こんにちは、エンリケです。
藤井岳さんの、
「自衛隊・熱砂のイラク派遣90日」
の六回目です。
丁寧な記述がつづきます。
外地で日本人の仲間に迎えられる喜び。
心に沁みます。
こういうことって大事ですね。
さっそくどうぞ
ご意見・ご感想お待ちしてます。
コチラからどうぞ
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エンリケ
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新シリーズ!
自衛隊・熱砂のイラク派遣90日(6)
「サマーワにようこそ!」
藤井岳(ふじい・がく)(元陸自2曹)
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□はじめに
私は喫煙しませんが、お酒が好きで晩酌もします。
コロナ以前は週末、よく呑みに街に繰り出してい
たのですが、春あたりからはほとんど夜の街には出
ていません。そんな状況が数か月続くと、呑みに出
られるとしても何となく億劫になり、自宅でちびち
び呑む方が良くなってきました。呑む量も減り、体
にはいいかもしれません。
今後、さらに呑む量を減らし、体も今より動かし
ていきたいと思います。
イカロス出版『JグランドEX No.9』(*)の
74式戦車特集で「74式戦車 戦闘術基礎講座」
と称して74式戦車の戦術の紹介、解説を寄稿させ
ていただきました。現役時代に愛車として苦楽を共
にした74式戦車。ファンも多く、性能的にも日本
の国土にマッチした戦車であり、まさに「名車」だ
と思います。こちらの方もどうぞよろしくお願い致
します。
(*)『JグランドEX No.9』
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▼炎天下での実弾射撃訓練
前回は、課業外のことばかり綴ったが、この間に
も訓練はほぼ毎日行なわれた。
特に射撃訓練は重点的に行なわれた。気温50度
前後、照りつける太陽の下、フル装備で各種射撃法
を用いて実弾射撃を行なうのだ。フル装備での射撃
は日本でも実施したが、ここでは非常に高い気温の
中での行動に体を慣らさなければならない。
銃の保管場所は天幕内であり、野外へ持ち出すの
は訓練時のみだが、さほど汚れや砂の付着がなくと
も、訓練後の銃手入れは念入りに行なった。ここで
はいざという時、自分や仲間の身を護る個人装備は
この89式小銃1丁だけだ。まさに相棒「バディ」
である。
サマーワへの移動が迫ると、キャンプ内で第2次
復興支援群の隊員を見かけるようになった。彼らは
我々と逆に装備の返納、格納や整備、荷造りなどの
帰国準備にかかる。
野外で会う時は「お疲れ様です」と互いに敬礼を
交わす。私が目を引かれたのは、彼らの顔つきと着
用している戦闘服だった。
2次群の隊員は皆顔つきが違うように感じた。大
げさかもしれないが、それはまさに「戦場」から帰
ってきた人間の顔つきなのだと思った。たった3か
月でこのような精悍な顔つきになるのか。
自分も3か月後、ここに戻ってきた時には同じよ
うな顔つきになっているだろうか。
そして彼らの戦闘服。すっかり色は落ち、かなり
傷んでいるように見えた。破れや補修の痕がある戦
闘服を着用している隊員も散見された。毎日強力な
日光の下、そして高温下で着用し、洗濯を繰り返せ
ばこのようになるのだろう。
派遣隊員に支給された防暑戦闘服は国内で日常的
に着用している戦闘服とは材質が異なり、通気性や
速乾性を考慮して製作されており、麻のような触感
だった。
サマーワから来た彼らの姿を見て、いよいよだな、
と気が引き締まった。
▼C130輸送機でイラクへ
ついにサマーワ移動日を迎えた。
我々第2波の隊員は早朝から準備を始めた。天幕
内を片付け、トラックに荷物を積み、キャンプ・バ
ージニアからクウェート空軍アリ・アルサレム空軍
基地へ移動した。到着後、しばらく待機する。
その間、軍用機マニアの私は駐機場に並ぶクウェ
ート空軍機を見つけて1人興奮していた。海外にお
いてもクウェート空軍機を見られる機会は非常に少
なく、その姿はわずかに公開された写真でしか見た
ことがなかった。写真を撮りたかったが、間違いな
くトラブルの原因になると思い、やめておいた。こ
こはもう日本ではない、他国の空軍基地内だ。友軍
とはいえ軍用機の無許可撮影などスパイ行為とみな
されるだろう。
派遣期間中は数か所の軍事施設などに行ったが、
写真撮影をはじめ、施設内の移動なども許可がない
場合は厳に慎むよう心がけた。当たり前のことだが。
我々が乗るのは航空自衛隊のC130輸送機だ。
輸送機の準備が整うと、乗機準備の指示が出た。防
弾チョッキを着込み、鉄帽をかぶり、小銃とバッグ
を持って整列する。乗機指示で列を組んで輸送機の
後部貨物扉から乗機、機内のシートに腰を下ろした。
貨物扉が閉鎖されると外の様子は全く見えなくなる。
輸送機のランディングギア(降着装置)を介して
伝わってくる機体の挙動でその動きを予測した。し
ばらくタキシングしていた輸送機が止まる。滑走路
に入ったか。エンジンの音が高まり、機体が滑走を
始めた。そして体が浮かぶ感覚。
我々を乗せたC130輸送機はアリ・アルサレム
空軍基地を離陸した。
輸送機は高度を上げ、順調に飛行していた。機体
の所々にある小窓から光が機内に差し込んでいる。
機体上部には半球形の窓、バブルキャノピーが設
置されており、輸送機の乗員が航空ヘルメットをか
ぶって周囲を警戒している。その姿は非常に頼もし
く、そしてありがたく思った。
我々はフル装備で機内に乗り込み、ネット状の簡
易シートに座っている。隣の隊員とくっつくように
座り、足元には個人の手荷物が所狭しと並ぶ。快適
とはとても言い難い状態だったが、それでも寝てい
る隊員もちらほらとおり、エンジンの轟音と寿司詰
め状態で睡眠できるとは大したものだと感心した。
私は睡眠どころではなかった。輸送機はMANPADS、
いわゆる携帯式地対空誘導弾の脅威にさらされてい
ると耳にしていたので、なかなか落ち着かず、目を
閉じても寝つけなかった。そのうち、同僚からどう
やらイラク上空に入ったらしいといわれ、緊張はさ
らに高まった。外の景色を見たいと思ったが、機内
では自由に移動できなかったので、早く着いてくれ
と祈るしかなかった。
何十分経っただろうか。機体が傾き、旋回を始め
た。高度も下げているようだ。到着したのだろうか。
輸送機の挙動に集中する。だいぶ高度が下がり、旋
回を止めたと思った矢先、機体に衝撃が走った。無
事着陸したのだ。
降りた場所はイラク、タリル空軍基地。元々はイ
ラク空軍の航空基地だが、アメリカ軍が接収し、イ
ラク南部における多国籍軍の人員や物資輸送の拠点
として使用されていた。
天気は相変わらず快晴で、心なしかクウェートよ
りも暑く感じた。ターミナルまでの徒歩移動間、物
珍しく周囲を見回していると、イラク空軍が残置し
た戦闘機用のロケット弾ポッドや基地防空用の対空
機関砲などが駐機場の隅に野ざらしになっていた。
ターミナル内でサマーワへの移動要領および乗車
要領の説明を受ける。第2次群のコンボイが我々を
迎えにすでに到着、待機していた。イラク、クウェ
ートでの車両移動は任務によっても変わるが、本隊
の車両と護衛車両を含めると、その数が10台以上
の編成になることもざらで、この車列を「コンボイ」
と呼んだ。
任務における車輌の乗車区分は基本的に幹部は軽
装甲機動車に、陸曹・陸士は高機動車に乗るように
なっていた。防弾処置が施されているとはいえ、後
付けで処置した高機動車と設計段階から耐弾性を考
慮された軽装甲機動車とでは攻撃を受けた場合の被
害の程度は違ってくるだろう。私はこの幹部優遇が
気に入らず「幹部の命の方が大事ってか」とよく皮
肉を口にしたものだった。
指定された高機動車に乗り込む。軽装甲機動車や
高機動車のほか、3トン半トラックなどすべて、隊
員が乗る座席やキャビンには防弾板や防弾ガラスに
よる防護処置がなされていた。高機動車の後部座席
には外を見る隙間はなく、車外の景色を見るには後
部の床にあぐらをかき、フロントウインドやサイド
ウインドを通して覗き込むようにして前方を見るし
かなかった。
タリルからサマーワまでは約3時間ほどかかり、
その間休憩はない。コンボイは停止しない。できな
いのだ。車列が停止すれば、敵性勢力などの攻撃を
受ける可能性がある。遮蔽物のない道路上に止まっ
たコンボイはさぞいい的になるだろう。
出発前、ターミナルのトイレに先に行っておき、
乗車後は水分の摂取量に十分注意した。
▼「サマーワ宿営地にようこそ!」
タリル空軍基地を出発。午後1時か2時あたりだ
ったと思う。
コンボイはタリル基地を出発した後、速度を上げ
て行進を開始。ずいぶん飛ばすなあ、と思ったのだ
が、行進間の高速走行も敵性勢力などからの攻撃へ
の対処の1つであった。
ちなみに、タリルからサマーワまでの経路は国道
と高速道路(ハイウェイ)を通行するが、日本のよ
うに信号はなく、立体交差で通行する経路を変えら
れるように道路が作られていた。これはクウェート
市内も同様であった(クウェートには信号はあるが、
少数だった)。
道中は景色も見られず、たまに同僚と話をするか、
水を少しずつ飲むか、寝るしかなかった。3時間も
通しで車に揺られるのは楽ではないが、我々は観光
に来たわけではない。じっと我慢するしかなかった。
カーブで体が揺られるようになってきた。市街地
だろうかと目を開けると、車長が「サマーワに入っ
た! もう少しで宿営地だぞ!」と後部の隊員に声
をかけた。皆やれやれ、ようやく着いたかといった
表情だ。
その後連続したカーブを通った。これがサマーワ
宿営地の特徴の1つでもある、自動車による自爆テ
ロ対策の連続カーブだった。
「ゲート通過! サマーワ宿営地にようこそ! 皆
が出迎えに来ているぞ!」
高機動車の天井のキャンバス開口部と後部ドアを
開ける。
ゆっくり進む車列の両側に多くの隊員たちが並び、
拍手や歓声で出迎えてくれた。その肩には日の丸の
ワッペン。第2次群の残留隊員と我が第3次群第1
波の隊員たちである。こんな遠い所まで来て仲間に
迎えられるというのはこれほど嬉しいものかと胸に
来るものがあった。
全隊員が降車し、整列。すでに到着していた群長
に到着報告。
解散後、宿営地をじっと見渡した。日没が近づい
ていたが、まだあたりは明るかった。実際の宿営地
は思っていたよりもずっと広い。ここで3か月間、
任務につくのだ。身が引き締まる。
(つづく)
(ふじい・がく)
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【著者紹介】
藤井岳(ふじい・がく)ペンネーム
1979年岩手県一関市生まれ。1996年自衛隊生徒とし
て陸上自衛隊入隊。少年工科学校へ入校。卒業後機
甲生徒課程を経て第9戦車大隊(岩手)で戦車乗員
として勤務。2004年第3次イラク復興支援群に参加、
イラク・サマワにて任務に就く。2005年富士学校
(富士)に転属。機甲科部で助教として戦車教育に
従事。2008年退職。フリーランスフォトグラファー
として活動を開始。自衛隊航空部隊の撮影、取材に
取り組む。2015年から「PANZER」誌で執筆開始。そ
の後「丸」「JGROUNDEX」「JWings」などで写真や戦
車に関する記事を発表。現在に至る。
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