こんにちは、エンリケです。
「戦略航空偵察」十九回目です。
今回のテーマは、U-2の偵察活動です。
きょうも実に面白いです。
情報史は、歴史の闇を照らし、
後世に生きるものが歴史から養分を得る核心になる。
改めてそう感じます。
実にありがたいですね。
きょうの内容は以下のとおりです
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□ご挨拶
▼U-2のステルス化
▼バルーン作戦
▼U-2に対するソ連の対抗策
▼U-2のソ連戦闘機に対する脆弱性評価
▼MiG-21の戦技
▼U-2プロジェクトへ英国が参加
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さっそくどうぞ
エンリケ
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戦略航空偵察(19)
U-2の偵察活動
西山邦夫(元空将補)
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□ご挨拶
1956年に開始されたU-2のソ連領内偵察は1960
年まで続き、60年5月1日のメーデーにスベルドルフ
スクにおける撃墜で終焉を迎えることになります。
この5年間でUー2は24回の侵入飛行を実施しました。
最初の5回が西独ウィスバーデンを基地として、そ
の後トルコのアダナで3回、アラスカのイールセン
で2回、パキスタンのラホール7回、日本の厚木で
1回、パキスタンのペシャワールで5回のソ連各地
への侵入飛行が行なわれました。
▼U-2のステルス化
アイゼンハワー大統領は、ソ連情報の入手に熱心
でしたが、同時にUー2の飛行には極めて慎重に対
処しました。ホワイト・ハウスの事務室で地図を広
げ、個々の飛行計画にもCIAの担当者を相手に議論し、
計画に手を入れました。
U-2の初期のソ連領飛行で、U-2がソ連レーダー
で捕捉・追尾されていることが判明すると、CIAは今
でいうU-2のステルス化を図る事業を始めました。
ソ連のレーダーから探知されないようU-2の機体か
ら反射されるレーダー波を弱めるため、さまざまな
工夫を凝らしました。翼の前縁にワイヤを張る、反
射が弱まる塗料を塗るなどです。工夫の一つに竹材
を翼前縁に貼るという眉唾ものまでありました。改
装が行なわれたU-2は、ダーテイー・バードと呼称
されました。ダーテイー・バードは何回かソ連侵入
飛行に使われましたが、ステルス効果はなかったと
されています。
▼バルーン作戦
米空軍は、大東亜戦争中に日本が行なった風船爆
弾を想起させるような偵察行動を行ないました。成
功の確率が極めて少ないと思われるようなバルーン
を使った偵察です。手段を問わず、ソ連の緊要な写
真を撮影したいという要求がこのバルーン作戦に表
れているように思います。
アイゼンハワー大統領の認可の下に、1958年6月7
日にカメラを積んだ数個のバルーンがベーリング海
の空母から放たれました。到達高度は11万フィート
(33,000m)で、この高度では夏季には通常10m/秒の
東風が卓越していますから、ソ連主要部の上空を西
へ通過し、写真撮影が可能と考えられました。3週間
後、カメラを積んだ1個のバルーンがポーランドに落
下し、ポーランドは米国に抗議の覚書を送りました。
当初の予定では、バルーンは目標のエリアを通過し
たのち、自動的に落下し、回収されることになって
いました。飛翔時間は16日を予定していましたが、
ポーランドに落下したのは21日後でした。
ポーランド政府から通知を受けて、ソ連も抗議し、
数か月後にポーランドが捕獲したバルーンと写真器
材をモスクワで展示しました。米国防省はバルーン
が発見されることはない、と保証していましたが、
大統領はこの保証が覆されたことを大変怒り、以後
のこの種の企画の実施を禁止しました。放たれたそ
の他のバルーンは、発見されませんでした。
▼U-2に対するソ連の対抗策
1958年時点で、アイゼンハワー大統領がU-2の飛
行に乗り気でなかった理由の一つがソ連の対抗策の
進歩でした。CIAは、U-2の飛行を開始してから2
年間は撃墜されるような事態は起きないだろうとい
う見積もりを持っていましたが、この期間はすぐに
過ぎ去りました。ソ連は、最初はMiG-15、MiG-17で
要撃を試みましたが、これらの機種は55,000フィー
トまでしか上昇できませんでした。のちにMiG-21は
U-2の飛行高度まで極めて短時間ですが上昇でき、
U-2の脅威となり得ることを示しましたが、これは
1960年代に入ってからのことです。
さらにYak-25マンダレーク全天候戦闘機が開発さ
れました。この機の翼はU-2と同じようなコンセプ
トで製作され、高揚力・低抵抗で、高度69,000フィ
ートまで上昇できました。
しかし、U-2と同様に翼に強度的な弱点があり、
高々度の要撃には使えませんでした。のちにこの機
は偵察機として使われ、中東諸国、インド、中国、
パキスタンの上空を飛行しました。西欧諸国の国境
沿いの偵察飛行も実施し、米本土上空飛行を行なっ
たという噂までありました。
▼U-2のソ連戦闘機に対する脆弱性評価
U-2がソ連戦闘機によって要撃された場合を想定
した脆弱性の評価テストが1958年12月にF-102とF-
104の2種の機種によって行なわれました。この2機
種は、当時米空軍が誇るセンチュリー・シリーズの
最新戦闘機です。F-104は1962年から航空自衛隊主力
戦闘機として装備されました。このテストで、同機
は60,000フィートでは巡航飛行はできませんでした
が、速度を利用して60,000フィートまで上昇し、30
秒間その高度を維持することが可能でした。赤外線
誘導の空対空ミサイルを装備し、捜索レーダーで目
標を探知し攻撃を実施できる性能があるはずでした
が、このテストではレーダーが高々度で性能を発揮
しなかったので、ミサイル発射はできませんでした。
F-102は継続的に目標を捕捉し、火器管制システ
ムが働き、空対空ミサイルを発射するのに支障あり
ませんでした。
このF-102とF-104は、当時のソ連戦闘機よりも優
れた性能を持っていると評価されていました。ソ連
の新戦闘機Su-7フィッターは、約120機が製造されま
したが、U-2の高度まで上昇できても、数十秒間し
か高度を維持できませんでした。また、全天候戦闘
機のYAK-25フラッシュライトは、搭載レーダーで
U-2を捕捉できますが、ミサイル攻撃するに必要
な斜め方向の射程7マイル以上を確保できませんで
した。
実験の結論は次のとおりでした。
1)F-104はU-2の高度まで上昇できるが、目視範
囲に達するのは困難で、攻撃を成功させることはむ
ずかしい。
2)F-102は搭載レーダーでU-2を追尾し、火器管
制システムを使用可能であるが、空対空ミサイルは
卓越した性能と長射程能力を必要とする。ソ連がそ
のような性能のミサイルを保有しているとは考えら
れない。
3)今後短期間にソ連戦闘機がU-2を攻撃可能にな
るとは思えない。
▼MiG-21の戦技
MiG-21のU-2要撃の戦技は、まずU-2と同じ針
路を取り、U-2の高度より1万フィート下方まで上
昇し、そこから浅い降下で速度を増してからスロッ
トル全開で上昇してU-2の下方に占位し、機関砲
かミサイルで攻撃する、というものでした。いくつ
かの実例で、MiGはU-2と同高度まで上昇できまし
たが、U-2に接近はできませんでした。U-2のパ
イロットはしばしばMiGがズーム上昇の頂点に達し、
下降してゆくのを見ており、注意深く観察していれ
ば、MiGの攻撃を避けるのは容易でした。MiGはこの
高度では揚力が不足し、安定した水平飛行は不可能
だったのです。
▼U-2プロジェクトへ英国が参加
1956年9月から米国は英国へU-2が撮影した写真
の提供を開始し、それ以降両国のU-2に関する協力
が深まって行きました。翌1957年には英国のパイロ
ットによるU-2飛行を実施するプロジェクトが開始
されましたが、そこには米国がソ連領飛行のリスク
を少しでも低減しようとする意図がありました。
1958年にはテキサスで英パイロットの訓練が始まり、
英パイロットのリーダーが訓練で事故死するアクシ
デントがありましたが、事業は進められました。ア
イゼンハワー大統領は第2次大戦時の英軍との協力
の経験が豊富にあり、英国との協力は必要だとして、
このプロジェクトに協力的でした。
英軍によるU-2の実任務の飛行は1959年12月に
2回実行され、12月6日にはミサイル・テスト・サ
イトがあるカプスチンヤール上空を飛行し、翌60年
2月にはチュラタム上空の飛行に成功しました。
(つづく)
(にしやま・くにお)
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□著者略歴
西山邦夫(にしやま・くにお)
1936年生まれ。防衛大学校卒(4期・空)。
情報関係略歴:航空幕僚監部調査2課収集1班長、航
空総隊司令部情報課長、陸幕調査別室主任調整官、
航空自衛隊幹部学校主任教官。著書に『肥大化する
中国軍(空軍部分を執筆)』(晃洋書房、2012年)、
『中国をめぐる安全保障(空軍部分を執筆)』(ミ
ネルバ書房、2007年)。研究論文に『中国空軍の戦
力構成とドクトリン』『中国空軍のSu-30MKKとイン
ド空軍のSu-30MKI』『韓国空軍の増強と近代化』
『中露合同軍事演習』『中国の主要航空兵器の装備
化実績と将来予測』『中国空軍の戦力とドクトリン』
『チベットにおける中国の軍事態勢整備』など多数。
PS
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