こんにちは、エンリケです。
「戦略航空偵察」三十六回目です。
きょうでこの連載は終わりです。
普通に暮らしていたら知る機会のなかった
貴重なお話を聞かせていただいた西山さんに
心から感謝申し上げます。ありがとうござい
ました!
技術の進歩に伴い、有人偵察機の時代は終わったと
思い込んでいましたが、現実はそうでもない。
かってに「時代遅れ」「使えない」とレッテルを
貼らず、業界の歴史、技術や各種情報にアンテナ
を張り、現実にフィードバックさせ続けることが
大事。
ということを学ばせていただきました。
最終回の内容は以下のとおりです
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□ご挨拶
▼航空偵察は偵察衛星、無人機(UAV)に代替さ
れるだろうか?
▼我が国の偵察機の状況
▼偵察飛行は、国の戦略を映す鏡
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さっそくどうぞ
エンリケ
、
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戦略航空偵察(最終回)
偵察飛行は国の戦略を映す鏡
西山邦夫(元空将補)
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□ご挨拶
今回でメルマガ戦略航空偵察を終了します。9か
月間にわたってお読みいただき、心から感謝します。
前回まで冷戦期の航空偵察について書いてまいり
ましたが、これに冷戦終結から現在までの航空偵察
の状況を加えて、近く刊行予定の書籍『戦略航空偵
察史』に記述しました。この本には関連する写真や
航跡図など、さらに詳細な内容にしています。
最近の米中対立の激化で、日本周辺の航空偵察の状
況は大きく変化しています。周辺各国の偵察活動は、
それぞれの戦略的な意図が如実に表れていると感
じられます。これらの状況の分析もこの本に載せて
いますので、読んでいただければ幸いです。刊行日
など詳細が決まりましたら、あらためてお知らせし
たいと思います。
▼航空偵察は偵察衛星、無人機(UAV)に代替さ
れるだろうか?
偵察衛星、無人航空機(UAV)に搭載される偵
察用のセンサーは多様化し、かつ精密化して有人偵
察機が持つセンサーとほぼ同じレベルまで進歩して
います。偵察衛星は計画した軌道要素により地球を
周回し、ほぼ地球全域の情報収集が可能ですし、U
AVは、GPSなどを利用した精密な航法により、
計画したルートを経由して目標を正確に捉えること
ができます。
偵察衛星とUAVは、無人であるため搭乗員の損
失を考える必要がなく、その利点は多少のリスクが
ある任務にも使えるところにあります。偵察衛星と
UAVを適切に組み合わせて運用すれば、有人の偵
察機は無用になるのでは、という主張が出てきても
不思議ではありません。現に米議会ではU-2を引
退させ、グローバルホークに代替させる案を出して
います。
しかしながら、偵察衛星やUAVでは収集が困難な
対象があることも事実です。たとえば、偵察衛星が
上空を通過中は、見せたくないものは隠し、電波の
発射は行なわない、UAVに対しては火器管制レー
ダーの照射は行なわないなどの対策により、有事に
使用する電波を発射せず、電波の諸元を隠す手段を
講ずるからです。
これに対して、有人偵察機が接近してきた場合には
地上、あるいは艦艇の捜索レーダーを使用して対象
機の動向を監視する必要があり、状況によっては戦
闘機をスクランブルさせて対処しなければならなり
ません。スクランブルした戦闘機も自機のレーダー
で目標を捜索し、あるいは地上の捜索レーダーサイ
トと交信するなど、電波発射を強制され、防空態勢
に関するSIGINT情報を収集されてしまいます。
場合によっては、偵察機側が特異な飛行を行なって
相手側を刺激し、防空側が有事にしか使わない電波
の発射を誘うなどの行動をとることも過去にありま
した。偵察機は相手側の情報を収集しようとさまざ
まな手法を駆使し、有事に役立つ相手側の電波状況
を収集しようとしますし、偵察される側は偵察機の
活動を監視し、場合によっては妨害するなど、情報
の秘匿に努めます。これらの攻防の間に、有人偵察
機はUAVでは収集できない情報を収集する機会を
作るのです。
ここで、偵察機を運用している国の状況を見れば、
有人偵察機の将来を考察する一助となるでしょう。
以下、米国、ロシア、中国の3か国の状況を見るこ
とにします。
(1)米国
現在運用中のU-2については、ロッキード・マー
チン社がUQ-2 またはRQ-X.と呼ばれる後
継機を提案しています。一方で同社は現役のU-2
が2045年まで運用可能としています。U-2と
グローバルホークの双方を運用するSAC(戦略空
軍)は、U-2がグローバルホークより使い勝手の
良い優秀な収集アセットであるとして、運用を継続
することを望んでいます。
現役の大型偵察機で、空軍が運用するRC-135
偵察機には14種のバージョンが存在して
いましたが、現在運用されているのは次の4機種で
す。
RC-135S リベットボール/コブラボール
(弾道ミサイルの光学/電子情報収集機)
RC-135Uコンバットセント(SIGINT収集機)
RC-135V/W リベットジョイント(SIGINT収集機)
特に弾道ミサイル監視のRC-135Sは他に代替
のないものであり、北朝鮮などの弾道ミサイル発射
監視には欠かせない機種で、当面運用は継続される
でしょう。
ちなみに、英空軍は3機のRC-135Wを米空軍
から譲渡され、ニムロッドR.1の後継として20
14年から運用を開始し、有人戦略偵察機の運用を
継続する姿勢を示しています。
米海軍が運用する偵察機は、EP-3オライオンが
あり、P-3を後継するP-8ポセイドンはEP-3と同
様なSIGINT収集能力があるとされています。
EP-3と同じような哨戒・情報収集任務を実行で
きることは明らかです。
RC-135やEP-3などの大型偵察機は5~10名の専任
の情報収集員を搭乗させており、U-2やSR-71の
1~2名の乗員とは収集資料の即時処理、伝達能力
に大きな能力差があります。当然ながら運用目的や
運用形態にも差異があり、UAVでは代替できない任
務を担うことになります。米国では、このように戦
略目的の有人偵察機の活用が今後も継続する趨勢に
あります。
米陸軍はRC-12Xガードレール・コモン・セン
サー(GRCS)、 EO-5C偵察機およびサタ
ーン・アーチ偵察監視システムを搭載したボンバル
ディアdash8機を韓国内で運用しています。最
近では、Tenax Aerospace社製のC
L-600偵察機が日本周辺で活動を開始しました。
(2)ロシア
ロシアが現在運用している偵察機はTu-95D、
IL-20、IL-38、Su-24、An-12などがあり、
最近Tu-214が新たに偵察機としてロシア空軍に
加わり、注目されています。Tu-214は2011年に処女
飛行し、極東、欧州西部の国際空域で飛行する様子
が確認されています。さらにシリア内戦にも派遣さ
れるなど、次第に活動範囲を拡大しています。
日本周辺におけるロシア偵察機の活動は活発な状況
が続いており、新たな偵察機の配備も見られること
から、今後も有人偵察機による戦略偵察活動はこれ
までと同様に継続されるでしょう。
(3)中国
中国は今世紀に入ってから偵察機を数種配備し、
活発な活動を開始しました。主力をなすのが旧ソ連
のAn-12輸送機をライセンス生産したY-8型
輸送機をさまざまな用途に改修した機体です。軍用
に供されているのは、電子戦機、警戒管制機、洋上
監視機があり、対潜哨戒型が開発されているとの情
報もあります。
Y-9はY-8をベースとした中国が独自に開発し
た偵察機で、2010年に初飛行しました。この機
は2014年に東シナ海で航空自衛隊により初めて
視認され、以後の活動は、単機で東シナ海から対馬
海峡を通過して日本海で活動する事例が増えていま
す。戦略目的を持った偵察機として、2020年現
在、活発に活動しています。
ロシアから購入したTu-154旅客機は電子戦機
に改修され、2013年に東シナ海で自衛隊機に初
視認されました。その後、東シナ海から太平洋へ進
出する事例も確認されています。
中国の有人偵察機は増勢が続いており、今後新型機
の出現も予想されます。
▼我が国の偵察機の状況
航空自衛隊は、新型輸送機C-2を次期電波情報収
集機に改造したRC-2が2019年に入間基地に
配備され、最終的には同機を4機装備する計画とい
います。RC-2 は巡航速度890 km/h、
最高飛行高度12,000 m、航続距離は5,700 km、多く
の収集機器の搭載が可能であり、かつ、行動範囲は
広大です。これから運用の経験を積むことにより、
米国のRC-135と同等以上の収集成果を上げることが
期待できます。
海上自衛隊は、現在EP-3電子偵察機とOP-3
画像情報収集機の2種機種を運用していますが、こ
の後継機としてP-1哨戒機を改装する案がある他、
三菱MRJを改装する案もあるとそうです。このよう
に、我が国も新開発の偵察機を投入し、あるいはさ
らに開発を進める姿勢を示しています。有人偵察機
の時代はさらに発展していると言えましょう。
▼偵察飛行は、国の戦略を映す鏡
日本列島周辺は日本、米国、中国、ロシアの偵察機
が入り乱れて活動する地域になっており、このよう
な地域はほかに例を見ません。偵察機は、常に対象
国の情勢を把握し、国のかじ取りに役立つ情報を情
報の使用者、すなわち国の指導者に情報を提供する
役割を果たします。つまり偵察飛行の態様は、その
国の戦略を映す鏡であり、偵察機の行動パターンを
見極めることが、その国の意図を察知する大きな助
けになります。
情勢が緊迫し、軍事力行使が差し迫ってきた時、活
発な偵察活動が行なわれるのは必然です。その態様
が意図を必然的に表すことになるのです。
(おわり)
(にしやま・くにお)
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□著者略歴
西山邦夫(にしやま・くにお)
1936年生まれ。防衛大学校卒(4期・空)。
情報関係略歴:航空幕僚監部調査2課収集1班長、航
空総隊司令部情報課長、陸幕調査別室主任調整官、
航空自衛隊幹部学校主任教官。著書に『肥大化する
中国軍(空軍部分を執筆)』(晃洋書房、2012年)、
『中国をめぐる安全保障(空軍部分を執筆)』(ミ
ネルバ書房、2007年)。研究論文に『中国空軍の戦
力構成とドクトリン』『中国空軍のSu-30MKKとイン
ド空軍のSu-30MKI』『韓国空軍の増強と近代化』
『中露合同軍事演習』『中国の主要航空兵器の装備
化実績と将来予測』『中国空軍の戦力とドクトリン』
『チベットにおける中国の軍事態勢整備』など多数。
近刊として『戦略航空偵察(仮題)』。
。
PS
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