配信日時 2020/07/16 20:00

【ライター・渡邉陽子のコラム (286)】  ― ゆうべつ最後の観艦式(4)―

こんにちは、エンリケです。

286回目となる
「渡邉陽子のコラム」は、
「ゆうべつ最後の観艦式」の第四話です。

きょうも
実に面白いです。

冒頭文にある悩みを共有するものです。

なるべくそれをやる機会を増やすよう意識しています。
あなたはどうですかね。

あなたの体験談やご感想もお寄せください。
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さっそくどうぞ


エンリケ


追伸
東京五輪は一年延期されました。
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』
を読んで、来年に思いを馳せます。
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「ライター・渡邉陽子のコラム」バックナンバー
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『ライター・渡邉陽子のコラム (286)
 ―ゆうべつ最後の観艦式(4)―

         渡邉陽子
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こんばんは。渡邉陽子です。
文字を書くという行為が手書きから打ち込みに完全に代わって約20
年。ここ数年切実に感じているのは、「字が下手になった」という
ことです。ペンを持っても筆圧がうまくコントロールできなかった
り、ペンを持つ手に必要以上に力が入ってしまったり。2種類のフ
ォントを書き分けていたのですが、それも以前のようにはっきり書
き分けられなくなっています。危機感を抱き、意図的にペンを持つ
機会を増やすようにしています。



記事掲載のお知らせです。

『丸』8月号にて、「陸自87式自走高射機関砲ガイド」「高射学校
陸曹高射火器課程密着ルポ」の記事が掲載されました。「87AW」と
言ったほうが通じやすいかもしれませんね。高射学校にはいい取材
をさせていただきました。高射学校長のお話も、記事に収まりきら
なかった興味津々の話題が山のようにありました。
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『PANZER』8月号には「神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火
箱芳文の半生」第16回が掲載されています。今回は北部方面総監部
幕僚長時代の話が中心です。異動とほぼ同時期にイラク戦争が停戦、
1次隊として派遣されることになったのは、北海道の「あの」部隊
でした。https://amzn.to/2B7VnAL

月刊『正論』6月号に「自衛隊あってのオリンピック」
最終回が掲載されました。https://amzn.to/3cOzOSQ



■ゆうべつ最後の観艦(4)

無事に浦賀水道を通過した「ゆうべつ」は速度を上げ、相模湾を軽
快に進みます。

塵ひとつ落ちていない機関室では、隊員たちが目の前の計器をチェ
ックしています。
そのうちの隊員のひとりが教えてくれました。
「この艦は高速用のガスタービンと巡行用のディーゼルという2つ
のエンジンを使い分けていて、今日はガスタービンで航行していま
す」
ここでは発電機の監視や火災、浸水の情報だけでなく、水タンクの
残量まで管理しています。機関なくして艦は動かない、機関室は
「ゆうべつ」の大黒柱なのです。
また、機関長の1尉はこう話してくれました。
「観艦式にあたって機関室が緊張を強いられるのは、出入航時と浦
賀水道通過時、そしてボフォース発射時です。ボフォース発射の際
は電力の計器から目が離せません。足を止めない、艦を傾けない、
電力を確保する。それが機関室の大切な役割です」。

ボフォースとはボフォース対潜ロケットのことで、正式には71式ボ
フォースロケットランチャーといいます。4発のロケットを次々に
発射するもので、「ゆうべつ」などゆうばり型護衛艦、いわば沿岸
警備用の護衛艦に搭載されていました(現在は退役しています)。

正午になると乗員たちが甲板にずらりと整列しました。
逆方向から進んで来る観閲艦とすれ違う際、受閲艦として登舷礼式
で敬礼するのです。
観艦式ならではの壮観に、招待客たちも写真を撮りまくっています。
ここは間違いなく観艦式の大きな見どころのひとつと言えるでしょ
う。

受閲を終えると各艦艇は反転、今度は訓練展示です。いよいよボフ
ォースの発射です。
管制室はボフォースの真下にあるので発射時の騒音はすさまじく、
しかも驚くほど狭いという厳しい場所。
けれど発射前の緊張感がみなぎる隊員たちにとって、そんなことは
関係ありません。

予定されていた時刻ぴったりにボタンが押され、ボフォースが発射
されます。
その途端、管制室にはまるで薄い鉄板にマイクを寄せて思いきり叩
いたような感じの、「バン!」という強烈な爆音が響きました。
隊員たちはまったくひるむことなく2発目、3発目、4発目と等間
隔で発射していきます。

「発射数4、残数0」
ボフォースが無事すべて発射されたことの確認と報告が終わると、
ようやく管制室の緊張が緩みます。
筆者は水雷長の1尉から「あとでボフォース、見に行ってみてくだ
さい。煤で真っ黒になってますから。発射するたびにペンキを塗り
直すんですよ」と言われ、ロケット弾の威力のすさまじさを思い知
りました。

このボフォースは艦橋の下にあるので、発射時の熱風や衝撃は艦橋
にも伝わって来ます。
招待客の多くは右斜め前方1500m先に進んで行くロケット弾を見よ
うとカメラを構えて甲板に集まっていたのですが、艦橋に残った人
の中には発射時の想像以上の衝撃に驚き、ボフォースの轟音に負け
ないほどの悲鳴を上げて隊員を驚かせた(そして笑わせた)人もい
ました。

ボフォースも無事発射され、あとは再び船越岸壁に戻るのみです。
航海長の1尉も、ようやく遅い昼食を取る時間ができました。観艦
式に参加するのは初めてだそうですが、事前の計画や行動予定で一
連の流れがしっかり頭に入っていたため、緊張はあっても混乱はな
かったそうです。 
「決められた時間に予定通り、かつ安全に艦を動かすのが航海長の
仕事です。ちょうど航海長の時期に3年に一度しかない観艦式に参
加できるのは貴重な体験であり、非常に幸運だと思っています。乗
っているお客様には“自分たちが国を守っているんだ”という姿勢
を見ていただきたいですね」
艦橋で状況中の1尉の背後には、終始カメラやビデオを構えた多く
の人々がひしめいていました。気が散りませんか?と尋ねたところ、
「いえ、まったく気にならなかったです」。自分の任務にどれほど
集中していたか、よくわかります。


(以下次号)



(わたなべ・ようこ)


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□著者略歴

渡邉陽子(わたなべ・ようこ)
神奈川県出身。大学卒業後、IT企業、編集プロダクション勤
務を経て2001年よりフリーランス。2003年から月刊
『セキュリタリアン』『MAMOR』などに寄稿。
現在は自衛隊関連の情報誌などで記事を発表。メルマガ「軍事
情報」で自衛隊関連の記事を配信中。
 
2016年6月、デビュー作
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』を刊行。


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