配信日時 2020/09/02 09:00

【自衛隊警務官(38)】陸軍憲兵から自衛隊警務官に(38)― 日本軍の捕虜はどう待遇されたか?― 荒木肇

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今日の記事も、
考えさせられるところ多々あります。

捕虜のはなしって、
人間の本質に触れるものですね。

さっそくどうぞ。


エンリケ


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自衛隊警務官(38)
陸軍憲兵から自衛隊警務官に(38)

日本軍の捕虜はどう待遇されたか?

荒木 肇

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□はじめに
 
 驚きました。安倍晋三氏は総理として最長不倒の
記録を出され、そして健康上の理由を挙げて辞任さ
れました。それについてのさまざまな論評が賑やか
で、また後継についての予想や希望が渦巻いていま
す。
 なかでも愉快だったのが、札付きの反政権である
共同通信のアンケート記事です。それによると、世
論が望む最高得点者は石破氏とのこと。たいへん面
白い結果です。なぜなら石破氏は弱小派閥のリーダ
ーでしかなく、自民党総裁戦を戦うための推薦人2
0人を集められるのかと心配されています。
 
 わが国は民主主義の議会制を重んじる国だったは
ずです。恣意的な「国民の声」などで首相は選ばれ
ません。まっとうな手続きに従った選挙によって選
ばれた国会議員、その中でも与党議員たちが選んだ
総裁が首相になるのが国家の制度です。
 
だから、勝手に誰とも分からない人々に電話取材を
して、その結果、石破氏が党首になるべきだという
のは、まったくおかしなことです。どうしてマスコ
ミは、まだ、そんなすぐデタラメだと分かることを
やっているのでしょう。よほど私たちをバカにして
いるとしか思えません。
 
今日は時代をもっと下がって、大東亜戦争で連合軍
に捕まった日本兵捕虜の話をします。
 
 
▼ソ連も日本も捕虜が少なかった。
 
 貴重な研究がある。情報史を専門とされる山本武
利氏の『日本兵捕虜は何をしゃべったか』という貴
重なものだ(2001年、文春新書)。その中に素
晴らしい比較がある。吹浦氏の業績の紹介だが、
「第2次世界大戦主要国別捕虜数」という数字が挙
げられている。
 
 ドイツは945万1000、フランス589万3
000、イタリア490万6000、イギリス18
1万1000、ポーランド78万、ユーゴスラビア
68万2000、ベルギー59万、フランス植民地
52万5000、オーストラリア48万、アメリカ
47万7000、ハンガリー33万7000、オラ
ンダ28万9000とある。では、わが国はどれく
らいだったろうか。20万8000である。そうし
て似たような数字の国がソビエト連邦だった。21
万5000が総数だが、参戦した軍人と比べてひど
く少ない。実は、ソ連では捕虜になって母国に送還
されると、シベリアに送られてしまったのだ。だか
ら、その恐怖のために捕虜にならずに行方不明にな
ったり、最後まで戦ったりしたのである。
 
 アメリカ軍は捕虜にひどく良い待遇を与えた。そ
れは戦争末期に捕虜になった人たちの手記にもよく
出てくる。有名な『俘虜記』の中にも、その贅沢な
食事の支給や、病気やけがの手当ても手厚かった様
子が描かれている。
 
▼別に人道的だったわけではない
 
 多くの捕虜が、米軍の人道的な態度に感謝したら
しい。たしかに、捕虜は大切にされた。運よく、米
兵の中のサムライ・サーベル(日本刀様式の軍刀)、
拳銃マニアに見つからずに捕虜になれた将校も多か
った。スーベニア(記念品)を取るには射殺する方
が簡単である。
 
捕虜は階級が高いほど厚遇された。捕虜は情報の生
きた宝庫だからだ。兵士より下士官、下士官より士
官の方がより価値が高かった。知っている情報の質
が高く、米軍の知りたかった部隊配置や、装備など
にも詳しかったからである。また、日本兵捕虜はた
しかにぺらぺらとよく話をしたらしい。
 
 だから、連合軍はなんとか生きた捕虜を得ようと
した。山本氏の著作には珍しい投稿を誘う、前線を
通過できるビラが載っている。その内容を見てみよ
う。
 
 まず、日本兵が読めるようにすべての漢字にはふ
り仮名が付いている。「米軍の俘虜は米軍兵士と同
等の食事を支給されるから、・・・日本でいえば、
東京でも一流の帝国ホテルあたりで食べられるもの
を毎日与えられる。以下、米軍兵士毎日の糧食を示
すと」とあり、次のような表がある。
 
 魚及び肉類・136匁(510グラム)、米及び
パン・95匁(356グラム)、馬鈴薯・75匁
(ばれいしょ・ジャガイモのこと、280グラム)、
野菜類・84匁(315グラム)、穀類・11匁3
分(42グラム)、果実類・32匁2分(121グ
ラム)、砂糖・37匁7分(141グラム)、牛
乳・68匁(255グラム)、バタ、其他脂肪類・
24匁8分(93グラム)、茶、コーヒーなど・
18匁7分(70グラム)といったものである(換
算は概数)。
 
 日本陸軍の平時の主食は1943(昭和18)年
の「陸軍給与令」では、1日に精米600グラム
(4合)、精麦186グラム(約1合2勺)だっ
た。野戦では、1938(昭和13)年の例では主
食精米660グラム、精麦210グラムに増えた。
他に生肉210グラム、生野菜600グラム、漬物
類60グラム、調味料を醤油80ミリリットル、味
噌75グラム、食塩5グラム、砂糖20グラム、茶
3グラムとなっている。
 
 ところが、負け戦が続き、補給線もズタズタであ
る。兵站軽視というが、別に軽視したとか、いい加
減だったというわけではない。輸送力や、保管能力
などがどうにも間に合わなかったのだった。
 これらのビラは日系2世などが作ったらしい。
「帝国ホテル」とはいささか大げさで、読んだ日本
兵は理解できただろうか。残念ながら、このビラと
いっしょに印刷された「戦線通過査証」がどれだけ
実際に使われたのかについては記されていない。
 
▼戦線通過査証
 
 英文を直訳したものである。宛名は「連合軍軍隊
の構成員へ」とあった。
「本査証の所持者は自発的投降兵なり。同人は丁重
なる取り扱いを受くべきものにして、最寄りの司令
官宛護送されたる後、更に戦闘区域以外へ後送さる
べし。同人は恐らく英語を解せざるも、手真似にて
命令を受くる用意あるものとす。右告示す。米国軍
司令官」(原文はカタカナ)
 
 さらに注意書がある。それによると、以下の指示
に従えという。
(1) 昼夜の別はないが、自分一人で米軍陣地に近
づくこと。
(2) 両手を頭上にあげて、この査証を打ち振るこ
と。
(3) 米軍兵士側から合図があったら、この査証を
提示して、手真似の命令に従う。
 
 次週は、取り調べなどについて紹介する。



(以下次号)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴
 
荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、同
大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。日露
戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸海軍
教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を行な
う。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
 
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『(仮)
警務隊逮捕術(近刊)』(並木書房)がある。
 

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