こんにちは、エンリケです。
「ハイブリッド戦争の時代」の八回目です。
今そこで行われている
「ハイブリッド戦争」
の姿が生々しく迫ってきます。
他山の石としなければいけませんね。
小国が世界で生き延びている現実、を対岸の火事と
してみることなく、我がケーススタディとして、
深く広く応用を利かせて研究しなきゃいけませんね。
さて志田さんから直接話を聞ける機会があります。
詳しくは以下でどうぞ。
さっそくどうぞ
エンリケ
ご意見・ご感想はコチラから
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新シリーズ!
ハイブリッド戦争の時代(7)
北マケドニアにおける「ハイブリッド戦争」(中編)
志田淳二郎(国際政治学者)
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□はじめに
こんばんは。前回のメルマガから、バルカンの小
国北マケドニアでの「ハイブリッド戦争」について
学びはじめました。ところで、アメリカの大統領選
挙戦が、終盤にさしかかってきましたね。
アメリカ大統領選の結果が、日本に直接影響がある
のと同じように、このメルマガでお伝えしているバ
ルカンの小国モンテネグロや北マケドニアも、NATO
を通じたアメリカの同盟国です。
小国の命運は、大国アメリカの行方にかかってい
ると言っても過言ではありません。まさに、「世界
が注目する」アメリカの大統領選、私たちも、しっ
かりと注視したいところです。
今回のメルマガをはじめる前に、一つ、皆さんにご
案内したいことがあります。10月17日にクラウセヴ
ィッツ学会の研究大会が開催されます。
同日の16:30~18:00まで、シンポジウム「国際政治
と戦略」があり、私は「『ハイブリッド戦争』の脅
威と国際秩序」のタイトルで登壇いたします。シン
ポジウムには、日本の著名な地政学研究家も参加し
ます。すべてのプログラムは、Zoomでの開催となり、
一般参加も視聴可能ですので、もしご興味がある方
がいらっしゃいましたら、以下のURLから、参加申し
込みをしていただけますと幸いです。
http://www.clausewitz-jp.com/
それでは、前回に引き続き、北マケドニア共和国
について、学んでいきましょう。今日のメルマガで
は、いよいよ、ロシアが登場します。
▼隣国ギリシアでポピュリスト政権が誕生
2009年10月に発生したギリシア債務危機と、その
後のアレクシス・チプラス政権発足によって、マケ
ドニアのNATO加盟が進展する見込みは、さらに遠の
きました。ギリシア債務危機はヨーロッパ規模の債
務危機を誘発し、EU懐疑派のポピュリズムの躍進に
つながります。
ギリシア国内では、2010年以降、EUやIMF(国際通
貨基金)の介入により、緊縮財政改革が進められま
したが、2015年1月に、緊縮政策への不満を背景に反
緊縮を掲げるチプラス政権が発足しました。チプラ
ス政権は、急進左派連合(SYRIZA)と右派の独立ギ
リシア人(ANEL)といったEU懐疑派の左右ポピュリ
ズム政党による連立政権でした。
チプラス新政権の外交方針といえば、ほかのEU諸
国とは一線を画す対ロシア政策の継続が見込まれま
した。実は、2014年のウクライナ危機に際し、ギリ
シアはEUの対露経済制裁に反対しており、同年5月、
野党党首時代にチプラスは、モスクワを訪問し、
「ウクライナ政府がネオナチ勢力をかくまっている」
というロシアの言説に寄り添う発言をしたこともあ
ります。
これ以外にも、ギリシアは1990年代のユーゴスラビ
ア紛争での対セルビア経済制裁に反対していました
し、セルビアから分離したコソボの独立(2008年)
を承認していません。
こうした経緯から、ギリシアの親ロシア的性格は、
チプラス新政権でも変わることは見込まれず、長年
の懸案事項であるマケドニアとの国名変更論争解決
の見込みも少なかったわけです。EU懐疑派という性
格から、チプラス新政権がマケドニアのNATO、EU加
盟を阻止し続けるというのが当面の観測でした。
▼マケドニア国名変更論争の急展開
2018年3月、イギリス南部ソールズベリーでロシ
アの元スパイ、セルゲイ・スクリパルが、娘ユリア
とともに、神経剤「ノビチョク」を使用した襲撃事
件に見舞われました。イギリス政府は、逮捕した2人
のロシア人容疑者がGRU(ロシア軍参謀本部情報総局)
の工作員だと結論づけ、NATO、EU加盟国に対し、対
露制裁を課すよう呼びかけます。
西側諸国は、3月26日、自国領内のロシア人外交
官の国外追放を発表し、24か国で110人を超えるロ
シア人外交官が追放されました。マケドニアも、マ
ケドニアに駐在するロシア人外交官1人を追放し、
NATOと足並みを揃えました。ところが、ロシアとの
関係が密接なギリシアは、西側諸国によるロシア人
外交官追放措置に同調しませんでした。
しかし、ギリシアのマケドニアとロシアに対する
政策は突如として変更します。2018年6月17日、ギ
リシア政府は、マケドニア政府と、同国の正式名称
をFYROMから「北マケドニア共和国」に変更を了承
する合意――「プレスパ合意」――に達しました。
7月6日、ギリシア政府は、国名変更をめぐるマケド
ニア政府との合意に反対する国内のギリシア政府関
係者に賄賂を贈り、マケドニア国名変更論争に干渉
したとして、ギリシア駐在のロシア人外交官2人とそ
の他のロシア人2人の国外追放をロシア側に通達しま
した。
3月のロシア人元スパイ神経剤襲撃事件の際のNA
TO加盟国のロシア人外交官追放措置に同調しなかっ
ただけに、7月のギリシア政府の決定は異例の措置
だった。
元来、ギリシアの新連立政権は国名変更論争をめ
ぐり、マケドニアとの合意賛成派に傾き始めていた
チプラス率いるSYRIZAと、合意反対派で連立パート
ナーである右派ポピュリズム政党のANELの二つの陣
営に割れており、ANELの主張に沿うような報道をロ
シアの主要メディアが繰り返し流していた経緯があ
りました。
ギリシアが、隣国の正式名称として「北マケドニ
ア共和国」を認めた背景には、ギリシア国内政治へ
のロシアの干渉への嫌悪感があったのです。国名変
更論争がギリシアの譲歩という形で解決したことは、
マケドニアにとって、NATO加盟交渉の本格化が期待
されるものでした。マケドニアのゾラン・ザエフ首
相は、2018年7月のNATOブリュッセル首脳会談で、
NATO加盟後に対外直接投資額が3倍に増加したブル
ガリアの例を引き合いに出し、NATOに加盟した暁に
は、小国マケドニアの経済を発展させたい旨を述べ、
「すべての国々と友好関係を構築したい」マケドニ
アにとって、NATO加盟が「唯一の道」であると強調
しました。
▼次回予告
およそ四半世紀におよぶ隣国ギリシアとの国名変
更論争を、マケドニアは解決しました。実は、これ、
ヨーロッパのなかでは、ビッグニュースの一つでし
た。
さあ、いよいよ、2018年9月30日、マケドニアで、
国名を「北マケドニア共和国」に変更する是非を問
う国民投票が予定されました。このときに、マケド
ニアの民族主義勢力に加担し、虚偽情報を流したり、
選挙干渉をしてきたりと、ロシアが、あの手この手
でマケドニアに介入してきます。
次回のメルマガ、マケドニア最終編では、2018年
の国民投票をめぐるロシアの作戦と、その後、リー
クされたマケドニア情報機関の文書を基に、実際に、
ロシアが、バルカンの小国のNATO加盟を阻止し、
「バルカンの中立化」を、さまざまな工作活動を通
じて、目指していたことを、明らかにしたいと思い
ます。
(つづく)
(しだ・じゅんじろう)
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【著者紹介】
志田淳二郎(しだ・じゅんじろう)
国際政治学者。中央ヨーロッパ大学(ハンガリー・
ブダペスト)政治学部修士課程修了、M.A. in
Political Science with Merit、中央大学大学院法
学研究科博士後期課程修了、博士(政治学)。中央
大学法学部助教、笹川平和財団米国(ワシントンD.C.)
客員準研究員等を経て、現在、東京福祉大学留学生
教育センター特任講師、拓殖大学大学院国際協力学
研究科非常勤講師。主著に『米国の冷戦終結外交―
ジョージ・H・W・ブッシュ政権とドイツ統一』(有信堂、
2020年)。研究論文に「クリミア併合後の『ハイブリッド戦
争』の展開―モンテネグロ、マケドニア、ハンガリーの諸事
例を手がかりに」『国際安全保障』第47巻、第4号(2020
年3月)21-35頁。「アメリカのウクライナ政策史―底流す
る『ロシア要因』」『海外事情』第67巻、第1号(2019年
1月)144-158頁ほか多数。
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