こんにちは、エンリケです。
「ハイブリッド戦争の時代」の四回目です。
「わが国に必要な「ハイブリッド戦争」の概念」が
分かります。
今日の記事(本連載のこれまでの記事)を読み、
私は個人的に、かつてないほどの感激を覚えています。
創刊当初から
「軍事防衛用語の権威ある定義づくりをしてほしい」
という願いがありました。
正鵠を射た防衛軍事用語を使えなければ、
正鵠を射た防衛軍事思考はできない、と確信してい
るからです。
戦略研究学会ができた時、その面ですごくうれしか
ったことを記憶しています。
その成果たる軍事防衛用語辞書はまだわが国では出
きていないようですが、
少なくとも幣メルマガ読者の間では、
ハイブリッド戦争について正鵠を射た思考が
今後展開してゆくことでしょう。
ご意見・ご感想をお待ちしています。
コチラからどうぞ
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さっそくどうぞ
エンリケ
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新シリーズ!
ハイブリッド戦争の時代(4)
米欧の「ハイブリッド戦争」の定義とは?
志田淳二郎(国際政治学者)
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□はじめに
皆さん、こんばんは。8月28日、安倍晋三首相が辞任
を表明しました。安倍首相の辞任を受け、各国要人
や国際的なメディアから外交・安全保障面で高い評
価を受けていたことが分かります。第二次安倍政権
の外交・安全保障政策は、今後、さまざまな観点か
ら評価が進むことを期待しますが、私は、安倍外交
が、同じ価値観を共有するヨーロッパ諸国、EUやNA
TOとも関係を強化したことを、高く評価したいと思
います。
2018年の日本外交は「外交のフロンティアを広げる」
(菅官房長官)べく、安倍首相のバルト3国(エスト
ニア、ラトビア、リトアニア)訪問で始まったこと
をご存知でしょうか。このとき、日本とバルト3国と
サイバー分野で協力することを取り付けています。
同年7月1日には、日本政府はブリュッセルのNATO本
部に日本政府代表部を開設しました。
日本は、サイバー分野のみならず、NATOが関心を高
めている「ハイブリッド戦争」についての理解を、
バルト3国を含めたNATO同盟国との協力の下、深める
ことができる資産(アセット)を持っていると言え
るでしょう。
私としては、ぜひ「ポスト安倍」政権は、こうし
た外交資産を活用できるよう、安倍外交の継続を期
待したいと思っています。
▼日本はロシア的「ハイブリッド戦争」は受け入れ
られない
前回までのメルマガでは、アメリカ、ヨーロッ
パ、そしてロシアにおける「ハイブリッド戦争」の
定義について確認してきました。「すべての政治現
象の背後にはアメリカがいる!アメリカは『カラー
革命』をしかけて他国に内政干渉し、体制を転覆さ
せようとしている!」とする、なかば陰謀論的理解
は、ロシア、中国、北朝鮮、イランのような「あち
ら側」の国では共有されております。
日本は、このように「ハイブリッド戦争」を理解
すればよいのでしょうか? はっきり言って、この
ような理解を受け入れることは、ほとんど無意味な
ことと私は考えています。なぜなら、この定義に基
づいたところで、日本の外交・安全保障政策を構想
するのに、ほとんど意味のある概念として「ハイブ
リッド戦争」という用語を使うことができないから
です。
ということは、日本としては、同じ価値観を共有
するアメリカ、とりわけ研究の進んでいるヨーロッ
パにおける議論をベースに「ハイブリッド戦争」の
定義をおさえる必要があると考えています。
▼2017年秋までの米欧における定義
これまでのおさらいになりますが、2016年4月、
欧州委員会は、「宣戦布告がなされる戦争の敷居よ
りも低い状態で、国家または非国家主体が特定の目
標を達成するために、調整のとれた形態での、
強制・破壊活動、伝統的手法、あるいは外交・軍
事・経済・技術などの非伝統的手法の混合」とする
「ハイブリッド戦争」の定義を公表しました。
2017年には、アメリカ国防総省系のシンクタン
ク・ランド研究所のアンドリュー・ラディン研究員
は、報告書『バルト諸国におけるハイブリッド戦争』
(未邦訳)の中で、ロシアなどの軍事大国を「ハイ
ブリッド戦争」の遂行者とする、より限定的な次の
定義を打ち出しました。彼は、「ハイブリッド戦争」
を、「対象国の国内政治に影響を与えるために、通
常戦力あるいは核戦力に支援された上で行なわれる
秘密または拒絶活動」と定義しました。
この2つの定義は、次の点で意義深いものです。
第一に、「ハイブリッド」を字義通り、「多くの要
素が複雑に入り組んだ状態」と捉えて、欧州委員会
は「戦争」の主体や手法の「ハイブリッド性」を説
明しています。第二に、ランド研究所の定義は、軍
事的・経済的に強力な国家主体が発動する「ハイブ
リッド戦争」に対処する困難さを暗示しています。
どういうことかというと、強力な国家主体は、非
正規軍を支援すべく通常戦力をも使用する恐れもあ
り、さらには攻撃対象国の同盟国・友好国からの反
撃を抑止するために核戦力をも展開することも理論
的には考えられるからです。
これら2つの定義をブレンドすると、説明能力のあ
る定義が出来上がります。
すなわち、「ハイブリッド戦争」とは、「宣戦布
告がなされる戦争の敷居よりも低い状態で、特定の
目標を達成するために、国家または非国家主体が調
整の取れた状態で、通常戦力あるいは核戦力に支援
された上で行なう強制・破壊・秘密・拒絶活動」で
ある。
こうすると、2014年のクリミア併合スタイルの
「ハイブリッド戦争」は、十分説明できる定義が完
成しますね。
▼2017年秋以降のカバーする現象の拡散
こうしたなか、2017年秋にヘルシンキにHybrid CoE
が設立されたことは、以前のメルマガで述べました。
Hybrid CoEによれば、「ハイブリッド脅威」とは、
国家と非国家主体が協働で次のような行動をとるこ
とで発生します。
(1)広範な手段を通じて民主主義国家の脆弱性を
意図的に狙った調整の取れた同時多発的行動。
(2)有事/平時、対内/対外、地域/国家、国内/
国際、友/敵といった境界や属性の敷居をなくすよ
うな行動。
(3)こうした行動の目的は、相手に害を加えなが
ら、地域、国家、制度レベルで自らの戦略的目標を
達成することである。
なぜ「ハイブリッド戦争」ではなく、「ハイブリ
ッド脅威」という用語が前面に出てきたかという
と、2014年以降、ロシアは、反政府デモへの支援、
選挙干渉、虚偽情報拡散、サイバー攻撃、経済的圧
力などを使用し、他国の内政に影響力を行使し、ク
リミアスタイルのオペレーションよりも、より烈度
の低いオペレーションを展開しているからです。
とはいえ、NATO事務総長をはじめ、国際機関や各
国政府高官は、こうした民主主義国の脆弱性につけ
こんで、秩序の攪乱要因になっているロシアの行動
を「ハイブリッド戦争」という用語を用いて表現し
ています。
つまり、ヨーロッパでは、「有事」とはいえない
ものの、武装集団による戦闘・暴力行為を伴うクリ
ミアスタイルのオペレーションから、「平時」から
「ハイブリッド脅威」が及ぶ事態までが「ハイブリ
ッド戦争」と理解されていることが分かります。
▼「広義の定義」と「狭義の定義」
以上のヨーロッパ的理解をベースに考えてみると、
私たちが「ハイブリッド戦争」という言葉を使用す
る際に、「広義の定義」と「狭義の定義」の2つを
用いることで、頭の中を整理することができます。
「『ハイブリッド脅威』が及ぶ事態」を「ハイブ
リッド戦争」の「広義の定義」、そして、「宣戦布
告がなされる戦争の敷居よりも低い状態で、特定の
目標を達成するために、国家または非国家主体が調
整の取れた状態で、通常戦力あるいは核戦力に支援
された上で行なう強制・破壊・秘密・拒絶活動」を
「ハイブリッド戦争」の「狭義の定義」としてみま
しょう。
この2つの定義を用いれば、ロシアや中国が、民
主主義諸国やリベラルな国際秩序に対して、「有
事」あるいは「武力行使」とは言えないものの、秩
序の攪乱要因となっているあらゆる行動を説明する
ことができますし、それらへの対応策も意味のある
形で構想することができると、私は考えています。
今後のメルマガでは、「狭義の定義」に基づき、
「ハイブリッド戦争」に対抗するための諸課題や、
「広義の定義」で説明ができるクリミア併合以降の
ヨーロッパで発生している「ハイブリッド戦争」の
事例をいよいよ紹介していこうと思います。
繰り返しになりますが、私たちは「ハイブリッド
戦争の時代」を生きているのです。
(つづく)
(しだ・じゅんじろう)
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【著者紹介】
志田淳二郎(しだ・じゅんじろう)
国際政治学者。中央ヨーロッパ大学(ハンガリー・
ブダペスト)政治学部修士課程修了、M.A. in
Political Science with Merit、中央大学大学院法
学研究科博士後期課程修了、博士(政治学)。中央
大学法学部助教、笹川平和財団米国(ワシントンD.C.)
客員準研究員等を経て、現在、東京福祉大学留学生
教育センター特任講師、拓殖大学大学院国際協力学
研究科非常勤講師。主著に『米国の冷戦終結外交―
ジョージ・H・W・ブッシュ政権とドイツ統一』(有
信堂、2020年)。研究論文に「クリミア併合後の
『ハイブリッド戦争』の展開―モンテネグロ、マケ
ドニア、ハンガリーの諸事例を手がかりに」『国際
安全保障』第47巻、第4号(2020年3月)21-35頁。
「アメリカのウクライナ政策史―底流する『ロシア
要因』」『海外事情』第67巻、第1号(2019年1月)
144-158頁ほか多数。
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