配信日時 2020/08/21 08:00

【自衛隊・熱砂のイラク派遣90日(4)】「クウェートに到着!」 藤井岳

こんにちは、エンリケです。

藤井岳さんの、
「熱砂の自衛隊イラク派遣90日」
の四回目です。

実に丁寧な描写です。
当時の現地の様子が、
匂いとともに伝わってきますね。

わが自衛隊の緑の制服は現地で目立つ存在だった
というのも実に興味深いところです。


ご意見・ご感想は、
コチラから ↓
https://okigunnji.com/url/7/


さっそくどうぞ


エンリケ


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
新シリーズ!

自衛隊・熱砂のイラク派遣90日(4)

クウェートに到着!

藤井岳(ふじい・がく)(元陸自2曹)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

□はじめに

 先日、初めて読者の方から届いたメルマガの感想
メールを拝見致しました。とても嬉しいもので、執
筆のモチベーションも高くなります。今後ともよろ
しくお願いいたします。


ご意見・ご感想は、
コチラから ↓
https://okigunnji.com/url/7/


▼熱砂の地、中東へ

 青森空港を離陸してからは窓の外をボーッと眺め
たり、眠ったりの繰り返しだった。窓の外、地上の
方を見ると、明かりがポツポツと点っている。街や
集落も見えた。時間からして、その場所が日本では
ないのは明らかで、ここはどこの国だろう? いま
どのあたりを飛んでいるのだろうと考えるのは楽し
かった。何せ生まれて初めて国外に出たのだから。

 イラクに着けばこんなにリラックスできることも
ないだろう。機内にいる数時間だけでもリラックス
しておきたい。窓の外が漆黒の闇に染まり、それま
で見えていた明かりも見えなくなると、シェードを
降ろした。機内食を食べると眠気を覚えたので、座
席に深く腰をかけ、目を閉じた。

 何時間眠っただろうか。誰かのささやくような声
で目が覚めた。前方を見ると、シェードの開いてい
る窓がいくつかあり、それらから日光が機内に差し
込んでいた、シェードを上げる。すぼめていた目を
開き、外の景色を見ると……。

「おお……」

 自然と声が出る。

 見渡す限りの青と黄土色。地上には砂漠が広が
り、空は綺麗な青空だった。

 ほかの隊員たちも皆起きて窓の外を見ている。

「もう少しで着くらしい」隣の席の隊員が私に声を
かけた。
「いよいよですね」
「もう少しって言っても、あと1、2時間くらいは
かかるようだけど」

 私は再び窓の外を見た。もうこんなところまで来
たんだな……。

 そのうち、窓から海が見え、市街地も見えるよう
になってきた。飛行機も高度をかなり落としている。

(ここがクウェートだろうか……?)

 近代的なビルや高層住宅が並び、その間を広くま
っすぐな道路が何本も通っている。市街地の外側に
は砂漠が広がっていた。

 見るものすべてが珍しく、窓の外を眺めてばかり
いたら、飛行機はあっという間にクウェート国際空
港に着陸した。

 飛行機は時間をかけてタキシングし、ターミナル
とは離れた場所に駐機した。

 派遣隊の幹部が降機要領について説明する。

 いよいよ中東の空気を吸えるのだ。
「外、50度だってさ」
 誰かの声で皆が一斉に声を上げた。
「マジかよ……」

 前の席の隊員が次々と立ち上がり、機の前方へと
進んで行く。私も立ち上がり、列に加わった。乗降
口が見えた。皆、次々と降りていく。私の番だ。タ
ラップに進む。

 まぶしい。日光に目をすぼめた途端、乾いた熱気
が喉を通った。そして熱気が体を包む。湿気は感じ
られない。どこかで感じたような感覚……そう、サ
ウナだ。クウェートの空気はサウナそのものだった。

(これが中東の熱気……この中で任務につくのか?
 こんな暑さのなか、フル装備でいたらすぐ熱中症
になっちまうぞ)タラップを降りながらそんなこと
を考えた。

 駐機場を歩く。目の前に観光バスが数台並んでい
た。乗車の指示が出る。車内のすべての窓のカーテ
ンが閉じられていた。エアコンは入っているようだ
が、効きがあまりよくなく、快適とは言いがたかっ
た。また移動か。少し、静かな涼しい場所で休みた
い。

 世界有数の暑さの洗礼を受けながら、私は連続で
の移動に少々うんざりした気分でバスに乗り込んだ。

▼キャンプ・バージニア

 クウェート国際空港から40~50分ほどの道程
だったと記憶している。アメリカ軍の宿営地「キャ
ンプ・バージニア」に到着した。警備態勢の秘密保
持のためか、カーテンを開いて外を見ることは禁止
された。

 ゲートと思われる場所からも数十分かけてバスは
走り続けた。相当広大なキャンプのようだった。

 ようやくバスが停車し、降車する。相変わらずの
きつい日差しのなか、眼前には大型の天幕がいくつ
も並んでいる。足下をみると、地面は砂浜の砂のよ
うな、サラサラした砂だった。

 ここで数日間、サマーワ移動までの移動準備や各
種訓練を行なう。

 指示された天幕に入る。中には照明もあり、簡易
ベッドがたくさん並んでいた。100名ほど収容で
きるという。キャンプ・バージニア滞在間はここで
寝泊まりする。何よりありがたかったのは、巨大な
エアコンが天幕に接続されており、常に涼しかった
ことだ。送風口は人が入れそうなほど大きく、冷風
が常時勢いよく吹き出しており、送風口に近いベッ
ドで寝泊まりした隊員は快適どころか逆に寒すぎて
寝られず、毎晩毛布にくるまって寝たという。

 食事はキャンプ・バージニア到着後、何度かアメ
リカ軍のレーションを天幕内で食べたが、食堂での
喫食が可能になってからは1日3食、食堂で食べ
た。宿泊している天幕からやや離れており、徒歩で
10分ほどかかった。

 風が強い日は砂が舞うので、野外での移動はブー
ニーハット、ゴーグル、バラクラバ(首から口、鼻
を覆う筒状の布)は必需品だ。

 食堂に着いてもすぐに入れることはまれだった。
たいてい待機の長い列ができていた。我々自衛隊だ
けではなくアメリカ軍をはじめ、キャンプ・バージ
ニアに集結している多国籍軍、各国部隊の兵士たち
が同じ時間帯に食堂に集まるからだ。これは日本で
もよく見られる光景で、自衛隊の駐屯地や基地の隊
員食堂で喫食待ちの列ができるのはよくあること
で、慣れたものだった。

 列中で待っているのが退屈なのはどこの国の兵士
も同じなようで、国籍を超えて世間話をする光景が
よく見られた。私は英語を話せたので、時々他国の
兵士と会話した。多国籍軍のほとんどの兵士が砂漠
迷彩の戦闘服を着用しているなか、緑系の通常迷彩
の戦闘服を着用している自衛隊員はここでは特に目
立ち、他国の兵士から話しかけられたり、一緒に写
真をとらないか、と言われたりすることも多かっ
た。これは食堂に限らず、売店など、ほかの場所で
も同様であった。

 食堂はビュッフェ形式で、入口でプラスチック製
の使い捨てトレイとフォークを受け取った後、主食
を配食係から盛ってもらい、副食は自分の食べたい
ものを好きなだけ取ることができた。料理の種類も
非常に豊富で、食事はキャンプ・バージニア滞在間
の楽しみのひとつとなった。ただし、高カロリーの
食事ばかりで体重が少々気になった。

 配食員は兵士ではなく、アメリカ軍に雇われてい
る一般人と聞いた。彼らの外見から国籍まではわか
らなかったが、ほとんどは中東地域の人たちのよう
であった。フライドポテトの配食係は「イモ! イ
モ!」と連呼しながら盛ってくれ、自衛隊員には人
気だった。おそらく1次隊か2次隊の隊員が教えた
のだろう。

 食堂の有名人でもう1人思い出すのは「ゴンザレ
ス軍曹」だ。食堂内には少数のアメリカ兵が常駐し
ており、配食係の管理指導や軽作業をしていたのだ
が、ゴンザレスはその中の1人。ふて腐れたような
表情で椅子にふんぞり返って座り、プラスチックト
レイを並べるだけ。ほぼ毎日、ゴンザレスは食堂の
入口横に座って同じ仕事をしていた。一度「おはよ
うございます、軍曹」と挨拶をしてみたのだが、彼
は私を見ることもなく、いつも通り、ただ投げるよ
うにトレイを並べていた。

 当然とでもいおうか、浴場はなく、代わりにプレ
ハブのシャワールームがあり、一日の体の汚れはそ
こで落とした。洗面所もあり、洗顔もできる。ここ
も共用となっており、朝、起床後や訓練や勤務が終
了する夕方は各国の兵士たちで常に混雑していた。

 トイレは可搬式のものが至る所にあった。日本の
工事現場などで見かける型より大きく、使い心地は
悪くないのだが、内部はとにかく暑い。当然冷房は
なく、即座に用を足さないと汗びっしょりになる。
清掃はされず、汚水タンクが溜まれば交換している
ようだった。そのため、汚れのひどいトイレも多く、
何とか使える所を探してキャンプ内を歩きまわるこ
ともあった。あるトイレは内側の壁が真っ黒で、よ
く見たら油性ペンで書かれた各国兵士の落書きとい
うこともあった。小学生並のレベルの低い落書き
で、他国部隊の悪口や意味不明の言葉が様々な言語
でそこら中に書かれていた。

 水の無駄使いを避けるためか、トイレの周囲に水
道はなく、その代わりに消毒ジェルのディスペンサ
ーがあり、それで手を洗った。しかし、そのディス
ペンサーすら空になっていることも多く、自腹で消
毒ジェルや消毒液を購入して使うことも多かった。


(つづく)



(ふじい・がく)


藤井さんへのメッセージ、ご意見・ご感想は、
このURLからお知らせください。

https://okigunnji.com/url/7/


 
【著者紹介】

藤井岳(ふじい・がく)ペンネーム
1979年岩手県一関市生まれ。1996年自衛隊生徒とし
て陸上自衛隊入隊。少年工科学校へ入校。卒業後機
甲生徒課程を経て第9戦車大隊(岩手)で戦車乗員
として勤務。2004年第3次イラク復興支援群に参加、
イラク・サマワにて任務に就く。2005年富士学校
(富士)に転属。機甲科部で助教として戦車教育に
従事。2008年退職。フリーランスフォトグラファー
として活動を開始。自衛隊航空部隊の撮影、取材に
取り組む。2015年から「PANZER」誌で執筆開始。そ
の後「丸」「JGROUNDEX」「JWings」などで写真や戦
車に関する記事を発表。現在に至る。



▼きょうの記事への、あなたの感想や疑問・質問、
ご意見は、ここからお知らせください。
 ⇒ https://okigunnji.com/url/7/


 
PS
弊マガジンへのご意見、投稿は、投稿者氏名等の個
人情報を伏せたうえで、メルマガ誌上及びメールマ
ガジン「軍事情報」が主催運営するインターネット
上のサービス(携帯サイトを含む)で紹介させて頂
くことがございます。あらかじめご了承ください。
 
PPS
投稿文の著作権は各投稿者に帰属します。
その他すべての文章・記事の著作権はメールマガジ
ン「軍事情報」発行人に帰属します。
 
 
最後まで読んでくださったあなたに、心から感謝し
ています。
マガジン作りにご協力いただいた各位に、心から感
謝しています。
そして、メルマガを作る機会を与えてくれた祖国に、
心から感謝しています。ありがとうございました。


 
●配信停止はこちらから
https://1lejend.com/d.php?t=test&m=example%40example.com
 
 
----------------------------------------------
発行:
おきらく軍事研究会
(代表・エンリケ航海王子)
 
メインサイト
https://okigunnji.com/
 
問い合わせはこちら
https://okigunnji.com/url/7/
 
 ---------------------------------------------

Copyright(c) 2000-2020 Gunjijouhou.All rights reserved