配信日時 2020/10/13 10:23

【本の紹介】『海洋戦略入門』

こんにちは、エンリケです。

「目の前にある仕事」以外のことには口をつぐむ。

これは海軍の体質で、すべての現代海軍が抱え
る問題を示しているとされます。

その体質をブレイクスルーするため、
米海軍では、戦略的な優位を成し遂げる行動指針を
明らかにし、話し合うための「共通の基準」(大局
観と語彙)を必要としているそうです。


今の若手士官は、自分の公私の振る舞いがもたらす
戦略効果を無視して生きることはもはやできません


いまや海軍若手士官は、

自分の関わる「戦術レベル」の動きが作戦レベルに
どう貢献するのか?
戦略レベルの目的に合致しているのか?

について早く意識することが望ましい時代です。

また、こういった意識を持たず、戦略レベルの理解
が不十分なままだと、「戦略レベルに貢献しない作
戦」を立ててしまう可能性が高くなります。

これが、海軍初級士官、官僚、学生を対象に記され
た、マハン、コーベットなどの大家による議論を中
心に、海洋戦略を総合的に学べるこの本の生まれた
背景です。

なぜプロの海軍軍人に、海洋戦略の入門書が必要な
のか?という問いへの答えです。

ちなみに海洋戦略の世界では、マハンとコーベット
を超える理論家はいまだ登場していないそうです。

ここまで海軍の話として書いてきましたが、
大きく見ると一般人も同じではないの?と思った方
は、私だけではないはずです。

海洋戦略の見取り図を提供してくれるこの本は、

海の地政学とは?
海洋国家とは?
シーパワーとは?

という海洋国家としての根幹の疑問が生まれたとき、
まず最初に読むべき本です。

というのは、

いまの国際情勢は、海を舞台に展開されており、
海洋戦略の基本を学ぶ必要はすべての方に求められ
るからです。海洋戦略の理解は、いま生きる我々の
共通言語だからです。

学校を出たばかりの海軍初級士官、学生、官僚、ビ
ジネスマン向けに簡潔・凝縮・簡明に書かれたこの
本は、その目的にぴったり合っています。


地球表面の7割は水です。
8割の人々は水辺で暮らしており、交易の9割は海
上輸送されています。

わが国は、国益がシーレーン、漁場、海底の天然資
源採掘など、の安全に依存している島国です。
わが軍事戦略の大半を占めるのは海洋戦略であり、
わが自衛隊が戦略的競争を展開する場のほとんどは、
本質的に海洋的な場所です。

そのうえいまの国際情勢は、海を舞台に展開されて
います。

ですから、すべての軍人は海洋戦略の基本を学
ぶ必要があります。海洋戦略の理解は、三軍が
統合作戦で共に戦うための共通言語だからです。


海上における統合・共同作戦を円滑に動かして力を
発揮するための潤滑油が本著といってよいかもしれ
ません。

重要なポイントとして海洋戦略、シーパワー、港湾・
海軍基地、心の地図があります。


海洋戦略

海洋戦略とは、アクセスについての術(アート)と
科学(サイエンス)であるとされます。

その目的は遠方の地域で流通と消費を可能とするこ
とにあり、交易と通商は海洋戦略の鼓動する心臓と
いわれ、通商のためのアクセスが至上の命題となり
ます。

地上・航空戦略と違うのは、「平戦時ともに機能す
る」という点です。

キーワードは「資源・輸送・情報・支配」です。

しかし我が国の人々は、どういうわけか「海に無知」
で、こういうことに目を向けません。
そもそも、あまりに海が身近すぎて「海とは何か?」
を考えたことがないからかもしれません。

そのけっか、

「海の区分」「領海・接続水域・EEZ・公海」
「海洋は海洋公共財のまま」「国連海洋法条約」
「公海航行の自由は分割できない」「北極海航路が
持つ意味合い」

といった海をめぐる感覚を知らずわきまえていない
から、いま「公共財としての海洋が縮小する動きが
出てきている」という最大の問題が起き始めている
ことに理解が至っていないように思われます。



シーパワー

「シーパワーとは、「生産」「海軍及び商船隊」及
び「市場(植民地)」の3つの連鎖である」(A・S・
マハン)

シーパワーは「生産(通商、産業)」「海軍と商船
隊(艦船、海運)」「海外市場(港湾・基地)」を
総合する連鎖の循環のことをいいます。

海軍はシーパワーの一部に過ぎません。

シーパワーの生みの親マハンは、「シーパワーは国
家の活力の根元」ともいっています。
真の海洋大国は、シーパワーの連鎖を構成する3つ
の要素のすべてを自ら賄います。

シーパワーは「通商」「艦船」「港湾・基地」の三
要素の掛け算としても表現され、どこかの要素をお
ろそかにすると国家の繁栄を危うくするという点で
非常に重要です。いずれかの要素が0になると、シ
ーパワーは0になってしまうのです。

シーパワーは「公海へのアクセスの利便性」「喫水
が深い港の数・場所に恵まれる」「海岸線の長さ」
といった「不変の自然条件」が基盤となっています、

ちなみに現代は「地上に基盤を置いたシーパワーの
時代」であり、戦闘艦隊、海軍の独壇場ではなくな
っています。

シーパワーの力を決めるのは「その国のビジネスに
対する姿勢」であり、シーパワーと通商(ビジネス)
は不可分一体と言えます。そのため「商業を軽蔑
する社会」はシーパワーに対する「国民的資質」を
ほとんど示しませんでした。

シーパワーを動かし続けるには、国民啓蒙を含めた
賢明な国政運営が必要だ、ということなんですね。

この面で考えると、どうもわが国には「金儲けを卑
しむ「ビジネス、商業蔑視」」の感覚が強く、これ
が、海国であるにもかかわらず、海洋戦略やシーパ
ワーへの視座をあまり感じない理由かもしれません。

わが国がなぜ、地上国境を抱える国と同じような戦
略発想しかできないのか?
少なくとも、林子平が「六無斎」にならざるを得な
かった江戸時代からは続いている問題のように見え
ます。いや、水軍=海賊ともいうべき発想が生まれ
てくる背景を考えると、もっと昔からでしょうか。

非常に根が深い問題かもしれません。
深く知ってみたいですね。


本著では「自由主義政体」と「専制主義的政体」で、
シーパワーの建造管理にどのような違いがみられる
か?というテーマも取り上げられており、興味深い
結果を提示してます。

けっきょくのところ、
通商や海上戦に対する海洋国家の政策は、海軍を設
計して建造・維持するには特別な産業が必要といっ
た面や、海運事業に人々を集めるという点でも社会
に広く大きなインパクトを与えるわけです。

政府が防衛に金を出さないのは16世紀のむかしか
ら同じようですが、国がシーパワーに必要な資源を
注げない原因は「その国の文化」にあり、国民の性
格を刷新することが緊急の事業なのかもしれません。

なおこのテーマは、わが国だけでなく、現代の米を
はじめとする主要国が、海洋事業に向けた国民の気
風を保つことができるか?という大きな問いとして
成り立ちます。


港湾・海軍基地

港湾は、本国の生産者と海外市場に商品を運ぶ運送
業者の接点であり、海外の販売者と本国の購入者の
接点でもあります。

港湾はそれだけで生産と消費の原動力となり、「ア
クセス」という価値を生みます。港湾の数、能力、
能率は、生産、流通、消費の有用な測定基準となっ
ており、港湾とそれに連なるサプライチェーンは、
海外市場における商品需要を満たすうえで極めて重
要な存在です。

ただ、港湾を作ることはそう簡単なことではありま
せん。
また、孤立は港湾の価値を低下させる要因となるこ
とに注意が必要です。

なお海軍根拠地が持つ軍事的戦略的な価値は、
「地理的位置」「防御力」「資源」「海軍基地」か
ら成り立っています。
なかでも、社会・政治的な機能不全は海軍基地の「
場所の価値」を低下、もしくは完全に無効にするこ
とを忘れないようにしたいですね。


心の地図

オバマ政権時のクリントン国務長官はメルカトル図
法で惑わされた。というケーススタディに代表され
る「地図による認知のゆがみ」は非常に重要な視点
ですが、あまり深く掘り下げた話を聞きません。
心の地図が人によって違うことや、国家の文化の一
部を構成している面があるからかもしれません。

地上の常識と海の常識は違っており、これが、海洋
戦略と地上・航空戦略の違いを生んでいます。
では何が違うのか?について著者は、「心の地図に
よる誤解」と表現し解説しています。

海と陸はまったく違う特性を持つ別個の領域として
扱う必要があります。
陸の兵士が山や丘、隘路や高所といった視点から考
え、パイロットや潜水艦乗りは三次元で考える、な
ど、発想の根元から異なるんですよね。

地理的環境に精通することが、競合を前提とする各
種事業計画を成功させる必要条件であることは確か
なようです。

個人的に響いたのは、「制海をめぐる戦い」で取り
上げられていた以下の点でした。

・より強力な側のオプションと自らの劣勢を克服せ
ねばならない側のオプションの違いとは?

・キーワードとなる「防勢」は、急場をしのぐ方法
・防勢の強さと本質は「反撃」にある。



今日ご紹介している本は、


『海洋戦略入門』

著者 :ジェームズ・ホームズ 平山茂敏 訳
出版年月日:2020/09/10
ISBN  9784829507971
判型・ページ数  四六判268ページ
定価  本体2,500円+税

http://okigunnji.com/url/97/



でした。

明日も続きます。


エンリケ


追伸

石原さんの「漫画 マハンと海軍戦略」と合わせて
読むと面白いです。
http://okigunnji.com/url/98/




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