配信日時 2020/06/15 20:00

【戦略航空偵察(20)】「黒いジェット機事件、そしてミサイル・ギャップの検証」 西山邦夫(元空将補)

こんにちは、エンリケです。

「戦略航空偵察」二十回目です。

きょうも実に面白いです。

今回のテーマは、黒いジェット機事件です。

この件を漫画雑誌が取り上げていた件。
非常に興味深いですねw

こういう歴史をきちんと自分の中に取り入れて
はじめて、正鵠を射た立体的な歴史把握、歴史から
の教訓抽出ができるのでしょう。

情報史は、歴史の闇を照らし、
後世に生きるものが歴史から養分を得る核心になる。
改めてそう感じています。

実にありがたいですね。


きょうの内容は以下のとおりです

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□ご挨拶
 ▼漫画雑誌が取り上げる
 ▼U-2、厚木基地を発進しソ連極東地域偵察
 ▼ソ連の激しい抗議
 ▼1960年4月9日の飛行
 ▼SS-6 ICBMの偵察
 ▼グリーンランド基地からの偵察計画
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さっそくどうぞ


エンリケ



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戦略航空偵察(20)

黒いジェット機事件、そしてミサイル・ギャップの検証

西山邦夫(元空将補)

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□ご挨拶

 皆さんは黒いジェット機事件をご存じでしょうか?
 1959年(昭和34年)9月24日に神奈川県藤沢市の藤
沢飛行場へU-2偵察機が不時着した事件です。機体
は黒く塗装され、翼の長い不思議な形態をしていま
したので、黒いジェット機と呼ばれました。

 全国紙はこの事件を一切報道しませんでしたから、
世間に知られることはほとんどありませんでした。
このU-2は厚木基地で活動していましたが、それ
がどのような行動であったか、のちに国会で質疑が
行なわれました。しかし、政府答弁はU-2の飛行
目的が気象観測で、所属も航空宇宙局とされ、真
相に触れることはありませんでした。質問する野党
も手持ちの情報がないためか、追及は尻切れトンボ
の観がありました。当時は、日本政府もU-2の任
務を把握していなかったものと思われます。

▼漫画雑誌が取り上げる

同年11月になって雑誌「少年サンデー」が藤沢飛行
場におけるU-2の写真と合わせて、概要次のよう
な記事を報じていました。

「U-2のある日の行動を推測してみよう。早朝の
厚木基地から急角度に上昇し、明けやらぬ朝空の高
みへ消えてゆく。やがて高度一万二千メートルくら
いの超高々度で、目的地上空へほとんどパワー・オ
フ状態ですべり込む。パイロットは全神経をECM
(逆レーダー)に集中している。突然ECMは味方
以外のレーダー電波の動きをとらえる。U-2の表
面に塗られた特殊の黒い塗料は普通のジェット機の
数分の一しかレーダー電波を反射しないはずである
が、油断はできない。そこで、U-2は機首を回し
てエンジンを全開する。青黒い空をコントレールが
のびてゆく。やがて基地へ近づいたU-2は、高々
度から、午後の滑走路へ向かってゆっくりと降りて
くる。」

 上記の記事は少年サンデーの記者が想像力を駆使
して描いたものでしょうが、現実のU-2は記者の
想像をはるかに超えた性能を誇っていました。高度
2万mを時速800km/hで、航跡雲(コントレール)
を引かないで飛行していました。U-2が飛行する
超高々度では、コントレールは生成されないのです。

▼U-2、厚木基地を発進しソ連極東地域偵察

 U-2が藤沢飛行場へ不時着する前年、1958年に
当該U-2はソ連領侵入飛行を実行していました。
この飛行は、U-2が日本から発進してソ連領へ侵
入した唯一の例です。3月1日、厚木基地を発進し
たU-2は日本海を北上、沿海州オリガ付近から内
陸へ侵入し、ハバロフスク上空から北西進しブラゴ
エシチェンスク、東に針路を変えてコムソモリスク、
間宮(タタール)海峡上空を経て厚木に帰投しまし
た。

 この飛行の主要な目的は、ブラゴエシチェンスク
近くのマラヤ・サザンカで核爆弾関連の器材を製造
しているという情報の裏付けをとることでしたが、
その他に、シベリア鉄道など交通施設の状況調査に
ありました。

 極東ソ連の偵察飛行を終了したU-2は、厚木基
地に留まって周辺の写真撮影など行なっていました
が、1959年9月に藤沢飛行場へ不時着しました。原
因は燃料切れと報道されましたが、真相は不明です。
その後U-2は、米本土へ回送・修理されて任務に
復帰しました。

▼ソ連の激しい抗議

 この飛行に対し、飛行5日後にソ連は米国に強硬
な抗議をしてきました。アイゼンハワー大統領はCIA
に対し、越境飛行を直ちに中止することを命じ、こ
の処置は翌1959年7月まで16か月間継続しました。
当該U-2はステルス仕様のダーテイー・バードで
したが、この装置は効果を発揮できず、ソ連のレー
ダーに捕捉・追尾されていたのです。この結果から、
CIAはダーテイー・バード仕様のU-2の使用を諦め
ました。

▼1960年4月9日の飛行

 1958年3月から大統領の命令でソ連領内への侵入
飛行を中止している間、ソ連はSS-6 ICBMの配備を
進めているのではないかという疑念が米国内で高ま
りました。SS-6は世界最初の大陸間弾道ミサイル
(ICBM)で、米国はまだICBMを持っていません。
SS-6の配備数についてダレスCIA長官、トーマス・
ゲート国防長官、ネーサン・トワイニング空軍参謀
長の三氏の見解が異なるなど、信頼できる情報が獲
得できていなかったのです。すなわち、ミサイル・
ギャップといわれる核戦力の格差への疑念を晴らす
には、正確な情報を収集する必要がありました。そ
して、その手段は航空偵察しかありませんでした。
SS-6は液体燃料を使っていましたから、配備場所は
鉄道沿線で、航空偵察で比較的容易に発見できると
想定されました。

▼SS-6 ICBMの偵察

 1958年にアイゼンハワー大統領の命令でソ連領侵
入飛行が禁止されてから1年数カ月が経過し、SS-6
を目標としてU-2の侵入飛行が1960年に再開されま
した。初回が4月9日で、パキスタンのペシャワール
を発進し、核実験施設のあるセミパラチンスク、鉄
道の要所であるサリーシャガンを経てミサイル・テ
スト施設のあるチュラタム上空を飛行しました。チ
ュラタムでは、打ち上げ準備中の新型のミサイルの
撮影に成功しました。この時点で、米国が最も関心
を示していたのは、SS-6が実戦配備されているかで
したが、その点に関する情報は得られませんでした。

 この1年数カ月ぶりの飛行は無事終了しましたが、
ソ連のU-2に対する防空態勢は着々と進歩してい
ました。米空軍技術情報センターは次のようなコメ
ントをしています。

「U-2に対する最大の脅威は地対空ミサイルだ。
高度70,000フィートまで高い確率で要撃を成功させ
る能力を持っている」また、4月9日の飛行で、U-2
が搭載しているELINT器材(システムVI)はソ連領
侵入の早期からレーダーで追尾されているのを探知
していました。これらの情報を総合すれば、1960年
には、U-2の飛行はかなり危険な状態に陥ってい
たのです。

▼グリーンランド基地からの偵察計画

 CIAはソ連北西部ムルマンスク周辺の偵察が必要と
考え、グリーンランドの基地からU-2を飛行させる
計画を立てました。1954年に米空軍がRB-47 3機
を使ってムルマンスクへの偵察を行なったのと同じ
意図です。

 ソ連が米国東部の主要都市などをICBMによって攻
撃することを想定すると、コラ半島はICBMのサイト
を設置するためには最も適切な地域といえます。グ
リーンランドの基地は、コラ半島までノルウエー海
を経て最短距離に所在しています。軍事的な要衝の
多いコラ半島ムルマンスク地域は、是非とも偵察し
ておくべき地域でした。アイゼンハワー大統領もこ
の地域のICBMの偵察が必要と考え、U-2の飛行を
許可しました。しかし、この計画は、悪天候のため
実行に移されませんでした。その理由の一つは、こ
の地域の濃密な防空態勢があり、リスクが大きかっ
たからとされています。


(つづく)


(にしやま・くにお)


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□著者略歴

西山邦夫(にしやま・くにお)
1936年生まれ。防衛大学校卒(4期・空)。
情報関係略歴:航空幕僚監部調査2課収集1班長、航
空総隊司令部情報課長、陸幕調査別室主任調整官、
航空自衛隊幹部学校主任教官。著書に『肥大化する
中国軍(空軍部分を執筆)』(晃洋書房、2012年)、
『中国をめぐる安全保障(空軍部分を執筆)』(ミ
ネルバ書房、2007年)。研究論文に『中国空軍の戦
力構成とドクトリン』『中国空軍のSu-30MKKとイン
ド空軍のSu-30MKI』『韓国空軍の増強と近代化』
『中露合同軍事演習』『中国の主要航空兵器の装備
化実績と将来予測』『中国空軍の戦力とドクトリン』
『チベットにおける中国の軍事態勢整備』など多数。


 
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