こんにちは、エンリケです。
「ハイブリッド戦争の時代」の七回目です。
正直言ってまったく知らない話でした。
いやあ、面白いですねえ。
国際政治や最先端の戦争軍事、と聞くと
身構えますが、そんな気持ちを吹っ飛ばし
てくれます。
世界を知るとはこういうことを言うのでしょう。
さっそくどうぞ
エンリケ
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新シリーズ!
ハイブリッド戦争の時代(7)
北マケドニアにおける「ハイブリッド戦争」(前編)
志田淳二郎(国際政治学者)
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□はじめに
皆さん、こんばんは。前回のメルマガでは、バル
カンの小国モンテネグロにおける「ハイブリッド戦
争」について学びました。今回からのメルマガは、
バルカンの小国の事例「第2弾」です。北マケドニ
アにおける「ハイブリッド戦争」について、報告し
ていきたいと思います。
いきなりですが、「あれ、マケドニアって、『北
マケドニア』っていう名前だったっけ」と思われた
読者の方がいらっしゃるかもしれません。そうなん
です。現在、マケドニアの正式名称は「北マケドニ
ア共和国」なのです。別に、マケドニアが分裂して、
「北マケドニア」と「南マケドニア」になったわ
けではありません。
なぜ「北」なのかというと、アレクサンドロス大
王が活躍した古代のマケドニア王国は、実は、現在
のマケドニアよりも、もっと「南」、すなわち現代
のギリシア国内の地域に位置するのです。マケドニ
ア自身は、独立後、「北マケドニア」と名乗りたか
ったのですが、ギリシアにしてみれば、マケドニア
人としてのアイデンティティが強くなれば、将来、
ギリシア国内のマケドニア地域の領土割譲を要求し
てくるかもしれない、と懸念していました。
ですので、「北マケドニア」と名前が変わった「
マケドニア」は、それまでは、「マケドニア旧ユー
ゴスラビア共和国」という名称でした。……うーん、
実に複雑ですね。
さて、このマケドニア国名論争で、四半世紀にわ
たってマケドニアとギリシアは対立していたのです
が、実は、この論争に、あの国が干渉していたこと
が分かったのです。
そうです、ロシアです。
この事実が判明して以降、ギリシアとマケドニア
はあっという間に関係を正常化し、マケドニアも「
北マケドニア共和国」と名乗ることを認められ、今
年、30番目の加盟国としてNATOに入りました。
今回から学ぶ北マケドニアにおける「ハイブリッ
ド戦争」の事例は、前回のモンテネグロの事例の難
易度をレベル10のうち、レベル4だとすると、だ
いたいレベル6くらいです。結構、複雑な歴史が絡
んできます。ですので、前編、中編、後編の3回に
分けて、メルマガをお届けしたいと思います。
では、まず、現在の北マケドニア情勢からお話し
しましょう。
▼NATO・CHSTの次の派遣先?
「カウンター・ハイブリッド・サポートチーム(C
HST)は、北マケドニアにも派遣可能であり、我
々は、スコピエからの要請待ちである」。アメリカ
のケイ・ベイリー・ハッチソンNATO大使は、2
020年3月14日、オンラインによる記者会見で、こ
う述べました。
また、ハッチソン大使は、北マケドニアで、中露
発の新型コロナ・ウイルス(COVID-19)関
連のフェイクニュースが蔓延しているとし、こうし
たフェイクニュースにより、COVID-19対応
に追われる西側社会に対する不満感が煽られている
と指摘しました。
2020年上半期、中露はCOVID-19関連
の虚偽情報キャンペーンを展開していました。中国
が「権威主義的な『中国モデル』が、西側民主主義
よりもウイルスとの闘いで優れている」「COVI
D-19は武漢発祥ではない」とする宣伝に余念が
なかったことは、よく知られていますね。
ロシアも同様です。『NATOファクトシート』
(2020年4月)によると、ロシアは、(1)COV
ID-19によりNATOは崩壊する、(2)COVI
D-19と戦う同盟国の支援にNATOは失敗して
いる、(3)COVID-19はNATOが作り上げた
兵器、(4)NATOの共同軍事演習によりCOVID
-19が拡散している、(5)NATOは医療費を犠牲
にし、軍事費を増大している、といった虚偽情報を
オンライン上で拡散していました。
前回学習したモンテネグロと同様に、北マケドニ
ア共和国も、バルカン半島に位置し、面積は九州の
三分の二ほどで、人口208万人の国です。モンテ
ネグロと比べれば、大きいですが、アメリカ、イギ
リス、日本からみれば、やはり小国といえますね。
なぜ、北マケドニア共和国にも、CHSTの派遣
をめぐる議論があるのでしょうか。その理由は、北
マケドニア共和国も、実は、ロシア発の「ハイブリ
ッド戦争」に見舞われたことがあるからです。
▼独立後のマケドニアの外交方針
それでは、前回のモンテネグロと同様に、旧ユー
ゴの共和国だったマケドニアの主権国家としての歴
史を振り返ってみましょう。
ユーゴ解体後、1991年にマケドニアは独立し
ましたが、冒頭で紹介したように、隣国ギリシアと
マケドニアの国名問題を抱えていたことから、暫定
名称として、「マケドニア旧ユーゴスラビア共和国
(FYROM)」を用いることで、独立国の地位を
獲得した経緯があります。
繰り返しになりますが、「マケドニア」は本来ギ
リシア固有の地名との立場から、ギリシアは、旧ユ
ーゴの新たな共和国がこの名称を国名に用いること
を長らく快く思っていませんでした。FYROMの
暫定名称が採用されたことは、両国間で妥協が図ら
れた結果でした。マケドニアは、いずれは、「北マ
ケドニア共和国」と国名を変更することを目指して
いましたが、これにギリシアがずっと反対し続けま
した。
独立後、マケドニアはNATO加盟を外交の方針
として掲げています。マケドニアのゴツェ・デルチ
ェフ大学のストラスコ・ストヤノフスキ博士とデヤ
ン・マロロフ博士によれば、その理由として、NA
TOに加盟することで、国際的地位を獲得したいと
する政治的理由、自国の安全が保障されるという安
全保障上の理由、これらが達成されれば外国からの
積極的な投資が期待できるという経済的理由があり
ました。
1993年にマケドニア議会が将来的なNATO
加盟方針を決定し、1995年にマケドニアは、N
ATOの「平和のためのパートナーシップ」(Pf
P)加盟国となりました。
▼遠のくNATO加盟への道
2004年3月、中東欧7ヵ国(エストニア、ラ
トビア、リトアニア、スロバキア、スロベニア、ブ
ルガリア、ルーマニア)を加盟させ、冷戦後の第二
次東方拡大を行なったNATOは、同年5月のイス
タンブール首脳会談で、その門戸は引き続き開かれ
ていることを確認し、アルバニア、クロアチア、そ
してマケドニアの加盟に向けての国内改革努力の継
続を促しました。
2008年4月のNATOブカレスト首脳会談で
は、既定方針通り、クロアチアとアルバニアについ
ての正式な加盟招請が行なわれました。マケドニア
については、国名問題がギリシアとの間で解決され
れば加盟招請が行なわれることが確認されました。
2009年4月のNATO首脳会談で、新たにア
ルバニアとクロアチアがNATOに加盟しましたが、
やはり、ギリシアが反対したため、マケドニアの
NATO加盟は先送りとなりました。
▼マケドニアのNATO加盟を阻止するギリシア、
その背後にロシア!?
ここまでの議論をまとめると、マケドニアは、独
立後、ずっとNATOに入りたかった。しかし、国
名変更問題を理由に、ギリシアがずっとこれに反対
してきた。NATOの最高意思決定機関である北大
西洋理事会は、全会一致の原則ですので、ギリシア
一国でも反対すれば、マケドニアのNATO加盟は
認められることはありません。
さて、皆さん、ロシアの政治家になりきったとし
ましょう。マケドニアのNATO加盟問題は、どう
評価できますか。まずは「さらなるNATOの東方
拡大を許し、ロシア周辺の安全保障環境が悪化する
!」となりますね。
では、これを止めるためにはどうしましょうか。
NATO東方拡大を阻止するために、マケドニアを、
軍事力をもって、攻撃することはできません。で
は、どうするか。そうです。「ハイブリッド戦争」
の出番です。ロシアにしてみれば、ギリシアとマケ
ドニアが、永遠にケンカをしていれば、マケドニア
はNATOに加盟できないことになります。
こうした理由から、ロシアは、両国の国名変更論
争に、あの手この手で干渉することになります(こ
の事実が発見されたのは、つい最近のことでした)。
そんな中、ロシアにとって、好都合な条件がヨー
ロッパで発生します。リーマンショック、ギリシア
債務危機、ヨーロッパ債務危機、そしてギリシアに
おけるポピュリズム政党の誕生です。
さあ、ロシアはこうした条件をどのように利用し、
マケドニアにおける「ハイブリッド戦争」をしかけ
てくるのでしょうか。次回、メルマガを、どうぞ
お楽しみに。
(つづく)
(しだ・じゅんじろう)
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【著者紹介】
志田淳二郎(しだ・じゅんじろう)
国際政治学者。中央ヨーロッパ大学(ハンガリー・
ブダペスト)政治学部修士課程修了、M.A. in
Political Science with Merit、中央大学大学院法
学研究科博士後期課程修了、博士(政治学)。中央
大学法学部助教、笹川平和財団米国(ワシントンD.C.)
客員準研究員等を経て、現在、東京福祉大学留学生
教育センター特任講師、拓殖大学大学院国際協力学
研究科非常勤講師。主著に『米国の冷戦終結外交―
ジョージ・H・W・ブッシュ政権とドイツ統一』(有信堂、
2020年)。研究論文に「クリミア併合後の『ハイブリッド戦
争』の展開―モンテネグロ、マケドニア、ハンガリーの諸事
例を手がかりに」『国際安全保障』第47巻、第4号(2020
年3月)21-35頁。「アメリカのウクライナ政策史―底流す
る『ロシア要因』」『海外事情』第67巻、第1号(2019年
1月)144-158頁ほか多数。
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