配信日時 2020/05/27 20:00

【防衛予算から読み解く日本の防衛力(37)】 第2部 危機的状況にある日本の安全保障体制(16) FMS調達の増加と防衛産業の衰退(その3) 市川文一(元武器学校長・陸将補)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
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「国産製品が割高・低性能の誤解を解く!
『日本が弾薬を国産する理由』」という市川さんの
記事が掲載されました。不良弾や欠品が許されない
国内事情、継戦能力の確保だけではない弾薬を国産
する理由が解説されています。
ご一読をおススメします。

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「防衛予算から読み解く日本の防衛力」第二部の
十六回目です。

国産兵器をめぐる話題は
非常に興味惹かれますね。

では今日の記事、
さっそくどうぞ


エンリケ



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防衛予算から読み解く日本の防衛力(37)
第2部 危機的状況にある日本の安全保障体制(16)

FMS調達の増加と防衛産業の衰退(その3)


市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに

 世の中には非常に優れた才能を有している人がい
ますが、その才能が社会で活かされ、高い名声や収
入につながるかは運次第です。当然、努力も同じで、
努力が報われるのも運次第といえます。誤解を招く
といけませんが、高い名声や収入を得ることと個人
の幸せとは無関係です。

 今回の新型コロナ感染の影響でオリンピックが延
期になり、少なくない数の日本代表選手(過去のメ
ダリストも含み)が生活費さえも厳しい状態で1年
間を乗り切らなければならないことが報道されてい
ます。特に、プロスポーツに転向できないマイナー
な競技では、どれだけ優れた才能があり、血のにじ
むような努力をして世界の頂点に達しても、それに
見合う収入は得られないというのが現実です。

 クラシック音楽の世界も同様で、優れた才能を持
ち弛(たゆ)まぬ努力を重ね、一流の音楽大学を出
ても高収入を得られる職に就くことは稀です。NHK
交響楽団でさえもアルバイトなしでは生活できない
という話もあります。

自衛隊の音楽科職種の希望者が非常に多く、極めて
狭き門であるのも、そのことを証明しています。自
衛隊の音楽隊でも一般的な訓練・演習があり、音楽
だけをしていればいいというわけではありませんが、
その活動の中心は音楽演奏です。公務員ですから収
入は安定しているので、生活に心配することなく音
楽活動ができます。

同様に、スポーツや芸術に限らず、研究開発や物作
りの世界にも優れた才能を持つ人がたくさんいます
が、その人たちが必ずしも高い名声や収入を得てい
るわけではありません。しかしながら、そのような
人たちが日本の技術力を支えているのも確かです。
防衛産業を支える下町工場の匠の技を持つ大勢の職
人さんも、その中の一人です。国産装備品の調達量
の減少により、これら匠の技が失われようとしてい
ます。

▼減少する一方の装備品の国内開発、国内生産

もともと、価格が厳しく管理され利益が少ない防衛
装備品ですが、近年は国内調達が減っているため、
装備品製造に携わるメーカーや事業部門はギリギリ
で操業しているのが実態です。下請けメーカーの中
には、利益抜き、国の防衛を担っているという矜持
で部品を製造しているところもあります。しかしな
がら、利益率が少ない装備品をボランティアに近い
形で製造していたメーカーも、売り上げが減少し赤
字に転落してしまうなら、防衛産業から撤退せざる
を得ません。

ここ数年、防衛産業から撤退するメーカーが増加し
ていますが、平成31年に、装輪装甲車や軽装甲機動
車を開発・製造してきたコマツが、防衛関係車両の
開発・製造からの撤退を表明したのは象徴的な出来
事です。コマツの場合は、防衛省と直接契約する大
きなメーカーのため話題となりましたが、部品を製
造する下請けメーカーの撤退については話題にはあ
がりません。

現在、防衛産業から撤退するメーカーが何社あるの
かは把握していませんが、2012年に防衛大臣の諮問
機関として設置された「防衛生産・技術基盤研究会」
の報告書では過去10年間に102社が事業撤退、倒産
したとされています。2012年当時に比べ海外からの
装備品導入が増え、国産装備品の調達額が減少して
いるその後の10年間では、さらに撤退するメーカー
が増えたと考えるのが妥当でしょう。

また、FMS調達の開発経費が抑えられるというメリッ
トは、当然、国内での装備品の開発経費の減少につ
ながります。防衛省では装備庁が装備品の研究開発
を所掌していますが、実際に装備品の開発に携わっ
ているのは防衛産業です。装備品開発に携わる技術
者やノウハウの多くは民間メーカーが保有していま
す。

開発関連予算が減少しメーカーの装備品開発の受注
が減ると、メーカーは装備品の開発に携わる技術者
を防衛部門に配置しておくことができません。防衛
装備品の開発には最先端の技術が使われます。その
ため、メーカーとしても優秀な人材を配置します。
装備品の開発がなければ優秀な技術者を遊ばせてお
くわけにはいきませんから、別の部門へと異動させ
ざるをえません。

装備品の開発の受注が突然発生しても、別の部門に
異動した技術者をすぐに防衛部門に戻すことはでき
ません。また、開発技術は人から人へと受け継がれ
るものであり、優秀なベテラン技術者がいなくなる
と技術の継承が困難になります。このようにして、
装備品開発の受注が減少することにより、日本の防
衛技術は失われていきます。

一度失われた技術を復活するためには多くの時間を
要します。場合によってはゼロから出発することに
なります。防衛技術を維持するためには装備品開発
を継続することが必須事項なのです。

装備品を国産主体にするのか輸入を主体にするのか
の議論はありますが、大綱にも防衛生産・技術基盤
の重要性が謳われ、その施策を「防衛生産・技術基
盤研究会」で検討するなど、日本政府としては国産
の重要性を認識していることは間違いのない事実で
す。ところが、FMS調達の増加は国内装備品の調達
経費と装備品開発経費の減少を招き、結果的に防衛
生産・技術基盤を危うくしています。

皮肉なことに、「防衛生産・技術基盤」に関して大
綱に記述されたのは、大綱が「基盤的防衛力構想」
から脱却する22大綱からです。その後、25大綱、30
大綱と記述内容は変化しますが、「防衛生産・技術
基盤」の重要性は強調されています。

特に最新の30大綱では、「防衛力の中心的な構成要
素の強化における優先事項」の中で、「技術基盤の
強化 」として「軍事技術の進展を背景に戦闘様相が
大きく変化する中、我が国の優れた科学技術を活か
し、政府全体として、防衛装備につながる技術基盤
を強化することがこれまで以上に重要となっている」
と、「産業基盤の強靭化 」として「我が国の防衛産
業は、装備品の生産・運用・維持整備に必要不可欠
の基盤である。高性能な装備品の生産と高い可動率
を確保するため、少量多種生産による高コスト化、
国際競争力の不足等の課題を克服し、変化する安全
保障環境に的確に対応できるよう、産業基盤を強靭
化する必要がある」と、その重要性が強調されてい
ます。

しかしながら、中期防で十分な予算措置がされてい
ないのに加えFMS 調達が急増しているため、装備品
の国内開発、国内生産は減少する一方であり、日本
の「防衛生産・技術基盤」は衰退の一途を辿ってい
ます。大綱に「防衛生産・技術基盤」に関する記述
が追加されたのは、現実に、日本国内から「防衛生
産・技術基盤」が失われていることの裏返しであり、
「防衛生産・技術基盤」がしっかりしたものであれ
ば、記述の必要はなかったのです。

「兵器の独立なくして、国家の独立なし」とは、大
日本帝国陸軍の創設者ともいわれる大山巌元帥の言
葉ですが、現在の日本は、反対の道に進もうとして
います。現状では、兵器のコストパフォーマンスや
取得の容易性を優先して装備品を選定せざるを得ず、
防衛生産・技術基盤の衰退が指数関数的に拡大して
います。このままでは、装備品のほとんどが海外産
となり継戦能力を諸外国に委ねることとなるでしょ
う。



(つづく)


(いちかわ・ふみかず)


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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。
1983年、陸上自衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合
幕僚監部人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕
僚監部武器・化学課長、東北方面後方支援隊長、愛
知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤
務を最後に2017年8月に退官。退官後の9月には
YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
2019年9月に新刊『不思議で面白い陸戦兵器』を刊
行。

2017/9 YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」
に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出

 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に、
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がある。


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