配信日時 2020/07/01 20:00

【防衛予算から読み解く日本の防衛力(41)】 第2部 危機的状況にある日本の安全保障体制(20) 軽視された「本格的侵略事態への備え」  市川文一(元武器学校長・陸将補)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
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防衛予算から読み解く日本の防衛力(41)
第2部 危機的状況にある日本の安全保障体制(20)

軽視された「本格的侵略事態への備え」


市川文一(元武器学校長・陸将補)

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□はじめに

「格言や名言、歴史に学ぶ」というのは、誰でもが
納得する当たり前と思われることですが、人間は経
験の動物ですから自分で体験しないとわからないと
いうことが非常に多いように思われます。自分の過
去を振り返っても、歴史、講演や講義、読書から学
んだことを実際に活かせたことはごくわずかな気が
します。

 頭では理解していても、実際に体験して失敗しな
ければ実感できないということがほとんどです。と
いうよりも、失敗しても再び同じ失敗を繰り返して
しまうことが多いように思われます。

世の中には、たくさんの啓蒙書、自己啓発書、成功
するためと称するビジネス書がありますが、ベスト
セラーだからといって、その本を読んで成功したと
いう例はあまり聞かれません。自分が失敗した後、
次へと続くための指針と考えた方が良いのかもしれ
ません。

「論語」に「過ちては則(すなわ)ち改むることに
憚(はばか)ることなかれ」とありますが、失敗や
間違いを認めてこれを改めることが重要です。特に、
失敗や間違いを明確にして認めることです。これを
しないと、誤魔化しに誤魔化しを重ねることとなり、
やっていることが矛盾だらけになってしまいます。

 失敗や間違いを認めるのは個人でも難しいことで
すが、これが組織となり、しかも組織が大きくなる
ほど、失敗や間違いを認めることができなくなって
きます。最も大きな組織である政府ともなれば、失
敗や間違いはほとんど認められません。政策の失敗
や間違いを認めると政治責任を問われるからです。
議院内閣制の日本の政治体制は、特にその傾向が強
い構造になっています。国会議員でもある大臣が失
敗を認めたとなると、即、次の選挙に影響します。

 国の政策や政府答弁で常識からするとおかしいと
感じる時は、失敗や間違いの正当化を積み上げた結
果だと疑ってみると真実が見えてきます。現在の憲
法9条の改正の理由が「自衛隊を違憲と解釈する意見
もあるため、9条3項に明記します」というのに違和
感があるのは、そもそも合憲であるならば改正の必
要はないからです。

何の先入観もなく素直に憲法9条を読めば、自衛隊は
違憲だと感じます。自衛隊が戦力ではないというの
は完全な詭弁です。自衛隊が違憲の状態であったこ
とを認めないと日本の安全保障政策のブレイクスル
ーはなしえません。


▼25大綱、30大綱が抱える最大の問題点、将来に対
する備えの欠落(その3)

大綱は10年間をレンジとして防衛力のあり方を示し
ていますから、10年という期間に限定すれば「本格
的侵略事態への備え」を削除することは問題ないよ
うにも思えます。しかしながら、国が保有する防衛
力とは10年以降の将来も見据えて整備しなければな
らないものです。防衛力は10年程度で構築できるも
のではなく、また、将来の安全保障環境を予測する
のも不可能です。

 今後の10年間でさえも、「本格的侵略事態」がな
いとは断定できません。10年あれば、中国、ロシア
が日本に対して本格的に侵攻できる能力を保有する
可能性は否定できず、安全保障環境が激変する可能
性も否定できません。

 16大綱の「防衛力の本来の役割が本格的な侵略事
態への対処であり、また、その整備が短期間になし
得ないものである」という認識は極めて重要であり、
国の安全保障政策の骨幹となる部分です。将来が確
実に予測できない限り、最悪の事態を想定して防衛
力を構築しなければなりません。

 そして、日本の防衛力整備の根拠となるのは大綱
と中期防だけです。大綱から「本格的侵略事態への
備え」を削除すれば、そのための防衛力整備の根拠
もなくなり、日本の防衛力は目先の脅威に対抗する
ものだけに特化されていきます。将来、突然、本格
的侵略事態の生起が予測されたとしても、それに対
応することはできません。

中期防に書かれた「最小限の専門的知見や技能の維
持・継承」についても具体的な施策に関する記述は
なく完全に机上の空論です。誰が、どのように知見
や技能を維持・継承するのでしょうか。防衛技術に
ついては防衛装備庁で基礎的な技術を一部保有する
ものの多くはメーカー頼みです。メーカーがボラン
ティアで防衛技術を維持・継承することはありませ
ん。研究開発予算が途絶えた時点で開発施設は廃止
され、技術者は他の部門に移転されます。

たとえ、ある程度の予算をもって装備庁とメーカー
で技術を継承できる施策をとるにしても、それは、
設計技術に限定されます。ものを作る技術には設計
技術を生産技術があります。設計技術で作るのは手
作りの試作品です。

これを量産してコストを下げるためには、部品点数
を減らして機械化し効率よく生産するという、生産
技術が必要です。つまり、「最小限の専門的知見や
技能の維持・継承」しても、量産につなげることは
できないということです。防衛装備品を量産するた
めには、常に製造している必要があります。

最終的な手段として、装備品は、継戦能力を犠牲に
して輸入に頼れば、10年程度で最小限の防衛力は確
保できるかもしれません。しかし、ここで問題とな
るのは自衛官の人材育成です。中堅の幹部や曹を育
てるのにも10年、上級の幹部や曹となると20年は必
要です。しかも、装備品もなく部隊もなければノウ
ハウは失われていきます。「最小限の専門的知見や
技能の維持・継承」は文字、写真、映像だけの世界
となるでしょう。

 陸自でも、訓練の主体を「ゲリラ・特殊部隊対処」
に大きく舵を切った時期があります。その結果、本
格的侵略事態に対応するための「陸自が持つ各種機
能を総合化し陸上防衛力を最大化するノウハウ」を
失いかけました。この過ちに早期に気づき、本来の
あるべき姿に戻してきていますが、今度は、戦車や
火砲の大幅な削減により実際の訓練そのものができ
なくなりつつあります。

一度失われたノウハウを取り戻すには、新たに築く
のと同じだけの時間がかかります。現在の大綱の考
えが今後十数年続けば、将来の「本格的侵略事態」
には対処できない自衛隊となってしまいます。

大綱が「基盤的防衛力構想」から脱却したことで日
本の安全保障政策が大きく前進もしましたが、「本
格的侵略事態への備え」を防衛力の役割から削除し
たことで大きく後退もしました。

 民主党政権時の政策は多くが批判の対象となり自
民党政権で見直しがされましたが、安全保障政策の
基本である大綱は抜本的な見直しが行なわれず、上
辺の「基盤的防衛力構想」からの脱却だけの考えを
受け継いでしまっています。そして、「大綱と中期
防の矛盾」「本格的侵略事態への備えの軽視」とい
う問題も、さらに拡大させてしまったのです。



(つづく)


(いちかわ・ふみかず)


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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。
1983年、陸上自衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合
幕僚監部人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕
僚監部武器・化学課長、東北方面後方支援隊長、愛
知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤
務を最後に2017年8月に退官。退官後の9月には
YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
2019年9月に新刊『不思議で面白い陸戦兵器』を刊
行。

2017/9 YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」
に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出

 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に、
『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)
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