配信日時 2020/09/18 08:00

【自衛隊・熱砂のイラク派遣90日(8)】サマーワ市民との交流で垣間見えた現実 藤井岳

こんにちは、エンリケです。

藤井岳さんの、
「自衛隊・熱砂のイラク派遣90日」
の八回目です。

現場を知る方ならではのはなしです。
胸が揺さぶられます。

さっそくどうぞ


ご意見・ご感想お待ちしてます。
コチラからどうぞ
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エンリケ


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新シリーズ!

自衛隊・熱砂のイラク派遣90日(8)

サマーワ市民との交流で垣間見えた現実

藤井岳(ふじい・がく)(元陸自2曹)

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□はじめに

 読者の方からうれしい感想をいただきました。と
ても長い文章でした。どのような気持ちで、長文の
読後感を私に送って下さったのでしょうか。少なく
ともその方は私に読後の気持ちを伝えたいと考え、
メールを寄せられたのだと思います。……何が言い
たいかというと、「私の拙い文章が日本のどこかの
どなたかに伝わり、その方の気持ちを揺さぶった」。
その事実に打ち震えたのです。

 この感覚は文筆業のような職につかない限り、な
かなか経験できないものだと思います。本当に嬉し
いことです。心から感謝申し上げます。

 もし私の原稿に対する感想がありましたら、ひと
言、一行で構いません。送って下さると、とても嬉
しく、助かり、そして救われます。その感想は、た
とえ批判であっても、読者の想像をはるかに超える
影響力を持ちます。それが次の執筆の原動力となり
ます。今後ともよろしくお願い致します!


藤井岳へのご意見・ご感想はコチラから
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▼サマーワの小学校訪問

 サマーワの人々との交流の機会は意外に多く、清
掃や工事などの役務のために宿営地を訪れる人たち
がおり、また宿営地周辺やサマーワ市内の住民との
交流をはかるため、自衛隊が小学校訪問やサマーワ
市内での交流イベントを実施することもあった。

 私は小学校訪問に1度参加した。宿営地から比較
的近い場所にある小学校で、児童たちに音楽演奏や
紙芝居を披露するといった内容であった。

 こういった広報活動においても、目的地までの移
動間はフル装備で行動する。

 小学校に到着後、装備を外し、戦闘服にベレー帽
の軽装で待機していた。少し時間があったので、先
輩の陸曹と駐車場から離れて周囲の様子を見た。周
辺は武装した警備中隊の隊員が警戒しているので、
多少なら歩きまわることができた。

 小学校の周囲は宿営地と同様、土漠が広がってい
るだけで、民家などもほとんどなかった。この小学
校の児童はどのあたりに住んでいて、どのような手
段で通学しているのか不思議に思った。日本のよう
にスクールバスでもあるのだろうか?

 少し離れた丘の上に2人の少年が立ってこちらを
見ていた。年齢的には小学生くらいで、2人とも男
の子のようだった。ここの児童だろうか? 笑顔は
なく、ただじっとこちらを見ている。

「おい、もう始まるぞ、校舎へ入れ!」同僚の声に
振り向く。
「あの子たちにも伝えなきゃなりませんね」
「あの2人か? あの子たちはいいんだ」
「えっ?」
「あの2人はここの児童じゃない。早く校舎へ行こ
う」

 先輩陸曹について校舎に向かう。もう一度振り向
いて丘を見た。2人の男の子はまだこちらを見てい
た。

「どういうことです?」歩きながら聞く。
「ここじゃあ、金のある裕福な家の子供しか学校に
入れないそうだ。あの子たちはこの小学校の児童じ
ゃない」

 ──貧富の差。小説や映画の中でしか知らなかっ
たこと。当然日本では見たことも聞いたこともなか
った。そんな私に初めて突きつけられた現実。それ
までの人生で、ただ漠然としたイメージしか持って
いなかったことを、このような形で見せつけられる
ことになるとは……。あの子たちは、いまどんな大
人になったのだろうか。

 小学校は枡(ます)のような構造で、周囲に教室
や職員室などがあり、敷地の中央に広場がある。日
本の小学校のように運動できるほどの広さはなく、
全児童が集まれば少々混雑するくらいであった。児
童数は100~150人ほどであったと思う。

 とくに担当の役職もなかった私は、子供たちと遊
んだりして時間を過ごした。男の子たちは積極的で、
そばにきて私の腕や手を掴んで「遊ぼう」とせが
む。女の子たちはやや距離を置いて見ていた。

 子供たちはアラビア語を話しているようで、彼ら
彼女らが何を言っているのかわからなかった。英語
で話しかけると、不思議そうな表情で私を見つめる。
結局、身振り手振りで意思の疎通をはかった。男の
子たちは私のデジタルの腕時計を欲しがっているよ
うだった。日本の有名メーカーの時計だが、非常に
安価なものである。しかし、予備の時計は持ってこ
なかったので、あげるわけにはいかない。

 ひと通り子供たちと遊んだあと、広場の隅で休ん
でいると、若い男性教師がやってきた。

「菓子を持ってきたよ。食べてくれ」

 教師は両手に一杯の菓子を持ってきてくれたのだ
った。

 私は「待てよ」と思い、受け取るのをためらった。
この日はちょうどラマダン(断食)の時期である。
イスラム教徒でなければ、気にする必要はないら
しいが、かといって多くの子供たちや先生方の前で
受け取るのもはばかられた。

「ありがとうございます。しかし先生、今はラマダ
ンですし……」
「いいんだ、君たちは気にしなくていい。問題ない
よ。さ、好きなのを取って食べてくれ!」

 無下(むげ)に断るのも失礼だと思い、いくつか
菓子をいただいたが、とりあえずポケットに入れて
、宿営地に戻ってから食べた。

▼「招待された子供しか参加できない」

 似たようなことはほかにもあった。サマーワ市内
にある「サマーワ・ギャラリー」と呼ばれる施設で
開催された文化交流行事だ。サマーワ・ギャラリー
は、体育館と、荒れてはいたが広いグラウンドを持
つ施設だった。

 早朝に宿営地を出発し、サマーワ市内に入る。高
機動車の後部からはどこを走っているのかわからな
いが、降りた場所は確かに市街地の中であった。

 施設の中に入ろうとすると、建物の壁際にポツン
と1人立って笑顔でこちらを見ている男の子を見つ
けた。私は彼のかたわらに寄って、身振り手振りで
「イベントに参加しないの? 中に入らないの?」
と質問してみるが、うつむいて首を振るだけであっ
た。グラウンドにも何人かの子供たちがいたが、施
設に近づく様子はない。もしや、と小学校訪問の時
のことを思い出す。私は後ろ髪引かれる思いで男の
子に手を振り、その場を離れ、施設内に入った。待
機用の小部屋で何人かの同僚に話を聞く。私の思っ
た通りだった。

──この行事には招待された子供しか参加できない。

(またか。小学校訪問といい、選ばれた子供を少数
呼んだだけじゃないか。1人でも多くの子供を呼ん
で楽しんでもらうのが目的じゃないのか?)

 おそらく、身分や家庭状況をチェックしたうえで
問題ないとされた子供が選ばれ、そうでない子供は
対象にされないのであろう。
 
 子供とは言え、素性の知れない者であれば、敵性
勢力と何らかの関係を持っている者がいる可能性も
否定できない。そして、考えすぎかもしれないが、
そのような者を自由にイベントに参加させれば、イ
ベントの妨害やエスコートする隊員に危害を加えた
り、見聞きした自衛隊の情報を敵性勢力の人間に密
告することも考えられる。
 
 大部分はいたって普通の子供たちだろう。しかし、
実戦を経験している軍隊は子供も警戒の対象とし
ている。近代戦、現代戦において子供が戦闘員とし
て直接的、間接的に何らかの形で戦闘に関与するケ
ースは少なくない。

 このやり方はたぶん間違ってはいないのだろう。
だがそれだけに、この自衛隊とサマーワ市民の交流
をアピールする「パフォーマンス」に、やりきれな
いものを強く感じた。



(つづく)



(ふじい・がく)


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【著者紹介】

藤井岳(ふじい・がく)ペンネーム
1979年岩手県一関市生まれ。1996年自衛隊生徒とし
て陸上自衛隊入隊。少年工科学校へ入校。卒業後機
甲生徒課程を経て第9戦車大隊(岩手)で戦車乗員
として勤務。2004年第3次イラク復興支援群に参加、
イラク・サマワにて任務に就く。2005年富士学校
(富士)に転属。機甲科部で助教として戦車教育に
従事。2008年退職。フリーランスフォトグラファー
として活動を開始。自衛隊航空部隊の撮影、取材に
取り組む。2015年から「PANZER」誌で執筆開始。そ
の後「丸」「JGROUNDEX」「JWings」などで写真や戦
車に関する記事を発表。現在に至る。



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