配信日時 2020/07/27 20:00

【戦略航空偵察(26)】「キューバ危機(2)」 西山邦夫(元空将補)

こんにちは、エンリケです。

「戦略航空偵察」二十六回目です。

キューバ危機時の航空偵察の話の2回目です。

実に面白いです。

世界の動きは、インテリジェンスの動きなしに
作れないしつかめない。改めてそう思いました。

情報史は、歴史の闇を照らし、
後世に生きるものが歴史から養分を得る核心になる。
改めてそう感じます。

きょうの内容は以下のとおりです

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□ご挨拶
 ▼U-2偵察機の撃墜
 ▼U-2、ソ連領侵入
 ▼核弾頭付きの空対空ミサイル
 ▼対処方策の検討
 ▼国防長官の回想
 ▼危機回避の裏
 ▼キューバ危機における航空偵察の限界
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さっそくどうぞ


エンリケ



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戦略航空偵察(26)

キューバ危機(2)

西山邦夫(元空将補)

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□ご挨拶

 キューバ危機が起きてからすでに58年が経過しま
した。この危機がどのようなものであったか、記憶
している人も少なくなったかも知れませんが、まさ
に核戦争への最大の危機だったと言えましょう。

 米戦略空軍はB-52爆撃機500機を常時在空させ、
ICBMは144基が特別警戒態勢に入り、戦術空
軍は1000機を米本土東南部へ移動させ、海軍は空母
8隻を集結させて戦いに備えました。その時、キュー
バにはすでに162個の核弾頭が搬入されていたのです。
そして、もし米軍がキューバ攻撃を開始すれば、核
で反撃するというカストロ首相の証言がありました。

 日本では好景気に浮かれ、植木等さんが「サラリ
ーマンは気楽な稼業ときたもんだ」などと歌い、危
機感の欠けた社会でした。

▼U-2偵察機の撃墜

 10月27日にU-2F 1機がSA-2対空ミサイルによっ
て撃墜され、パイロットのラルフ・アンダーセン少
佐は死亡しました。対空ミサイルはソ連軍の現地指
揮官の命令で発射されたのですが、この行為はフル
シチョフ書記の命令に反していました。

大統領、統合参謀本部、国家安全保障会議執行委員
会の3者は報復手段としてSA-2の排除を協議しまし
たが、大統領は待ったをかけました。おそらくこの
10月27日は最も緊張が高まった日であったと歴史学
者のスコット・セーガンは言っています。

▼U-2、ソ連領侵入

同じ時期、もう一つの危機がソ連の領空で起こって
いました。SACのU-2が偶発的にソ連の領空に侵入
した事象が発生していました。そのU-2はアラスカ
のイールソン空軍基地に所在する4080戦略偵察航空
団所属で、北極地域のソ連の核実験により発生した
放射線を帯びた物質の採集が目的でした。

キューバ危機が進行している時点でも、この採集飛
行は1日1回実施されており、パイロットたちはソ連
の領空から少なくとも100マイルは離れて飛行するよ
う命じられていました。10月26日の夜、チャール
ス・モルツビ少佐が操縦するU-2が基地を離陸
し、北極点上空を飛行するルートを飛ぶ予定でした
が、オーロラのため星の観測ができず、チュコット
半島の内陸に迷い込んでしまったのです(GPS航法
が可能になったのは1980年代)。

ソ連のMiG戦闘機がウランゲル島近くの基地からス
クランブルし、そのU-2を要撃しました。航法ミ
スを認識したモルツビ少佐はアラスカの米軍司令部
に無線連絡しました。司令部は速やかに東方に向か
って飛行し、基地に戻るよう指示した。作家のスコ
ット・セーガンの述べたところによれば、米空軍の
GAR-11空対空ミサイルを装備したF-102Aデルタ・ダ
ガー戦闘機がU-2を守るために発進しました。
GAR-11は核弾頭を持ったミサイルで、キューバ危機
の最中、核弾頭のミサイルを使うかどうかは、F-10
2のパイロットの判断に任されていました。

▼核弾頭付きの空対空ミサイル

 GAR-11はW54核弾頭(核出力:250 t)を搭載した
米空軍唯一の空対空ミサイルで、1961年に就役し、
F-102戦闘機に搭載された。のちにAIM-26と名称が
変更され、72年に退役しました。実戦で発射された
記録はありません。

この件に関して、ソ連の警報システムがU-2を戦
略爆撃機と誤認した可能性がありました。次の日、
フルシチョフ書記はその状況をもって、ケネディ大
統領に次のように抗議した。

「大統領閣下、我々はこの状況をどう見たらよろし
いのか、あなたの国の航空機1機が彼我ともに警戒レ
ベルを上げているこの危機的な時期に、我が国土に
侵入したことは単なる領空侵犯でしょうか。侵入機
が核爆弾を積んだ爆撃機だと見られても仕方のない
こと、それが致命的な結果に至るかも知れないので
す」
 
▼対処方策の検討

統合参謀本部のスタッフたちは、キューバへの侵攻
を含む軍事的な手段が採用されるだろうと考えてい
ました。この手段は、ソ連のミサイル配置はおそら
く米国への攻撃準備に違いないとの考えに基づいて
いました。空軍参謀総長のル・メイ将軍は最も強硬
な手段を主張した人物であり、キューバを爆撃し、
かつキューバに侵攻してミサイルを除去するべきだ
と大統領に進言しました。
 
▼国防長官の回想

のちに公表されたマクナマラ国防長官の回想によれ
ば、危機回避までの経緯は次のとおりです。

ケネディ大統領は、10月21日日曜日に2つの代替案
の最終レビューを予定していました。会議には、
ディーン・アチソンやジャック・マッコイなど、以
前の政権で奉仕した数人を含む、おそらく17~18人
が出席していました。大統領は、統合参謀本部議長
のマックス・テイラー将軍に、空爆と地上侵攻のシ
ナリオを提示するよう求め、そして大統領はマクナ
マラに、攻撃と海上封鎖について議論をするように
言いました。プレゼンテーションの後、大統領は参
加者たちにどの行動方針を支持するかを尋ねたとこ
ろ、大多数が攻撃を支持しました。

ケネディ大統領は、戦術航空司令官のウォルター・
スウィーニー将軍に目を向け、君の部隊がキューバ
に配備されているすべてのソ連ミサイルを破壊でき
ると確信できるか尋ねました。スウィーニーは、攻
撃は大規模になり、最初の日だけでキューバのミサ
イル・サイトに対する1080ソーテイの出撃が計画さ
れていると答え、さらにスウィーニーは大統領に次
のように述べました。

「私たちは世界で最高の空軍を持っています。しか
し、攻撃後も1つか2つのミサイルと核弾頭がまだ
機能している可能性があり、それが発射されないと
言えるでしょうか、大統領、それは言えません」

核弾頭がアメリカの都市で爆発し、前例のない数の
アメリカ市民が殺されるかも知れないリスクを責任
ある大統領が受け入れるだろうか、スウィーニーが
大統領に返事をした後、マクナマラたちは、とるべ
き行動は海上封鎖から始まるとすぐに感じました。
実際、キューバ周辺の封鎖ラインは、10月24日水曜
日の午前10時に発効しました。

▼危機回避の裏

危機はソ連がミサイル、爆撃機および関連装備を引
き上げるという協定に合意したことで収まりまし
た。低空の偵察飛行は11月中旬まで続けられ、SAC
のU-2の飛行は11月4日から再開され、63年の3月
までかなりの頻度で継続されました。

 著述家のリチャード・ロードは、ル・メイ将軍も
パワー将軍も米政府も、1989年まで本当の事実を知
らなかったと言い、次のような証言をしています。

「CIAの推定と違ってキューバ危機の起きた時点で、
ソ連軍は1発から3発のメガトンクラスの水爆と、
ワシントンDCまで届く20基の中距離弾道ミサイルを
キューバに配備しており、モスクワの命令で発射す
る態勢にあった。さらに7基の戦術核兵器が地域の
指揮官に運用が任されていた。のちに旧ソ連の将軍
は当時すでに162個の核弾頭がキューバに搬入され
ていたことを証言した。キューバに所在するソ連軍
人はCIA推定の1万人ではなく、4万3000人で、
もしソ連の戦域司令官がミサイルの発射を命じた
ら、数百万の米国市民が殺害されることになったで
あろう」

▼キューバ危機における航空偵察の限界

 米軍は、その総力を挙げてキューバに搬入された
とされる核ミサイルの偵察活動を行ないましたが、
その結果は正確だったとは言えません。ソ連とキュ
ーバの巧みな隠蔽が行なわれたこともありました
が、撮影された写真の分解能も満足できるものでな
かったと評価されています。キューバは雲に覆われ
る時が多く、肝心な時点で写真撮影することが難し
かったこともありました。当時は合成開口レーダー
(SAR)などの電子的な手段は開発されていませんで
した。


(つづく)


(にしやま・くにお)


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□著者略歴

西山邦夫(にしやま・くにお)
1936年生まれ。防衛大学校卒(4期・空)。
情報関係略歴:航空幕僚監部調査2課収集1班長、航
空総隊司令部情報課長、陸幕調査別室主任調整官、
航空自衛隊幹部学校主任教官。著書に『肥大化する
中国軍(空軍部分を執筆)』(晃洋書房、2012年)、
『中国をめぐる安全保障(空軍部分を執筆)』(ミ
ネルバ書房、2007年)。研究論文に『中国空軍の戦
力構成とドクトリン』『中国空軍のSu-30MKKとイン
ド空軍のSu-30MKI』『韓国空軍の増強と近代化』
『中露合同軍事演習』『中国の主要航空兵器の装備
化実績と将来予測』『中国空軍の戦力とドクトリン』
『チベットにおける中国の軍事態勢整備』など多数。
近刊予定『知られざる戦略航空偵察(仮)』。


 
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