配信日時 2020/09/07 20:00

【戦略航空偵察(31)】「日本海におけるEC-121の撃墜事件(2)」 西山邦夫(元空将補)

こんにちは、エンリケです。

「戦略航空偵察」三十一回目です。

北鮮の「勝利の理論」がわかります。

きょうの内容は以下のとおりです

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□ご挨拶
 ▼北朝鮮の意図と米朝関係
 ▼核攻撃待機の米空軍パイロット
 ▼北朝鮮の挑発の意図
 ▼北朝鮮の思考の根拠
 ▼最近の北朝鮮の挑発行為とその思考
 ▼北朝鮮の領空、領海に関する認識
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さっそくどうぞ


エンリケ



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戦略航空偵察(31)

日本海におけるEC-121の撃墜事件(2)

西山邦夫(元空将補)
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□ご挨拶
 
 北朝鮮の行動は独善的で予測が難しいと思われて
います。一方で、彼らのこれまでの行動をつぶさに
観察し、分析すれば、おおよその予測ができるとい
う人もいます。今回の配信は、北朝鮮の行動の根底
にある思考というか、信念について記述しました。
 
▼北朝鮮の意図と米朝関係
 
 乗員全員が死亡したEC-121に対する攻撃は、朝鮮
戦争終結後に北朝鮮が米国に対して実行した最も暴
力的な行動でした。北朝鮮はこの事件について説明
も釈明もなく、未だ多くの謎が残されています。
 
 攻撃が意図的だったのか、偶発事故か、北朝鮮の
攻撃の目的が戦術的(空域の防衛)だったのか、あ
るいは戦略的(米国の政策への関与など)だったか……
等々です。ドイツの歴史学者ベルント・シェーファ
ーは、2004年に「さらなる証拠が発掘されるまで、
平壌がなぜEC-121撃ち落としたかの根拠は不明のま
まであろう」と評しました。
 
米国の『ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)』
が2010年6月6日に「ニクソン大統領は北朝鮮に核を
使うオプションを考慮していた」という記事を配信
しました。EC-121撃墜に対し、どう報復するかのオ
プションの一つに核による報復があったと言ってい
ます。大統領は、当時のキッシンジャー安全保障担
当補佐官らとの協議の中に、上記のオプションが存
在したことが最近公開した文書で明らかになったと
報じたのです。
 
▼核攻撃待機の米空軍パイロット
 
当時群山基地にいた米空軍パイロットによれば、有
事の場合、あらかじめ目標が指示されており、
EC-121撃墜の翌朝には攻撃準備を整えて置くよう上
司から指示されていた、と証言しました。その日の
午後、彼は乗機のF-4戦闘機に搭載した武器を点検し、
それは爆発力が330キロトンのB61核爆弾で、広島型
の20倍の威力があるということを承知していまし
た。その後、準備命令は保留されたということです。
 
核による北朝鮮攻撃については、ニクソン政権内で
議論されたことを『ニューヨーク・タイムズ』紙が
報じています。歴史家のロバート・ワンプラーは、
米国はこの事態に対処する良いプランを持っておら
ず、どうすればよいか迷っていたと書いています。
作戦部隊に対する命令も、この迷いを表していると
言えましょう。
 
▼北朝鮮の挑発の意図
 
旧ソ連の2つの文書が公開されています。1つは1969
年6月29日に平壌のソ連大使館で行なわれた北朝鮮
外務次官ハオ・ダムとオダリコフ大使との会談の記
録、もう1つが朴成哲首相とオダリコフ大使との会
談の記録です。これら文書は、EC-121への攻撃それ
自体と、さらにはその事件が北朝鮮のいわゆる「勝
利の理論」がどんなものかを知る機会になったこと
を示唆しています。
 
ハオ・ダムは、金日成国家主席の言葉のとおり、北
朝鮮は「報復に対応する準備ができており、全面的
な戦争に対応する」と繰り返しました。また、
EC-121の撃墜の目的は、前年のプエブロ号の拿捕と
同じであり、アメリカ人はプエブロでの事件から適
切な教訓を引き出していない、EC-121の撃墜は、軍
事行動によって政治的目的を達成しようとするもの
だ、と主張しました。
 
ソ連大使は、朴成哲首相との会談後、「もしアメリ
カ人が戦うと決めたら、我々は戦っただろう」と朴
が主張したことを振り返り、プエブロの事件の際の
北朝鮮の対応を思い起こしたと言っています。さら
に朴は「38度線上で連日アメリカ人と戦う。彼らが
撃てば我々も撃つ。状況は変わらない」と述べたそ
うです。
 
朴は、北朝鮮が米国に対して暴力を振るえば、さら
なるエスカレーションの危険があることを理解して
いるかどうかを問われると、「以前にも米国の飛行
機を撃墜した。同様の対応もまた可能である。私た
ちは腕をこまねいていることはない」と答えました。
 
朴はさらに「私たちの空間に侵入者が入り込んだと
き、腕をこまねいていれば、明日は2機、明後日は
4機、その翌日は5機と増え続けるだろう。これは
戦争の危険性を増加させる。しかし、強固な反撃が
加えられれば、戦争の勃発の危険を減らすだろう。
アメリカ人は彼らの前に弱い敵がいることを理解す
ると、すぐに戦争を始める。しかし、彼らの後ろに
強い相手がいることが分かった場合、戦争の始まり
を遅らせるだろう」と述べたと大使は言っています。
 
▼北朝鮮の思考の根拠
 
この朴成哲首相の言葉は、抑止に関する北朝鮮の信
念を表明したものだと考えられます。彼は、EC-121
撃墜のような小さな挑発が一般的な戦争を防ぐのに
役立つとし、小さな暴力行為が大きな暴力を抑止す
ると主張したのです。
 
過去の類似の事例を顧みれば、EC-121撃墜が米国の
報復につながることはないと信じており、プエブロ
危機に対する米国の取り扱いから見て、米国は報復
しないであろうと朴とハオは考えていました。
 
要約すれば、ソ連が公表した2つの文書は、北朝鮮
が、より低いレベルの暴力で挑発し、攻撃すること
が、より高いレベルと引き合うと信じていることを
示したのであり、これが彼らの「勝利の理論」です。
 
これらのソ連時代の文書は、北朝鮮の考えを明白に
提示しているとは限りませんが、北朝鮮が米朝関係
をどのように考えているかを、多少とも明らかにし
ています。北朝鮮は軍事力が政治的価値を持ってい
ると信じており、エスカレーションはエスカレーシ
ョンを防ぐ確実な手段であり、攻撃されたときの報
復は、抑止力を維持するために不可欠であると考え
ているようです。
 
北朝鮮と向かい合う国の為政者は、北朝鮮のリスク
を無視した挑発的行動に注意する必要があると考え
られます。
 
▼最近の北朝鮮の挑発行為とその思考
 
2010年3月に北朝鮮が潜水艦を使って韓国のフリゲ
ート艦を撃沈した事件、同年10月に大延坪島に向け
て砲弾約170発を発射、韓国の軍人2名、民間人2名
が死亡させた事件を起こしたのも、報復は起きない
との思考の下に行なわれたからでしょう。ごく最近
には南北共同連絡事務所の爆破もありました。
 
北朝鮮が挑発により意図的に危機状況を作るのは極
めて危険な行為ですが、彼らは強大な軍事力を持つ
米国が報復に出るとは考えていません。国連決議違
反のミサイル発射実験を実行して危機を煽っても報
復されることはなく、かえって危機のエスカレーシ
ョンを防ぐと考えるのです。
 
▼北朝鮮の領空、領海に関する認識
 
 1981年8月26日、朝鮮半島の非武装地帯上空を飛
行している米軍偵察機SR-71に対し、北朝鮮が地対
空ミサイルを発射したが、命中しませんでした。米
政府は、SR-71は韓国上空と国際空域を飛行し、北
朝鮮領空には侵入していないと言明しましたが、こ
れに対し、北朝鮮はSR-71が北朝鮮の領空・領海内
に深く侵入する飛行を行なっており、その回数は
6月19日以来19回に上っていると言っています。
 
  2001年3月2日、嘉手納基地を発進したRC-135コ
ブラボールが北朝鮮沿岸から150マイル離れた日本
海上で通常の哨戒飛行を行なっていた時、
MiG-29 2機とMiG-23 2機、計4機のスクランブルを
受けました。北朝鮮機は目標捕捉レーダーでRC-135
をロックオンしたので、RC-135の警報装置が作動し
ました。そして、1機の北朝鮮戦闘機がRC-135から50
フィート以内に接近し、パイロットが手信号で着陸
するよう指示しましたが、RC-135は指示に従わず、
離脱したとペンタゴンの広報官は述べました。
 
 自国沿岸から150Nマイル離れた公海上で着陸を
強いる北朝鮮の行為は明白に国際法に反していま
すが、彼らの思考ではこのような行為は意に介さな
いのでしょう。


(つづく)


(にしやま・くにお)


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□著者略歴

西山邦夫(にしやま・くにお)
1936年生まれ。防衛大学校卒(4期・空)。
情報関係略歴:航空幕僚監部調査2課収集1班長、航
空総隊司令部情報課長、陸幕調査別室主任調整官、
航空自衛隊幹部学校主任教官。著書に『肥大化する
中国軍(空軍部分を執筆)』(晃洋書房、2012年)、
『中国をめぐる安全保障(空軍部分を執筆)』(ミ
ネルバ書房、2007年)。研究論文に『中国空軍の戦
力構成とドクトリン』『中国空軍のSu-30MKKとイン
ド空軍のSu-30MKI』『韓国空軍の増強と近代化』
『中露合同軍事演習』『中国の主要航空兵器の装備
化実績と将来予測』『中国空軍の戦力とドクトリン』
『チベットにおける中国の軍事態勢整備』など多数。
近刊予定『知られざる戦略航空偵察(仮)』。


 
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