配信日時 2020/06/10 20:00

【防衛予算から読み解く日本の防衛力(39)】 第2部 危機的状況にある日本の安全保障体制(18) 大綱から削除された「本格的侵略事態への備え」 市川文一(元武器学校長・陸将補)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
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「防衛予算から読み解く日本の防衛力」第二部の
十八回目です。




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防衛予算から読み解く日本の防衛力(39)
第2部 危機的状況にある日本の安全保障体制(18)

大綱から削除された「本格的侵略事態への備え」


市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに

 新型コロナ禍で繰り返されたのが品薄状態になっ
たものの転売です。最初に店頭から姿を消したのが
マスクと除菌製品で、現在はやや改善されましたが
コロナ前には戻っていません。需要と供給の関係で
需要が供給を大幅に上回れば価格は急上昇します。
1枚10円で買ったマスクが100円以上で売れることに
なります。

 これ自体は違法でも何でもなく自由経済の世界で
は普通に行なわれていることです。ブランドものや
希少価値のあるものの値段が高いのも同じことです。
ただし、ブランドものと違い、マスクのような生活
必需品が高値で転売されることで品薄状態に拍車が
かかることは国民生活に大きな影響を与えます。

デマにより買いだめパニックが起こると普通は十分
な供給が確保されているものでも品薄になります。
オイルショック時のトイレットペーパー不足や冷害
による米の凶作時の米不足も、デマによる買いだめ
が原因です。通常は安く買えるものの値段が上がれ
ば利益を得るチャンスであり、安く買って高く売る
ことは自由経済で保証されていることですから転売
は防げません。

このような現象を防ぐには、パニックを起こさない
こと、デマを早期に撲滅すること、そして、最終的
には買いだめと転売を禁止することです。買いだめ
と転売を禁止するには政府に法律的権限を与えなけ
ればなりません。今回の新型コロナ禍により、憲法
に緊急事態での政府権限を盛り込む話題がやっと登
場しましたが、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」にな
らないよう今後しっかりと議論してほしいところで
す。

▼25大綱、30大綱が抱える最大の問題点、将来に対
する備えの欠落(その1)

 現在の大綱と中期防が、理念は「所要防衛力」、
予算は「基盤的防衛力」という矛盾を抱えるのと同
様に、大綱そのものにも大きな問題を抱えています。

「基盤的防衛力構想」から完全に脱却し、「所要防
衛力」を整備目標とする本来あるべき姿に戻った25
大綱、30大綱ですが、22大綱から大きく後退した部
分があります。それは、「防衛力のあり方」から、
将来、生起するかもしれない「本格的侵略事態への
備え」に関する記述を完全に削除したことです。

 07大綱までは、「直接侵略事態が発生した場合に
は、これに即応して行動しつつ、米国との適切な協
力の下、防衛力の総合的・有機的な連用を図ること
によって、極力早期にこれを排除することとする」
と、防衛力の役割の基本を「本格的侵略事態への備
え」においていました。

 これが16大綱からは、北朝鮮の弾道ミサイルやゲ
リラ・特殊部隊の脅威、国際テロ組織などの非国家
主体の脅威の出現、中国の海洋進出等、日本に対す
る脅威が多様化するとともに、イラクへの自衛隊派
遣に象徴されるように自衛隊の海外任務も本格化し、
防衛力の役割を「新たな脅威や多様な事態への実効
的な対応」に大きくシフトさせました。

 これに伴い、「本格的侵略事態への備え」につい
ては、「見通し得る将来において、我が国に対する
本格的な侵略事態生起の可能性は低下していると判
断されるため、従来のような、いわゆる冷戦型の対
機甲戦、対潜戦、対航空侵攻を重視した整備構想を
転換し、本格的な侵略事態に備えた装備・要員につ
いて抜本的な見直しを行い、縮減を図る。同時に、
防衛力の本来の役割が本格的な侵略事態への対処で
あり、また、その整備が短期間になし得ないもので
あることにかんがみ、周辺諸国の動向に配意すると
ともに、技術革新の成果を取り入れ、最も基盤的な
部分を確保する」と、防衛力の役割としての意義を
認めつつ防衛力整備の重点からは外し基盤の部分だ
け確保することとしました。

 22大綱では、さらに、防衛力の役割としては項目
から削除し、「本格的な侵略事態への備えについて、
不確実な将来情勢の変化への必要最小限の備えを保
持する」との記述にとどめました。16大綱での「防
衛力の本来の役割が本格的な侵略事態への対処であ
り、また、その整備が短期間になし得ないものであ
ることにかんがみ」という、「日本の将来を見据え
た防衛力整備」という非常に重要な記述が削除され
たことは、日本の安全保障政策の大きな転換点であ
るといえます。

 そしてついに、防衛力の本来の役割であり、不確
実、不透明な将来への備えとして重要な「本格的侵
略事態への備え」が、25大綱において防衛力の役割
から完全に削除されました。これで、大綱が想定す
る日本に対する侵略事態とは「島嶼部、弾道ミサイ
ル、宇宙、サイバー領域、ゲリラ・特殊部隊」だけ
となってしまったのです。30大綱では、これに電磁
波領域が追加され、宇宙、サイバー、電磁波領域で
の行動を重視するとしましたが、基本は変化ありま
せん。
 
25大綱から「本格的侵略事態への備え」が削除され
たのと連動して、26中期防においても「主に冷戦期
に想定されていた大規模な陸上兵力を動員した着上
陸侵攻のような侵略事態への備えについては、不確
実な将来情勢の変化に対応するための最小限の専門
的知見や技能の維持・継承に必要な範囲に限り保持
することとし、より一層の効率化・合理化を徹底す
る」という記述が明示するように、「本格的侵略事
態への備え」は、「最小限の専門的知見や技能の維
持・継承」だけとなりました。



(つづく)


(いちかわ・ふみかず)


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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。
1983年、陸上自衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合
幕僚監部人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕
僚監部武器・化学課長、東北方面後方支援隊長、愛
知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤
務を最後に2017年8月に退官。退官後の9月には
YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
2019年9月に新刊『不思議で面白い陸戦兵器』を刊
行。

2017/9 YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」
に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出

 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に、
『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)
 https://amzn.to/2qBGuNJ
「不思議で面白い陸戦兵器」(並木書房)
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