こんにちは、エンリケです。
「戦略航空偵察」十八回目です。
今回のテーマは、U-2の偵察活動開始です。
胃が痛くなるような緊張感を覚えました。
情報史は、歴史の闇を照らし、
後世に生きるものが歴史から養分を得る核心になる。
改めてそう感じます。
実にありがたいですね。
きょうの内容は以下のとおりです
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□ご挨拶
▼U-2の飛行計画は誰が決めるのか
▼U-2のカバー・ストーリー
▼U-2飛行開始へのアイゼンハワー大統領の苦悩
▼U-2による最初の偵察飛行
▼ソ連領飛行の開始
▼ソ連の爆撃機戦力の評価
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さっそくどうぞ
エンリケ
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戦略航空偵察(18)
U-2偵察活動開始
西山邦夫(元空将補)
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□はじめに
毎号、読者の皆さんから感想をいただき有難うご
ざいます。思わぬ方面の言及がありますので、大変
参考になりますし、視野を広げて行く指針にもなり
ます。引き続きお付き合いのほどよろしくお願いい
たします。
さまざまな苦心を重ねて開発製造されたU-2です
が、1956年にようやく運用が開始されることになり
ました。とは言え、U-2でどのような情報を収集す
るか、誰がそれを決めるか、運用の担当はどの組織
が行なうのか、収集された情報はどのようなルート
で伝達されるのか、など多くの問題を解決しなけれ
ばなりません。運用者はアイゼンハワー大統領がCI
Aと決断したので、CIAが運用形態を主導して決めて
行くことになりました。
この決定はCIAにとって嬉しいでしょうが、軍は
もっと対象国の軍事情報を収集する飛行をしてほし
いとの要求があるに違いありません。軍の中でも海
軍はもっと造船状況をと言うでしょうし、空軍は爆
撃機の数をと言い、陸軍は新型戦車の開発はと主張
するかも知れません。政治・経済の情報を要求する
機関もあるでしょう。
▼U-2の飛行計画は誰が決めるのか
1956年、CIAはU-2に課すべき任務を決めるため
ARC(Ad Hoc Requirement Committee)を設置しま
した。同年、ARC最初の会合が開かれ、陸海空の各軍
およびCIA、NSA、OSIなどの情報機関の代表が集まり
ました。ARCは、U-2に対する情報要求のリストを
作成することを任務とし、軍や各情報機関の要求を
取りまとめた結果、当初はソ連の長距離爆撃機、誘
導ミサイルおよび核エネルギーが偵察の3つをU-2
の偵察目標にしました。
ARCは、優先順位を付けた目標リストをU-2プロ
ジェクト・マネージャに示し、マネージャは飛行計
画を作成します。この計画は大統領の認可が必要で
した。
具体的な目標の選択には軍や各情報機関の要求が
輻輳(ふくそう)しました。CIAの代表は戦略的な情
報、すなわち航空機・弾薬工場、エネルギー施設、
核施設、道路、橋梁、内水路などに重点を置いたの
に対し、空軍の代表はOB(Order of Battle 戦闘序
列)の収集にこだわり、特にソ連と東欧諸国の空軍
基地とレーダーに関心を示しました。
▼U-2のカバー・ストーリー
U-2がその任務を果たすには、海外の基地へ配備
する必要がありました。米本土からソ連は遠すぎたか
らです。配備先の国民にはU-2という奇妙な形態の
航空機が何のために飛行しているのか、説明する場面
が想定されました。その筋書きがカバー・ストーリー
です。
当初の案は「もし、ソ連領内でU-2が失われたら、
米国はそれを運用している責任を否定せず、ソ連の
奇襲攻撃を防止するためにやっているのだ、と言う」
というものでしたが、のちに「気象観測任務で飛行
していた」とすることになりました。
しかし、このカバー・ストーリー、言うなれば言
い訳ですが、後述する1960年5月1日にソ連スベルド
ルフスクでU-2が撃墜された際に破綻することに
なります。
▼U-2飛行開始へのアイゼンハワー大統領の苦悩
U-2をソ連領内で飛行させることについて、アイ
ゼンハワー大統領はこのような国際法違反の行為を
行なうのにかなりの忌避感を持っていました。軍用
機を使うのはもっての外、戦争行為とみられるだろ
うとの思いもあり、代替案としてオープン・スカイ
協定をソ連に打診しました。お互いに相手の領土内
を、偵察機を飛ばして査察し合おうという提案です。
この案は1992年にオープン・スカイ条約として多
国間で締結されましたが、1950年当時には、ソ連は
見向きもしませんでした。大統領は、ソ連が受け入
れないならU-2を使うしかないと言ったと伝えら
れています。それほどに、ソ連の核攻撃に対する危
機感が強かったのです。
その一方で、領空侵犯飛行がソ連との関係を悪化
させる恐れが強いとの懸念があり、大統領は飛行の
是非について悩みました。そこへもたらされたのが、
U-2の飛行高度が高いためソ連の対空レーダーで
は探知できないという情報でした。結論的には、こ
の情報は不正確で、ソ連防空軍はかなりの精度で
U-2の飛行を捕捉できていました。
長距離爆撃機M-4の脅威に加えて、ソ連で誘導ミ
サイル開発が進み、新たな脅威となっているのでは
ないかと米情報機関は考えました。1956年1月の雑
誌「タイム」は、ソ連のミサイルを主題とし、米国
はソ連にミサイル開発で負けるだろう、ソ連はミサ
イル・テストで射程1600kmを成功させている、と書
き、アイゼンハワー大統領もソ連の方が進んでいる
ことを認める発言をしました。フルシチョフ書記も
「我々は間もなく水素爆弾を搭載したミサイルを持
つことになろう、これは世界のどこでも攻撃できる」
と言明しました。米国がソ連領内を偵察しなければ
ならない理由が整いました。
▼U-2による最初の偵察飛行
1956年6月20日、U-2の最初の偵察飛行がポーラ
ンドと東独上空を飛行して実施され、撮影されたフ
ィルムは2日後の22日に米本土へ到着、現像されま
した。この結果を受けて、CIAはソ連上空の飛行を
計画し、大統領の認可を受けました。当時、米空軍
参謀総長のトワイニング大将が訪ソ中で、彼がソ連
を離れたら実行する手はずでした。
フルシチョフ書記は訪ソ中のトワイニング参謀総
長に、米軍のRB-57は、今後ソ連領に侵入してくれ
ば棺桶になる、と脅しました。その年、グリーンラ
ンドの基地を発進したRB-47がシベリアに繰り返し
侵入飛行をしており、フルシチョフ書記はこの機種
をRB-57と誤認していたのです。
その後U-2は東欧諸国、チェコスロバキアとハンガ
リー、ルーマニア上空を飛行し、結果がアイゼンハ
ワー大統領へ報告されました。大統領はU-2がレー
ダーで捕捉されなかったかを質問し、CIAは20日の飛
行では捕捉されたようだが、レーダー・オペレータ
ーは目標の高度を4万2000フィートと誤っていたと
報告しました。
▼ソ連領飛行の開始
U-2の最初のソ連上空飛行は大統領の認可を得て、
1956年7月4日に実行されました。西独のウィスバー
デン基地を発進したU-2は、ポーランドのポズナン
からベラルーシを経て北上し、レニングラードへ向
かいました。この飛行の最大の目標はレニングラー
ドの海軍造船施設で、潜水艦を建造していると見ら
れていました。この施設上空を飛行し、いくつかの
軍用飛行場を通過して、ウィスバーデンへ戻りまし
た。
翌日2回目のソ連上空飛行が行なわれ、M-4バイソン
爆撃機を捜索しました。M-4を製造しているフィリ
の航空機工場、ラメンスコエ飛行場、カリーニング
ラードのミサイル工場、キムキにあるロケット・エ
ンジン工場などが対象でした。
この飛行でも、大統領の関心は、U-2がソ連レ
ーダーで捕捉追尾されているかにありました。万に
一つでもU-2をソ連領内で失う事態は避けたかっ
たのです。当時のソ連レーダー網はあちこちに穴が
あり、U-2は間歇(かんけつ)的に捕捉される状
態でした。
西独ウィスバーデン基地からのソ連領飛行は、1956
年7月に計5回行なわれ、主としてソ連西部地域と東
欧諸国が目標になって、成功裏に終了しました。ア
イゼンハワー大統領の懸念は続きましたが、モスク
ワやレニングラードなどの主要都市のレーダーによ
る探知能力は低く、U-2の上空飛行を認識してい
ない模様でした。U-2が撮影した写真にはMiG-15、
MiG-17戦闘機がU-2要撃に上昇してくるのが写っ
ていましたが、U-2の飛行高度には到達できない
ことが分かりました。
U-2の飛行に対し、ソ連は激しい抗議を米大使館
へ申し入れて来ました。それには、米軍のツイン・
エンジンの中型爆撃機が領空へ侵入したとし、飛行
ルートが添付されていました。米国が送付した答弁
は「当日、ツイン・エンジンの米軍爆撃機はソ連領
上空を飛行していない」というものでした。これは、
嘘は言っておらず、必要最小限のことを述べていま
す。
▼ソ連の爆撃機戦力の評価
この偵察飛行の大きな成果は、ソ連の爆撃機戦力
が想定より低いものであるのが分かったことです。
この事実により、米国はソ連の奇襲攻撃に対処する
費用を抑えることができましたが、その根拠がU-2
の偵察結果によることは、秘匿されました。米国内
では、U-2の存在はCIAの関係者と特別な政府高官
しか知らされておらず、その活動は秘密にされてい
たのです。
(つづく)
(にしやま・くにお)
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□著者略歴
西山邦夫(にしやま・くにお)
1936年生まれ。防衛大学校卒(4期・空)。
情報関係略歴:航空幕僚監部調査2課収集1班長、航
空総隊司令部情報課長、陸幕調査別室主任調整官、
航空自衛隊幹部学校主任教官。著書に『肥大化する
中国軍(空軍部分を執筆)』(晃洋書房、2012年)、
『中国をめぐる安全保障(空軍部分を執筆)』(ミ
ネルバ書房、2007年)。研究論文に『中国空軍の戦
力構成とドクトリン』『中国空軍のSu-30MKKとイン
ド空軍のSu-30MKI』『韓国空軍の増強と近代化』
『中露合同軍事演習』『中国の主要航空兵器の装備
化実績と将来予測』『中国空軍の戦力とドクトリン』
『チベットにおける中国の軍事態勢整備』など多数。
PS
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