配信日時 2020/06/22 20:00

【戦略航空偵察(21)】「ソ連、U-2撃墜に成功」 西山邦夫(元空将補)

こんにちは、エンリケです。

「戦略航空偵察」二十回目です。

U-2撃墜事件がテーマです。

実に興味深いですね。

情報史は、歴史の闇を照らし、
後世に生きるものが歴史から養分を得る核心になる。
改めてそう感じています。

実にありがたいですね。


きょうの内容は以下のとおりです

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□ご挨拶
 ▼U-2初めてソ連西部縦断飛行を計画
 ▼SA-2ミサイル、U-2を撃墜
 ▼なぜU-2は撃墜されたのか?
 ▼U-2の喪失と偵察態勢への影響
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さっそくどうぞ


エンリケ



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戦略航空偵察(21)

ソ連、U-2撃墜に成功

西山邦夫(元空将補)

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□ご挨拶

前回のご挨拶で、「U-2が飛行する超高々度では、
コントレールは生成されないのです」と書きました。
ジェット旅客機が飛行する高度1万メートル前後は
対流圏と成層圏の境目付近になります。この高度は
航跡雲が最もできやすく、航空機の戦闘では敵機を
遠方から視認できるため、航跡雲ができるかどうか
は、大きな影響があります。

空軍の気象予報官は、航跡雲がどのくらいの高度で
できるのか、それがすぐに消えるのか、長時間残る
のかを毎朝パイロット達にブリーフィングするのが
慣例になっています。

高度を上げて、1万5千メートル以上の高度になる
と航跡雲が生成される条件が次第に失われます。
すなわちジェット・エンジンの排気によって水蒸気
が排出されますが、それによっても相対湿度が飽和
点に達せず、雲が生成されないのです。蛇足ですが、
筆者は気象予報士でもあります。


▼U-2初めてソ連西部縦断飛行を計画

1960年4月9日の飛行に引き続き、ソ連核戦力の状況
を偵察するため、これまで実行されたことのないル
ートを飛行するグランド・スラム作戦と名付けられ
た偵察飛行が計画されました。パキスタンのペシャ
ワールを発進し、アラル海東のチュラタム、ウラル
山脈中のスベルドルフスク、キーロフ、白海沿岸の
アルハンゲルスク、コラ半島のムルマンスクを経て
バレンツ海に出、ノルウェーのボド飛行場へ着陸す
るルートです。

このソ連西部を縦断する初めての試みは、アイゼン
ハワー大統領がソ連ICBMの情報収集の重要性と緊急
性を認識し、CIAの実行を認可したものでした。

▼SA-2ミサイル、U-2を撃墜

選ばれたパイロットは、フランシス・ゲイリー・パ
ワーズ飛行士です。彼はU-2パイロットとして最も
経験の深い1人で、U-2の実任務飛行はソ連領内、
中国領内の飛行を含め、27回を数えていました。乗
機のU-2は藤沢飛行場へ不時着していわゆる黒いジ
ェット機事件を起こし、米本国で修理された
機体No.56-6693でした。

実施日は天候の悪化で数日の遅れが出て、5月1日の
メーデーになりました。CIAと共同でU-2の作戦任
務に従事していた英軍のU-2パイロット指揮官ロビ
ンソン氏は、メーデーはソ連にとって重要な日なの
で、偵察機の侵入飛行に備え、防空は強化態勢に入
り、危険な日だと助言しました。しかし、侵入飛行
は計画通り実行されました。

パワーズ飛行士の最初の目標はチュラタムのミサイ
ル・テスト・サイトで、次がチェルガビンスクを経
てスベルドルフスクでした。この日は飛行するソ連
軍の航空機の数が少なく、防空軍はレーダーでU-2
を容易に識別・追尾でき、ソ連国境を超える15マイ
ルも前から捕捉していました。

U-2がタシケント上空に差しかかると十数機のソ
連戦闘機がU-2を目標に上昇してきましたが、要
撃は不成功に終わりました。国境を越えて4時間半
が経過した頃U-2はスベルドルフスク上空を高度
70,000フィートで順調に飛行していました。突然
SA-2ミサイルがU-2の後で爆発、機はスピンして
落下を始めました。SA-2ミサイルは数発同時に発射
され(サルボ発射と言います)、その1発がU-2の
近くで爆発したのです。

他の1発がスクランブルしてきた戦闘機を直撃し、
破壊しました。パワーズはスピンする機体の遠心力
が邪魔して、エジェクション・シート(射出席)を
使えず、キャノピーを飛ばし脱出を図りました。脱
出前に機の自爆装置のスイッチを入れようとしまし
たが、酸素マスクの管が邪魔して手が届きませんで
した。

自爆装置は機体全体を破壊するものではなく、カメ
ラを壊すための小さな部品だったのですが、のちに
なぜ機体を破壊しなかったのかと謂(いわ)れない
糾弾を米国民から受ける原因となりました。

彼は機の外に放り出され、数千フィート落下した後、
落下傘が自動開傘し着地しました。すぐに近くの農
民たちに囲まれ、警官がやってきました。U-2の
機体はひどくは破壊されず、搭載した装置はソ連側
が調査可能でした。

▼なぜU-2は撃墜されたのか?

 CIAはこのSAMサイトがスベルドルフスクにあるこ
とを知らなかったと言います。知っていれば、これ
を避けるコースを取った可能性はありそうです。初
期のSA-2の最大射程は約25kmで、有限のミサイル数
で広大なソ連国土全体をカバーすることはできませ
んから、重要施設の周辺に配備するしかありません。

 U-2は飛行高度2万mで見通し距離数百kmあり、目
標からかなり離れていても写真撮影は可能なのです。
すなわちミサイル・サイトから25km以上離れて飛行す
れば、ミサイルの脅威から回避でき、目標の撮影が
可能です。飛行計画の作成責任者は、通常ミサイル・
サイトを避けて飛行コースを設定していましたが、
スベルドルフスクのミサイル・サイトを見逃してい
ました。

パワーズ飛行士のU-2に何かあったという最初の
兆候は、ノルウェーのボド基地に到着していないこ
とでした。ソ連のレーダーによるU-2の追尾は、
スベルドルフスク付近で消えていました (ソ連のレ
ーダー網は、捕捉した目標を短波通信で防空軍上級
司令部へ送信していました。米情報機関はこの通信
を傍受していたのです) 。

CIAは直ちに“マッドラーク(MUDLARK)”と呼称す
る緊急のプロジェクトを開始しました。問題はパワ
ーズ飛行士が生存しているかどうかです。常識的に
考えれば、高度70,000フィートで脱出して生存する
可能性はほとんどありません。外気温は-60°C、気
圧は50ヘクトパスカルで地上の1/20しかないので
す。このメルマガ第18回で書きましたとおり、パワ
ーズ飛行士が生存していたことから、さまざまな手
違いが起こります。

 まずマッドラークは、用意していたカバー・スト
ーリーを使うことにしました。すなわち、NASA(航
空宇宙局)の公式声明として、「NASAの高々度気象
観測機がトルコ上空で行方不明になった。パイロッ
トは酸素吸入装置が不調になったと報告してきた」
というものです。

 もしU-2がソ連領内に墜落したことを抗議してき
たら、パイロットはが意識を失ったため、ソ連領内
へ侵入してしまったと説明しようという意図でした。
ソ連もしたたかで、フルシチョフ書記は5月5日にな
ってU-2をスベルドルフスクで撃墜したと公表しま
したが、パイロットの生存には言及しませんでした。
フルシチョフは、パイロットの生存を伏せておくこ
とにより、米側の言うカバー・ストーリーが虚言で
あることを明らかにしたのです。

 米側は、最良のシナリオとして、パワーズは死亡
し、撮影したフィルムは自爆装置で破壊されている
ことを期待していました。もしパワーズが生存して
いればその自供によって、また撮影したフィルムが
現像されることによって、U-2の飛行目的を明らか
になるからです。

事態は米側にとって最悪のシナリオになりました。
同月7日になってからフルシチョフ書記は、U-2の
パイロットが生存しており、スパイ活動を行なって
いたことを認めたと公表しました。また、ソ連はU-2
が撮影したフィルムの現像にも成功していたのです。
米側がそれまでの間、主張していたカバー・ストー
リーは破綻しました。

▼U-2の喪失と偵察態勢への影響

 5月11日になってアイゼンハワー大統領はU-2の
件に関して、すべての責任は私にあるとし、またソ
連に対する挑発的な偵察行為はすべて終わりにする
と言いましたが、公式な謝罪はしませんでした。
U-2事件は、長い間期待されていた米ソのトップ
によるパリ会談を流し、アイゼンハワー大統領の
訪ソは実現しないことになりました。

 CIAは、トルコのアダナをソ連南西部を偵察する
U-2の根拠基地とし、そこからパキスタンのペシ
ャワールなど偵察行動に適切な基地へ適切な場所
へU-2を派遣して偵察行動を行なってきましたが、
5月27日にトルコで政権交代があり、アダナの基地
は使えなくなりました。

 これに続いて、日本政府も日本で反米意識が高
まっていることから、U-2の基地使用を断りまし
た。厚木基地のU-2施設は撤去され、所在してい
たU-2はC-124輸送機で米本土へ送られました。こ
れらの措置により、CIAはU-2による海外の収集拠
点を失うことになりました。



(つづく)


(にしやま・くにお)


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□著者略歴

西山邦夫(にしやま・くにお)
1936年生まれ。防衛大学校卒(4期・空)。
情報関係略歴:航空幕僚監部調査2課収集1班長、航
空総隊司令部情報課長、陸幕調査別室主任調整官、
航空自衛隊幹部学校主任教官。著書に『肥大化する
中国軍(空軍部分を執筆)』(晃洋書房、2012年)、
『中国をめぐる安全保障(空軍部分を執筆)』(ミ
ネルバ書房、2007年)。研究論文に『中国空軍の戦
力構成とドクトリン』『中国空軍のSu-30MKKとイン
ド空軍のSu-30MKI』『韓国空軍の増強と近代化』
『中露合同軍事演習』『中国の主要航空兵器の装備
化実績と将来予測』『中国空軍の戦力とドクトリン』
『チベットにおける中国の軍事態勢整備』など多数。


 
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