荒木先生の最新刊
『日本軍はこんな兵器で戦った-国産小火器の開発
と用兵思想』
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こんにちは。エンリケです。
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された先生の小論。
『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
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一読をおススメします。
捕虜のはなしって、
人間の本質に触れますね。
と先週書きましたが、
ますますその感を強めています。
実に面白いです。
もし
「捕虜に見る民族性の違い」
という名の本や論文があれば、
手に取るでしょう。
なければ、世に出してほしいですね。
さっそくどうぞ。
エンリケ
メルマガバックナンバー
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自衛隊警務官(39)
陸軍憲兵から自衛隊警務官に(39)
なんでもしゃべった日本兵捕虜
荒木 肇
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□ご挨拶
九州地方を直撃した第10号台風、被害に遭われ
た皆様に心よりお見舞い申し上げます。
▼捕虜に聞くこと
日本兵、つまり陸海軍の士官、准士官、下士官、
兵と軍属はよく情報を話した。まず、捕まった、あ
るいは投降した当初は拷問や虐殺を疑って、嘘ばか
り言う。ところが、数日経ってみて、その食事や待
遇が良いこと、親切にされると態度は一変する。尋
問者を信用するようになり、進んで軍事情報を提供
するようになった。
気まぐれな連合軍兵士に撃たれたり、暴行された
りすることなく無事に後方に着くと、捕虜は尋問機
関に引き渡された。そこには日本語が巧みな語学将
校や下士官が待っていて次のようなことを聞かれた
(山本武利『日本兵捕虜は何をしゃべったか』)。
(1)捕虜番号、(2)氏名、(3)階級、
(4)兵科や勤務内容、(5)所属部隊、
(6)生年月日、(7)軍隊服役期間、
(8)日本を去った最終の日付、(9)学歴
捕虜番号は尋問機関によって与えられた番号であ
る。氏名は多くの日本兵は偽名を使った。捕虜にな
ったら自決すべきだし、それが失敗して生きている
ことが日本軍に知られたくなかったからだ。階級も
身元を明らかになるから嘘をいうことがあった。た
だ、あとの兵科や勤務内容、軍隊での教育などを語
るうちに事実が分かることが多かった。
捕虜が何より恐れたのは、自分の生存が日本国内
に知られることだった。それは留守家族が厳しい目
で見られたし、軍法会議にかけられたら多くが「奔
敵(ほんてき、正当な抵抗をせず敵方に協力する)」
や「敵前逃亡」と処断されるからである。
日露戦争で発生した捕虜は、当時、必ずしも全部
が非難されたわけではなかった。なかには故郷に帰
って歓迎され、村長や議会で議員などになった人も
いた。それがおそらく、昭和に入ってからは「捕虜
は恥」であり、生還しても「おめおめと生き恥をさ
らす」というように変わってきたことが知られてい
る。
次には捕虜になったときの状況が聞かれた。場所
や日時、人数(1人だったか、誰かと一緒か)、当
時の健康状況、病気、負傷の様子なども尋問される。
人事不省の状況や睡眠中などで捕獲された以外であ
るなら、以下の中から選ばされた。
(イ)熟考した後に投降、(ロ)時の勢いで降伏、
(ハ)抵抗する暇もなくいきなり捕えられた、
(ニ)脱出しようとするときに捕まる、(ホ)非武
装の土民による欺瞞、捕獲、(ヘ)海上にて救助さ
れる、(ト)強く抵抗した後に捕獲された。
これらは尋問を加える際に、その心理状況を参考
とするためであった。
▼連合軍が驚いたほどの協力ぶり
いったん相手(尋問者)を信頼すると、多くの捕
虜は熱心な協力者になった。自分が属していた部隊
の編成から装備、行動にいたるまで詳細にしゃべっ
たという。なかには、戦後、帰国してから弁明のた
めか自分が重要なことは話していないと告白した海
軍大佐もいた。しかし、この大佐の詳述した日本軍
機関の役割や組織のあり方はアメリカ軍にとって大
変貴重なものだったという。
こうした捕虜の心理はいくらか想像はつく。体験
者や聞き取りの結果からは、彼らが新しい人生に踏
み出そうとしたこと、また厚遇に感謝してお礼の気
持ちをもったことなどが明らかになっている。
彼らは戦争が終わっても、日本に帰されたくない
と思っていた。厳しい取調べ、自殺の強要、あるい
は軍法会議での処断が恐ろしかったのである。ある
いは、もっと恐れたのは地域の共同体による家族ぐ
るみの迫害である。戦死の一時金の剥奪、あるいは
手当ての没収も予想された。何より非国民、卑怯者
扱いをされて社会的生命を絶たれることだっただろ
う。
そうであるなら、帰国せずに死んだという記録の
ままに、南米や豪州、あるいは米国などに永住した
いと思ったのだろう。ならば、こんどはとことん連
合軍側に忠誠を示すことが大切だったのだ。
よく言われてきたのが、「捕虜になった後の教育
がされなかった」ということだ。ところが、実際に
は、将校や士官以上の階級にある者なら、国際条約
の知識もあり、相手が暴行、脅迫もしないというこ
ともよく知っていたという。また、下士官、兵であ
っても教育程度の高いわが国では、案外、ジュネー
ブ条約の中味も知られていたともいわれている。
だから、そのことより日本社会のあり方、世間が
捕虜をどう見ていたかの方が問題だったのではない
だろうか。
欧米の伝統では捕虜への偏見がなかったかという
と、それはそれであったに違いない。また、何でも
認めたかというと決してそうではなかった。帰還後
には審査があり、義務を尽くした上で、どうにも降
伏以外に手段がなかったかも調べられる。あるいは
不可抗力で捕らえられたら責任はないという考え方
があったから、捕虜はその尋問に備えておかねばな
らなかった。
それがわが国ではどうだったか。「世間の目を思
え、家族の悲しい気持ちを考えて」決して捕虜にな
るな、生きて虜囚などという恥ずかしい目に遭うな・・・
というのである。
無理だったのだ。捕虜になって、自決などなかな
かできるものではなかった。海軍兵学校という難関
校に入学し、厳しい教育を受けた正規の海軍士官で
すら、生きて虜囚になった。その経験を公開し、実
業界の成功者になった潜航艇乗り組みの海軍少尉、
文学者となって数々のベストセラーを書いた艦上爆
撃機操縦員の海軍中尉もおられた。
同じような境遇の人々が命を落とし、故国の土を
二度と踏めなかった。その後ろ暗さは一生、抜けな
かったことだろう。
次週はさらに日本軍捕虜の行動について詳しく見
てみよう。
(以下次号)
(あらき・はじめ)
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●著者略歴
荒木 肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、同
大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。日露
戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸海軍
教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を行な
う。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『(仮)
警務隊逮捕術(近刊)』(並木書房)がある。
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