配信日時 2020/10/29 08:00

【我が国の歴史を振り返る ─日本史と世界史に“横串”を入れる─(107)】あとがき(その1)  宗像久男(元陸将)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。お仕事の依頼など、問い
合わせは以下よりお気軽にどうぞ
 
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WEB http://wos.cool.coocan.jp
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こんにちは、エンリケです。

「我が国の歴史を振り返る
 ―日本史と世界史に“横串”を入れる―」
はきょうで107回目です。

いよいよ本連載も大団円にはいりました。

きょうから「あとがき」です。

わが歴史は「動」と「静」の繰り返し。
地味で目立たない「静」の時代に
次に来る「動」の時代の若芽が出ている。
戦争のあとは「静」だからこそ、次の「動」
に備えなきゃいけない。

そのために何が必要で、何を目指すべきか?
を宗像さんは具体的に示しています。

本文でご確認ください。

歴史を「動」と「静」で見る着眼は、
過去どの碩学からも聞いたことのない
生涯、永遠に使え、無限の応用が効く
知恵の塊と感じました。


さっそくどうぞ


エンリケ



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我が国の歴史を振り返る
─日本史と世界史に“横串”を入れる─(107)

あとがき(その1)

宗像久男(元陸将)
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□はじめに

 10月25日、エンリケ様からメルマガ「軍事情
報」創刊20周年のご挨拶メールが届きました。私
自身はそのような歴史があることを知らないまま今
日に至っておりましたが、20年もの長きにわたっ
て幾多の困難を乗り越えられ、今日まで続けて来ら
れたことに対しまして、心よりお祝い申し上げます
とともに、改めましてこの偉業に敬意を表し、感謝
申し上げます。

エンリケ様ご指摘のように、我が国には、「軍事」
とか「国防」とか「インテリジェンス」に関する情
報は限られています。また、そのようなことに興味
(関心)を持ち、情報が限られていることへの問題
意識をもつ人たちもほんの一握りしかいないことで
しょう。

そのような中にあって、「軍事」や「国防」などの
話題について心ある人たちが自由に発信できる場を
ご提供いただいていることは、未来に向かって我が
国の進路を正す道に通ずる、計り知れない偉業であ
ると確信しております。

私のようなものがその仲間に加えていただいたこと
に厚く御礼申し上げますとともに、メルマガ「軍事
情報」が今後とも末永く続き、ますます充実発展さ
れますことを心よりお祈り申し上げたいと存じます。

また先日、自衛官の大先輩のA様から「フーバー大
統領の回顧録『裏切られた自由』の訳書を読み、歴
史観が変わったが、(私は)影響があったか」とい
うご下問をいただきました。

 フーバー回想録については、邦訳される前、つま
り『フリーダム・ビトレイド』についてさまざまな
研究家の解説文などを読ませていただき、その概要
を承知しておりました。当然ながら、自分の歴史観
に多大な影響を与えたと思っております。講話など
では、フーバーの有名なフレーズ「日本との戦争の
全ては、戦争に入りたいという狂人(ルーズベルト)
の欲望であった」などは必ず引用して紹介してお
ります。

 本メルマガでは、当時の時程に従って日米開戦に
至る“史実”を追いかけた結果、フーバー回想録を
引用する機会はほとんどありませんでしたが、「日
米戦争は、日本が一方的に仕かけたわけではない」
とする私の見方の根拠のひとつは、フーバー回想録
に拠っておりました。

 そして、今でも個人的には反共主義者のフーバー
の考えは正しかったと確信しております。最近、ス
タンフォード大学フーバー研究所の西悦夫氏などが
時々明らかにしておりますように、第2次世界大戦
前後の歴史には謎に包まれたまま放置されている“
事実”がまだまだあるようですので、今後明らかに
なってくるのを楽しみにしているところです。A様、
ありがとうございました。 

▼歴史観の涵養について

 さて、「我が国の歴史を振り返る」も、振り返れ
ばちょうど2年間の長い旅でしたが、「あとがき」
までたどり着きました。

最近、偶然にもインターネットで「歴史観はどのよ
うに身につけるか」について書かれたものを見つけ
ました。答えは「歴史の本を読むしかない」とあり
ました。「日本の教育現場に求めても無駄、歴史学
はほとんど無視されている。日本の歴史をまともに
教えられる人は限られている」と続きます。

 そして、「歴史観」を鍛える第1原則は「歴史の
本を読むこと」、第2原則は「とにかく量をこなす
こと、歴史小説でも何でもいいので歴史に関するも
のを全部読んでみる、そのうち“何が本当か否か”
わかる。この段階になると、“自分の呼吸に見事に
重なる歴史”に出会うはずだ」とあります。

そして「鍛錬は10年ぐらいかかるので、10代の
若いうちに始めるがよろしい」と解説していました。

本メルマガ冒頭で告白しましたが、私の場合は、4
0代の後半になってから、米国人ジャーナリストの
ヘレン・ミアーズ女史が書いた『アメリカの鏡:日
本』との出会いがまさに「歴史との出会い」でした。

それから20年余りの歳月が流れましたが、手当た
り次第に「歴史」に触れてきました。そして、いつ
の頃からか、確かに“自分の呼吸に見事に重なる歴
史”を見つけたような気がしております。

これも冒頭に紹介しましたが、歴史学者の岡田英弘
氏は、「歴史は物語であり、文学である。歴史は1
回しか起こらない。くりかえし実験できないので科
学の対象にならない」として、「それを観察する人
がどこにいるかの問題がある」(原文のママ)と指
摘し、それこそが“最も重要なこと”、つまり、「
歴史の見方は、『立つ位置』により全く違ってくる」
と解説しています。

本文にたびたび引用した文献や研究家たちの「歴史」
は、まさに“私自身の呼吸と重なる歴史”でしたが、
歴史を学ぶうちに、“自分の呼吸と重ならない歴史”
がたくさんあることも発見しました。ページの都合
もあって、“呼吸の合わない歴史”の引用をあえて
省きました。

そして、「歴史」を史実か否かを問わず、政治や外
交の一手段として活用している国が存在すること、
「歴史と史実は違う」こともわかり、さらに、「あ
らゆる歴史を史実かどうか疑ってみる」という“癖”
までついてしまいました。

一方、「何が史実か」を見極めること自体が本当は
とても難しいことにも気がつきました。当たり前で
すが、“史実”の100%を解明するのは土台無理
な話なのです。よって、「歴史」と“史実”の隙間
に、後世の歴史家らの“想像”とか“解釈”とか“
意図”が入ります。これこそが歴史家らの“史観”
とか“視座”といわれる部分なのでしょうが、これ
こそが曲者で、歴史が歪曲されるところでもあるの
です。

よって、“史実”はひとつでも、見方によっては1
80度違った「歴史」として伝えられます。長く「
歴史」を勉強して、そのような「歴史」にたびたび
出会いました。歴史家や研究家たちは、“史実”を
自分なりのストーリーで組み立てなおし、一度造り
上げた先入観(視座)をもって、しかも、後追いで
そのストーリーに適合する資料を“一級史料”とし
て漁り、それに反する資料を排除する傾向があるよ
うです。

特に、「日記」のたぐいは要注意です。いつの時代
も、また洋の東西を問わず、人間は「自分本位」で
す。自らを正当化することは当たり前ですが、1人
の人間が“見える範囲”も限定されます。現在のよ
うに、テレビやインターネットを活用して地球の裏
側までリアルタイムで見えるわけがありません。

こうして、手当たり次第に歴史書をあさっている間
に、まさに、「史実は1つ」なのですが、「歴史は
物語」であり、「100人おれば100の歴史があ
る」ことを実感してしまいました。

▼「歴史」とは

世の中には、日本の歴史とか世界の歴史、あるいは
特定の歴史に焦点を当てた書籍に加え、単に「歴史
」と冠する書物で溢れています。「歴史の教訓」「
歴史とはなにか」「歴史の愉しみ方」「歴史戦」「
かくて歴史は始まる」「歴史の終わり」などその内
容もさまざまです。

これらのうち有名な書籍はほとんど目を通しました
が、これらは、それぞれの著者が学び、感知した「
歴史」を要約したものが多く、一般の読者がそれぞ
れの著者が感知し得た“世界”を理解するのはなか
なか難しいことが分かります。

本メルマガにおいても、高名な著者の名前にまかせ、
なぜこの境地に到達したかについて消化不良のま
ま引用させていただいた部分がたくさんあります。
その良し悪しは別にして、一つの見方として参考に
なるからです。

さて、本メルマガ自体も私が造り上げた「歴史」に
過ぎないのですが、私の場合は、世界史と日本史の
“横串”、つまり同じ時に生起した両サイドの「歴
史」の関連性を重視するとともに、これまで発表さ
れているさまざまな「歴史」に逆らい、いつも“歴
史の裏側をみる”ような視座を意識して振り返って
おりました。その結果、これまでとは少し違った「
歴史」が見えてきたと自負しております。

そして、池間哲郎氏のいう「歴史は人格教育だ」と
視点について、自分で言うのは気恥ずかしいですが、
確かに、「歴史」を学ぶことによって、他の人の
「歴史」に寛容になっている自分を発見しました。

「自分自身が成長できた」「自分に自信が持てるよ
うになった」ということを実感し、だからこそ、改
めて「日本人よ、特に若者よ、歴史を学ぼう」と今
こそ声を大にして訴えたいと思うのです。

▼我が国の歴史を俯瞰する

 本メルマガの狙いは、「我が国の歴史」、中でも
「我が国の『国防』の変遷」をメインテーマに、我
が国と西欧列国や周辺国との関係を中心に振り返り、
探り、史実をあぶり出し、「なぜ我が国が江戸、
明治、大正時代を経て激動の昭和時代を経験せざる
を得なかったのか」を探求すること、そしてこの「
歴史」から教訓や課題を学び、その延長で「現在そ
して未来はどうあるべきか」などを考えることにあ
りました。

 ここで我が国の歴史をざっと俯瞰しますと、西欧
人が我が国周辺に出没し始めた16世紀以降の我が
国の歴史は、“割と静かに時が流れる”「静」と“
変化の激しい”「動」が交互に繰り返しているよう
に見えるのです。

まず、戦国時代は国内が混乱し、その末期には西欧
人の到来があるなど「動」、鎖国の江戸時代は「静」、
幕末から明治維新、そして日清・日露戦争を含む明
治時代は「動」、大正時代は再び「静」、そして昭
和の前半は再び「動」、昭和の後半以降現在までは
再び「静」です。

 知る限りにおいて、我が国の歴史をこのように俯
瞰している人を見たことがありません。私は歴史家
ではなく、歴史の研究者としては素人なるがゆえに、
このような乱暴な見方ができるのだと思います。

「歴史」を研究する立場からすると、「静」の時代
の研究は確かにおもしろくありません。“動き”が
少ないので研究材料が乏しいのです。本文で大正時
代の歴史書がないことを指摘しましたが、私個人に
とりましても、昭和後期以降、つまり戦後の歴史の
中には“わくわくするようなテーマ”を見つけるこ
とが今なおできません。

 他方、我が国の歴史は、過去に2度の「静」の時
代に、来るべき「動」に備えた国家の態勢整備を怠
ったがために、国家の命運を根本から変えるような
「動」の時代を迎えることになったと思えてならな
いのです。

鎖国によって“太平の世”をむさぼるあまり、市民
革命や産業革命など国際社会の大きなうねりに取り
残された江戸時代、そして日清・日露戦争の勝利と
大正デモクラシーに酔いしれて、西欧諸国の近代化
や共産主義の拡大などに追随できなかった大正時代
はその典型ではないでしょうか。

そして、「歴史は繰り返す」との古事に倣えば、こ
のまま未来永劫に「静」が続くことはない、いつか
再び「動」の時代が来ることを覚悟する必要がある
と思うのです。

「静」の時代は、国家としては安泰であり、戦争の
心配なく平和を享受できることは理想の時代である
ことは言うまでもありません。

米国人戦略家のエドワード・ルトワックは『戦争に
チャンスを与えよ』と一見、物騒なタイトルの書物
の中で、2つの説を唱えています。まず、「戦争は
平和につながる」であります。その理由は、これま
での人類の歴史を観れば一目瞭然でありますが、「
戦えば戦うほど人々は疲弊し、人材や資金が底をつ
き、勝利の希望は失われ、人々が野望を失うことに
よって、戦争は平和につながる」としています。

そして「平和は戦争のつながる」ことも忘れてなら
ないと警鐘しています。その理由について、「平和
は、脅威に対して不注意で緩んだ態度を人々にもた
らし、脅威が増大しても、それを無視する方向に関
心を向けさせる」とし、「『まあ大丈夫だろう』が
戦争を招く」との有名なフレーズを掲げています。

我が国においては、戦後、「脅威」という言葉自体
の使用が憚(はばか)られるほど、いわゆる“平和
ボケ”が長く続いています。当然、“明日にでも戦
争が起こる”などという気はさらさらないですが、
1日も長く、この国家の安寧を続けるためにも、ル
トワックの警鐘のような事態に陥ることを厳に戒め
つつ、効果的に「備える」ために最善の“知恵”を
絞る必要があると考えます。

▼歴史から学ぶ4つの知恵(前段)

さて、「あとがき」のメインテーマである「歴史か
ら何を学ぶか」に話題を移しましょう。前述の“知
恵”の根源こそは歴史にあるのではないでしょうか。
私たちは、これまでの歴史からさまざまなことを
学び、未来に活かすことが必要不可欠です。ここで
は、特に「国防」の観点に絞り、歴史から学ぶ“知
恵”を考えてみたいと思います。

まず第1には、「孤立しないこと」です。戦前の日
本は、地球の反対側のドイツやイタリアと同盟を結
びましたが、利害が対立した米国や周辺国と同盟関
係を築くことができず、ついには国際社会で孤立し、
破滅の原因となりました。

我が国は現在、かつての敵国・米国と「日米同盟」、
つまり運命共同体の関係にあります。これを容認
する考えは、「日本の開花」を「軽薄」「虚偽」「
上滑り」としながらも、「事実止むを得ない、涙を
呑んで上滑りを滑って行かなければならない」とし
た夏目漱石の葛藤に似た感情がないわけではないで
すが、現下の情勢から、国家として生存するための
“最善の選択枝”であることに議論の余地がありま
せん。

現役時代に、たびたび米軍人と議論する機会があり
ました。日米同盟は“非対称・不平等”ではありま
すが、「日米双方の国益のために最も重要な同盟」
との認識が揺らぐことは一度もありませんでした。

その上で、民主主義や基本的人権などの基本的価値
観を共有する国々との関係強化は必須でしょう。最
近、我が国が主導的に提唱してきた「自由で開かれ
たインド太平洋」構想がようやく現実のものとなっ
ているのは喜ばしいことと考えます。

さらに、我が国が日米に加え、オーストラリア、イ
ンドの4か国による“軍事同盟”のような関係まで
踏み出すには、憲法上の制約などを乗り越える壁が
ありますが、この同盟を強化して、(あからさまに
誇張する必要はありませんが)対中包囲網を形成す
ることが、中国による力づくの“現状変更路線”に
対抗する最も有効な手段と考えます。

日露戦争から第1次世界大戦まで、我が国は強固な
「日英同盟」に支えられておりました。大戦後の「
四か国条約」(日米英仏)によって、我が国は「日
英同盟」を破棄することになりました。確かに米国
の陰謀もありましたが、破棄に至った原因は我が国
側の“落ち度”もかなりありました(本文でもとり
あげました)。

このように、孤立化を回避し、関係国と同盟を結ぶ
ということは、相当の“覚悟”が必要であることを
歴史は物語っています。

逆に、前回も指摘しましたが、孤立化を恐れる中国
がこれら4か国に割って入ろうとする“目に見えぬ
侵略”はますます活発になるでしょう。特に隣国に
あり、さまざまなチャンネルを持つ我が国は最大限
の警戒が必要なことは言うまでもなく、この面でも
“覚悟”が必要なのだと思いますが、我が国の政府
や国民にそれらの“覚悟”があるかどうかが正念場
であると私は思います。

残りの3つの知恵については、次回取り上げること
にしましょう。



(以下次号)


(むなかた・ひさお)



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【著者紹介】

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学
校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロ
ラド大学航空宇宙工学修士課程卒。
陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕
僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、
第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て
2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。
2018年4月より至誠館大学非常勤講師。『正論』
などに投稿多数。


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心から感謝しています。ありがとうございました。


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おきらく軍事研究会
(代表・エンリケ航海王子)
 
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