配信日時 2020/06/17 20:00

【防衛予算から読み解く日本の防衛力(40)】 第2部 危機的状況にある日本の安全保障体制(19) 何かを増やせば何かを削る──予算ありき の防衛力整備の弊害  市川文一(元武器学校長・陸将補)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
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防衛予算から読み解く日本の防衛力(40)
第2部 危機的状況にある日本の安全保障体制(19)

何かを増やせば何かを削る──予算ありき
の防衛力整備の弊害


市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに

 マスコミや言論界が現政権、現体制批判をするこ
とは世の常ですが、批判ばかりでなく、今回のコロ
ナ対応のように封じ込めに成功した要因を分析して、
近年批判の対象になっている日本的といわれるもの
についての再評価をすべきではないかと思います。

 日本の新型コロナ感染者は世界的にも少なく、人
口比にすれば封じ込めに最も成功している国の一つ
であるのは間違いのない事実です。強制力のない緊
急事態宣言の中でも、大多数の国民が政府や自治体
の要請に従い、外出、店舗の営業の自粛、テレワー
クやオンライン会議を活用した在宅勤務による通勤
の削減により感染拡大を封じ込めたことは、実際の
感染者数という数値が明らかにしています。

「世間体や人の目を気にする。周りの空気に合わせ
る。みんなと同じことが無難と思う」といったよう
な、通常は批判の対象となる日本の国民性が、今回
の封じ込め成功の要因の一つであり、日本的なもの
を再評価する良い機会といえるでしょう。同様に、
日本的経営と呼ばれる終身雇用制や年功序列型賃金、
護送船団方式を代表とする官民一体となった経済政
策、規制緩和によって削減された官庁の許認可権限
なども、再評価すべきです。

 日本的な慣習は、米国の圧力(年次改革要望書)
により、良いものも悪いものも全てが自由貿易の弊
害とされ、骨抜きにされました。これは、日本の外
交能力の低さもありますが、マスコミや言論界が欧
米諸国の制度を無条件に高評価する悪弊にも問題が
あります。

 国民性とは簡単に変わるものではなく、国民性に
基づく慣習を否定することなく、日本の国益にプラ
スになるようにいかに活かすかが重要なことです。
自虐史観から脱却する良い機会ともいえます。

読者のK様から、ご所見を頂きました。ありがとう
ございます。ご所見にありました兵站、継戦能力に
つきましては、多くの人が問題を認識しながら逆に
問題が大きすぎて手を付けられないという面もある
のだと思います。これからも、今まで語られなかっ
たことも含めて、継続的に発信していきたいと思い
ます。


▼25大綱、30大綱が抱える最大の問題点、将来に対
する備えの欠落(その2)

大綱の「我が国を取り巻く安全保障環境」の認識は、
「中国は、既存の国際秩序とは相容れない独自の主
張に基づき、力を背景とした一方的な現状変更を試
みるとともに、東シナ海を始めとする海空域におい
て、軍事活動を拡大・活発化させている」としてい
ます。「既存の国際秩序とは相容れない独自の主張」
に関しては、細部が述べられていませんが、次に続
く「東シナ海・・・」の記述から予測すると、第1列
島線、第2列島線を防衛ラインとする「近海防御戦略」
であると考えられます。

 中国が考える第1列島線には日本の九州が含まれ、
第2列島線には日本全土が含まれます。日本が防衛
ラインになるということは、日中が強い軍事同盟を
結ぶか中国の支配下に入る以外に考えられません。
つまり、大綱の日本の安全保障環境の認識は、将来
は、中国による「本格的侵略事態」がありうるとい
うことです。

 また、25大綱にも30大綱にも「冷戦期に懸念され
ていたような主要国間の大規模武力紛争の蓋然性は、
引き続き低いものと考えられる」との認識が示すよ
うに、「蓋然性がない」のではなく、当面低いだけ
で大規模武力紛争は起こりうるということです。し
かも、「引き続き」がいつまで続くのかが明示され
ていないことから、大綱が想定する10年後までが対
象とする期間です。

 つまり、10年より先の将来については、大規模武
力紛争の生起も否定できないということを大綱も想
定しているのだと考えられます。このような情勢認
識のもと、なぜ「本格的侵略事態への備え」が削除
されたのでしょうか。

 16大綱から、日本の安全保障環境に対応する「新
たな脅威や多様な事態への実効的な対応」のための
防衛力整備を主軸とするために、「本格的侵略事態
への備え」を最小限としました。予算ありきの防衛
力整備では、何かを増やせば何かを削る必要があり
ます。「基盤的防衛力構想」の考え方からすると当
然のことです。

 しかし、「基盤的防衛力構想」から脱却した22大
綱では、「所要防衛力」を整備するために、「近い
将来に必要とする防衛力」と「将来生起するかもし
れない本格的侵略事態に対応するための確実な基盤」
を整備しなければなりません。当然、防衛予算の増
額なくして「所要防衛力」の整備はなしえません。

 ところが、国の予算は無駄が多く、効率化・合理
化により大きな削減ができるとした当時の民主党政
権の考えにより、「基盤的防衛力構想」から脱却し
てもさらなる防衛費の合理化・効率化により、「各
種事態に対し、より実効的な抑止と対処を可能とす
る防衛力」を整備できることを22大綱の方針として
しまいました。この合理化・効率化の目玉の一つが
「本格的な侵略事態への備えとして保持してきた装
備・要員を始めとして自衛隊全体にわたる装備・人
員・編成・配置等の抜本的見直し」です。

 理念が「所要防衛力の整備」に変わったとしても
「予算が例年ベース(さらに削減できる)」では、
結局、何かを増やすために何かを削らなければなら
ないのです。そこで「所要防衛力」から、当面必要
のない「本格的な侵略事態への備え」を削れるだけ
削るというのが22大綱の考えです。

 そして、これをさらに進化させたのが25大綱です。
「所要防衛力」の理念を強く打ち出したため、22大
綱では辛うじて残っていた「本格的な侵略事態への
備え」を完全に削除せざるを得なくなりました。し
かしながら、将来的な備えが必要なのは明白である
ことから、中期防において「最小限の専門的知見や
技能の維持・継承」との記述を残しました。

これは、防衛力の規模としても、22大綱で謳われた
「不確実な将来情勢の変化への必要最小限の備え」
から大きく後退しており、日本の防衛力整備から、
「不透明・不確実な将来の安全保障環境に対する備
え」が実質的に削除されたといっても過言ではない
でしょう。

つまり、「基盤的防衛力構想」に縛られた予算あり
きの防衛力整備においては、大綱が想定する期間の
防衛力の実効性を上げれば上げるほど、何かを削ら
なければならなくなります。その最大の犠牲が「本
格的侵略事態への備え」なのです。そして、その根
本的問題は「所要防衛力の整備」を前提とした大綱
の理念と「基盤的防衛力構想」に基づく例年ベース
の予算を基準とした中期防の矛盾した関係にあるの
です。



(つづく)


(いちかわ・ふみかず)


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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。
1983年、陸上自衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合
幕僚監部人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕
僚監部武器・化学課長、東北方面後方支援隊長、愛
知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤
務を最後に2017年8月に退官。退官後の9月には
YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
2019年9月に新刊『不思議で面白い陸戦兵器』を刊
行。

2017/9 YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」
に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出

 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に、
『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)
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がある。


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