配信日時 2020/10/08 20:00

【ライター・渡邉陽子のコラム (296)】  ― 陸上自衛隊高射学校&87式自走高射機関砲(1)―

こんにちは、エンリケです。

きょうから、
「陸上自衛隊高射学校&87式自走高射機関砲」
がはじまります。

87AWの話が面白いです。

さっそくどうぞ


エンリケ

追伸
次週の配信はお休みです。


追追伸
東京五輪は一年延期されました。
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』
を読んで、来年に思いを馳せます。
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『ライター・渡邉陽子のコラム (296))
 ―陸上自衛隊高射学校&87式自走高射機関砲(1)―

         渡邉陽子
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こんばんは。渡邉陽子です。
今週から陸上自衛隊の装備品、87式自走高射機関砲、通称87AWなら
びに87AWの運用などについて学ぶ高射学校をご紹介します。月刊誌
『丸』に掲載されたものを加筆修正してお送りします。


記事掲載のお知らせです。

『PANZER』10月号に「神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱
芳文の半生」第18回が掲載されました。今回は第10師団長時代のお
話前編です。「普通科の幹部ならばいずれは」と熱望した連隊長と
同様、作戦基本部隊たる師団の長もまた憧れていた役職でした。意
気揚々と着任したものの……理想の師団に近づけるべく、大忙しの
日々が始まります。https://amzn.to/34wd0q2

『丸』9月号で陸上自衛隊中央輸送隊を紹介しています。輸送科の
総本山に当たる部隊ですが、なにをやっているか、どこにあるか、
陸自隊員でも知らない人のほうが多いようですが、「知らないうち
にお世話になっている」部隊なのです。https://amzn.to/3jQ1F9E

月刊『正論』6月号に「自衛隊あってのオリンピック」
最終回が掲載されました。https://amzn.to/3cOzOSQ



■陸上自衛隊高射学校&87式自走高射機関砲(1)

87式自走高射機関砲(以下、87AW。そのまま「はちななえーだぶ
りゅー」と呼びます)は、局地防空用の自走型近距離対空火器です。
米軍から陸自に供与されていた40mm自走高射機関砲M42、対空自走
砲M15A1の後継として1978年から開発が開始され、1987年に制式
化されました。
35mm2連装高射機関砲(L90)を装甲・自走化したもので(トラッ
クによる牽引式のL90は1967年に採用、2009年まで長らく高射特科
部隊で運用されました)、74式戦車の車体に砲システムを搭載。
開発当初は61式戦車の車体を流用する予定でしたが、電子機器が満
載された砲塔の重量が61式の車体には重すぎたため、ベース車体を
新型の74式に変更することになったという経緯があります。
捜索レーダー、追随レーダー射撃統制装置が一体となってデジタル
コンピュータと連動し、目標の発見・捕捉・発射までの過程がリア
ルタイムで計算され、動揺修正も自動的に行なわれます。これが8
7式AW(Automatic Weapon)と呼ばれるゆえんです。
また、バックアップとして搭載されているTVカメラ方式の光学照
準器や暗視装置、レーザー測遠機などにより、電波妨害環境下でも
行動が可能です。

特性としては、一車で対空戦闘が可能なこと、装甲化されているの
で第一線に近いところでの対空戦闘が可能なこと、火力と射角の広
さを生かして(約80度まで上下駆動および360度全周駆動)対地射
撃も可能なこと、一度陣地を取ったらあまり動かない対空火器の中
では機動力に優れていることなどが挙げられます。その特性を生か
し、おもに機動的に運用される部隊などの対空掩護用の火器として
使用されています。

装備している部隊は、東千歳駐屯地に所在する機甲師団、第7師団
第7高射特科連隊第1~4高射中隊(静内駐屯地に所在する第5~
6高射中隊は81式短距離地対空誘導弾、通称短SAMを装備)と、
旭川駐屯地の第2師団第2高射特科大隊第3高射中隊(第1高射中
隊は93式近距離地対空誘導弾・通称中SAM、第2高射中隊は短S
AMを装備)。ほか陸上自衛隊高射学校、高射教導隊第3高射中隊、
陸上自衛隊武器学校の各機関となっています。
つまり作戦基本部隊として見られる87AWは、北海道のみ。本州の87
AWは学校など教育機関が中心なので、一般の人が87AWを目にする機
会はなかなかありません。ですから第7師団の記念行事などで87AW
が展示されていると、ギャラリーがどっと集まり大人気です。

87AWの乗員経験者によれば、一車で対空戦闘が可能とあって単独
で行動することも少なくないけれど、その際の長は幹部自衛官では
なく砲班長(車長に当たる)陸曹のため、陸曹にとっては指揮を取
り対空戦闘できるという点がやりがいにもつながるそうです。
その一方で、単独で動くということは、自分の身は自分で守らなけ
ればならないということでもあります。
無線でのやり取りなどはあるものの、物理的に敵に近い場所で敵の
情報を把握しつつ、自分たちもまた狙われる存在であるということ
を念頭に置いていなければならない点に、87AWの難しさがあると
いいます。
また、調達から30年ほど経つ車両もあり、その分おのずと故障も出
てきていますが、修理のための部品が納品される頻度も少なく、現
場では苦労してやりくりしているそう。

諸元・性能もご紹介します。
愛称 スカイシューター(ぜんぜん浸透しないネーミングでした。
一般には非公式の愛称「ガンタンク」「87AW」のほうがはるかに
よく知られています。ガンタンクは言わずもがな、機動戦士ガンダ
ムファーストシーズンに登場したガンタンクと見た目が似ているか
ら)
乗員 3名
全備重量 約38t
全長 7.99m
全幅 3.18m
全高 4.4m(起立)
速度 約53km/h
エンジン 三菱10ZF22WT 空冷二サイクルV型10気筒 
ディーゼル機関
出力 720ps/2200rpm
武装 90口径35mm(エリコンKDA)高射機関砲×2
開発 防衛庁技術研究本部(現:防衛装備庁)
製作 車体:三菱重工業 砲塔:日本製鋼所 射撃統制装置:三菱
電機
航続距離 約300km



(つづく)



(わたなべ・ようこ)


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□著者略歴

渡邉陽子(わたなべ・ようこ)
神奈川県出身。大学卒業後、IT企業、編集プロダクション勤
務を経て2001年よりフリーランス。2003年から月刊
『セキュリタリアン』『MAMOR』などに寄稿。
現在は自衛隊関連の情報誌などで記事を発表。メルマガ「軍事
情報」で自衛隊関連の記事を配信中。
 
2016年6月、デビュー作
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』を刊行。


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