こんにちは、エンリケです。
あなたは、
当初はロシアが、そして近年は中共が
「ハイブリッド脅威」を及ぼす主体として
認知されつつあることをご存知ですか?
きょうからスタートする新連載
「ハイブリッド戦争の時代」は、
名前だけはよく聞く
「ハイブリッド戦争」について、
「ハイブリッド戦争」とは何なのか?
それは私たちの生きる時代にどのような
影響を与えているものなのか?
といったことを考えてゆく連載です。
曖昧模糊とした
「ハイブリッド戦争」への
的を射た正確で深い理解を持つ日本人になり、
わが抑止力を高めましょう。
ご意見・ご感想をお待ちしています。
コチラからどうぞ
↓
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さっそくどうぞ
エンリケ
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新シリーズ!
ハイブリッド戦争の時代(1)
「テロとの戦い」から生まれた「ハイブリッド戦争」
志田淳二郎(国際政治学者)
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□はじめに
このたびメルマガ「軍事情報」の常連ライター
で、インテリジェンス研究家の山中祥三さんのご紹
介で、「ハイブリッド戦争の時代」を連載する機会
を得ました国際政治学者の志田淳二郎です。よろし
くお願いいたします。私は、日本、アメリカ、ヨー
ロッパの大学・研究機関で国際政治を研究してきま
した。もともとは「冷戦」(Cold War)の研究をし
ており、現在では、国際安全保障問題としての「ハ
イブリッド戦争」(Hybrid War)の研究をはじめて
います。
「ハイブリッド戦争」というと、「ハイブリッド」
(=複合、混合)という言葉があることから、なに
か色々な要素が組み合わさった戦争なのかなと一般
的にイメージされることが、よくあります。この言
葉が有名になったのは、ロシアがウクライナからク
リミア半島を奪取し、ロシアに併合した2014年のク
リミア危機です。クリミア半島を併合するときに、
ロシアは記章をつけていない武装集団(little
green men)や現地の親露派勢力などの非国家主体
を動員し、政治的・経済的圧力、さらにはサイバー
攻撃も織り交ぜながら、作戦を遂行しました。まさ
に「ハイブリッド」な作戦でした。
それ以降、「ハイブリッド戦争」という言葉がに
わかに登場し、日本でも次第に語られはじめるので
すが、「色々な要素が組み合わさった戦争は、古
代、中世からすでに存在していたから新しいもので
はない」「こうした作戦はロシアの伝統芸だ」「孫
子の兵法にも似たようなことが書いてある」といっ
た声も少なからず聞こえてきます。こうした主張は
どれほどまで適切なのでしょうか? 「ハイブリッ
ド戦争」を研究してきた国際政治学者として、「ハ
イブリッド戦争」とは何なのか、それは私たちの生
きる時代にどのような影響を与えているものなのか、
について、皆さんと一緒に考えていきたいと思いま
す。
▼すでにヨーロッパで発生している「ハイブリッド戦争」
2020年7月14日、日本政府は『防衛白書』(令和2
年版)を公表しました。表紙が桜色の、とても綺麗
な『防衛白書』です。第1章「概観」では、日本を取
り巻く現在の安全保障環境の特徴として、政治・経
済・軍事にわたる国家間競争が顕在化しているとの
現状認識が示された後、国家間競争においては、
「ハイブリッド戦」が採られることがあるとの指摘
が続きます。日本の『防衛白書』のはじめのページ
から「ハイブリッド戦」という言葉が登場している
のです。ちなみに、令和元年版の『防衛白書』か
ら、こうした傾向が続いています。
このことはとても意義深いものです。なぜなら、
それまでの『防衛白書』では、ロシアのクリミア
併合に代表される現状変更の国家行動を記述する際
に「ハイブリッド戦」が言及されるにとどまってい
たからです(たとえば平成29年版)。ところが、直
近2年間の『防衛白書』では冒頭のページから、日
本を取り巻く安全保障環境の特徴として「ハイブリ
ッド戦」が紹介されているのです。私たちは、すで
に「ハイブリッド戦争の時代」に突入しているので
す。
日本が、「ハイブリッド戦」の遂行者として想定
しているのは、『防衛白書』で名指しこそされてい
ませんが、中国であることに疑念の余地はありませ
ん。日米の安全保障関係者の間では、中国が日本に
しかける「ハイブリッド戦」として、沖縄県・尖閣
諸島に謎の武装漁民(little blue men)が上陸し、
彼らが中国海警局や中国海軍の支援を受け、尖閣周
辺の現状変更をしたときに、自衛隊や米軍はどう対
処するか、が大きなトピックになっています。
実は、日本のみならず、軍事と非軍事の境界を意
図的に曖昧にした現状変更の手法としての「ハイブ
リッド戦争」は、とりわけヨーロッパ各地ですでに
発生しています。2014年のウクライナ危機以降、当
初はロシアが、そして近年は中国が「ハイブリッド
脅威」を及ぼす主体として認知されつつあります。
そのことを皆さんはご存知でしょうか。
私たちは、まさに今、「ハイブリッド戦争の時
代」を生きているのであり、この新たな国際安全保
障問題についてしっかりと理解しなくてはなりませ
ん。
▼「レジリエンス抑止」とは?
本メルマガでは、欧米を中心に蓄積の進む「ハイ
ブリッド戦争」についての理論研究から、実際に起
きている事例を数多く紹介し、「ハイブリッド戦争」
についての理解を深めていくことを目的としていま
す。
今後のメルマガでも触れることになりますが、
「ハイブリッド戦争」に対抗するための一手段とし
て、欧米では「レジリエンス抑止」という概念に注
目が集まっています。「レジリエンス」とは、「社
会の強靭性」のことを指します。具体的には、自国
経済の強化、サイバーネットワークなどの重要イン
フラ強化、エネルギー源の多様化、虚偽情報(ディ
スインフォメーション)に迅速かつ効果的に対処す
る戦略的コミュニケーション機能の拡充などが想定
されています。
「レジリエンス抑止」というアイデアは、攻撃側
に「ハイブリッド戦争」を仕掛けても得られる利益
は少ないと認識させ、攻撃の誘因を低下させるとい
う点で、伝統的な「拒否的抑止」にカテゴライズす
ることができます。要するに、「そちらが攻撃をし
かけても、成果を上げることはできないから、こち
らへの攻撃を止めた方がよいよ」という抑止の考え
方です。
「ハイブリッド戦争」に対抗するためには、何よ
りも社会全体が強くならなければいけません。そう
であるなら、「ハイブリッド戦争」について、国民
一人一人がしっかりと理解することそれ自体が、
「ハイブリッド戦争」に対する社会の「レジリエン
ス抑止」の能力を高めることに直接つながることに
なると、私は確信しています。
▼アメリカ海兵隊の研究から生まれた「ハイブリッド戦争」
ここまで「ハイブリッド戦争」という言葉を多用
してきましたが、「ハイブリッド戦争」という用語
がどのような背景で生まれてきたか、そして用語の
もともとの定義について考えてみたいと思います。
「ハイブリッド戦争」は、2014年のクリミア併合以
降、実務家や研究者の間で急速に参照されるように
なりましたが、実は、ハイブリッド戦争に関する初
期の研究は、2000年代半ばから、アメリカ海兵隊内
部で行なわれていました。
当時のアメリカにとって、質量ともに圧倒的優位
に立つ米軍がタリバーン、アルカイーダなどの非国
家主体を相手にした戦闘に苦しめられるアフガニス
タン戦争やイラク戦争の現実に対応することが課題
でした。実際「テロとの戦い」でアメリカは中東に
関与しっばなしの状況が何年も続きました。この課
題に取り組むべく、2005年から、退役アメリカ海兵
隊中佐ホフマンと第1海兵師団長としてイラク戦争の
実戦を指揮したジェームズ・マティスは共同研究を
はじめました。マティスはトランプ政権の国防長官
(2017年1月~2019年1月)として日本でも話題にな
りました。2007年にホフマンは『21世紀の紛争―ハ
イブリッド戦争の台頭』(未邦訳)を発表しました。
ホフマンは、ハイブリッド戦争を国家・非国家主
体双方がかかわるものであり、「(その範囲は)通
常能力、非正規戦術形態、無差別暴力や強制を含む
テロリスト、犯罪、秩序攪乱行為など様々な形態に
及ぶ」と定義しました。ホフマンは、こうした特徴
を持つハイブリッド戦争の雛型として、レバノンを
中心に活動するシーア派主導のイスラーム国家樹立
を目指す非国家集団ヒズボッラーとイスラエル軍の
間で戦われた第二次レバノン戦争を挙げました。
2006年7月12日から9月8日までの戦闘で、ヒズボッ
ラーは旧ソ連製自走式多連装ロケット砲「カチュー
シャ」、ロシア製携帯式対戦車ロケット擲弾発射機
「RPG-29」「AT-13Metis」「At-14Kornet」、イラン
製攻撃型・無人航空機「Mirsad-1」「Ababil-3
Swallow」、さらにはC-802対艦巡航ミサイルなどを
使用し、イスラエル軍を苦しめました。練度が高く、
装備も充実しているイスラエル軍が戦った相手は、
これまた、多くの性能の高い兵器で武装した非国家
主体であり、彼らは様々な場所に出現し、同時多発
的攻撃をしかけ、イスラエル軍を苦しめたのです。
第二次レバノン戦争を教訓とし、相手が仕掛けて
くる「ハイブリッド戦争」にどう対応していくかが
米軍内部で大いに議論されました。やがて「イスラ
ーム国」(IS)との戦争に突入するアメリカでは、
ハイブリッド戦争という用語は、質量ともに圧倒的
優位を誇る米軍が、たとえば「ならず者国家」など
から武器供与その他の支援を受けて高性能の兵器で
武装した非国家主体による多方面での多様な手段を
用いた同時多発的攻撃にどう対応するか、に関する
作戦上の概念として参照されるようになったのです。
2007年のホフマンの研究は、2014年以降、クリミ
アの衝撃から「ハイブリッド戦争」を研究しはじめ
た欧米の実務家や研究者の間で広く参照される最重
要文献となりました(ちなみに、日本ではホフマン
の文献をきちんと参照している論者はあまりいない
ように思われます)。
今では、中国やロシアなどの軍事大国が、自国の
影響下にある非国家主体と協働し、「ハイブリッド
戦争」を遂行する主体として想定されていますが、
もともと「ハイブリッド戦争」が、「テロとの戦
い」に苦しむアメリカ海兵隊内部の研究から生まれ
た用語であることを、まずはしっかりと理解してお
きたいところです。
次回以降のメルマガで触れますが、ホフマンの研
究をベースに、2014年以降、EU(欧州連合)やNATO
(北大西洋条約機構)で「ハイブリッド戦争」の定
義が、より精緻化されていきます。「ハイブリッド
戦争」に対する理解を深める上で、言葉の誕生した
背景をまずは学んでいきましょう。
(つづく)
(しだ・じゅんじろう)
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【著者紹介】
志田淳二郎(しだ・じゅんじろう)
国際政治学者。中央ヨーロッパ大学(ハンガリー・
ブダペスト)政治学部修士課程修了、M.A. in
Political Science with Merit、中央大学大学院法
学研究科博士後期課程修了、博士(政治学)。中央
大学法学部助教、笹川平和財団米国(ワシントンD.C.)
客員準研究員等を経て、現在、東京福祉大学留学生
教育センター特任講師、拓殖大学大学院国際協力学
研究科非常勤講師。主著に『米国の冷戦終結外交―
ジョージ・H・W・ブッシュ政権とドイツ統一』(有
信堂、2020年)。研究論文に「クリミア併合後の
『ハイブリッド戦争』の展開―モンテネグロ、マケ
ドニア、ハンガリーの諸事例を手がかりに」『国際
安全保障』第47巻、第4号(2020年3月)21-35頁。
「アメリカのウクライナ政策史―底流する『ロシア
要因』」『海外事情』第67巻、第1号(2019年1月)
144-158頁ほか多数。
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