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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
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防衛予算から読み解く日本の防衛力(42)
第2部 危機的状況にある日本の安全保障体制(21)
結言:今後の大綱、中期防はいかにあるべきか?
GDP比1%から2%へ
市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに
本連載も、残り3回となりました。結言として、
第2部、そして本連載を締めくくります。連載を開
始した頃は「わかりやすさ」を追求していましたが、
振り返ってみると専門的でわかりにくい部分が多く
なってしました。今回のテーマは自分でも強い思い
入れのあるものですから、つい、力が入ってしまっ
たというのが本音のところです。
法規類、各種制度を始め、いま世の中を統制して
いるさまざまな縛りは、全てが正しいという漠然と
した思い込みがあります。特に、興味や知識がない
分野に関しては、疑う術もありません。一般に国民
の関心が高いと思われる分野に関しては、国会でも
マスコミでも取りあげられますが、安全保障のよう
に国民の関心が低い分野については、議論されるこ
とはほとんどないのが実情です。
本連載でも取りあげた、防衛予算が抱える問題や、
大綱や中期防の問題も国会やマスコミで取りあげら
れたことはありません。防衛予算で話題になるのは、
大幅な増額?が批判されることくらいです。今般、
配備計画を中止したイージスアショアについても、
マスコミなどで取りあげられるのは地元との関係が
ほとんどで、もっと大きな問題は表にはでてきませ
ん。
日本の最高法規である憲法でさえ、さまざまな問
題を内蔵しています。その他の法規類や制度には、
問題や誤りがあることは当然のことです。日本は法
治国家ですから、今ある法規類や制度に従うのは当
然のことですが、問題や誤りを不断の努力で直して
いかなければなりません。
安全保障関係で最も重要なのが憲法9条問題であ
るのは間違いありませんが、本連載で取りあげた問
題については、9条問題に手を付けなくてもいつで
も議論でき改善できることです。自衛官の処遇も、
防衛費の増額によって多くのことが改善されます。
▼所要防衛力の整備に必要な経費(その1)
これまで、大綱と中期防の矛盾した関係を解説し、
日本の防衛力整備の問題点を明らかにしてきました。
すでに、結言的なものについては明確になっていま
すが、非常に重要な部分ですから改めて整理します。
特に、大綱と中期防が捻れた矛盾した関係にある現
状が非常に拙(つたな)い状態であることを認識す
ることが、最も重要となる部分です。
現在の防衛力整備の根本的問題は、「所要防衛力
の整備」を理念とする大綱と予算ありきの「基盤的
防衛力構想」に縛られた中期防の矛盾した関係にあ
ります。当然、あるべき姿は「所要防衛力の整備」
を理念とする大綱と「所要防衛力の整備」を可能と
する予算の裏付けのある中期防です。
そこでまずは、「所要防衛力の整備」を可能とす
る経費から明らかにすることとします。とはいえ、
実際には、防衛省で所要防衛力の規模とそれを整備
するための経費を細かく積み上げる必要があります。
当然、所要防衛力には「本格的侵略事態への備え」の
基盤となる防衛力は必要で、現在失われつつある継
戦基盤を維持するための国産装備品の調達量も増加
しなければなりません。
これらの積み上げを個人的作業で正確な額を算出
するのは不可能ですが、筆者の経験と各種団体から
の提言や過去の防衛庁での試算等を踏まえて概算額
を提示します。
一つの目安となるのが、自衛隊OBで構成される
隊友会や自民党国防部会等からの提言です。これら
の提言に関しても細かな積み上げがなされているわ
けではありませんが、共通的にGDP2%が目標となっ
ています。
自民党国防部会は、政府の30大綱、31中期防の策定
時期に合わせて、「NATO(北大西洋条約機構)が対
GDP(国内総生産)比2%達成を目標としていること
を参考に、必要かつ十分な予算を確保する」という
提言を行なっています。自衛隊OBで構成される隊友
会、偕行社、 水交会 、つばさ会の連名で作成され
防衛省に提出された政策提言書にも、NATOの目標を
参考としたGDP2%が記載されています。
GDP2%の数字は、双方ともNATOの目標を基準にし
ており歩調を合わせた感がありますが、日本国内で
は防衛に関する知識を有する組織が合意した数字で
あり目安の一つになると思われます。
また、「基盤的防衛力構想」が検討されている時代
に陸上幕僚監部で検討された「所要防衛力」として、
陸自の定員が24万人必要という数字があります。こ
れは冷戦時代の「本格的侵略事態への備え」として
の防衛力ですが、「基盤的防衛力構想に基づく防衛
力」と「所要防衛力」の差異を考えるのに非常に参
考となる数字です。
24万人体制は、現在の陸自の定員の1.5倍となる規模
ですが、当時も、弾薬や築城資材の備蓄、兵站部隊
の規模等の後方支援態勢が不十分であったことを考
慮するならば、所要防衛力を整備するための防衛費
は2倍以上が必要であったことは間違いありません。
30大綱で必要とされる防衛力についても、本来、必
要とする「本格的侵略事態への備え」を削除した上
で、コストパフォーマンスに優れるFMS調達に依存し、
既存の装備品の損耗更新や修理費等、部隊が行動す
るための基盤となる経費を大幅に削減した上で成り
立っているものです。また、宇宙、サイバー、電磁
波といった新たな領域での活動のための最新兵器の
導入経費も必ずしも十分とはいえず、補正予算がな
ければ成り立たないのが防衛予算の実体です。
これらの要素を踏まえるならば、「基盤的防衛力構
想に基づく防衛力」と「所要防衛力」の差異は、冷
戦時代と現在とでは変化がないというよりも、差異
が拡大していると言っても過言ではありません。数
十年にわたって日本の防衛費が、GDPの1%弱であっ
たことを考えるならば、「所要防衛力の整備」に必
要な経費としてのGDP2%は、最小限必要な妥当な数
字であると思われます。
最後に、筆者の経験から、守秘義務に反しない範囲
での具体例を紹介します。防衛省内では、年度の防
衛予算を要求するために必要な経費の積み上げを行
ないます。予算の積み上げの当初は、陸・海・空・
統幕、装備庁等のそれぞれの部門で例年ベースの予
算は関係なく本来必要な額を積み上げます。当初積
み上げた予算が承認されることはないため、優先順
位を付けて例年ベースの予算を基準として圧縮して
いきます。
この年度当初に積み上げる予算額は本来必要な予算
ですから、「所要防衛力」の予算額に近いものです。
ただし、ここでの積み上げは現体制を基準としてい
るため、本来、必要な防衛力に比べると規模が小さ
いものです。この予算額でさえ、例年ベースの予算
額の50%増以上です。現体制をあるべき体制にして
必要な経費を積み上げるとすれば、現予算の2倍程
度では収まらないのは確実です。
以上、自衛隊OBや自民党からの提言、過去に陸幕
で行なった検討、防衛省での予算要求にあたっての
必要経費の積み上げを参考にするならば、所要防衛
力整備に必要な経費はGDP2%、現在の防衛予算の2
倍が当面の目標として妥当だと思われます。金額的
には約10兆円、国の予算の約10%となります。
(つづく)
(いちかわ・ふみかず)
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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。
1983年、陸上自衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合
幕僚監部人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕
僚監部武器・化学課長、東北方面後方支援隊長、愛
知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤
務を最後に2017年8月に退官。退官後の9月には
YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
2019年9月に新刊『不思議で面白い陸戦兵器』を刊
行。
2017/9 YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」
に出演。
https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出
演
https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/aEOhNJ3twN0
著書に、
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