配信日時 2020/05/18 20:00

【戦略航空偵察(16)】「U-2の誕生(その2)」 西山邦夫(元空将補)

こんにちは、エンリケです。

「戦略航空偵察」十六回目です。

「U-2の歴史」2回目です。

「スカンク・ワークス」というプロジェクトの
あらましが実に面白いですね。

<治具と金型>ということばにも、
エンジニアの方には
よだれが出るような内容では?

情報史は、歴史の闇を照らし、
後世に生きるものが歴史から養分を得る核心になる。
改めてそう感じます。


実にありがたいですね。

さっそくどうぞ


エンリケ



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戦略航空偵察(16)

U-2の誕生(その2)

西山邦夫(元空将補)

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□ご挨拶

「スカンク・ワークス」というプロジェクトがあり
ます。U-2の設計者で有名なケリー・ジョンソン氏
が立ち上げたプロジェクトで、ロッキード・マーテ
ィン社の一部門「ロッキード・マーティン先進開発
計画(Lockheed Martin's Advanced Development
Programs)」の通称です。設計した航空機にはU-2、
SR-71ブラックバードなど偵察機のほかに、F-117ナ
イトホーク、F-22ラプター、F-35ライトニングIIな
ど米軍の最新の戦闘機があります。

なぜスカンクという変な名称がつけられたのか、
1950年代にポピュラーだった漫画のリル・アブナー
の密造酒工場から取られたといわれています。死ん
だスカンクをもとに、強烈な臭いはあるが得体のし
れない効果がある物質を作りだした話が元になって
いるようです。

ともあれ、「スカンク・ワークス」は米国内におい
て秘密の臭いに満ちながら、最も成功した航空機開
発プロジェクトです。

▼大統領の決断

 1954年11月、CIAのダレス長官は、ロッキード社の
CL-282を推薦する3ページのメモランダムを作成し、
アイゼンハワー大統領へ上申しました。大統領は口
頭でこの上申を承認し、CIAがこのプロジェクトを進
めることを命じました。大統領はセンシテイブな侵
入飛行は軍が実施するよりも、CIAがやることを望ん
だのです。万一の事態が起きた時、軍が関与してい
れば、事態が拡大する恐れが大きいと考えたからで
す。

▼U-2事業の開始

 空軍とCIAの協力が円滑に行なわれ、CL-282プロジ
ェクトはU-2プロジェクトと名称を変えて事業が進
められました。1954年末には、アイゼンハワー大統
領が3500万ドルをU-2プロジェクトに支出すること
を認可し、それまでの秘密裏の資金支出が緩和され
ました。ロッキード社は当初U-2 20機の製造費
用として2100万ドルを要求しましたが、1958年に
20機の価格1900万ドルで政府と契約しました。
1機100万ドル以下になったのは、F-104戦闘機の治
具と金型が使えたからでした。

 設計者のケリー・ジョンソンはスカンク・ワーク
スと称する高々度飛行を研究する施設をカリフォル
ニアに置き、U-2事業を開始しました。彼は23ペー
ジのレポートで、U-2の設計概要を示しました。そ
れには、U-2は対G制限が2.5G、速度はマッハ0.8、
または460ノット(830Km/h)、最高到達高度は7万3
100フィート(2万2000m)、離陸時の速度は160km/h、
着陸時は137km/h、高度7万フィートから滑空して440
km先まで到達できる、というものでした。まさに特
殊な能力を持ったエンジン付きグライダーといえる
機体です。

▼設計上の問題

 設計にあたり、2つの難しい問題がありました。
燃料の量がその一つで、長大な距離を飛行するため
に大量の燃料が必要ですが、その重量のために高々度
への上昇が困難になります。そのため、徹底的な軽量
化が行なわれました。たとえば、尾部はたった3個
の張力ボルトで胴体に結合されました。

 2つめが翼の挑戦的なデザインです。長く、幅狭
く、薄い翼は独特の形状で、その上、翼の中はU-2が
搭載する大部分の燃料が収納されるタンクになって
いました。

 翼と尾部に構造的弱さがあるため、大気下層で頻
発する乱気流への対策が必要になりました。設計上
やや機首を上げる(nose up)姿勢で突然の突風に対
処しましたが、U-2は構造的に強度が低い弱点を持つ
機体となりました。
 
 様々な機体の弱点を補うため、自転車タイプの軽
量車輪を採用し、その2つを装着した油圧式のショ
ック・アブゾーバーを機体前方に取り付け、尾部に
は2個の小型の車輪を付けました。これで7トンの機
体重要を支えるのです。さらに離陸時に燃料で重く
なった翼を支え、機体の平衡を保つため、取り外し
可能な車輪を翼端に装着しました。パイロットは離
陸後すぐにこの翼端の車輪を投棄するのです。

▼搭載カメラ

 高々度から撮影する写真は、分解能が高くなけれ
ばなりません。1950年代のカメラには、優秀な分解
能を持つものがありませんでした。第2次大戦中使
われたK-17カメラは左右の斜め写真と真下の写真撮
影ができましたが、斜め写真は分解能が低く、かつ
大量のフィルムを必要としました。これらのカメラ
の分解能は高度1万mから撮ると7~8mで、戦略的な目
標の撮影、爆撃効果の判定など大まかな目標の撮影
に使われたものでしたから、高度2万mを飛行する
U-2には向いていません。

 幾つか試したカメラの中に、RB-36が搭載したカ
メラでゴルフ場を撮影したものがありました。その
写真では、グリーン上のゴルフボール2個が判別で
きました。ところが、このカメラ・システム、重量
が1トンもあってU-2には使えませんでした。

 最後に搭載が決定したのは、空軍が使っている
ヘイコン社製のA-1カメラで、直下と左右斜め写真
の撮影が可能でした。A-1カメラは改良が重ねられて
A-2となり、さらにコンピュータによる画像解析が
できるようになりました。その後Bカメラ、Cカメラ
が開発され、Cカメラは1962年のキューバ危機の際
に使用されましたが、まだ満足のいく写真は得られ
ませんでした。カメラは焦点距離の長さ、重量など
U-2に搭載するには様々な制約があり、分解能を上
げれば航空機の振動を拾いやすくなるなど、要求に
応えられる性能はなかなか得られなかったのです。

▼秘密保持

 何とか製造に漕ぎつけたU-2ですが、試験飛行も
厳重な秘密保全の下で行なう必要があり、エリア51
として知られるネバダ州の実験場が選定されました。
秘密保全のため、飛行試験には特別な術語が使われ、
U-2は単に“article”と、パイロットはドライバー
と呼称されました。その他にも厳重な保全処置がな
され、万一U-2の飛行が非友好的な組織に察知され
たとしても、何が飛んでいたのか分からないよう処
置されました。



(つづく)


(にしやま・くにお)


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□著者略歴

西山邦夫(にしやま・くにお)
1936年生まれ。防衛大学校卒(4期・空)。
情報関係略歴:航空幕僚監部調査2課収集1班長、航
空総隊司令部情報課長、陸幕調査別室主任調整官、
航空自衛隊幹部学校主任教官。著書に『肥大化する
中国軍(空軍部分を執筆)』(晃洋書房、2012年)、
『中国をめぐる安全保障(空軍部分を執筆)』(ミ
ネルバ書房、2007年)。研究論文に『中国空軍の戦
力構成とドクトリン』『中国空軍のSu-30MKKとイン
ド空軍のSu-30MKI』『韓国空軍の増強と近代化』
『中露合同軍事演習』『中国の主要航空兵器の装備
化実績と将来予測』『中国空軍の戦力とドクトリン』
『チベットにおける中国の軍事態勢整備』など多数。


 
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