配信日時 2020/09/25 08:00

【自衛隊・熱砂のイラク派遣90日(9)】恐るべきイラクの委託業者 藤井岳

こんにちは、エンリケです。

藤井岳さんの、
「自衛隊・熱砂のイラク派遣90日」
の九回目です。

現場を知る人ならではの視線ですね。
非常に面白い!

さっそくどうぞ


ご意見・ご感想お待ちしてます。
コチラからどうぞ
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エンリケ


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新シリーズ!

自衛隊・熱砂のイラク派遣90日(9)

恐るべきイラクの委託業者

藤井岳(ふじい・がく)(元陸自2曹)

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□はじめに

 陽の沈む時間も日一日と早くなり、夜は涼しさと
いうよりも寒さを感じるようにまりました。私は北
国で生まれ育ちましたが、非常に寒がりでして……。
昨夜から布団を出しました。寒暖の差が激しいこ
の時期、読者の皆様もお体ご自愛くださいませ。


▼「え…これがトイレ清掃?」

 サマーワ宿営地には毎日多くのイラク人が訪れた。
その多くは「役務(えきむ)」と呼ばれる清掃や
ゴミ回収の委託業者の人々である。

 よく見かけたのはトイレ清掃の業者だ。しかしこ
の清掃業者、かなり問題があった。

 まず、サマーワ宿営地のトイレは主に居住地区の
付近にあり、形状は連結された仮設トイレである。
仮設とはいえ、トイレ自体はグレードの高いものの
ようで、日本の工事現場などで使われているものよ
りは立派なトイレだった。
 
 彼らまず水タンク車(日本製のボンネット型トラ
ック!)をトイレの前に横付けし、トイレのドアを
すべて乱暴に開放する(当然使用中のトイレはその
まま)。

 次に、作業員がタンクにつないである太めのホー
スを伸ばし、トイレの前に立つと、消防車の消火作
業よろしくトイレの中に勢いよく放水するのだ。清
掃(放水?)は端のトイレから始め、ある程度水を
撒いたら次は隣のトイレに放水する。これを繰り返
す。

(これがイラク式のトイレ清掃か? 随分と荒っぽ
いが、これが普通なのだろうか?)

 呆気にとられつつも呑気に清掃を見ていた私は、
もちろんその後、彼らは便器や床や壁の水を拭き取
り、びしょ濡れで使い物にならないトイレットペー
パーを交換するのだろうと思っていたが、甘かった。

 放水を終えた彼らはドアを乱暴に閉めると、ホー
スを格納し、さっさとトラックに乗り込み、去って
いった。

「え……これで終わり? これが清掃? ひどいな」

 トイレの中をみると予想通り壁から便器、床まで
水浸しであった。もちろんトイレットペーパーもず
ぶ濡れで使い物にならない。結局、業者の清掃後に
使用する時は使用者が水を拭き取らねばならず、余
計な手間がかかるのであった。

▼ゴミ回収業者の「ある噂」

 ゴミ回収も役務の回収業者の仕事であった。

 宿営地内には各種ゴミの集積所があり、彼らゴミ
回収業者はトラックで集積所を巡回し、回収してい
くのである。

 このゴミ回収にはある噂があった。業者たちはゴ
ミを回収した後、宿営地を出てある程度走ると、回
収したゴミを道端に捨て、トラックの荷台を空の状
態にして帰っていくといった話だった。宿営地から
出たと思わしきゴミが道端にたくさん転がっている
のを見た隊員がいるという。
 
 整備小隊からも多くのゴミが出る。オイルやグリ
ースの空き缶、廃棄処分のエアクリーナーエレメン
ト、私たちにとってはもはや使い物にならないよう
な使用済みの消耗品である。回収業者は整備小隊の
ゴミ集積所からは、きれいにゴミを回収していく。
整備小隊のゴミにも噂があった。こちらは道端に捨
てるのではなく、回収した廃品(ゴミなのだが)を
サマーワ市内の市場で売っているのだという。日本
人が使用し、捨てたものだからいいものだろう。ま
だ使える、という考えだろうか。

 いずれにせよ、これらゴミ回収業者のゴミの処置
に関する噂はあくまで噂に過ぎず、真偽のほどは定
かではない。整備小隊の隊員同士の雑談で出た話題
である。

 ほかにも缶ジュースなどの飲料を冷やす業務用の
大きな氷が、近くを流れる運河の水を凍らせたもの
という話があったり、バキュームカーが汲み取りを
終えて帰る際、排水バルブがゆるんでいたらしく、
宿営地内の道路にトイレの汚水を流しながら走って
いたなど、役務にまつわる話は多かった。

 なお、役務の作業には必ず武装した隊員が同行し、
作業の監視を行なった。

 ほとんどの役務業者が車両で宿営地に入るため、
車両に同乗することも多かった。どの車も年季がは
いっており、整備もしないようで、車内は埃や泥だ
らけで、ライトやランプといった灯火類も切れて点
灯しないものをよく見かけた。彼らがそれらを気に
している様子はなかった。

 車内では彼らの方からいろいろ話しかけてくるの
だが、皆アラビア語で話すため、何を言っているの
かはわからなかった。その際はやはり身振り手振り
で意思の疎通を図るしかない。たまに英語を話せる
人もいたが、ごく少数だった。

 驚いたのは片言だが日本語を話す若者がいたこと
だ。しかも彼は英語も話せた。施設工事作業員の彼
は日本人の女性と文通しており、言葉を覚えたくて
日本語を勉強しているのだという。彼からは「○○
は英語で何というんだ?」「○○は日本語で何とい
うんだ?」と質問攻めにあった。
 
 また、興味深かったのは、彼ら役務業者の作業車
やトラックなどは日本製が多く、会社名などの日本
語表記が残ったままの車も多く見られた。一体どの
ような流れで日本のトラックがイラクまで運ばれ、
使われているのか不思議だったが、おそらくそれら
の車に乗っているイラク人にもわからないだろう。



(つづく)



(ふじい・がく)


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【著者紹介】

藤井岳(ふじい・がく)ペンネーム
1979年岩手県一関市生まれ。1996年自衛隊生徒とし
て陸上自衛隊入隊。少年工科学校へ入校。卒業後機
甲生徒課程を経て第9戦車大隊(岩手)で戦車乗員
として勤務。2004年第3次イラク復興支援群に参加、
イラク・サマワにて任務に就く。2005年富士学校
(富士)に転属。機甲科部で助教として戦車教育に
従事。2008年退職。フリーランスフォトグラファー
として活動を開始。自衛隊航空部隊の撮影、取材に
取り組む。2015年から「PANZER」誌で執筆開始。そ
の後「丸」「JGROUNDEX」「JWings」などで写真
や戦車に関する記事を発表。現在に至る。



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