配信日時 2020/09/21 20:00

【戦略航空偵察(33)】「戦略偵察機A-12(2)」 西山邦夫(元空将補)

こんにちは、エンリケです。

「戦略航空偵察」三十三回目です。

きょうも、実に興味深い話です。

内容は以下のとおりです

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□ご挨拶
 ▼A-12の沖縄配備
 ▼ブラック・シールド作戦
 ▼北ベトナム偵察
 ▼プエブロ号事件への対応
 ▼北朝鮮を再度偵察
 ▼A-12の退役 
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さっそくどうぞ


エンリケ



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戦略航空偵察(33)

戦略偵察機A-12(2)

西山邦夫(元空将補)
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□はじめに

 A-12はSR-71ほど知られていません。運
用された期間がごく短い期間でしたし、運用者がC
IAという秘密に包まれた機関であったからと思わ
れます。

 A-12とSR-71は、一見見分けがつかない
ほどよく似ています。飛行性能はほぼ同等ですが、
大きな違いはA-12の乗員がパイロット1名に対
し、SR-71はパイロットと偵察員の2名です。
A-12は長焦点の優秀なカメラを積んでいたのに
対し、SR-71はELINT装置を積んでいまし
た。A-12にはELINT器材を搭載するスペー
スがなく、SR-71にはA-12が積んでいる優
秀なカメラを積むスペースがなかったのです。
一長一短の典型のような2つの機種でした。

▼A-12の沖縄配備

 2007年に公開されたCIAの文書に、1965年3月、
ダレスCIA長官がマクナマラ国防長官とバンス国務
長官に宛てた「共産中国の上空偵察飛行に関して
の論議」というメモランダムがあります。主要部分
は次のとおりでした。

「最近起きたドローン3個の喪失および3月14日
のU-2飛行に対するMiG-21の要撃(3発の空対空ミ
サイルが発射された)ことを考慮し、次の提案を
する。
U-2の上空飛行はSAMとMiGの存在で危険になった。
我々は沖縄を基地とするOXCART(A-12:牛車)の
対中偵察飛行の準備を進めるべきである。
しかしOXCARTの沖縄配備も中国上空飛行も未だ
認可されていない。これを実行に移すには、
OXCARTの沖縄における運用に必要な資金等の諸
準備と、CIAか空軍のどちらが運用するかを決定
しなければならない」

▼ブラック・シールド作戦

上記のメモは、当時の米国が中国の核兵器と戦略ミ
サイルの開発状況にいかに関心を抱いていたかを物
語っており、U-2の脆弱性が高まったため代替え
の機体への大きな期待があったことも示しています


 CIAは、この提案を大統領が承認すれば380
万ドルを沖縄・嘉手納(カデナ)の関連施設建設の
ため投資する用意があると述べ、A-12を嘉手納
に配備し、偵察活動を実施する提案を行ないました。
この提案は、「ブラック・シールド作戦」として
実現することになり、A-12の性能試験が終了し
た後に開始される手筈になりました。A-12は、
その性能試験で高度90,000フィートを速度マ
ッハ3.2で6時間20分飛行し、期待された性能
を満たすことが証明されていました。

3機のA-12がブラック・シールド作戦向けに選
択され、1966年1月、嘉手納に配備されました。
1967年5月29日、ジョンソン大統領はブラック・シ
ールド作戦の発動を許可しました。当初の段階で
は中国の核開発の偵察にA-12が使われる予定でし
たが、中国上空へ侵入しての飛行は行なわれませ
んでした。偵察の優先順位はベトナム戦争の方が
緊急でした。

与えられた主要な任務は、北ベトナムに中国製の地
対地ミサイルが搬入されている可能性を探ることに
あり、北ベトナム上空の飛行が計画・実行されまし
た、

▼北ベトナム偵察

最初のブラック・シールド作戦の飛行は、北ベトナ
ムの偵察でした。5月29日、沖縄はひどい雨にな
りましたが、ベトナムは晴天でした。ワシントンか
ら最終のクリアランスを受け、出発が決まりました。
豪雨が続き、A-12の離陸には困難が予想されました
が、パイロットは米空軍の離陸基準を満たしている
と言い、与圧服に着替え100%の酸素を吸い、身体
から窒素を追い出して準備を整えました。
離陸のためのタクシー(地上走行)はスタッフ・カ
ーがA-12を誘導しなければならいほどのひどい
雨でしたが、離陸はA-12にとって初めての計器
誘導で行なわれました。

 数分後、機は25,000フィートの高度に達し
KC-135タンカーと会合、給油を受けました。
その後巡航高度まで上昇し、巡航速度マッハ3.0に
加速しました。順調に飛行している旨の報告が嘉
手納へ着くと、予備のパイロットは待機が解かれま
した。

 A-12は高度8万フィート、速度マッハ3.2で敵地
上空に侵入し、ハイフォンからハノイへと飛行し
ました。ベトナムを横断後、タイ上空で2回目の
空中給油を受け、南北間の非武装地帯上空を東へ
飛行した後、嘉手納へ帰投しました。合計3時間半
の飛行でした。

引き続く6週間の間、7回の飛行が実施され、北ベ
トナムには地対地ミサイルの配備はないことが確認
されました。

また、A-12の偵察結果は、SA-2サイトが機能して
いるかを判定しただけでなく、空爆後の被害状況
の判定にも貢献しました。3機のA-12は、1968年
に任務を終えるまでに13回の実任務飛行を行な
いました。

▼プエブロ号事件への対応

ブラック・シールド作戦は1968年3月まで実施
され、北ベトナム上空飛行は3月8日が最後になり
ました。この年の1月23日、北朝鮮による米海軍
情報収集艦プエブロ号の拿捕事件が発生し、A-1
2はプエブロ号の状況を把握するため、最初の北朝
鮮上空飛行を実施することになりました。

プエブロ号拿捕という衝撃的な事件発生を受けて、
ジョンソン大統領は事件翌日の1月24日にホワイ
トハウスに最高顧問の会議を召集し、対応を討議し
ました。数時間後、CIA長官リチャード・ヘルム
ズは極秘メモを発出し、北朝鮮の写真偵察のために
A-12の飛行準備を指示しました。

飛行は、1月26日に実行され、北朝鮮上空を3回
パスしました。この4時間の飛行中、北朝鮮の90%
が晴天であった幸運に助けられ、A-12は、元山湾
に係留されているプエブロ号の撮影に成功しまし
た。この偵察飛行の最大の目的は、プエブロ号の
行方を捜すことにあり、元山港に係留されている
のを確認する成果を挙げました。

▼北朝鮮を再度偵察

CIAの文書によれば、偵察衛星による北朝鮮の写
真が情報上の要請を満たしておらず、また地上から
撮影した写真の収集がますます困難になっており、
これが原因で、北朝鮮軍の能力と指導部の意図を正
確に見積ることはきわめて困難でした。

最近、秘密区分が解除されたCIAの報告書は、A
-12が「北朝鮮の軍隊の基本的構成、輸送システ
ムと産業基盤等について良好な情報を得ることがで
きた」と結論づけています。2回目の飛行で、北朝
鮮ファンギウ空軍基地を撮影した写真は、9機の
MiG-17フレスコ戦闘機の所在を明らかにしまし
たが、この戦闘機はA-12の脅威ではありません
でした。A-12は計画された目標の88%が晴天
で、撮影に成功しましたが、プエブロの上空だけは
雲に隠されていて撮影できませんでした。

1968年5月6日、A-12は3回目の北朝鮮上空のミッ
ションに向かって離陸しました。このプエブロ探査
への飛行で、黄州空軍基地を含むいくつかの飛行場
の撮影を行ないました。その飛行で、計画された目
標の50%が雲と靄で視界が悪く、その前の2つのミ
ッションと比較すると成果は乏しいものでした。

これがA-12による北朝鮮偵察飛行の最後となり
ました。プエブロ事件に対応したA-12の即応力
は、有人偵察機が重大な事件に最小限のリードタイ
ムで対応する能力を実証したと評価されました。

▼A-12の退役

 A-12の実運用が開始されて、合計29回のミ
ッションが実行されました。その比類のない高性能
で貴重な成果を挙げたましたが、運用態勢を維持す
るには莫大な経費が必要でした。その上、空軍が開
発したSR-71と性能的にほぼ同等であるとされ
、両者を共に運用するのは無理がありました。

 A-12はベトナムや北朝鮮で顕著な成果を挙げ、
A-12を退役させるのに反対する声がCIAから挙が
りました。A-12はSR-71より速く、高く飛行で
きると言い、より優れたカメラを搭載していま
した。空軍は、SR-71にはパイロットとRSO
(情報システム将校)の2名が搭乗し、より多
くの情報収集センサーを運用できると主張しまし
た。

 2つの機種の性能の比較テストが行なわれるなど、
検討が続けられましたが、1968年5月、クリフォ
ード国防長官はA-12の退役を決定し、ジョンソ
ン大統領もこれを承認しました。この決定で嘉手
納に所在するA-12は本国へ帰ることになり、
その撤収がA-12の最後の飛行となりました。

 





(つづく)


(にしやま・くにお)


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□著者略歴

西山邦夫(にしやま・くにお)
1936年生まれ。防衛大学校卒(4期・空)。
情報関係略歴:航空幕僚監部調査2課収集1班長、航
空総隊司令部情報課長、陸幕調査別室主任調整官、
航空自衛隊幹部学校主任教官。著書に『肥大化する
中国軍(空軍部分を執筆)』(晃洋書房、2012年)、
『中国をめぐる安全保障(空軍部分を執筆)』(ミ
ネルバ書房、2007年)。研究論文に『中国空軍の戦
力構成とドクトリン』『中国空軍のSu-30MKKとイン
ド空軍のSu-30MKI』『韓国空軍の増強と近代化』
『中露合同軍事演習』『中国の主要航空兵器の装備
化実績と将来予測』『中国空軍の戦力とドクトリン』
『チベットにおける中国の軍事態勢整備』など多数。
近刊として『戦略航空偵察(仮題)』。



 
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