度なため、アルバイ
トにもかかわらず結構な額の給料をいただきました。
面接でも担当の方に「戦車に乗っていたなら圧雪車
の操縦も問題ないね」といわれ、ほぼ内定のようで
した。
採用されて実際に仕事をしてみると、滑走面を美
しく仕上げるのはこんなに大変なのかと面食らいま
した。整備の要領としては車体前部のドーザーブレ
ードで滑走面の凹凸を削り、後部のロータリーの高
さを調整しながらゲレンデを走行します。山奥のス
キー場でしたので、吹雪でホワイトアウトになるこ
ともしばしば。一面真っ白で本当に何も見えなくな
るのです。自然の猛威を体感しました。
とはいえ、仕事そのものは、やり甲斐もあって楽
しかったです。戦車と同じ履帯式の圧雪車を操縦し、
綺麗な滑走面を作っていく仕事にすっかり夢中に
なっていました。
毎年雪が舞う頃になると、あの冬のことを思い出
します。
▼コンボイ輸送、突然の停車
何度目かのタリル空軍基地往復の物資輸送任務の
こと。毎回、慣れで気がゆるむことがないよう自分
に言い聞かせながらトラックに乗り込む。この日は
3トン半トラックの車長として参加した。
往路を順調に走り、タリル空軍基地に到着。物資
を積載し、昼食・休憩をとって基地を出発、コンボ
イはサマーワ宿営地を目指して移動を開始した。
無線機に耳を傾け、一般車の位置を確認しながら、
異変がないか常に周囲を監視する。
そんな時、何かおかしいことに気がついた。
何だ?
前を走る支援群のタンクローリーが速度を落とし
ている。
「どうしたんだ?」声を出すや否や、タンクローリ
ーのブレーキランプが点灯した。
(ラクダでもなさそうだが……)
ラクダの群れが道路を横断して、コンボイが通過
できなくなるケースは以前から耳にしていたが、前
方の状況を見る限り、ラクダではなさそうだった。
ついにコンボイは完全に停止した。
「止まっちまった。前で何かあったのかな?」
操縦手のK3曹がつぶやく。K3曹は整備小隊の
隊員ではなく、この日初めて共に任務に就いた。整
備小隊の通常業務以外では、他部隊、他部署の隊員
と共に任務に就くことはよくあった。
▼俺は兵士失格だろうか?
無線に耳を傾ける。コンボイの指揮官が状況を把
握しようと先頭車の乗員と通話している。どうやら
アメリカ軍が道路を封鎖しているらしい。
「米軍が道路を封鎖しているみたいですね」
「米軍?」
「はい。しかし……このまま立ち往生はマズいです
ね。動ける人間だけでも外で警戒しないと」
外を見ると、地元の住民らしき民間人がコンボイ
の周囲に集まりつつあった。近くの丘にも人が集ま
り、コンボイを見下ろしている。
(何してるんだ……早く周囲の警戒の態勢をとらな
いとマズいぞ)
無線機のマイクを握る手に力が入る。
ようやく無線機から指示の声が流れた。
「各車、操縦手は車内で待機。車長その他の人員は
下車して周囲の警戒を実施せよ」
「降ります!」
小銃を手に下車し、トラックのバンパーの左側に
寄った。片膝をついて体勢を低くし、周囲を見渡す。
民間人はさらに集まっているようだった。
(まったくこんな所で……これじゃ丸裸だ。もしコ
ンボイ攻撃の意思がある人間があの群衆の中にいた
ら、そいつにとっては絶好のチャンスだな)
防弾チョッキに装着してある弾のう(弾倉入れ)
の蓋を開けた。
一瞬迷う。弾倉装着の命令は出ていない。だがこ
れは訓練じゃない。今は撃たれても全くおかしくな
い状況なんだ。そう自分に言い聞かせ、弾倉を取り
出して小銃に装着した。槓桿(こうかん)は引かな
かった。本来なら槓桿も引くべきだったのかもしれ
ない。槓桿を引いて薬室に弾を送弾し、安全装置を
解除すれば弾が出る。だが自分の判断では弾倉の装
着までしかできなかった。命令なしで即交戦可能な
状態に入る勇気がなかった。他国の兵士が同じ状況
に陥ったら、即座に銃弾を装填するだろう。安全装
置も解除するかもしれない。それに比べたら俺は兵
士失格だろうか? そんな考えが一瞬頭をよぎる。
▼少なくとも敵意は抱いてないようだ……
89式小銃を両手で保持するが、構えはせず銃口
を下に向ける。下手に銃を構えれば「あいつは撃つ
つもりだ」と誤解され、深刻な事態にもなりかねな
い。
民間人はその表情が見える距離まで接近していた。
彼らは笑みを浮かべながら、何かを話している。
少なくとも敵意は抱いてないようだ。見た目は、だ
が。
(クソッ。下車してから何の指示もないぞ。上は何
をしてるんだ?)
警戒しながら心の中で毒づく。
「車に戻れ!」
突然の大声。
声のした方を見ると、サングラスをかけた隊員が
立っていた。
「車に戻れ。あとは警備中隊が警戒する!」
(何だって? 俺たちじゃ役不足だってか? この
野郎!)
不意に怒りが湧いてきたが、「クソッ」と悪態を
つきながら隊員を睨みつけ、トラックに乗り込む。
「ご苦労さん」K3曹が声をかけてきた。
「はい……どんな状況ですか?」
「事故だとさ。米軍が事故処理をしている」
「そうですか」小銃から弾倉を抜き、弾がすべて入
っているのを確認する。
「お前、弾倉差したの?」K3曹は驚いていた。
「これは訓練じゃないでしょ」弾のうに弾倉を差し
込み、蓋をした。
民間人がコンボイのすぐそばまで来ていた。
無線では通話が続いている。
通訳を送り、米軍に道路を通過させてもらえるよ
う交渉しているようだった。
▼「何もなくてよかった……」
ふと前を見ると、小学生くらいの男の子が2人、
トラックに向かって何かジェスチャーをしている。
何だろうと見ていたら、どうやら「水をくれ」と意
思表示しているようだ。トラックの運転席内に水は
あったが、車内待機の指示が出ているため、降りる
ことはできない。私は首を振って渡せないことを伝
えた。私を見た彼らは、笑顔から急にふて腐れた表
情になり、さらに後方のトラックの方へ歩いて行っ
た。この状況では何もしてやれない。
サマーワ展開の初期はともかく、中期頃から、現
地の民間人、特に子供に対する接し方について注意
を促す話が出ていた。支援群本部から出た通達だっ
たか、仲間内での情報交換で出た話だったかは記憶
が定かではないが、要するに「必要以上に物を与え
るな」という話である。
特に子供に菓子や水を与えると、さらに何かくれ
というように要求が過大になるケースがみられるよ
うになってきたというのである。これは成人にもみ
られる兆候だったが、子供はより顕著だということ
だった。
そのうちに、また無線が流れてきたので、耳を傾
ける。どうやら、アメリカ軍が封鎖している範囲を
越えて前進を再開するということだった。道路を外
れて走行することになるが、路外は土漠、乾いた土
で走行に問題はなさそうだった。まして我々が乗っ
ている車は過酷な状況でも走行できる軍用規格のト
ラックである。
無線に「了解」と声を入れ、隣のK3曹を見る。
「行けますよね?」
「ああ、大丈夫だろう」
コンボイが前進を開始する。予想通り、路外に出
ても問題なく走行できた。
アメリカ軍の封鎖範囲を越えたあと、道路に戻る。
コンボイは速度を上げ、通常の移動要領で再びサ
マーワ宿営地を目指し前進した。
たまらず鉄帽(ヘルメット)を脱ぎ、汗まみれの
坊主頭を手でかき回す。
「何もなくてよかった……」
鉄帽をかぶり直し、顎紐をしめる。
コンボイが停止してからどのくらい経ったのだろ
うか。太陽はずいぶんと低くなっていた。
(つづく)
(ふじい・がく)
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【著者紹介】
藤井岳(ふじい・がく)ペンネーム
1979年岩手県一関市生まれ。1996年自衛隊生徒とし
て陸上自衛隊入隊。少年工科学校へ入校。卒業後機
甲生徒課程を経て第9戦車大隊(岩手)で戦車乗員
として勤務。2004年第3次イラク復興支援群に参加、
イラク・サマワにて任務に就く。2005年富士学校
(富士)に転属。機甲科部で助教として戦車教育に
従事。2008年退職。フリーランスフォトグラファー
として活動を開始。自衛隊航空部隊の撮影、取材に
取り組む。2015年から「PANZER」誌で執筆開始。そ
の後「丸」「JGROUNDEX」「JWings」などで写真
や戦車に関する記事を発表。現在に至る。
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