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自衛隊警務官(36)
陸軍憲兵から自衛隊警務官に(36)
宣誓解放について
荒木 肇
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□はじめに
MMさま、いつもご愛読ありがとうございます。
わが国の伝統にはない捕虜の宣誓解放についてのご
指摘、まことに正鵠(せいこく)を得るという気が
しました。戦争をスポーツととらえる西欧文化につ
いては「戦争と人間の風土」(1967年)で、す
でに鯖田豊之氏が指摘しているところです。その中
に印象的なシーンがあります。
トルストイはその大作『戦争と平和』の中で、ア
ンドレイ公爵に次のように語らせています。「戦争
を無くすには捕虜を皆殺しにすることだ」、そうす
れば人は戦争の無残さに気付いて戦争をおぞましい
ものと見るようになるだろうというのです。
ということは少なくともナポレオン戦争(19世
紀初め)の時代には、捕虜は殺されないものという
通念があったのではないでしょうか。ただし、それ
は昔なら名のある騎士、や士官、将校、貴族階層の
間での合意でもあったようです。今回は、MMさま
のご指摘にあるように、日本と西欧の戦争文化の違
いに目をつけて調べてみましょう。
▼「名誉の誓い(Parole of Honor)」は紳士のみ
MMさまがご指摘の通り、18世紀から19世紀
にかけて英仏戦争が起こり、架空の人物であるが英
国海軍士官H.Hornblowerなどもスペインの捕虜と
なり、宣誓を拒否して牢獄生活を送っていた。どう
やら17世紀の初頭には、宣誓解放について文献に
存在すると吹浦氏も指摘されている。
宣誓解放というのは、捕虜が一定期間、抑留する
権利のある国への敵対行為をとらないという制約を
し、身柄の拘束を逃れることをいう。Paroleという
のは、ふつう「仮出所」と訳される。ところが19
世紀の軍事英語では「名誉にかけて召還命令に応ず
るという約束」になるそうだ。一定期間というの
は、交戦各国が戦闘行為を止めたとき、あるいは正
式な捕虜の相互交換が行なわれる時までである。
宣誓解放は長い間、将校の捕虜にのみ行なわれて
いたらしい。軍隊指揮権をもたない士官である経理
部、衛生部士官はもともと捕虜にはならない。将校
の捕虜だけに許されたというのは「将校は紳士であ
る」「紳士は約束を守る」「名誉を大切にする」と
いう通念があったせいである。例外は日露戦争でも
あった宣誓した将校の従卒は一緒に解放されたこと
だろう。これもまた身の回りの世話をする従卒は、
将校が体面上、これを必要とすることからだ。
▼宣誓破りは起き得たか
吹浦氏はその『捕虜の文明史』の中で18世紀の
国際法学者ヴァッテルの言葉を紹介している。「将
校が捕虜となった場合にはヨーロッパ人としての名
誉と人道主義により宣誓のもとに帰還を許され家族
とともに生活できるが、宣誓したことにより、あた
かも鎖で縛っておくのと同じくらいまったく確実に
その戦闘能力を抑えつけられていた」
1793年といえば、フランス革命で国王が断頭
台の露に消えた年だ。それ以前は、宣誓捕虜が再び
武器をとって戦闘に加わることは極めて稀だったと
いう。そんなことをすれば「宣誓破り」といわれ
て、社会的生命を断たれたらしい。わが国流でいえ
ば、「村八分」である。
ところがフランス革命戦争やアメリカ独立戦争か
ら軍隊が変わってきた。紳士、ほぼ貴族と重なった
階層からではなく、庶民出身の将校が生まれてきた
のだ。すると、それまでのモラルとは事情が変わっ
てくるのは仕方なかった。
それでも1864年の最初のジュネーブ条約に
は、第6条に負傷して敵側に捕獲され、その治療を
受けた者のうち、治療後にも兵役に堪えずと認めら
れた者はその本国に送還すべしとされていた。ま
た、そうでなくとも宣誓を行なった者も本国に送還
されることとした。
▼宣誓は強要できない
西欧的価値観、すなわち「神」や「良心」といっ
た存在に依るものが捕虜の宣誓解放といえるだろ
う。わが国では、これは馴染むものではなかった。
ただし、日清戦争(1894~5年)では、捕虜の
釈放が行なわれていたと吹浦氏は教えてくれる。
澎湖島(ほうことう)の占領時である。清軍が出
した捕虜は54名だった。このうち8名の将校を除
いた下士兵卒46名を釈放した。再び武器を執らな
い、日本国人に抵抗しない、良民から略奪しないと
誓った者たちである。その他にも、588名の中で
将校12名は拘束して、下士兵卒576名を解放し
ている。
ただ、この将校の拘束を解かない。つまり戦力と
して下士兵卒は大したことがないから解放したとい
うのは、西欧流とはまったく違うものだ。釈放した
下士兵卒には虐待も労役もさせずに、食糧まで与え
ていたというのだから、まさに人道的である。
海軍の捕虜の扱いについても書かれている。18
95(明治28)年2月17日には、聯合艦隊司令
長官伊東祐享(いとう・ゆうこう、1843~19
14年)司令長官と、清国北洋艦隊代表によって降
伏締約書の調印が行なわれた。清国海軍将兵308
4名、陸軍将兵2040名が降伏した。残存艦艇の
乗員と、根拠地威海衛軍港の守備隊員である。
海軍はこのうち、海軍83名、陸軍40名の将校
は全員が宣誓を強要されて釈放された。しかし、こ
れは吹浦氏の指摘通り、正しい宣誓解放のやり方で
はなかった。「陸戦法規」や「捕虜条約」では、宣
誓を強要してはならないとされている。
のちの大東亜戦争(1941~45年)では、日
本陸海軍の将兵の中で宣誓解放を受けた者など1人
もいなかったのだ。
(以下次号)
(あらき・はじめ)
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●著者略歴
荒木 肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、同
大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。日露
戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸海軍
教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を行な
う。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『(仮)
警務隊逮捕術(近刊)』(並木書房)がある。
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