配信日時 2020/08/31 20:00

【戦略航空偵察(30)特別編】「中国軍の演習とU-2偵察機」 西山邦夫(元空将補)

こんにちは、エンリケです。

「戦略航空偵察」三十回目です。

きょうは、急遽
「今なお現役のU-2の姿」について、
最近起こった「あの事件」を通じて考えます。

この種の細やかな現実事実の積み重ねを通してはじめて
的を射た国防安保軍事防衛国家感覚が養われるのだと
強く思います。


きょうの内容は以下のとおりです

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□ご挨拶
 ▼U-2飛行に中国軍抗議
 ▼米軍の反論
 ▼中国軍の大規模演習
 ▼飛行禁止区域の設定
 ▼南シナ海にも飛行禁止区域設定
 ▼U-2の偵察範囲と運用
 ▼2030年までU-2は運用される?
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さっそくどうぞ


エンリケ



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戦略航空偵察(30)特別版

中国軍の演習とU-2偵察機

西山邦夫(元空将補)
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□ご挨拶

中国国防省は8月25日、人民解放軍北部戦区が実
弾演習のために渤海や黄海に設定した飛行禁止区域
に米軍のU-2偵察機が同日侵入したとして、「露
骨な挑発行動だ」と非難する報道官談話を発表しま
した。今回は急遽この件について配信します。

米国にとって、軍事的に潜在的敵性国である中国の
大規模演習を監視するのは当然のこと、米軍の演習
に対し、中国海軍の艦艇や航空機が監視活動を行な
っているのは周知の事実です。

今回、U-2が報道に取り上げられたのは、久しぶり
のこと、意図せずして健在をアピールしたことにな
りました。今回はこのU-2と関連する状況について
触れてみます。EC-121(2)は次回になります。


▼U-2飛行に中国軍抗議

 中国軍報道官の談話は、米偵察機の侵入が「中国
側の正常な演習を深刻に妨害」するものだとし、米
中間の「海空安全行動ルール」や国際慣例に著しく
違反すると言っています。そして、このような行動
は判断ミスや不測の事態を容易に引き起こすおそれ
があるとし、「断固とした反対」を表明し、米側に
厳正な申し入れを行なったことも明らかにしました。

米中間の「海空安全行動ルール」とは、この危険な
状況を避けるため、米国と中国の間で海上における
危険回避の会議が開かれ、ルールについて検討され
ていることを指していると思われます。

2014 年 11 月、オバマ大統領が習近平国家主席と
会談した際に、その合意として、軍事演習などの通
報に関する了解覚書を含む二つの了解覚書が交換さ
れました。これらの覚書には、演習などで武器の使
用が行なわれる場合には、警告水域に近接する船舶
と航空機に、時宜にかなった警告を行なうことを双
方に義務付けられています。しかし、公海を利用す
る側は、国連海洋法条約に従って適正に利用するこ
とを妨げられるものではありません。

2017年、シンガポールで開かれたアジア安全保障サ
ミットで、当時のハリス米太平洋軍司令官は米中間
に危険な状況があったことを確認し、米中双方が経
験を積むことが必要だと述べました。

▼米軍の反論

 米太平洋空軍の広報担当官は26日、米軍のU-2
偵察機が中国軍の演習空域に侵入したとする中国国
防省の非難声明について「U-2の飛行任務はインド
太平洋の作戦空域で、国際的な法律や規制の下で航
空機に許可されている飛行の範囲内で実施された」
と述べました。

 米軍がU-2の飛行について、国際的な法律や規定
の下に実施したと主張しているのは、根拠のあるこ
とです。

▼中国軍の大規模演習

 中国軍が大規模に実施中の今回の演習ですが、8月
22日からは山東省沖の黄海で演習を開始し行動を
活発化していましたが、24日から渤海や広東省沖、
海南島沖の南シナ海でも演習を開始しました。

▼飛行禁止区域の設定

 中国海事局が軍の活動のためとして公表した黄海
の飛行禁止区域は、山東半島の南側、青島のすぐ南
に東西約200キロ、南北160キロの梯形(ていけい)
をしたエリアで、韓国と中国の中間線の中国側に設
定されています。

 U-2がこのエリア上空を飛行したとすれば、かな
り中国側に接近したことになりますが、このエリア
の東側を飛行している限り領空に侵入することはあ
りません。

▼南シナ海にも飛行禁止区域設定

中国軍はこの大規模演習で、南シナ海にも飛行禁止
区域を24日から29日まで設定しています。海南島の
南東に近い海域で、海南島とほぼ同じ面積のエリア
ですが、演習中、ここにミサイルが4発着弾しまし
た。青海省大柴旦から発射され、約1800マイル飛行
したIRBM DF-26(?)と、浙江省から発射され、約
1000マイル飛行したMRBM DF-21(?)で対艦弾道ミ
サイルと見られています。対艦弾道ミサイルで他国
の軍が南シナ海に接近するのを拒否する能力を示す
狙いがあったものと見られます。

▼U-2の運用

米空軍は、韓国烏山(オサン)基地に第9偵察航空
団隷下にU-2を運用する第5偵察中隊を置いていま
す。第9偵察航空団、戦闘空軍(ACC)隷下で、
RC-135を運用する第82偵察中隊を嘉手納基地に、第
69偵察群隷下でRQ-4グローバルホークを運用する
第1偵察隊をグアムのアンダーソン空軍基地に配備し
ています。

第5偵察中隊が運用するU-2は、対空ミサイルに脆
弱であるため、北朝鮮上空を飛行していませんが、
その代わり、北朝鮮に接する38度線南側の韓国上空
を長時間飛行する偵察パターンで北朝鮮内部を常時
監視するのが任務です。

U-2は高高度から斜め下方を長焦点の電子光学カ
メラで撮影し、あるいは広角のバー・カメラで国境
沿いの目標を撮影しています。

さらにこのU-2は、ASARS-2(シンセテイック・ア
パーチャー・レーダー)を搭載し、黄海と日本海の
北朝鮮沿岸を上下に往復飛行することにより、北朝
鮮の内陸部のレーダー画像を収集しています。

これら長焦点のコンポーネントの正確な収集範囲は
秘匿されていますが、今回中国が設定した飛行禁止
区域上空から山東半島全域や遼東半島の旅大(大連)
周辺は十分偵察範囲に入ると見られます。

▼2030年までU-2は運用される?

U-2をはるかに上回る性能を持ったSR-71が引退し
てすでに30年が経過しました。地対空ミサイルに
脆弱であるU-2が依然として現役を続けています。
その理由はU-2の使い勝手の良さでしょう。比較
的廉価に運用でき、他の偵察機では到達できない高
空から良質の写真とSAGINTデータを獲得できる機体
は他にありません。

U-2は2019年までに退役し、それに代わるグローバ
ルホークの能力をU-2に比肩するくらいまでアップ
グレードするよう米空軍は計画していました。しか
し、U-2の退役の時期は後ろ倒しされ、2030年ま
でも運用されるのではという噂もあります。

退役の準備として、ノースロップ・グラマン社は
2017年後半、U-2に搭載したオプテイカル・バー・
カメラ(長焦点パノラミック・カメラで、高空・宇
宙空間からの撮影に適している)と、MS-177マルチ
スペクトラル・センサーをグローバルホークに搭載
するなど試みていますが、有人機のメリットは他に
代えがたいものがあるようです。

ロッキード・マーチン社は、U-2が退役した後に米
空軍がU-2に代わる戦略偵察手段の欠落に悩むので
はないかと危惧し、U-2を後継するTR-Xと呼ぶ機体
を開発中で、空軍に公式にそのコンセプトを提案し
たと同社の担当マネージャーが語っています。

それは無人でステルス性があり、U-2のGE-F118エ
ンジンを搭載して高度70,000フィートを飛び、長期
の運用に堪え、優秀なU-2の現用のセンサーを利用
する。U-2は、パイロットが堪える限界である10~
12時間程度しか飛べないのに対し、この機体は空中
給油によって40時間の飛行が可能であるとしていま
す。



(つづく)


(にしやま・くにお)


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□著者略歴

西山邦夫(にしやま・くにお)
1936年生まれ。防衛大学校卒(4期・空)。
情報関係略歴:航空幕僚監部調査2課収集1班長、航
空総隊司令部情報課長、陸幕調査別室主任調整官、
航空自衛隊幹部学校主任教官。著書に『肥大化する
中国軍(空軍部分を執筆)』(晃洋書房、2012年)、
『中国をめぐる安全保障(空軍部分を執筆)』(ミ
ネルバ書房、2007年)。研究論文に『中国空軍の戦
力構成とドクトリン』『中国空軍のSu-30MKKとイン
ド空軍のSu-30MKI』『韓国空軍の増強と近代化』
『中露合同軍事演習』『中国の主要航空兵器の装備
化実績と将来予測』『中国空軍の戦力とドクトリン』
『チベットにおける中国の軍事態勢整備』など多数。
近刊予定『知られざる戦略航空偵察(仮)』。


 
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