配信日時 2020/08/24 08:00

【桜林美佐の「美佐日記」(89)】一期一会 学ぶことの多かった2年間の小郡生活

こんにちは、エンリケです。

一地方人として、心にしみる一文です。

さっそくどうぞ。


エンリケ


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今年4月に刊行された『自衛官が語る災害派遣の記
録』に続く、第2弾『自衛官が語る海外活動の記録』
(桜林美佐監修・自衛隊家族会編)が発売されてい
ます。中東シーレーンの安全確保をめぐって新たな
自衛隊派遣が行われているこの時期にタイミングを
合わせたような出版です。現地で自衛官たちが何を
思い、どのような苦労をして、任務をこなしてきた
か、25人の自衛官のリアルな体験記です。

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桜林美佐の「美佐日記」(89)

一期一会 学ぶことの多かった2年間の小郡生活

桜林美佐(防衛問題研究家)

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 おはようございます。桜林です。「男もすなる日
記といふものを、女もしてみむとてするなり」の
『土佐日記』ならぬ『美佐日記』は令和2年8月の
今回で89回目です。

「お盆」というのは、私にとって、人がいなくなっ
て街がカラッポのようになる期間のことだと思って
いましたが、地方においては全く逆で、盆と正月は
人が増える時です。

 当たり前ではありますが、子供の頃から「お盆=
どこも空いている」と、インプットされていたため、
初めて九州で迎えたお盆とお正月には驚いたことを
思い出します。

「思い出す」という言葉を使わざるを得ないのは、
今年は、ご多分に漏れず、九州も通常のこの時期に
比べて人の姿はずいぶん少なかったからです。
 
 福岡の中心部のほうに車で行くと、それでも他県
ナンバーが見られ、帰省して来た人もけっこういた
ようですが、田舎に行くほど帰省とみられる人は少
なかったように見受けられました。
 
「帰って来ないで」と、お子さんやお孫さんに言っ
たんだと多くの方から聞きました。自分を守りたい
のではなく、隣近所に高齢者が多いことや、日頃は
いない若い人が来ていると目立つので、いかにも非
常識な家だということになるからでしょう。
 
 どうしても事情があって帰って来た息子夫婦の、
車を納屋に隠したとか、そんな話もありました。
 
 また、感染者が立て続けに出たある自衛隊部隊で
は、隊員のお子さんが病院の受診を断られたり、神
社にお祓いを依頼したところ「コロナが収まってか
ら来てくれ」(!?)と言われたとのこと。
 
繰り返し書いてきたように、地方は非常に厳しい環
境です。
 
 もちろん、辛いだけのことに終わらせず、自衛隊
を応援してくれる人々を大いに巻き込んで(という
表現は些か乱暴ですが)、一緒に対応策を練ってい
くことで、さらなる関係強化につなげるチャンスに
できたらいいと思います。
 
 現在、防衛省では全国の自衛隊員に対し、宴会は
言うまでもなく、飲酒を伴う業務の打ち合わせなど
の会合についても実質禁止する通達を出しています。
 
 これも繰り返しになりますが、自衛隊という組織
はまさに一期一会で「その時」そこにいるメンバー
は二度とない、好む好まざるにかかわらず、そこに
いる人は共に戦わなくてはならない「戦友」です。
 
その仲間同士が膝を突き合わせて杯を交わすことも
できないなんて・・・。
 
 同時に防衛省は、キャバクラやクラブの利用や宴
会参加を「厳に慎む」よう求めています。
 
自衛官なんだからキャバクラなんて行かなくてい
い、などと言う人はこの日記の読者の皆さんにはい
ないとは思いますが、自衛官は普段からノリのびし
っと入ったシャツを着て、折り目正しくあるべしな
どと言う人がいたらそれは軍の本質を知らない人。
 
 インテリ風コメンテーターや年端のいかないタレ
ントが「慰安婦なんてひどいこと許せない!」など
とテレビで言っているようですが、反吐が出ますね。
世の中、きれいごとだけでは成り立ちません。
 
これから先、隊員さんたちの発散する場所をどうす
るのかは、しつこいようですが、真剣に考えなくて
はならないのではないでしょうか。
 
因みに、コロナ感染で入院していた方には、年齢も
若く軽症ではあったものの、味覚・嗅覚の異常が
1か月近く続いている、あるいは頭痛や倦怠感がず
っと取れないケースもあるようです。こうした後遺
症まで考慮すると、やはり、コロナの影響は甘く見
てはいけないと思います。危機管理組織においては
なおさらのことです。
 
 そんな中、私は先日、大分県日出町(ひじまち)
にあるトラピスト(男子)修道院を訪ねて来ました。
 
別府湾を見下ろす山の上で、人の気配はしません。
売店があって修道院で作っているクッキーなどのお
菓子やグッズがたくさん並んでいるのですが、販売
する人はおらず、ブザーを押して出てきてもらうと
いうシステムです。
 
 ここは十文字原演習場のすぐ傍にあることから、
陸上自衛官の間では知る人ぞ知る修道院です。
 
その昔、レンジャー訓練に耐えかねてここに逃げ込
んだ隊員さんがいて、たくさん食べさせてもらった
のだとか(自衛官の皆さん、決してマネしないで下
さいね 笑)。
 何より驚いたのは、掲示されていた「修道院での
生活」です。
 
 0330に起床し、20時の就寝まで、食事以外
は労働と祈り、黙想の繰り返しです。
 
労働というのも、写真で見ると、クッキー製造だけ
でなく施設部隊さながらの土木作業もあり驚かされ
ます。
 
「世界平和と、皆様の幸せのために、『祈れ、働け』
の生活を送っています」ということですが、容易に
できることではありません。
 
わが国では天皇陛下の祈りに絶大な力を得つつ、他
にもこうした様々な祈りによって支えられているの
だなあと、改めて感じるものでした。
 
 コロナの影響で修業僧さながらの生活になりつつ
ある自衛隊で、何か参考になることはないのか考え
てみましたが、日課に頻繁に組み込まれている「黙
想」の活用はありかもしれませんね・・。
 
さて、そうこうしているうちに、とうとう私は2年
間暮らした福岡県の小郡を去ることになってしまい
ました。
 
 ほとんど佐賀県との県境でしたので、福岡佐賀と
あえて書きますが、福岡佐賀の土地に馴染んだがた
めに、あまりにも悲しくなってしまい、口に出して
人に言うことも憚(はばか)れました。
 
 土地の人々と親しくなればなるほど「実は・・
私・・・・月に帰らなければならないんです!」と
言わねばならなかった「かぐや姫」の心境になって
しまい(妄想がひどいです)、ひとりでオロオロ泣
いていました。
 
そして「よかったね」と言われることが一番、辛い
です。
 
 転居先は埼玉県で、東京にほど近いことから、多
くの人が「東京=良い」という感覚を持っているこ
とが、改めて分かり非常に残念な気持ちです。
 
 東京こそが良い所というものは幻想であり、本来
は間違っています。
 
 九州で暮らして実感できました。もちろん、東京
には色々な利点がありますが、あらゆる地方に優位
性を持っているという勘違いはもうやめたほうがい
いと思います。
 
 そもそも「東京に来られてよかったね」などとい
う言い方は、地方をバカにしていますよね。
 
 かぐや姫も「月に転勤おめでとう」なんて言われ
て嬉しいはずはありません。
 
 ドラマの「半沢直樹」も言っていましたが、「ど
んな所にいても、自分の仕事にプライドを持って
日々奮闘し、達成感を得ている人のことを本当の勝
ち組という」と、私も思います。
 
 熱中症必至の37度以上もある中で、おばあちゃ
んたちが田んぼに出て草むしりをしています。朝早
く、そして日没の直前までです。
 
 大雨の時に田んぼを見に行くなんて、以前は危な
いのになぜそうするのかと疑問に思っていました。
 
しかし、ここに来てみると、これらの行動は全く理
解できるものだと分かりました。それぞれの責任感
があったのです。
 
 非常に学ぶことが多かった小郡生活でした。本当
にありがたいことでした。どこに行っても「派遣さ
れる」気持ちで、与えられた場所での働きをしたい
と思っています。


<おしらせ>
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いる「国防ニュース最前線」、今週も伊藤俊幸・元
海将に解説をして頂き、私はリモート出演です!

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(さくらばやし・みさ)



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【著者紹介】
桜林美佐(さくらばやし・みさ)
昭和45年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒。フリ
ーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を
制作。その後、国防問題などを中心に取材・執筆。
著書に『奇跡の船「宗谷」─昭和を走り続けた海の
守り神』『海をひらく─知られざる掃海部隊』『誰
も語らなかった防衛産業[改訂版]』『武器輸出だ
けでは防衛産業は守れない』『防衛産業と自衛隊』
(いずれも並木書房)、『終わらないラブレター─
祖父母たちが語る「もうひとつの戦争体験」』(PH
P研究所)、『日本に自衛隊がいてよかった』(産
経新聞出版)、『ありがとう、金剛丸─星になった
小さな自衛隊員』(ワニブックス)。月刊「テーミ
ス」に『自衛隊密着ルポ』を連載。


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謝しています。
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に、心から感謝しています。

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