こんにちは、エンリケです。
「ハイブリッド戦争の時代」の九回目です。
アゼルバイジャンとアルメニアの戦争は、
大戦につながるのでは?との懸念がありましたが、
今回の記事を読み、胸をなでおろしました。
それにしても
<NATO域外で起きた紛争に関連する歴史認識問
題を利用し、NATO域内の一体感をそぎ落とすと
いうロシアのオペレーション>
とのご指摘には、わが国もよくよく考えなきゃ
いけないことが含まれていると感じさせられ
ました。
さっそくどうぞ
エンリケ
ご意見・ご感想はコチラから
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新シリーズ!
ハイブリッド戦争の時代(9)
緊急報告:「ハイブリッド戦争」からみるアゼルバ
イジャン・アルメニア戦争
志田淳二郎(国際政治学者)
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□はじめに
皆さん、こんばんは。前回のメルマガでは、バル
カンの小国マケドニアについて学んでおりますが、
いま、旧ソ連地域で戦争が発生していますね。アゼ
ルバイジャン・アルメニア戦争です。
そのため、今回のメルマガは、マケドニアにおけ
る「ハイブリッド戦争」(後編)を次回にまわし、
その代わりに、緊急報告として、「ハイブリッド戦
争」の視点から、アゼルバイジャン・アルメニア戦
争を考えてみたいと思います。
□お知らせ
前回のメルマガでも皆さんに告知しましたが、改
めて以下を、告知させてください。10月17日に
クラウセヴィッツ学会の研究大会が開催されます。
同日の16:30~18:00まで、シンポジウム「国際政治
と戦略」があり、私は「『ハイブリッド戦争』の脅
威と国際秩序」のタイトルで登壇いたします。
シンポジウムには、日本の著名な地政学研究家も参
加します。すべてのプログラムは、Zoomでの開催と
なり、一般参加も可能ですので、もしご興味がある
方がいらっしゃいましたら、以下のURLから、参加
申し込みをしていただけますと幸いです。
http://www.clausewitz-jp.com/
それでは、アゼルバイジャン・アルメニア戦争に
ついて考えていきましょう。
▼「失地奪還」―アゼルバイジャン側の動機(1)
2020年9月27日、アルメニアが実効支配す
るナゴルノ・カラバフ自治州をめぐって、アゼルバ
イジャンとアルメニアが武力衝突を起こしました。
現在にいたるまで、停戦の目途は立たず、1994
年の停戦以降、最大規模の衝突となっています。
さまざまな情報が飛び交い、「先に攻撃してきた
のは、あいつらだ」とお互い主張しているので、ど
ちらが先に攻撃をしかけたかは、はっきりとは分か
りません。
ですが、今回の武力衝突には、いくつかの原因があ
ります。なお、以下の項目では、アゼルバイジャン
側の動機についての解説が多くなっていますが、こ
のことは、必ずしも、今回の武力衝突の引き金を引
いたのは、アゼルバイジャンだと私が断定している
わけではありません。この点を、あらかじめ、お断
りしておきます。
もともと、アメリカ外交史研究から研究をスター
トした身としては、開戦決定過程の解明については、
後世の歴史家にゆだねたいと思います。
きっかけは、ソ連崩壊でした。1988年、当時
のアゼルバイジャン共和国領内に合ったナゴルノ・
カラバフ自治州では、多数派のアルメニア人住民が
隣のアルメニア共和国への編入を要求、その後、武
力衝突にまで発展し、1994年の停戦により、ア
ルメニア人勢力が実効支配する現在のナゴルノ・カ
ラバフ自治州が出来上がりました。アゼルバイジャ
ンにとって、ナゴルノ・カラバフは「失地」なので
あり、現在にいたるまで、ずっと、「失地奪還」を
目指してきました。
▼「歴史の復活」―アゼルバイジャン側の動機(2)
そんななか、冷戦が終わり、イデオロギー対立が
消滅し、グローバリゼーションが進み、「地球は1
つ!」のような楽観論が1990年代に盛り上がり
ました。ところが、行き過ぎたグローバリズムやリ
ベラリズムの反動として、世界各地で、ナショナリ
ズムや「歴史」が「復活」しています。
このことは、これまでのメルマガでみてきたよう
に、ロシアが、現地の反欧米的なスラブ・ナショナ
リズムや「歴史」をたきつける形で「ハイブリッド
戦争」を遂行することによって、NATO東方拡大
を阻止しようとしたウクライナ、モンテネグロ、マ
ケドニアの事例からも分かりますね。
アゼルバイジャンの隣にも、「歴史」を復活させ
ている「強いリーダー」がいます。そうです、トル
コのエルドアン大統領です。
近年、エルドアン大統領は、イスラム主義をベー
スに、「オスマン帝国」の栄光を取り戻そうとする
「オスマン主義」の下、対内・対外政策を展開して
います。今年の夏に、世界遺産で有名なアヤ・ソフ
ィア聖堂を「モスク化」したことも、話題になりま
したね。対外的には、「兄弟民族」である「トルコ
系アゼリ人」の国アゼルバイジャンと軍事面で協力
をしています。
今回の武力衝突をめぐって、「トルコが派遣した
シリア人傭兵部隊が現地入りした」「トルコ軍機が
アルメニア軍を攻撃している」という情報が錯綜し
ていますが、なぜ、「トルコ」かというと、こうし
た「歴史の復活」が背景にあるのです。トルコ側は、
「アルメニアがナゴルノ・カラバフから撤退しな
い限り、停戦は認められない」と発言している背景
にも、トルコ・ナショナリズムの影響が強く働いて
いることがわかります。おそらく、トルコとしては、
アゼルバイジャンの「失地奪還」に一役買い、ト
ルコの勢力圏にアゼルバイジャンを置きたいのでし
ょう。
▼「紛争の現地化」シナリオ
もう一方の当事者アルメニアは、ロシア主導の軍
事同盟システムCSTO(集団安全保障条約機構)
に加盟しています。アルメニアは、ロシアの同盟国
なのです。CSTO加盟国が攻撃を受けると、他の
加盟国は軍事援助を含むあらゆる支援を提供する義
務を有しています。
アゼルバイジャンにトルコ軍が加担しているとす
れば、ナゴルノ・カラバフ自治州をめぐって、ロシ
ア軍とトルコ軍が武力衝突する可能性も否定はでき
ません。トルコはNATO(北大西洋条約機構)加
盟国ですから、トルコ軍が戦闘に巻き込まれれば、
北大西洋条約第5条に基づき、NATO軍(つまり
はアメリカ軍)も関与するかもしれません。
となると「第三次世界大戦勃発?!」となりそう
ですが、現実には、そこまでエスカレートしないと
私は考えています。CSTOとNATOの間の武力
衝突に発展するという、そんな危険は冒したくない。
ロシアもトルコも、それは分かっている。
そのため、ナゴルノ・カラバフ自治州をめぐる戦
争は、あくまでも主体はアゼルバイジャンとアルメ
ニア、そしてトルコとロシアは、航空支援、傭兵の
派遣、最新兵器や防空システムの供与などの形で関
与し、軍と軍の衝突を回避することになるでしょう。
このような「紛争の現地化」シナリオは、大国の
間に挟まれた小国にとっては悪夢です。しかし、現
実は、パワーポリティクスで動いているのです。今
回のナゴルノ・カラバフ自治州をめぐる武力衝突が、
どのような形で収束に向かうか、日本としても注
視したいところです。
▼「ハイブリッド戦争」論へのインパクト
今回の武力衝突では、お互いの軍が正面切って衝
突しているので、「ハイブリッド戦争」とカテゴラ
イズすることは難しいですが、それでも、今回の武
力衝突には、ロシアの視点に立てば「ハイブリッド」
論を西側諸国にしかける格好の材料を与えたと私
は考えています。
それは、ずばり、NATO加盟国であるフランス
とトルコの間の関係悪化です。
トルコはオスマン帝国時代に「アルメニア人大虐
殺」をしたとしてアルメニアから非難されています。
トルコは、これを受け入れておらず、歴史認識問
題をめぐって、トルコとアルメニアは、もともと、
関係が悪い。
「アルメニア人大虐殺」でアルメニア側に立ってい
るのが、フランスです。フランスのマクロン大統領
は、2017年の大統領選挙での公約で「4月24
日をアルメニア人ジェノサイド記念日」にするとの
公約をかかげ、2019年にこれを達成しました。
フランスに住むアルメニア人コミュニティーを取り
込みたいマクロンの政治的思惑があります。
NATOの一体感を内部からそぎ落として、西側
を動揺させたいロシアにとってみれば、「アルメニ
ア人ジェノサイド」という歴史認識問題を、サイバ
ー攻撃やプロパガンダなどで焚きつけ、トルコとフ
ランスの関係を悪化させるだけで、この目標は達成
できます。以前のメルマガで紹介したロシア軍のゲ
ラシモフ参謀総長が言うところの「敵国内部に継続
的に作用する前線」を、「アルメニア人ジェノサイ
ド」というカードで作り出せば、NATO加盟国ど
うしが勝手にケンカをしてくれるわけです。
NATO域外で起きた紛争に関連する歴史認識問
題を利用し、NATO域内の一体感をそぎ落とすと
いうロシアのオペレーションが、これから、実際に
発生すれば、「ハイブリッド戦争」研究にも、大き
なインパクトを与えるのではないか、と私は考えて
います。
(つづく)
(しだ・じゅんじろう)
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【著者紹介】
志田淳二郎(しだ・じゅんじろう)
国際政治学者。中央ヨーロッパ大学(ハンガリー・
ブダペスト)政治学部修士課程修了、M.A. in
Political Science with Merit、中央大学大学院法
学研究科博士後期課程修了、博士(政治学)。中央
大学法学部助教、笹川平和財団米国(ワシントンD.C.)
客員準研究員等を経て、現在、東京福祉大学留学生
教育センター特任講師、拓殖大学大学院国際協力学
研究科非常勤講師。主著に『米国の冷戦終結外交―
ジョージ・H・W・ブッシュ政権とドイツ統一』(有信堂、
2020年)。研究論文に「クリミア併合後の『ハイブリッド戦
争』の展開―モンテネグロ、マケドニア、ハンガリーの諸事
例を手がかりに」『国際安全保障』第47巻、第4号(2020
年3月)21-35頁。「アメリカのウクライナ政策史―底流す
る『ロシア要因』」『海外事情』第67巻、第1号(2019年
1月)144-158頁ほか多数。
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